ラジオゾンデとは?大気を観測する仕組みと気象観測の課題

    メイン画像 画像提供:国立研究開発法人海洋研究開発機構『Radiosonde observation

      「台風はこれからどのような進路をとるのだろうか」「日本海に発生した低気圧はこれからどれだけ発達するのだろうか」「この雨はいつまで続くのか」など、天気の移り変わりの速さや大きさを知るためには、地上付近だけではなく、その上にある大気の状態を知る必要があります。この気象学と天気予報に欠かせない要素を測定する観測機器が、ラジオゾンデです。
      本記事では、ラジオゾンデ開発に至るまでの上空の大気を測るための努力や奮闘の歴史、ラジオゾンデの仕組みと観測方法、得られた情報の使い道を紹介します。そして、気象観測に残されている課題と解決に向けた近年の動向についても解説します。(公開日:2023/02/27 更新日:2024/03/22)

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      1. ラジオゾンデとは?

      まずは、ラジオゾンデの開発に至るまでの上空大気観測の歴史やラジオゾンデの仕組みについて見ていきましょう。

      1-1. ラジオゾンデに至る上空大気観測の歴史

      上空大気の観測は、1749年にヨーロッパではじまりました。このときの観測は温度計をつけた凧を上空に揚げるというものでした。凧を用いた観測はせいぜい高度約3kmまでが限界で、風が弱すぎても強すぎてもいけないという天候を選ぶものでした。また、観測データは凧の糸を巻き上げて回収するまで得られませんでした。

      その後、1783年にフランスで気球が発明されると、気圧計や温度計などの計測器を気球に積んだ有人観測が行われるようになりました。
      初期の有人観測は、極寒と空気不足という上空の過酷な環境への備えが不十分であり、事故が発生するなど危険なものでした。それでも、多くの若い気象学者の卵がこの危険な観測に挑み、立派に成長していきました。そのため、有人観測気球は「気象学者の揺りかご」とも呼ばれたそうです。

      1800年代の末には、自由に浮かばせた無人の気球によって、これまでよりもはるかに高い成層圏(高さ約10km~)までの観測が可能になりました。しかし、上空で割れた気球が地上に戻ったあとに計測器が回収されるまで中身を見ることができないため、データを天気予報に活用することはできませんでした。

      アメリカでは1925年以降、航空機による上空の観測が行われるようになりましたが、やはり天候が悪いと飛べない、着陸するまでデータが得られないなどの欠点がありました。

      上空からデータを無線で送信する方法が開発された1920年代になると、気球に電波発信機をつける試みが行われるようになります。そして、1929年にフランスでごく初期の「ラジオゾンデ」が誕生しました。
      ラジオゾンデという名前はこのときに「radio(無線)」と「sonde(フランス語で探査)」という語からつくられた造語です。

      ラジオゾンデの登場で、安全にリアルタイムで上空大気の観測データを得られるようになり、天気予報にも活用が可能になりました。その後、上空大気データの必要性の高まった第二次世界大戦時にラジオゾンデの技術開発と観測が加速することになりました。

      気象庁によるラジオゾンデ観測が定常的に行われるようになったのは、1944年からです。「中央気象台1号型」と呼ばれた最初のラジオゾンデは、気圧や気温、湿度を測れるもので、センサを収納する箱には、素材の軽さから桐箱が使われていました。
      ラジオゾンデは科学技術の発展とともに改良され、現在は小型軽量化されたものが使用され、風向風速はGPSの測位情報から算出しています。

      1-2. ラジオゾンデの外観と仕組み

      上空までの大気を観測するためのラジオゾンデ観測システム全体は以下のような姿です。

      (画像出典:気象庁高層気象台『気球を用いた高層大気の観測について』空を飛ぶラジオゾンデ

      写真の一番上が気球です。天然ゴム製の気球の地上での直径は、約1.8mです。この気球の中には、空気より軽いヘリウムガスが入っており、気体の浮力によって上昇させます。
      一番下にぶら下がっている小さな箱のようなものは、ラジオゾンデ観測器本体です。気球とラジオゾンデ観測機本体の間にはパラシュートが付けられており、これらをつなぐつりひもは30mもの長さになっています。この長さの理由は、太陽放射などが原因で高温となる気球表面の熱によって、気球の後ろに生じる「気球後流」という空気の流れの影響を測定値が受けないようにするためです。また、パラシュートは、気球破裂後の観測器の降下速度を下げ、地上に安全に降ろすために使用されます。

