新しい無線電力伝送技術である「磁界共鳴型」は、伝送距離や効率の面で従来技術と異なる特性があるため、新たな適用が期待され、自動車、医療等、様々な分野で研究開発が盛んに行われています。我々は、この適用性を更に広げるために、電力だけでなく情報も送る、負荷変調を採用した方式の検討を行いました。この方式の構成例を図1に示します。受電器側では、送電コイルから電力を受け取る事で電源が不要となります。低消費電力であればセンサ等にも電力を供給可能です。一方、受電コイルのインピーダンスを制御することによって、両コイル間の共鳴状態を変化させ、その変化を送電コイル側が検知することで情報を受け取ることができます(負荷変調)。
本方式の適用性を更に拡大し、様々な設置環境へ柔軟に対応できるようにするため、次のような3つの課題に取り組みました。①ロバスト性の向上(課題:共振コイルは周囲環境に敏感で、インピーダンス特性が変化しやすい)、②伝送効率の向上(課題:コイルの小型化や、負荷変調等の付加的な回路によって伝送効率が劣化する)、③コイル配置法の最適化(課題:用途に応じて設置上の制約があり、任意の配置に対する設計法が必要である)。これらの検討によって、①ではインピーダンスの自動調整化、周波数調整幅の拡大(15%改善)、②ではコイル単体でのQ値向上(60%改善)、伝送効率の向上(15%改善)、③では配置設計法の明確化、を果たしました。
これらのような技術の一つの適用例として、図2のようなマンホールの保守点検が挙げられます。マンホールの点検では交通誘導、換気や水抜き等の付帯作業が多いため、蓋を開けずに内部の状況を把握する事で大幅な稼働削減が期待されます。このような環境、つまりコンクリートや土壌、鉄蓋などが介在する環境においても上記の技術を適用することで、地上の送電器から約1.5m離れた地下マンホール内の受電器に約25%の伝送効率で電力供給できる見通しを、実験やシミュレーションから明らかにしました。