ファラデーケージとは?原理や仕組み、測定法、雷制御について解説
ファラデーケージとは、導体(金属)でできた器やかごのことです。外部の電界(電気を帯びた物体「電荷」による力が働く領域)を遮蔽する働きがあるために、静電気の測定や雷対策などに応用されます。
この記事では、ファラデーケージの原理と、ファラデーケージを応用した静電気の測定、雷対策、および雷制御の最新研究について解説します。(公開日:2021/11/24 更新日:2024/03/18)
1. ファラデーケージとは?
ファラデーケージとは、導体でできた器やかごのことで、外部の電界を遮蔽する働きがあるものです。イギリスの化学者・物理学者マイケル・ファラデーが1836年に発明しました。
電界の中に置かれたファラデーケージの内部では、電界を打ち消すように電荷が再配置されるため、電界がゼロになります。この性質を応用した、以下のような身近な例、応用例があります。
- 金属でできた自動車や電車、あるいは鉄筋コンクリート製の建物やトンネルの中では、携帯端末やラジオなどの電波が届きにくい
- パソコンの筐体の多くが金属製(内部の電子回路を外部の電界から保護するため)
- 自動車や飛行機などの金属製の乗り物は、落雷があっても内部の乗客に影響をおよぼさない(後述)
また、ファラデーケージ内部にある電荷により作られる電界は、ファラデーケージが接地されている場合は外部には一切影響をおよぼさない一方で、接地されていない場合には、外部にそのまま現れます。この性質は、絶縁体などの静電気を精密測定する際にも応用されます。
2. ファラデーケージの原理
それでは、ファラデーケージの原理を、外部電界の中に置かれた場合、および内部に電荷がある場合のそれぞれについて見ていきましょう。
2-1. 外部電界の中に置かれた場合
外部電界の中に置かれたファラデーケージ内部では、電界がゼロになります。これは、導体の内部では電界がゼロになるからです。
(1)導体内部で電界がゼロになる性質
下の図は、電界の中に置かれていても、導体の内部では電界がゼロになる性質を示したものです。
上図において導体の左側に正電荷があり、そこから水色の矢印で示すとおり、右に向かって電界が広がっています。
このような電界の中に導体が置かれると、外部電界から力を受け、導体内の電荷が移動をはじめます。
まず、正電荷は外部電界と同方向へ力を受け、導体の右の表面に集まります。
一方、負電荷(自由電子)は外部電界と逆方向の力を受け、導体の左の表面に集まります。このような、電界からの力を受けての電荷の移動は「静電誘導」と呼ばれます。
導体内の電荷がこのように移動すると、導体内部で新たな電界が作られます。右側に正電荷が、左側に負電荷が集まっているため、新たな電界はオレンジ色の矢印で示すとおり、正電荷から負電荷へ向かって左向きに作られるのです。このオレンジの新たな電界は、水色矢印で示される元の電界を完全に打ち消すことになります。
仮に導体内部に元の電界が打ち消されずに残っていれば、その電界から力を受けて、電荷はさらに移動します。それにより残っていた電界を打ち消し、この電荷の移動は導体内部の電界が完全に打ち消されるまで続くのです。
このように、導体内部で作られる電界に外部電界が打ち消されることにより、導体内部の電界はゼロになるというわけです。
導体内の電界がゼロになるということは、導体内部が「等電位」であることを意味します。なぜなら、もし電位差があったとすれば、そこに電界が存在することになるからです。
(2)中空の導体(=ファラデーケージ)の内部でも電界はゼロになる
さて、以上のことは、下図のように導体が中空でも同じように成り立ちます。導体が中空だということは、この導体がファラデーケージであることを意味します。
導体内部の正・負電荷の移動は、導体に中空があってもなくても、導体が連続でありさえすれば同じように起こります。また、正・負の電荷により作られる電界も、中空部分を伝わります。従って、正・負電荷の再配置による外部電界を打ち消す作用は、導体内部が中空であることの影響を全く受けないというわけです。
以上で解説してきた原理により、ファラデーケージ内部においては、外部の電界をゼロにし、遮蔽(静電遮蔽)できることになります。
2-2. ファラデーケージ内部に電荷がある場合
