エルニーニョ現象とは?ラニーニャ現象との違いや、世界の天候におよぼす影響について解説 -仕組み編-
エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸(ペルー沖)にかけての海面水温が、平年より高い状態が1年以上続く現象のことです。エルニーニョ現象は世界各地で干ばつや冷夏などの異常気象を引き起こし、農作物や水産物の収量の減少や水不足など、地域によっては人命にかかわる被害をもたらすことがあります。直接的・間接的な影響は世界中を巡り、経済活動にも打撃を与えるため、ニュースなどでもしばしば取り上げられます。また、近年はエルニーニョ現象とは逆に海面水温が低下するラニーニャ現象も大きな注目を集めるようになっています。
本記事では、エルニーニョ現象とラニーニャ現象の発生の仕組み、その監視や判定、予測の手法、さらに世界の天候変化との関連性や日本にもたらされる影響について解説します。(公開日:2023/06/28 更新日:2025/09/17)

1. エルニーニョ現象とは?
エルニーニョ現象とは、赤道近くの熱帯太平洋の東側、日付変更線付近から南米沿岸(ペルー沖)辺りまでの海域で海面水温が平年より高くなった状態が1年以上続く現象を指し、地球上で自然に生じる最も大きな気候変動現象といわれています。
「エルニーニョ(El Niño)」という言葉は、スペイン語で「男の子」という意味です。17世紀に南米の漁師たちが、クリスマスの時期をピークに周辺海域の水温が高くなることに気付き、 "El Niño de Navidad" と名付けたことに由来します。"Navidad" はクリスマスのことで、直訳すると「クリスマスの男の子」、つまり「神の子イエス・キリスト」を意味します。
エルニーニョはペルー沖の海域で発生する季節的な自然現象で、乾燥地帯の耕作地に雨を降らせ、漁師にとっては普段手に入らない熱帯の希少な魚をもたらしてくれることから、神の恵みだと考えられていました。しかし、このような海面水温の変化が数年に1度、長期間にわたって続くことがあり、この現象がエルニーニョ現象として世界的な注目を集めるようになりました。
気象庁では、季節的なペルー沖の海面水温が上昇する現象を「エルニーニョ」、数年に1度熱帯太平洋の広い海域で長期間発生する現象を「エルニーニョ現象」と呼び、それぞれ異なる名称で使い分けています。
1-1. エルニーニョ現象の発生の仕組み
では、エルニーニョ現象はどのようにして発生するのでしょうか。
赤道近くの太平洋上では通常、東から西に向かう貿易風が吹いています。貿易風は海面近くの暖かい海水を風下の西側へと吹き寄せるため、通常、赤道近くの太平洋では西側に暖かい水がたまります。
暖水プールとも呼ばれるこの海域は、世界で最も海水温が高く、海上の大気へ熱と水蒸気を供給することで対流活動を活発にし、積乱雲を発生させて大量の雨を降らせます。一方、東側では貿易風によって西側に運ばれた海面近くの海水を補うために深部から冷たい水が湧き上がります。このため東側の海域は西側よりも水温が低くなります。
しかし、何らかの理由で貿易風が弱まると、西側に運ばれた暖かい海水が東側に戻されます。その結果、東側の海水温は通常よりも高くなり、その上の大気が暖められます。そして、この東側で暖められた大気によって貿易風がさらに弱められるという一連の循環によって、東側の海水温が上昇した状態を長期間にわたって維持しようとする正のフィードバックが起きることでエルニーニョ現象となるのです。
これまでの研究の成果から、エルニーニョ現象は3~7年ほどの周期で繰り返される、大気と海洋の相互作用で生じる気候変動の温暖な局面であると考えられています。
1-2. ラニーニャ現象の発見と発生の仕組み
エルニーニョ現象とは逆に、同海域で海面水温が平年より低くなった状態が1年以上続くことをラニーニャ現象と呼びます。この現象は、エルニーニョ現象の研究が大きく進んだ1980年代に研究者の間で認識されるようになりました。
ラニーニャ現象では、通常よりも強い貿易風によって多くの海水が西側へ吹き寄せられるため、東側の海域の深部から冷たい水が湧き上がります。これにより東側の海面水温が低下し、さらに貿易風を強まることが特徴です。また、ラニーニャ現象もエルニーニョ現象と同様に、3~7年ほどの周期で繰り返されると考えられています。
