横須賀研究開発センタ
アクセスオペレーションプロジェクト
左から:山下、中島、呉、小矢
中島:アクセスオペレーションプロジェクトの研究領域は一言でいうとオペレーションですが、一般的にはあまり知られていない分野かもしれません。オペレーションとは、企業のサービス提供や組織運営に必要となる「業務」のことです。多くの企業は、様々な業務システムを導入し、オペレータの業務の効率化に力を注いでいます。我々は、センサーなどの生体情報や映像データの解析から、機械学習、自然言語処理、統計モデリングなどの情報処理・ソフトウェア技術、さらには心理学に至るまで幅広い技術に取り組み、抜本的な業務改善や新しい働き方の創出を目指しています。今後、ますますの労働人口の減少に伴い、単純作業の徹底的な効率化や、創造性の高い仕事のスキルレス化など、働く人の多種多様な特性を生かす労働環境の重要性が一層、増していきます。このような社会的意義の大きい課題に、日本だけでなく世界で実際に利用してもらえる技術を創出し続けることが、我々のミッションです。
小矢:様々な技術やプロダクトを分担し研究を進めていますが、その成熟度に応じて大きく2つのフェーズがあります。1つは研究テーマを発掘し、基礎的な技術を確立するフェーズで、もう1つは、その確立した技術をさらに実用に耐えうるレベルまで発展させ、世に送り出していくフェーズです。私は、現在は後者を担当していて、業務ナビゲーション技術の1つであるアノテーション・UI拡張という技術の実用化に向けた研究開発を進めています。この技術は既に製品化されているのですが、実際に製品を利用した人の声を聞くことで、研究室で机に向かっているだけでは分からない、当初では想定しえなかった研究課題が見えてきています。それを解決する新しい技術を研究し、さらなる抜本的な高度化を実現することが目標です。
呉:私と山下さんは、基礎的な技術の確立が目下の目標です。私は仮想化ネットワークやクラウド環境の設計・運用技術の研究をしています。近年、様々なアプリケーションサービスは、コストと可用性に優れた仮想化環境が主流となっています。しかし、ネットワークや環境設計は、ユーザの利用用途から、その用途に最適なネットワーク構成、CPU、メモリなどのリソースパラメータを決定する必要があり、それには設計者が培った熟練のスキルが不可欠です。そこで、パラメータが曖昧な利用用途を与えるだけで、最適なリソースを自動的に決定する独自のAI技術に取り組んでいます。また、技術の確立も重要なのですが、各企業の製品・OSSなどに手間なく適用できることがとても重要で、TM ForumやETSIなどの国際的な標準化団体へ参画し、世界各地を飛び回りながら、技術の標準化にも貢献しています。
山下:私は、メガネなどのウェアラブルデバイスから取得できる生体情報を、統計処理や機械学習で解析することで、デスクワーク中に実施している業務内容や、その業務中の心理的な負荷を客観的に把握する研究に取り組んでいます。PCログから操作内容を把握し、業務効率化を謳うソリューションは実用化されているものもありますが、私の研究は、PC以外の業務へ対象を広げ、さらに人の内面まで踏み込んだ画期的な業務効率化を目指しています。今まで誰も突破できていなかった工学的な壁を乗り越えて、人間の行動や状態について広く推定が可能な世界を構築し、働く人の得意・不得意など特性を踏まえた理想的な働き方を実現したいと考えています。
中島:呉さんは入社4年目、山下さんは入社3年目で、その研究テーマは入社してから自身で発掘し、先輩社員の指導・サポートのもと研究を進めてもらっています。チームとしては、若手社員の従来にとらわれない新しい発想を大事にして、積極的に取り入れていくことが重要だと思っています。業務の環境は刻々と変化しており、私の世代はパソコンが当たり前でしたが、今はタブレットやAIが当たり前の時代に変わってきています。オペレーション研究は業務改善が対象ですが、その業務を行う「人」も変わってきており、「当たり前」や「良いと思うもの」を的確にキャッチしていくためには、若い視点が重要だと感じています。自分の発想を信じて、その強い想いで自らチームを引っ張っていくことを期待しています。
中島:わたしたちのプロジェクトでは、様々な研究成果がNTTグループ各社の業務システムに採用されており、どれを説明すべきか迷ってしまうほどです。あえて特徴的なプロダクトを紹介させていただくと、WinActor、Bizfront/アノテーション、Bizfront/SmartUIでしょうか?実は、アノテーションは、当時の新入社員が考えた研究テーマが元になっています。
※WinActorについて詳しくはこちら:
https://winactor.biz/
※Bizfront/アノテーション、Bizfront/SmartUIについて詳しくはこちら:
https://www.ntt-tx.co.jp/products/bizfront/
小矢:これらのプロダクトは様々な企業から販売されていて、様々なお客様に使っていただいてます。今、エンタープライズの世界では、「働き方改革」の後押しもあり、Robotics Process Automation(以下RPA)が席巻しています。WinActorは、このRPA分野を代表するソリューションの1つで多くの企業で利用されており、まさに既存の業務シーンを変えたプロダクトです。
WinActorの基礎となる技術は、まだRPAという言葉が生まれていない2010年ごろ、NTTグループ内では既に実用化されており、当時から先進的な技術に取り組んでいました。これらのコンセプトは、従来は当たり前だった「業務改善=システム開発」からの脱却です。システム開発による業務改善の一択ではなく、そのシステムを使う人自身が、自分のやりたいように自在にシステムを改善できる、そんなローコード開発が働く人にとって身近で当たり前となる世界を目指しています。
小矢:与えられた仕様に基づきソフトウェアを開発するのではなく、自分で考えたソフトウェア技術を自身の手で形にすることができるのは研究所ならではのやりがいだと感じています。やはり嬉しかった瞬間は、研究開発した技術を現場の担当者と工夫しながら導入にこぎ着けたときや、その技術が一般市場向けに販売され、より多くのユーザに利用いただけるようになったときです。
山下:私が大学時代に専攻していたのは、純粋に基礎的な人間行動についての研究分野で、機械学習の応用といった工学的な分野でも研究活動を始めることになったのは、入社してからでした。そのような未知の分野で自分が研究者として通用するかどうか不安だったのですが、はじめてその分野で認められている国際会議誌に論文が掲載された時には、学術的なコミュニティに貢献できたことが実感でき、また、先に説明したような世界の実現に一歩近づけたような気がして、とてもうれしかったです。
呉:仕事自体でうれしかったこともありますが、社内制度にもいろいろ助けられました。私は外国籍なのですが、外国社員向け日本語授業を受けることができ、日本語を使った論文発表等に非常に役に立ちました。外国社員に対しても丁寧なキャリアアップのための研修が用意されていて、先輩の指導やサポートなども含め、しっかり体制、制度が整っており、安心したのを強く覚えています。
オペレータの作業や判断を支援し革新的な働き方を創出するRPA・AI技術の研究
主任研究員
中島 一
研究員
呉 超
研究員
山下 純平
研究員
小矢 英毅