      ラジオゾンデが大気中を上昇するにつれて気圧が低くなるため、気球はどんどん大きくなります。最終的に、もとの直径の5倍超(約11m)まで大きくなり破裂します。観測自体はそこで終わりです。なお、パラシュートやラジオゾンデの本体は、回収されずに環境中に残った場合の影響を抑えるため、生分解性(微生物などによって分解されて自然に還る性質)の高い材料で作られています。

      次に、つり下げられていたラジオゾンデ観測器本体の外観を見てみましょう。以下は、現在気象庁で使われている3機種です。

      ラジオゾンデ観測器本体の外観
      (画像出典:気象庁『ラジオゾンデによる高層気象観測』気象庁で使用しているラジオゾンデ

      観測器の筐体内部には、気圧計、無線送信機、電池、GPS受信機などが入っています。温度計と湿度計は内部で発生する熱の影響を避けるために外に露出しています。観測器本体の大きさは、機種にもよりますが5×6×15cm程度で、重さは100g未満です。

      2. ラジオゾンデによる観測とは?

      次に、ラジオゾンデによる気象観測の概要と得られたデータの利用法について紹介します。

      2-1. ラジオゾンデ観測の概要

      ラジオゾンデによる地上から高度約30kmまでの大気の観測を「高層気象観測」といいます。これは世界各地で毎日2回、世界時の00時と12時(日本標準時では09時と21時)に行われています。
      日本では、図に示す16か所の観測点と南極の昭和基地で、この時間にラジオゾンデによる観測を行っています。

      (画像出典:気象庁『ラジオゾンデによる高層気象観測』ラジオゾンデによる高層気象観測地点令和5年4月現在)

      観測でラジオゾンデを取り付けた気球を飛揚させることを「放球」といいます。放球は、人の手で行っているところと装置で自動化しているところがあります。
      ラジオゾンデの上昇速度は5m/s程度で、気球が破裂して観測が終了する高度である上空30kmには、1時間40分ほどで到達します。その間に気温や湿度、気圧、風向・風速を連続的に計測します。

      気温と湿度は本体外側に取り付けられたセンサで測定し、風向・風速はGPSの測位情報から移動速度を計算しています。気圧は本体内部の気圧センサまたは、GPSの測位情報から計算しており、機種によって求め方が異なります。

      また、データは400~406MHzの周波数の電波(ラジオ波)で送信され、リアルタイムで地上の受信機まで届けられます。

      観測終了後のラジオゾンデは、パラシュートで地上付近に3~4m/sの速度で降下するように設計されています。これは先述のとおり、落下時の安全性を考えてのことです。日本の場合は、国土が狭く上空を偏西風が吹いているため、ラジオゾンデのほとんどが東へ流されて海に落下してしまいますが、陸地に落下した場合は回収できるよう、気象庁のラベルと連絡先が記載されています。
      また、人口密集地帯など被害が生じるおそれがある場所への降下が予測される場合に放球を避ける判断ができるよう、風向や風速などの予報データから落下位置を予測するプログラムを開発・運用しています。

      2-2. ラジオゾンデの観測データ

      ラジオゾンデから送られてきた観測データは、異常データの混入がないかなど、中身の質を確認してから公開されます。
      ひとつの観測点のデータからは、たとえば下図のような高度(気圧)を縦軸にしたグラフを書くことができます。

      (画像出典:気象庁高層気象台『高層気象観測(GPSゾンデ観測)』高層気象観測のグラフ例

      ある観測地点で放球されたラジオゾンデが、地上から上空35km付近まで上昇した際、温度や風がどのように変化していったのかわかります。
      なお、気温が-40℃を下回ると、空気が含むことができる水蒸気量が非常に小さくなり、湿度の正確な観測ができなくなるため、グラフ内の湿度は高度が低いところで終わっています。

      2-3. データの活用

      ラジオゾンデの観測データからは、観測点の水平的な拡がりも合わせると、3次元で大気の構造を知ることができます。データは国際的に相互利用されており、天気予報の数値モデルの初期値や高層天気図に用いられています。

      高層天気図は、特定の気圧面での気温や風向・風速などの気象要素の分布を示す図です。300hPa、500hPa、700hPa、850hPaなどさまざまな等圧面の天気図があり、よく見える気象現象がそれぞれ違います。
      たとえば、300hPa(上空9,600m付近)の高層天気図では、ジェット気流の流れなど、規模の大きい現象がよく見えます。500hPa(上空5,700m付近)の高層天気図では、雲や降水など天気が作られる対流圏のちょうど中ほどで、高気圧や低気圧の発達や移動の目安となる気圧の谷や峰がよく見えます。また、天気予報で「上空に寒気が入り」と表現される際も、500hPaの高層天気図の情報がもとになっています。