接地されていないファラデーケージ内部に電荷がある場合には、電荷により作られる電界は、ファラデーケージの外部に、ファラデーケージがないときと同じように現れます。一方、ファラデーケージが接地されているときには、外部に電界は現れません。
(1)接地されていないとき
ファラデーケージ内部に置く電荷として下図のものを考えます。
物体が+に帯電していて、まわりに電界が広がっています。
この電荷をファラデーケージの中に入れると、下図のようになります。
中に置かれた電荷により、ファラデーケージの負電荷は引き寄せられて内側に、正電荷は反発力を受けて外側に集まります。このときの電界を矢印(電気力線)で示すと下図のようになります。
ファラデーケージの内側に集まった負電荷と電荷との間には電界ができています。また、外側に集まった正電荷からは、外部に向かって電界ができます。
すなわち、接地されていないファラデーケージ内部に電荷を置いた場合には、その電荷によりファラデーケージ内外に生じる電界は、ファラデーケージがないときと同じになるというわけです。
(2)接地されているとき
ファラデーケージが接地されているときはどうなるでしょう。
上の図にあるとおり、接地されると、ファラデーケージの外側に集まった正電荷はすべて接地(アース)に流れることになります。内側に集まった負電荷は、内部に置かれた正電荷と引き付け合っているので動きません。
そのため、内部の電荷による電界は、接地されたファラデーケージの外側には現れないことになるのです。
3. ファラデーケージの応用例
ファラデーケージ応用例を見ていきましょう。
3-1. 電磁ノイズ対策やEMP対策・電磁波漏洩対策
ファラデーケージはまず電磁波対策に応用されます。
電磁波対策としてまず求められるのは、外部電磁波の遮断です。近年では、さまざまな機械や装置から発生する電磁波のノイズにより、電子機器が誤作動することがあります。また、EMP(Electromagnetic Pulse=電磁パルス)による攻撃リスクも、近年の国際情勢から無視できません。EMP攻撃を受けた場合は電子機器が損傷され使用不能になることもあります。
一方、電子機器から漏洩する電磁波を遮断することも必要です。漏洩電磁波が何者かによって検知・分析され、情報漏洩につながるリスクがあるからです。
前述のとおり電子機器をファラデーケージで囲ってしまえば、外部電磁波の影響は内部にはおよびません。パソコンやサーバーなどの筐体が金属でできているのは、電磁波遮断も目的のひとつとなっています。また、電磁シールドルームや電磁シールドテントなど、電磁波遮断を目的とした設備や製品もあります。
また、それらパソコンやサーバーの筐体やシールドルーム、シールドテントなどを接地すれば、前述のとおり内部電荷の影響は外部にはおよばなくなり、内部から漏洩する電磁波の遮断も可能となります。
3-2. 静電気の精密測定
静電気の測定は、電子材料や電子写真、粉体塗装、医薬品、食品、化学品、工業品、粉体の研究などのさまざまな分野で必要となることがあります。測定物が導体の場合には、測定物に電位計を直接接続する、あるいは導体を近づけ、その導体に静電誘導される電荷を測定する、などができます。
しかし、測定物が絶縁物の場合には、絶縁物に電流が流れないことが理由となり、これらの方法は利用できません。
そこで利用されるのが、ファラデーケージを使った静電気測定法(ファラデーケージ法)です。ファラデーケージ法による静電気測定では、導体・絶縁物のどちらでも、また液体・粉体・微小部品などほかの方法での測定が困難なものでも、測定が可能です。
ファラデーケージ法による静電気測定の仕組みは、下図に示すとおりとなっています。
測定には、上図中で青色の太い線で示した、外側と内側の2つのファラデーケージを使用します。内側ファラデーケージは接地されていませんので、これは前述の「2-2. ファラデーケージ内部に電荷がある場合(1)接地されていないとき」にあたります。
測定物を内側ファラデーケージの中に入れると、接地されていない内側ファラデーケージは測定物の電気量の分だけ帯電します。上図では測定物が正電荷を帯びているとしましたので、内側ファラデーケージの内側には負電荷が、外側には正電荷が集まります。
ただし、このままでは内側ファラデーケージが外部電界の影響を受ける可能性が出てきます。そこで、内側ファラデーケージを外側ファラデーケージで覆うことにより、外部電界を遮断します。
