NTTアクセスサービスシステム研究所では、ネットワークとエッジコンピューティングを組合せた通信サービスについて研究開発を進めています。この通信サービスでは、送信元から送られた情報をコンピュート基盤でサービスに適合した情報処理を実施し、送信先に情報を伝えることができます。この通信サービスを持続的かつ安定的に提供するために、エンド・ツー・エンドのサービス品質の制御を行う、ネットワークおよびエッジコンピューティングの連携制御技術を確立しました。 また、本技術の有用性を確認するために遠隔操作の実証実験を実施し、これまで操作が困難であったロボットアームを用いた作業を遠隔地から違和感なく持続的に操作可能であることと、遠隔操作を安全に実施可能であることを確認しました。 ※報道発表 https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/05/16/230516a.html
■技術概要
従来、ネットワークとエッジコンピューティングを組み合わせた通信サービスを提供する場合でも、品質管理はネットワークとエッジコンピューティングの各々で実施していたため、エンド・ツー・エンドで発生するようなサービス上の品質劣化は検出できず、その状態が継続してしまうことが発生していました。
この課題を解決するために、ネットワークとサーバが連携したネットワークコンピュート高速クローズドループ制御技術を研究開発しました(図1)。これにより、サービス要件に応じて遅延等の品質をエンド・ツー・エンドで常に低遅延・低ジッタな状態を保ち、サービスを持続的かつ安定的に提供することが可能になります。本技術は、①ネットワーク情報とエッジコンピューティングの情報の収集、②収集した情報の分析、③品質劣化時の制御の3つの要素を高速に自動化することと、ネットワークとコンピューティングリソースのコントローラ連携によって実現しています。
■収集・分析・制御の高速化とコントローラ連携
事象発生から対処完了までの収集・分析・制御のサイクルを高速に実行することで、短時間で品質劣化状態に対処することができます。
① 収集:高速テレメトリによるネットワークの遅延時間の収集と、エッジコンピューティングでの処理前後のデータを解析することによる処理時間の計測を行い、エンド・ツー・エンドの遅延値を算出します。
② 分析:エンド・ツー・エンドの遅延がサービス性能要件を満たすかを判定し、満たさない場合には別経路への切替の必要性を判断します。また、切替をする場合、ネットワークとコンピューティングリソースの空き状況を考慮し、切替後の遅延がサービス性能要件を満たすことを確認したうえで切替先を決定します。
③ 制御:決定した切替先にネットワークおよびコンピューティングリソースの切替を行います。また切替えタイミングの制御を行い、サービスへの影響を最小化します。
収集・分析・制御の実施にあたり、ネットワークのコントローラとエッジコンピューティングのコントローラの制御が連携する必要があります。収集においては、エンド・ツー・エンドの遅延値を算出する際に連携を行い、分析においては、サービス性能要件を満たす空きリソースの組合せを計算する際に連携を行います。また、制御においては、切替タイミングを合わせる際に連携を行います。
本研究において、本技術の実機実装を行い、切替にかかわる収集・分析・制御の時間が90 ms以内に抑えられていることを確認しました。
■遠隔ロボット操作の実証 遠隔操作における本技術の効果を確認するために、NTT武蔵野研究開発センタにディスプレイとロボット操作用デバイス、NTT横須賀研究開発センタにロボットを配置し、2拠点間をおよそ150kmの光ファイバで接続して遠隔操作を行う実験用ネットワークを構築しました(図2)。ロボット側では撮影したカメラ映像と力触覚センサがあり、エッジサーバにおいて力触覚情報を色情報に変換し視覚情報として付加し、操作者は力触覚情報を視覚的に確認しながら操作を行いました(図3)。 この実験構成において、エッジサーバを過負荷状態にして遠隔操作環境を悪化させた場合、従来構成では遠隔操作が困難になりましたが、提案構成では品質が悪化してから約100ms後には切替制御が完了したことに加え、力触覚情報等の感覚情報を遠隔に伝達することで違和感なく操作ができることを確認し、提案技術の有効性を確認しました。