      (画像出典:気象庁『高層天気図について』500hPa高層天気図

      高層天気図に並ぶラジオゾンデのデータの代表的な活用例として、エマグラムがあります。エマグラムは大気の安定度を評価するために用いられる、気圧に対する温度や湿度などをプロットした図です。
      以下の左図には、そのほかにも傾きの異なる3種類の斜線が引かれています。

      館野(つくば) 2015年9月24日09時のエマグラム(左)(①はラジオゾンデによる気温の観測値、②は露点温度、③は湿度)と、大気の安定性を示す概略図(右)
      (画像出典:気象庁『ラジオゾンデによる高層気象観測』エマグラム 館野2015年9月24日09時、エマグラムでの大気の安定性評価

      左図のエマグラムの見方について、一例を挙げてみましょう。赤い太線は観測された気温を示しています。全体に引かれている赤く細い斜線は、ある温度の地表の空気塊を水蒸気の凝結を伴わず周囲と熱のやり取りがない状態でそのまま持ち上げた場合、気圧の変化で温度がどう下がるのかを示しています(空気塊の中の水蒸気が凝結すると熱を放出しますが、それがない場合です)。

      わかりやすくするために、右図の大気の安定性を示す概略図を参考にしながら説明を続けます。右図の乾燥断熱線と書かれた赤線は、左図の赤く細い斜線のうちのひとつだと考えてください。ある温度の地上の空気塊をそのまま持ち上げると、赤い乾燥断熱線上を右下から左上へ気温と気圧が変化します。
      ラジオゾンデで観測された気温が、右図の青色の点線のようである場合を考えてみましょう。地表から上空まで、気温を表す青色の点線の傾きは赤線より緩やかで、同じ気圧のもとでは上空の空気塊は、持ち上げられた空気塊よりも気温が低く(つまり重く)なっています。そのため、何かのきっかけで地上の空気が持ち上げられると周囲の空気より軽いため、さらに上昇しようとします。このような上昇気流の発生する大気は不安定で、積乱雲が発達して激しい雨になる可能性が高いとわかります。
      次はラジオゾンデで観測された気温が、右図の黄色の点線のようである場合を考えてみましょう。黄色の点線は、青色の点線と比べ傾きが急です。この場合、地上の空気が持ち上げられても、上空の空気塊のほうが気温が高く軽いので、持ち上げられた空気は地上に戻ろうとし、上昇気流は生じません。大気は安定しているといえます。

      ラジオゾンデの観測データは、そのほかにも気候変動の監視や航空機の運航管理、気象衛星などのデータの較正にも活用されています。

      3. 気象観測の課題とこれから

      これまではラジオゾンデ観測の仕組みや歴史、現在果たしている役割などについて述べてきました。しかし、ラジオゾンデ観測にも弱点といえることがあります。ここでは、ラジオゾンデの弱点と極端気象現象が増加する現代社会が求める気象予測、それに向けた気象観測の取り組みについても紹介します。

      3-1. ラジオゾンデ観測の弱点

      ラジオゾンデ観測の第一の弱点は、観測点に偏りがあることです。日本での観測点は、国内の16か所と南極の昭和基地にあると先述しましたが、全世界での観測点の位置を見ると、以下の図のとおり偏りが見られます。

      (画像出典:Radiosondes | National Oceanic and Atmospheric Administration:世界のラジオゾンデ観測点の分布)

      1,300か所以上ある観測点のほとんどが陸上にあり、数少ない海洋上での観測は、気象観測船や北海油田の洋上プラットフォームが担っています。陸上の観測点の分布も人が住んでいる地域に偏っているほか、各国の経済的事情で観測が十分に行われていない地域もあります。

      1日2回という観測回数も、たとえば線状降水帯のような急速に発達し、狭い範囲に記録的な大雨をもたらす気象現象を予測するには十分ではありません。地球全体でのジェット気流の蛇行の様子など、時空間的なスケールが大きい変動では支障がなくても、数時間程度で大きく発達する積乱雲が自己組織化という現象によって次々に新しい積乱雲を生み出して大雨を降らせるような10~100㎞程度の空間スケールの現象をとらえることはできないためです。

      また、観測データの通報形式の問題もあります。ラジオゾンデは放球から観測終了まで1時間以上かかるほか、上空の風によっては100km以上も移動することがあるのです。さらに、位置情報も含めたデータを細かく通報できる国とそうでない国があり、数値モデルに本来入れるべき位置からずれたままデータが予測に利用されている場合もあります。
      台風の予報や長期予報を行う数値予報では、地球全体を対象にした数値モデルを用いていますが、これらの問題から、時間や空間の観測密度や情報の精度にはまだまだ課題があり、予測精度向上の余地があると考えられています。

