1. 概要
本技術は、自動飛行ドローンと画像処理を用いたマンホール点検診断技術です。小型自動飛行ドローンを用いてマンホール内部の映像を取得し、撮影画像から劣化を自動的に検出することができます。本技術を用いることによって、現在作業者が行っているマンホールの点検診断作業の安全性と効率性を向上できます。
2. 背景と目的
現在のマンホールの点検は、路上に保安施設を設置し、作業者がマンホール内部に入孔し目視点検をする方法や、カメラを取り付けた長尺の棒を用いて地上からマンホール内部を撮影しています。しかし、点検作業には車両が保安施設内に飛び込んでくる飛び込まれ事故のリスク、マンホールに入孔する際に梯子から墜落・転落する事故のリスク、地下空間で作業する際の酸欠事故のリスク等といった安全性への配慮が必要です。さらに、作業者が入孔する際には、マンホール内部の水の排水や換気といった入孔に伴う稼働が発生します。また、マンホールに発生した劣化の診断は、目視もしくは撮影画像を事務所等で確認することにより判定を行っています。しかし、現行の方法において、作業者毎に劣化の判定に個人差が発生する課題(点検品質の均一化)や、点検作業者の高齢化に伴う将来的な作業者不足への対策が求められています。
そこで、本研究では自動飛行ドローンと画像処理を用いてマンホールの点検を実施する技術を構築しました。本技術では、自動飛行ドローンがマンホール内部の映像を取得することができます。これにより、作業者はマンホールの蓋を開ければドローンが自動的に点検を実施するため、保安施設内で作業する時間が削減でき安全性が向上します。さらにマンホールへの入孔が不要となるため安全性と効率性が向上します。また、画像処理によりドローンによる撮影画像から自動的に劣化を検出することができます。これにより、点検品質の均一化や点検作業者不足への対策が可能となります。
3. 技術課題と提案技術の特徴
ドローンを自動的に飛行させる方法は数多くありますが、GPS(Global Positioning System)を用いる方法が主流です。しかし、マンホールは地下空間であるためGPSが使えません。このようなGPSが使えない環境下ではドローンに搭載したカメラの映像を用いてドローンの飛行制御を行う方法がありますが、マンホールは暗所であることからカメラで取得できる映像が安定せずに、狭小なマンホール内に必要となる高精度な飛行制御は困難です。また、マンホールは内部に水が溜まっている場合があり、ドローンには水上での飛行が求められます。そこで、本研究では超音波、レーザ、カメラの3種類のセンサを活用して、非GPSの狭小な暗所かつ溜まり水の上といったマンホール特有の環境下において、高精度にドローンを自動飛行する点検技術を構築しました(図左)。試作したドローンはマンホールの内部に進入できるように小型(直径約28 cm)です。この試作ドローンに搭載した各種センサを制御することによって、ドローンはマンホールへの入孔、内部撮影、出孔までの、点検に必要な一連動作を完全自動で実施できます。
マンホールの点検において確認する劣化は、マンホールの壁面に発生した露筋とマンホールの内部に設置した金物の腐食の2種類があります。露筋とは、マンホールの直上を通行する車両の荷重等により、コンクリート表面に発生したひび割れから内部鉄筋まで水分が到達すると、内部鉄筋の腐食による膨張が表面コンクリートの剥離を引き起こし、腐食鉄筋が表面に露わになった現象です。金物腐食とは、通信ケーブルを設置している板状の鋼材ラックが、溜まり水が要因となり腐食した状態です。これらの劣化を画像処理により検出する場合には、露筋は撮影画像中では小さく写ることがあるため、微小な領域でも確実に検出する方法が求められます。また、金物腐食は、マンホールの壁面に腐食に色合いが似た水垢や泥等の汚れがあるため、汚れの誤検出を低減する方法が必要です。そこで、本研究では、深層学習を用いて劣化を検出する診断技術を構築しました(図右)。本技術は、微小な露筋や金物腐食といった劣化領域を見落とすことなく検出できるようにモデルの学習方法の改良を行いました。さらに、現場で撮影した様々なパターンの金物腐食と汚れをモデルに学習させることによって、汚れの中から微小な劣化領域でも高精度に検出できる技術を実現しました。
4. まとめ
自動飛行ドローンと画像処理を用いたマンホール点検診断技術により、現行の人によるマンホールの点検診断をドローンとAIを使って実現することにより、安全性および効率性を向上することが可能になります。