「ラニーニャ(La Niña)」はスペイン語で「女の子」という意味ですが、こちらはエルニーニョと違って歴史的な由来のある呼称ではありません。過去には「反エルニーニョ(anti-El Niño)」や「エルビエホ(El Viejo、スペイン語で「老人」の意味)」といった呼称が用いられたこともありました。しかし、前者には神の子イエス・キリストの否定ともとれる表現が受け入れられにくいこと、また後者は馴染みにくいためか一般化せず、現在は1985年にアメリカの海洋学者フィランダーが提唱した「ラニーニャ」という呼称が定着しています。
ラニーニャ現象は、海面水温が上昇するエルニーニョ現象とは逆の現象ですが、それぞれが明確に反対の特性を持っているわけではありません。
たとえば、エルニーニョ現象による海面水温の上昇は、ラニーニャ現象による海面水温の低下よりも水温の変動幅が大きいこと、またラニーニャ現象はエルニーニョ現象よりも継続期間が長い傾向があることなど、2つの現象は非対称な特徴を持っています。
1-3. エルニーニョ/ラニーニャ現象の監視、判定、予測の手法
エルニーニョ/ラニーニャ現象は、地球上で自然に生じる最も大きな気候変動現象であるため、世界各国の気象機関はこれらの現象が発生する海域の監視を行っています。しかし現在のところ、エルニーニョ/ラニーニャ現象の発生を判定する世界共通の基準は存在しません。
気象庁では、下図でNINO.3と記されているエルニーニョ監視海域(南緯5度~北緯5度、西経150度~西経90度で囲まれる範囲)の海面水温の変化で判定を行っています。この海域は貿易風が強い場所であるとともに、東側の海面近くの海水が西側へ運ばれた際に深部から冷たい水が湧き上がってくる様子がよくわかる場所です。
各現象の判定基準については、監視海域の海面水温の各月の基準値(前年までの30年間の各月平均値)と、その月平均値の差の5か月移動平均値(該当する月平均値を中央として、前後2か月を含めた5か月の平均値)が6か月以上続けて+0.5度以上となった場合をエルニーニョ現象と判定しています。一方、6か月以上続けて-0.5度以下となった場合はラニーニャ現象と判定されます。
この判定基準は、過去に発生したエルニーニョ現象を遡って検証できるように、さまざまな論文やデータを参考にして客観的に定められたものです。
気象庁では毎月、監視海域の水温の変動傾向と数値モデルを用いて、6か月先までのエルニーニョ/ラニーニャ現象の発生確率をエルニーニョ監視速報という予測情報として発表しています。
2. エルニーニョ/ラニーニャ現象の影響
エルニーニョ/ラニーニャ現象が世界各地の天候にもたらす影響については、直接的・間接的な因果関係がはっきりしているものや、長期間の気象データの解析から統計的に有意な傾向が確認されているものまで、さまざまな研究成果があります。以下では、世界と日本それぞれについて、どのような影響があるのかについて見ていきましょう。
2-1. 世界の天候への影響
エルニーニョ/ラニーニャ現象が発生した際の世界の天候変化の特徴(気温と降水量)は、長期間の気象データの解析によって季節ごとにまとめられています。下図は、夏と冬の特徴を示しています。こちらは気象庁による解析結果ですが、世界のほかの気象機関による解析結果と比較しても大きな特徴は一致しています。
(画像出典:気象庁『エルニーニョ現象発生時の世界の天候の特徴』、 『ラニーニャ現象発生時の世界の天候の特徴』
のそれぞれ図2,4をもとに編集)
いくつかのわかりやすい天候変化の例を挙げてみましょう。
オーストラリアやインドネシアの一部では、エルニーニョ現象によって干ばつが発生しやすく、ラニーニャ現象の発生時には通常よりも雨が多くなることが知られています。
北アメリカ大陸は冬に影響が大きく、エルニーニョ現象の発生時にアメリカの北西部やカナダは温暖になり、アメリカの南部は湿潤な冬となる傾向があります。ラニーニャ現象の発生時には正反対ではないものの、エルニーニョ現象の発生時と逆の傾向が見られます。
また、太平洋赤道域から遠く離れたアフリカの東側では、エルニーニョ/ラニーニャ現象の発生時に干ばつや洪水につながりやすい天候変化が見られます。
2-2. 日本の天候への影響