      このほかにも、観測機器の使い捨てによる環境負荷やコストの問題、落下による事故のリスクなどの問題があります。日本では水素ガスを用いていますが、気球にヘリウムガスを入れている観測点では、世界的なヘリウムの供給ひっ迫の影響を受けて、観測回数を減らすといった事態も発生しています。

      3-2. 極端気象が増加するなかで求められていること

      気象庁は現在から近未来にかけて社会から求められる気象業務として、数値予報の技術開発を推進する「2030年に向けた数値予報技術開発重点計画」を策定し、主に次の目標を掲げています。

      • 線状降水帯の発生・停滞の予測精度向上
      • 台風や前線に伴う大雨などの予測精度向上
      • 半年先までの気象予測の高度化・精度向上
      • 地球温暖化についてより高解像度かつ統一的な予測の提供

      当然ですが、これらの予測精度を向上するための開発には、未知のメカニズムを解明するための集中観測や、予測に必要な配置や頻度による観測が必です。

      そこで注目すべき事例として、線状降水帯による豪雨災害の予報のために、船舶GNSSデータを2021年8月31日から数値予報に利用開始したことが挙げられます。これは、線状降雨帯へ水蒸気を供給していると予測されている東シナ海で、気象庁の観測船と海上保安庁の測量船が大気中の水蒸気量を観測し、データをリアルタイムで送ることにより予報に活用するというものです。

      水蒸気量の観測は、船に搭載した衛星測位システム「GNSS(Global Navigation Satellite System)」の電波が、水蒸気の多い大気中を通過する際に発生する"遅れ"を利用して、データを導き出しています。これにより、これまで不足していた海域での水蒸気観測や高層気象観測への期待が高まっています。

      4. NTT宇宙環境エネルギー研究所の取り組み

      大気の状態を3次元で計測できるラジオゾンデですが、前述のように、環境負荷やコスト、落下事故のリスク、そして何よりも観測地点の偏りや、1日2回という観測回数の問題があります。NTT宇宙環境エネルギー研究所では、気候変動の影響がさらに顕在化してくるこれからの時代に適応するために求められている、高精度の気象予測への取り組みもはじめています。これを実現するためには、ラジオゾンデ観測に加えて広大な領域を高密度かつリアルタイムで常時観測可能な気象観測技術を創出することが必要です。「超広域大気/海洋観測技術」では、観測地点が非常に少ない、もしくは観測が行われていない海上や海中、あるいは山岳地帯などに気象情報を取得するIoT(Internet of Things)センサを配置して、上空の衛星でデータを取得し、地上に送信することを構想しています。

      また、新たな大気の観測器として、ドローン(回転翼型UAV :Unmanned Aerial Vehicle)を気象観測へ活用するための研究を進めています。ドローンは、気球と比べ位置・高度制御が可能であることと、さらに繰り返し計測が可能であることという強みがあります。現段階では気象観測センサを搭載したドローンを飛行させ、収集したデータから、天候やセンサの反応速度などさまざまな要因による誤差の特性を明らかにし測定精度の向上をめざしています。

      これらの技術によって、たとえば日本の南方海域で発生し海上を発達しながら日本へ近づいてくる台風の経路・勢力や線状降水帯の予測精度の向上が期待できます。今後さらに増加が予想される極端気象の脅威に柔軟に適応できるよう研究・開発を進めています。

      5. まとめ

      • ラジオゾンデは地上から上空30 kmまでの大気の状態を観測する気象観測機器である。
      • ラジオゾンデは無線技術の発達に伴って開発され、それによって安全に天気予報に使える即時性のあるデータを得られるようになった。
      • ラジオゾンデ観測は、気象観測用のセンサと無線送信機を搭載した本体を気球につけて浮揚させることで行っている。
      • 観測は、世界各地で毎日2回、世界時の00時と12時に行われ、データは国際的に相互利用されている。
      • 観測データは、3次元で大気の構造を知ることができ、天気予報の数値モデルの初期値や高層天気図に用いられている。
      • ラジオゾンデ観測には観測地点の偏りや観測頻度の限界をはじめ、観測機器の使い捨てによる環境負荷やコスト、落下による事故のリスクなどの問題がある。
      • NTT宇宙環境エネルギー研究所では、ラジオゾンデに代わるIoTセンサと衛星通信による気象観測を構想している。

      参考文献

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