IoT向け拡張低レイヤデータ通信技術による
野生鳥獣対策作業の効率化実証
-端末の付加情報を低負荷に収集し、センサ探索・再設置の時間を大幅に短縮

# IoT端末管理

# 低レイヤ通信

# 野生鳥獣対策

目次

IoT端末が増えるほど難しくなる「正しく使えているか」の確認

農業では土壌の温度や湿度に応じた散水、物流では輸送中の商品の温度・振動・位置の監視など、IoTセンサはさまざまな現場で活用されています。人流解析や防犯、野生鳥獣対策など、屋内外の広い範囲に多数のセンサやカメラを設置する場面も増えています。
こうしたセンサデータを正しく活用するためには、端末が想定した場所に設置され、設定や状態が正しいことが前提になります。たとえば、場所Aに設置したセンサが、移設や機器交換、人為的なミス、自然災害などによって場所Bへ移ったにもかかわらず、管理情報が更新されていなければ、システムはその後も場所Aで取得したデータとして扱い続けます。通信が正常でデータが届いていても、そのデータが示す意味まで正しいとは限りません。
従来は、端末に貼られたラベルを目視する、端末にログインして設定を確認する、電源を入れ直して管理画面上の端末と照合するといった作業を、1台ずつ人手で行っていました。また、既存のネットワーク管理技術は、処理能力や電力が限られるIoT端末には負荷が大きい場合があり、低負荷な方式では収集できる情報が限られるという課題がありました。端末数が増えるほど巡回時間や人件費が増え、確認漏れや設定ミスも起こりやすくなるため、IoTサービスの規模拡大を支える新たな仕組みが求められていました。

図1 IoT端末の運用管理における技術課題と提案技術の概略

端末の付加情報を低負荷に収集する通信技術

NTTアクセスサービスシステム研究所が開発した「IoT向け拡張低レイヤデータ通信技術」は、温湿度などメインのセンサデータとは別に、端末の機種、識別子、設置場所、状態、設定などの付加情報(以下、メタデータ)を、低負荷かつ効率的に収集する技術です。処理能力や電力、通信容量が限られるIoT端末にも適用できることをめざしています。
本技術では、ネットワーク機器が自律的に送受信するレイヤ2制御フレームのうち、開発者が任意に利用できる拡張領域へメタデータを格納し、ブロードキャスト送信します。通常のセンサデータ通信とは別の制御用フレームを活用するため、主通信に影響を与えにくく、ネットワーク接続がまだ確立していない状態でも端末情報を取得できます。
たとえば、現場作業者が発信するBLE(Bluetooth Low Energy)ビーコン信号を探索の鍵として利用すると、その信号を受け取った周辺のIoT端末が、ソナーの応答のように自端末の識別子とメタデータを返信します。作業者は、目の前にある端末がネットワーク管理上のどの端末なのかを簡便に確認できます。端末の探索や状態確認に加え、設置場所などのメタデータに応じて複数端末へ設定を一括投入するなど、新規設置・移設作業の自動化にも活用できます。

図2 IoT向け拡張低レイヤデータ通信技術の概要

小田原市の山林で野生鳥獣対策作業の効率化を実証

本技術の効果を確認するため、小田原市の狩猟コミュニティの協力を得て、山林に設置する罠センサの見回り、探索、移設を想定した実証実験を行いました。野生鳥獣対策の現場では、広い山林のさまざまな場所に害獣捕獲用の罠と、罠に獲物がかかったことを通知するセンサを設置します。地域の狩猟コミュニティでは高齢化や担い手不足も課題となっており、日々の見回り作業を効率化することが求められています。
罠は定期的に巡回確認する必要があり、設置者とは別の作業者が見回ることもあります。また、一定期間捕獲できなかった場合は、罠を別の場所へ移設し、センサを再設定する作業が発生します。視界の悪い山林で設置場所を知らない作業者が既設の罠を目視で探すのには時間がかかり、また、移設のたびに端末を手作業で再設定(場所の記録・登録作業等も含む)すると、作業時間だけでなく設定ミスのリスクも増えます。
実験では、屋外設置型IoT端末に本技術を実装した罠センサと、罠センサから得たメタデータをもとに設置方向を示す探索キットを用意し、①罠探索と②罠再設置の二つの作業を評価しました。

図3 野生鳥獣対策現場における現状の課題と実証実験の構成
写真1
(左)罠設置エリアの様子、(右)罠設置個所の様子
写真2
(左)罠探索実験の様子、(右)実装したIoT端末と探索キット

図4 罠設置エリア、罠探索実験、本技術を実装したIoT端末と探索キット

罠探索作業にかかる時間を57%短縮

罠設置エリアに4個の罠センサをランダムに設置し、設置場所を知らない被験者が、すべての罠を発見するまでの時間を比較しました。既存技術としてBLEビーコンとスマートフォンアプリを用いた場合は平均32分56秒を要しました。これに対し、本技術と探索キットを用いた場合は平均14分7秒となり、作業時間を57%短縮できました。

罠再設置作業にかかる時間を85%短縮

一定期間捕獲できなかった罠を移設し、端末の設定を変更する作業も比較しました。従来の手作業では罠センサ1台あたり平均10分12秒かかっていたところが、本技術を用いることで1分32秒まで短縮し、85%の作業時間削減を確認しました。メタデータを利用して再設定を自動化することで、手入力に伴う設定ミスの削減も期待できます。
これらの結果は、処理リソースが限られるIoT端末であっても、本技術が実フィールドで必要な性能を発揮できることを示しています。また、罠の正確な設置位置を知らない作業者でも探索や再設置を行いやすくなるため、複数の猟師による見回り作業の分担など、狩猟コミュニティ全体の作業フロー効率化につながります。

さまざまなIoTサービスへの展開

今回の実証は野生鳥獣対策を対象としましたが、本技術は農業、物流、人流解析、防犯のほか、スマート農場・工場・倉庫など、屋内外の広い範囲に多数かつ多様なIoT端末を配置する場面へ展開できます。端末の場所・状態・設定を主データと対応付けて把握しやすくすることで、現場作業の効率化だけでなく、収集したデータの信頼性向上にも役立ちます。
今後、IoT端末がさらに増え、さまざまなサービスが連携するようになるほど、「どの端末が、どこで、どのような状態でデータを取得したか」を確かめられることが重要になります。本技術は、端末数が増えても運用負荷を抑え、IoTサービスの規模拡大を支える仕組みとして活用が期待されます。

まとめ

IoT向け拡張低レイヤデータ通信技術は、レイヤ2制御フレームの拡張領域を活用し、端末の識別子と場所・状態・設定などのメタデータを低負荷に収集する技術です。現場の端末とネットワーク上の管理情報との対応関係を把握しやすくすることで、IoT端末の探索、確認、設定作業を効率化します。
小田原市の山林で行った実証では、罠探索作業を57%、罠再設置作業を85%短縮しました。多数のIoT端末を安心して使い続けられる環境づくりを通じて、さまざまな産業や地域社会におけるIoT活用の拡大に貢献していきます。

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IoT端末は、データが届くだけでなく、置き場所や設定が正しいことも大切なんだ。

端末が増えるほど、1台ずつ現場で確認して回るのは大変そうだね。

そこで、普段の通信を邪魔せずに、端末の場所や状態などの付加情報を低い負荷で集める技術を開発したんだ。

山林の罠センサの実証実験では、端末を探したり再設定する作業の時間を大幅に短くできたんだね!

そうだよ。農業や物流など、たくさんのIoT端末を使う現場にも活用が広がりそうだね。