エルニーニョ/ラニーニャ現象の発生時における日本の天候の特徴についても、統計的に詳しい解析が行われています。総じて、エルニーニョ現象は日本の気候の季節変化を小さくする傾向があり、ラニーニャ現象は大きくする傾向があります。
以下では気象庁の解析結果から、統計的に有意であると判定された例を紹介します。
エルニーニョ現象発生時の日本の天候の特徴
冬(12~2月)は、西日本で気温が平年並みか高くなる傾向があり、東日本の太平洋側では日照時間が平年並みか短くなる傾向が見られます。
夏(6~8月)は、西日本で気温が低くなる傾向が見られ、北・東日本でも平年並みか低くなる傾向があります。また、西日本の日本海側では降水量が多くなる傾向があり、全国的に梅雨明けの時期が遅くなる傾向があります。
ラニーニャ現象発生時の日本の天候の特徴
冬(12~2月)は、平時と変わった傾向は見られません。夏(6~8月)は、北日本で平均気温が高くなる傾向が見られ、北日本の太平洋側で日照時間が長くなる傾向があります。
台風への影響
大雨や暴風などが人々の暮らしに大きな影響を与える台風も、エルニーニョ/ラニーニャ現象の影響を受けています。
エルニーニョ現象が発生している期間は、台風の発生数は少なくなる傾向があります。また、発生する場所は通常よりも夏は南、秋は南東にずれ、最も発達した台風の中心気圧が夏は平常時より低くなり、秋は台風の寿命が長くなる傾向があります。
ラニーニャ現象発生時には台風の発生数には違いは見られませんが、発生場所は西にずれ、秋は台風が消滅するまでの寿命が短くなる傾向が見られます。
2-3. 太平洋赤道域付近の現象がなぜ地球全体に影響を与えるのか
エルニーニョ/ラニーニャ現象がもたらす地球規模の影響については、「テレコネクション」という言葉が用いられています。これは遠く離れた複数の地点における大気や海洋の変動に関連があることを意味する言葉です。なぜ遠く離れた地点同士の天候変化に統計的に有意な相関関係があるのか、その全容は解明されていません。そのため、同時期に起こった災害をすべてエルニーニョ/ラニーニャ現象に関連付けることは、本当の原因をわからなくしてしまう恐れがあります。しかし、なかには研究によって原因が解明された影響もあります。
熱帯太平洋への作用
エルニーニョ/ラニーニャ現象が発生する熱帯太平洋では、海水温分布の変化によって上昇気流が発生する場所が変わるため、降水地点や降水量に大きな変化が起こります。
中緯度の天候への影響
上記の熱帯太平洋での上昇気流を発生させる場所の変化は、熱帯から中緯度へと熱を運ぶ大気の循環を乱し、ジェット気流を変化させることで中緯度の天候に影響を与えると考えられています。
隣接する大洋へ波及
エルニーニョ/ラニーニャ現象が発生すると、インド洋熱帯域の大気と海洋の状態が変化します。この変化はエルニーニョ/ラニーニャ現象の発生、消滅からほぼ3か月のタイムラグがあることがわかっています。
2-4. エルニーニョ/ラニーニャ現象の被害事例
エルニーニョ/ラニーニャ現象に関連して生じた実際の被害について知ると、自然現象が複雑な因果関係によって世界に影響を与えてきたことがわかります。
気象や海洋の観測データで遡れる時代に発生した大規模なエルニーニョ現象は、1972~1973年、1982~1983年、1997~1998年、2014~2016年、2023~2024年に観測されています(気象庁による定義)。以下では、それぞれの影響と被害について紹介します。
1972~1973年のエルニーニョ現象
ペルー沿岸でカタクチイワシが不漁となりました。カタクチイワシは畜産飼料の原料でもあったため、その代用となる大豆の価格が高騰し、日本では大豆ショックと呼ばれる事態が発生し、豆腐をはじめとする大豆製品の値段が上がりました。
1982~1983年のエルニーニョ現象
1982~1983年に発生したエルニーニョ現象は、ほぼすべての大陸で気象災害を引き起こしたと考えられています。オーストラリア、アフリカ、インドネシアは干ばつや山火事に見舞われ、またペルーでは観測史上最大の降雨量が記録され、通常は年間150mmの降雨量であった地域に3,400mmもの雨が降りました。
気候の変化はアメリカ東海岸で脳炎などの感染症を発生させたり、アラスカやカナダ北西部でサケの漁獲量を減少させたりする研究もあります。
