イーサネットは、もともとオフィス内など比較的狭いエリアで使用され、収容端末数が少ないLAN(Local Area Network)向けに開発されたため、WAN(Wide Area Network、広域網)に比べ、多数端末の接続を想定しておらず、保守運用機能も不十分でした。一方、2000年ころより、イーサネット技術をWANに適用した広域イーサネットが提供されるに伴い、高速化、伝送距離の拡大などともに、保守運用機能や収容ユーザ数の拡大を目的として、関連仕様の標準化が行われました。
アクセスサービスシステム研究所では、エンド・ツー・エンドでの高い保守運用性と信頼性が求められるNGN時代の広域イーサネットの実現に向けて、2007年に、図に示す3つの次世代イーサネット技術を開発しました。この開発においては、IEEEやITU-Tで策定された標準仕様を適用するとともに、開発した技術を標準化機関に提案しました。
(1) イーサネットOAM技術
イーサネットOAM(Operation Administration and Maintenance)は、イーサネットの保守運用性の向上を目的として、ITU-TではY.1731として、IEEEではIEEE 802.1agとして標準化されています。規定されている機能セットは、Y.1731の方がIEEE 802.1agよりも多くなっています。
アクセスサービスシステク研究所では、標準仕様で規定されているイーサネットOAMの仕様を適用して、次世代イーサネットのOAM技術を実現しました。
(2) ERP技術
ERP(Ethernet Ring Protection)とは、リング構成の中継ネットワークの冗長化を行う技術です。
アクセスサービスシステム研究所では、次世代イーサネットの信頼性向上に向けて、従来技術に比べ、①高速な経路切替えが可能、②経路切替え時のループ発生が防止できる、という特徴を持つERP技術を開発しました。また、本技術の開発が契機となってITU-Tで標準化が開始され、関連技術の仕様がG.8032/Y.1344(Ethernet ring protection switching)で勧告化されています。
(3) アクセス冗長技術
広域イーサネットとユーザネットワークを接続するアクセス網において、運用系と予備系、2系統のONU(Optical Network Unit)とOSU(Optical Subscriber Unit)を用意し、運用系回線の故障時に短時間(1秒程度)で自動的に予備系に切り替えることにより、信頼性を向上させたアクセス冗長技術を開発しました。
また、アクセス冗長技術は、ERP技術と連携して動作することも可能であり、これら2つの技術を組み合わせることにより、エンド・ツー・エンドでの高い信頼性を備えた冗長化機能を実現することができます。
(4) 一部帯域確保対応技術
広域イーサネットの未使用帯域を活用する観点から,契約した確保帯域内のトラフィックは確保し,ネットワークの帯域が余っているときには契約帯域範囲内で柔軟に使用可能とする一部帯域確保対応技術を開発しました。
(5) 多重化技術
ネットワークコストを抑制する観点から収容スイッチの機能,及び長距離光伝送装置をアクセス収容装置 (MC: Media Converter)に集約させた多重化技術を開発しました。
(6) 中継ネットワーク拡張技術
中継ネットワークにおける収容ユーザ数増加、トラヒック増加に対応するため、ユーザ多重数の拡大、広帯域化(100Gリング)、および"サービス断なし"で広帯域リング(100Gリング)へ移行できる中継ネットワーク拡張技術を実現しました。
(7) 高精度時刻同期アクセス技術
モバイル基地局等の高精度な時刻情報が必要なシステムに対して、±70ns以内の時刻誤差で時刻情報を伝送可能な高精度継時刻同期アクセス技術を開発しました。
(8) 新たな機械学習モデルによるネットワーク帯域推定技術
通信ネットワークに対する高い品質・信頼性が求められる法人ネットワーク向けに、新たに提案する機械学習モデルの活用によって、高い通信品質と経済的な設備設計を両立させる帯域推定技術を確立しました。