横須賀研究開発センタ
無線エントランスプロジェクト
左から:徳安、菅、福園、五藤
徳安:わたしたちの所属している無線エントランスプロジェクトでは無線通信に関する研究開発を幅広く行っています。無線通信を通信インフラとして活用するニーズや利用シーンは拡大を続けています。特に、携帯電話や無線LANの普及は無線サービスをより身近なものとし、様々な無線システムが独自に発展してきました。今後はユーザーの状況に応じて最適な無線システムが自動的に接続されたり、複数の無線システムが同時に接続されることで伝送速度を高めたりというように、それらが連携・融合する時代が到来するでしょう。
そんな中、無線エントランスプロジェクトでは、5G以降の多用な次世代システムへ向けて無線システムの利用シーンが広がることを見据え、都市部のトラヒックの急増に向けた検討に着手しています。衛星通信システムにおいても将来の通信への活用を見据えて、低軌道衛星を活用したシステムにも取り組んでいます。また、震災以降、災害時の被災地域の孤立を防ぎ安心な暮らしを支えるための災害対策に向けた研究開発にも注力してきました。
菅:私のグループでは、主に将来に向けた高速・広帯域無線方式の研究開発を行っていて、そのひとつとして無線信号を光ファイバを使って伝送するRoF(Radio over Fiber)という技術を活用した、設備共用可能な高周波数帯RoFシステムの研究開発に携わっています。
5Gのように高周波数帯の電波を使って大容量無線通信を提供するためには、例えば基地局を数十メートルおきなどの高密度に設置する必要があります。そうなると、多数の基地局を用意することによるコストの増加が問題になってきます。これに対してわたしたちの技術では、基地局の機能のうち、通信方式に依存する信号処理機能を切り離してNTTビルなどに置き、通信方式に依存しないアンテナなどの機能だけを張出基地局として、その間を光ファイバでつなぐ構成(RoF)をとります。こうすることで、全ての基地局にフルスペックのものを用意せずに、基地局機能の一部をNTTビルなどに集約することができ、信号処理機能の変更・更改によるコスト低減・設備共用が可能となります。現在はこのRoFシステムの実用化に向けて、無線信号を光ファイバで長距離伝送した際に、信号制御を簡易な構成・高い波長利用効率で実現する世界で初めての技術の開発に取り組んでいます。
五藤:低軌道衛星というのは地球表面からの高度2,000km以下を飛行する人工衛星のことです。これまでよく使われている静止軌道衛星は高度36,000km前後ですので、それよりもかなり低い高度ということになります。衛星通信では地球と人工衛星の距離が物理的に長いことによって発生する伝送遅延が一つのハードルでしたが、その距離が比較的短い低軌道衛星はこのハードルを解決することができます。
私のグループでは将来の衛星通信方式について幅広く検討を進めています。私は主に新たな技術を創出することをメインミッションとして、学術活動から実装開発に至るまで幅広く取り組んでいます。この取り組みの中で低軌道衛星に目をつけました。
今は宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携して、衛星の持つ複数アンテナを同時利用して高速通信を実現する世界初の低軌道衛星MIMO(Multiple-Input Multiple Output)の実証実験に向けて、日々取り組んでいます。衛星MIMO技術が確立されれば、将来のモバイルトラフィックの増加に寄与することが期待できるだけでなく、超広域・超多数端末を収容できる衛星IoTなど、様々な無線通信システムへの活用が可能になると思っています。
福園:私が所属しているグループは、地上系の災害対策用無線システムや山岳・島嶼部向けのVHF帯加入者系無線システムの研究開発をしています。私の役割としては、開発業務を事業会社やメーカと連携して進めながら、将来開発するシステムに使用する無線信号処理技術の研究も並行して進めています。
私が携わっているプロダクトをいくつか紹介しますと、まず実用化されたプロダクトの一つとして、災害対策用無線システムTZ-403D があります。地震などの災害で通信ケーブルが切れてしまった際に、避難所などに無線で無料の特設公衆電話やインターネット接続を提供できるシステムです。近年の豪雨災害時などで出動し、被災地の方々が通信孤立することがないように活用されています。
実用化に向け現在開発を進めているプロダクトの一つに、山岳・島嶼部向けのVHF帯加入者系無線システムがあります。NTTは日本中あまねくお客さまにユニバーサルサービスと呼ばれる加入電話や公衆電話を提供する責務があります。有線ケーブルの敷設が困難な山岳・島嶼部にもユニバーサルサービスをお客さまに提供することを目的とした無線システムです。ユニバーサルサービスの提供はNTTの責務と言いましたが、逆に言えば、NTTだからこそ全てのお客さまに寄り添い、支えるための研究開発に携わることができると言えますね。
福園:仕事をしてきてうれしかったことは、自分が考案した技術を実用化されるプロダクトであるVHF帯加入者系無線システムに実装できたことです。もうすぐ、開発検証品が完成し、電波を実際に出すフィールド実験を行う予定です。良い通信特性が出るか今から楽しみです。
五藤:研究業務というものはこれまでにないものを想起する仕事なので、生みの苦しみがあるのですが、思い描いていた技術が徐々に具体化されていく様は、とてもやりがいを感じます。また自分の作り上げた技術によって、他者との有益な議論になったり、企業にとって価値にあるものとしてアウトプットの活路が見出せたとき、この上なくうれしく感じます。新たなものを生み出すには、机の前に座って考えていてもあまりよいものは生まれない気がしています。文献調査や学会で話を聞く、自分野だけでなく様々な分野の研究者と盛んに議論する、といったことを心掛け、柔軟な発想が生まれるように心掛けています。
菅:NTT研究所では、既存の技術の商用化だけでなくこれまで世の中になかった新しい技術を検討できるところも大きな魅力だと思います。現在私が携わっているRoFシステムも、既存技術の活用だけでは実現が難しく、新しい技術の検討を進めています。自分たちが考えた技術が実機で動いているのを見たときは大きな達成感や感動を感じました。また、展示会や学術発表の場で、自分たちの提案に対して評価や実現を期待する言葉を頂くととても喜びを感じます。
5G以降の次世代システムに向けた無線通信技術の研究開発
主任研究員
徳安 朋浩
研究主任
福園 隼人
研究員
菅 瑞紀
研究員
五藤 大介