1997~1998年のエルニーニョ現象
インドネシアでは干ばつと山火事が発生し、穀物が不足する事態に陥りました。食料品の価格も一般の消費者が買えないほど高騰し、経済的・政治的な不安を助長する結果となりました。
2014~2016年のエルニーニョ現象
大規模なエルニーニョ現象の発生が原因と考えられる干ばつと洪水が発生しました。これにより、アフリカ東部などの熱帯の途上国では食糧不足や感染症によって、少なくとも6,000万人もの人々が健康被害に見舞われ、国際的な緊急支援が必要な状況になりました。
2023~2024年のエルニーニョ現象
2023年6月頃から強いエルニーニョ現象が発生し、海面水温が平年よりも高い状態が続きました。特に9月の時点では、エルニーニョ監視海域の海面水温は基準値より+2.3℃を記録しました。
この強いエルニーニョ現象は世界各地に気象災害をもたらしました。アメリカ南部では、ジェット気流の変化によってカリフォルニア州が記録的な豪雨に見舞われ、土砂崩れなどの被害が相次ぎました。一方、南米チリで発生した大規模な山火事は、降水量の減少によって北部で大規模な干ばつが発生し、乾燥が続いたことが原因だと考えられています。
3. NTT宇宙環境エネルギー研究所の取り組み
エルニーニョ/ラニーニャ現象は、世界各国の気象機関が動向を監視する、地球上で自然に生じる最も大きな気候変動現象です。これらの現象を制御することはできませんが、精度の高い予測によってあらかじめ備えることができるようになりました。
NTT宇宙環境エネルギー研究所では、エルニーニョ/ラニーニャ現象の影響を受ける台風のような極端気象現象に関する研究を行っています。「極端気象予測技術」では、台風が発生・発達する海域での観測手法を構築し、極端気象現象の解明やモデル化に取り組んでいます。
そのほかにも、現実世界をデジタル空間上で再現するデジタルツインコンピューティングを用いたシミュレーションで災害などの予測を行い、人々の最適な行動を導き出すことで、自然環境にしなやかに適応できる社会の実現をめざしています。
さらに、エルニーニョ/ラニーニャ現象の影響は経済や政治的不安につながることもあるため、「ESG経営科学技術」では自然環境の変化に伴って社会や経済がどのように変化するか、複雑な因果関係を考慮した未来予測シミュレーションを行っています。このような研究を通して、持続的な社会を支える予報や未来シナリオを提示することをめざしています。
本記事では、エルニーニョ/ラニーニャ現象の仕組みや世界の天候におよぼす影響について解説しました。これらの複雑な現象の仕組みが明らかになりつつあるのは、大気と海洋の相互作用の解明に取り組む研究者たちのたゆまぬ努力の成果です。本記事に続く「―研究の歴史編―」では、こうした研究者たちの知の探究の歴史について紹介します。
4. まとめ
- エルニーニョ/ラニーニャ現象は、大気と海洋の相互作用によって熱帯太平洋で自然に生じる地球上で最も大きな気候変動現象で、3~7年ほどの周期で繰り返される。
- エルニーニョ/ラニーニャ現象は、関連する海域を世界各国の気象機関が監視しており、半年前からの予測が可能である。
- エルニーニョ/ラニーニャ現象は、太平洋赤道域上で発生するが、影響はテレコネクションによって地球全体におよぶ。
- NTT宇宙環境エネルギー研究所では、エルニーニョ/ラニーニャ現象がもたらす影響にしなやかに適応する社会の実現をめざしている。
参考文献
- American Meteorological Society Journals『Asymmetry in the Duration of El Niño and La Niña』Yuko M. Okumura and Clara Deser
- NOAA Climate.gov『El Niño & La Niña (El Niño-Southern Oscillation)』
- 公益財団法人日本ユニセフ協会『史上最大級のエルニーニョ現象 食糧や水不足など 影響が深刻COP21で集うリーダーたちへの警鐘』
- 気象庁『エルニーニョ監視海域』
- 気象庁『エルニーニョ/ラニーニャ現象』
- 気象庁『2 エルニーニョ/ラニーニャ現象と日本の天候』