外側ファラデーケージは接地されているため、電位はゼロです。そのため、この状態で内側・外側のファラデーケージ間の電位差を測れば、そこから測定物の電気量が求められることになります。
ファラデーケージ法のメリット
ファラデーケージ法による静電気測定の最大のメリットは、測定物が絶縁物である場合でも、内側ファラデーケージのどこか1点の電位を測定するだけでいい、ということです。
電荷を帯びた絶縁粒子の集合体では、電荷は各粒子にとどまります。そのため、電荷の総量を直接測定しようと思えば、各粒子の電荷を個別に測定しなくてはなりません。それではあまりに非現実的といえるでしょう。
それに対してファラデーケージ法による静電気測定では、内側ファラデーケージは測定物の電荷の総量と同じだけ帯電します。従って、内側ファラデーケージの電位を測定するだけで、絶縁物の電気量を手軽に求められるというわけです。
3-3. 落雷時の避難場所
内部の電界がゼロになるファラデーケージは、落雷時の避難場所としても適切です。たとえ落雷の直撃を受けて大電流が流れても、等電位に保たれるため放電が起きません。日本大気電気学会による資料『雷から命を守るための心得』では、ファラデーケージ内部を「落雷に対して絶対安全な空間」としています。
落雷時の避難場所としてのファラデーケージは、身近な例として以下のようなものがあります。
- 鉄筋コンクリートや鉄骨造の建物の中
建物を造る鉄筋コンクリートや鉄骨がファラデーケージの役割を果たすからです。 - 自動車や電車の中
自動車や電車も一般に金属でできているため、落雷の際にはファラデーケージとして働きます。 - 飛行機の中
飛行機も金属でできているためファラデーケージとなります。飛行機は、年間に数百回の雷撃を受けるといわれています。横山茂『雷から身を守るための注意点』(電気設備学会誌 2008年9月)では、雷撃により「時々機体に損傷を受けることがあるものの、飛行そのものに支障を来たしたことはほとんどない」としています。
4. 最新研究への応用事例
ファラデーケージの最新研究への応用事例として雷制御の研究をご紹介します。
近年、極端な高温や低温、強い雨など「極端気象」が増えており、それら極端気象を事前に予測し、対策を講じる必要性が高まっています。雷制御はそのための研究の一環です。
雷制御にはドローンなどの飛行体が利用されます。雷の発生時にドローンを飛ばし、そのドローンに雷撃を受けるようにすれば、雷撃を安全な場所へ導くことが可能となります。
ただし、一般的なドローンは雷撃には耐えられません。そのままで雷撃を受けてしまえば、故障したり、あるいはコントロールを失って墜落したりするなどしてしまいます。
そこで、ドローンを格子状のファラデーケージで囲うという対策が進められています。ファラデーケージにより雷電流を迂回させ、ドローン本体への雷撃を防ごうというわけです。
実際に、人口雷発生装置を使用した実験では、未対策のドローンは雷撃で墜落しました。一方、同じドローンをファラデーケージで囲った場合は、下の図で見るように雷電流は地上へ迂回し、雷撃後も飛行継続できることが確認されました。
5. まとめ
- ファラデーケージとは導体でできた器やかごのこと。外部の電界を遮蔽する働きがある。
- ファラデーケージが外部電界を遮蔽できるのは、外部電界を打ち消すように内部の電荷が再配置されるため。
- ファラデーケージは電磁波の遮蔽や静電気の精密測定などにも応用される。
- 落雷の際には、自動車や電車、飛行機などのファラデーケージ内部が安全。
- 雷制御についての最新研究にもファラデーケージが応用されている。
参考文献
- 安全な実験・観察のハンドブック作成委員会『雷発生の仕組み』
- NTT研究開発『安心・安全に暮らすためのプロアクティブ環境適応技術』
- 橘高重義・葛西昭成『静電気測定法概論』
- Design Wave Magazine 小暮裕明『第14回 電磁シールドのしくみ』
- 電気設備学会誌 横山茂『雷から身を守るための注意点』
- 日本大気電気学会『雷から命を守るための心得』
- 粉体工学会誌 増田弘昭・生三俊哉『微粉体の静電気測定』
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