過去、現在、未来の地球をサイバー空間上でシミュレーションする
地球環境シミュレーション技術は、地球規模のセンシング情報を活用し、人間活動を含めた地球環境をモデル化することで、過去、現在、未来の地球をサイバー空間上でシミュレーションする技術です。この技術により、人間活動が地球環境に与えてきた影響や地球環境の未来を予測し、人間の意思決定へフィードバックを行い地球環境への貢献をめざします。
地球環境の重要な課題の一つである温暖化は、一次生産(光合成や化学合成によって、炭素を含む無機物から有機物を生産すること)の量に大きく影響しています。地球全体の有機物による一次生産量の約半数は、海洋に存在する植物プランクトンが担っているといわれており、そのため温暖化の予測には、特に植物プランクトンを含む海洋微生物の生物化学的循環による影響が重要となります。植物プランクトンの一次生産量は、成長に不可欠な栄養塩だけでなく、それらを運搬する海流や渦によるかき混ぜ効果、また海水温、海面への太陽光の照射強度、海上風といった海洋や大気の物理状態にも大きく左右されます。これらの相互作用を表現するモデルを海洋物理・生物化学結合モデルといい、現在の気候シミュレーションに組み込まれています。
ところが、現在の気候予測に利用される海洋物理モデルの空間分解能は、もっとも良くて10 km程度であり、これより小さなスケールの流動が海洋微生物に与える影響を検証するためには、より高い分解能でのシミュレーションの実施が求められます。しかし、高分解能でのシミュレーションは計算量が膨大で、また計算結果が不安定となりやすいため、高速かつ安定的な数値解法が必要不可欠です。また生物化学モデルでは、微生物の多様性や環境適応を一部しか考慮できていない、モデルパラメータを決めるために必要な観測データが十分にないという問題があります。この他にも、大気と海洋の相互作用をはじめ、乱流・波浪などの要素間における有意な相互作用を、因果解析などを活用することで抽出し、モデルを精緻化することで予測精度の向上を検討する必要があると考えています。
これらの課題に取り組み、海洋物理・生物化学相互作用を解明し、より正確な海洋の過去と現状の再現、未来の予測をめざしていきます。
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