サーキュラーエコノミーとは何か?3原則から企業の取り組みまで解説

      人間活動に起因する地球規模の課題を解決するためには、私たちの社会を支えている経済のあり方そのものを変えていかなければなりません。現在そのための施策のひとつとして、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」への移行が模索されています。
      この記事では、サーキュラーエコノミーの概要やこれまでの経済との違い、現在進められている企業の取り組みなどについて解説します。(公開日:2023/02/15 更新日:2024/03/26)

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      1. サーキュラーエコノミーの概要

      サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは、製品や素材、資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小限化することで、資源利用に伴う環境負荷を低減するための経済システムです。

      1-1. サーキュラーエコノミーの3原則

      英国を拠点とする「エレン・マッカーサー財団」は、国際的にサーキュラーエコノミーを推進している団体です。同財団ではサーキュラーエコノミーの3原則を定義しており、多くの企業や報道機関がこの原則を引用しています。

      • 廃棄物や汚染をなくす
      • 製品・素材を(最も価値の高い状態で)循環させる
      • 自然を再生する

      サーキュラーエコノミーは、人間活動に起因する地球規模の問題、気候変動や生物多様性の低迷、環境汚染などを解決するために、これからの人間社会のベースとなると考えられているシステムです。

      具体的には、経済活動においてモノやサービスの生産・消費・廃棄の際の環境負荷を事前に考慮することが求められていきます。また、可能な限り新しい資源の利用を抑え、地球上の資源を循環させるための設計を前提とし、既存の経済システムを改変していくことになります。

      サーキュラーエコノミーが前提となる経済システムにおいては、私たちが慣れ親しんだモノやサービスは姿を変えていきます。モノを生産する際には再生可能エネルギーが利用されることはもちろん、モノやサービスの設計時には生産される製品がどのような生涯を歩むかということや、どのように再資源化するかということが考えられます。

      またこのような変化のなかで、私たちがこれまで当たり前だと感じていた価値も変化していくことが予想されます。たとえば、新しい製品に次々に乗り換えていき、古いものをごみとして廃棄する消費の仕組みは歓迎されなくなり、メンテナンスや修理を通じて長く使えることが製品の価値となるでしょう。

      1-2. リサイクルとの違い

      サーキュラーエコノミーとリサイクルの違いは、前者が経済システムであることに対し、後者は廃棄物に対するソリューションであるということです。

      日本の環境政策「3R(スリーアール)」(「リデュース(Reduce)」「リユース(Reuse)」「リサイクル(Recycle)」)にも含まれるリサイクルは、製品ライフサイクルにおける廃棄物をどのようにして再利用するかというソリューションです。

      一方のサーキュラーエコノミーは、廃棄物の発生そのものを防ぐような製品ライフサイクルを考えることが前提です。また、そうしたライフサイクルを社会規模、地球規模で実現することによって確立する経済システムのことも意味します。

      1-3. 国家経済政策としてのサーキュラーエコノミー

      サーキュラーエコノミーは、いわゆる環境保全活動などとは異なるものです。先述したように、サーキュラーエコノミーとは、新しい経済システムをさします。経済システムの構築は、新しい経済の仕組み、それに付随する新しい産業、そして企業におけるビジネスモデルなど、複数の要素が関連することで実現します。すなわち、国家レベルの意思決定が必要となるのです。経済は国家を支えるものであるため、欧州ではサーキュラーエコノミーは経済政策の優先事項とされており、国家的な戦略が構築されつつあります。

      EU(欧州連合)は2015年に「ループを閉じる―循環型経済に関するEU行動計画(Closing the loop - An EU action plan for the Circular Economy)」を発表しました。この計画書はEUのサーキュラーエコノミーの実現に関する行動指針を明示しており、自然環境との健全な関わりを保つエコ・イノベーションや無害な環境の構築、化学物質、重要な原材料や肥料などに関して、EU加盟国に義務付ける法的要件も含んでいます。

      今後の世界経済は、各国がサーキュラーエコノミーの実現に対してどのような法整備を行うのかということと不可分な関係にあります。すなわち、各国が国家戦略としてサーキュラーエコノミーの実現のために行動しない限り、持続可能な地球環境の未来を期待しにくい時代に私たちが生きているということです。

      2. 直線型経済と循環型経済

      循環型経済と訳されるサーキュラーエコノミーは、その対極にある直線型経済と比較されます。ここでは、直線型経済と循環型経済の違いについて解説します。

      2-1. 直線型経済

      現在の多くの産業、社会が採用している直線型経済は、川にたとえられます。上流から下流へと流れた川が再び上流へと循環しないように、天然資源は各産業によって製品に加工され、販売された後に、買い手のもとで廃棄されます。直線型経済では、製品として販売された時点で、所有権やリスク、廃棄する責任のすべてが買い手に移行することが特徴です。製品が不要になると、一部の買い手によってはリサイクルされますが、資源として循環させることは前提とされていないため、基本的には再資源化されず廃棄されます。

      直線型経済は、流行や感情、進歩によって動かされている経済であり、20世紀から21世紀にかけて、大量生産や大量消費、大量廃棄が促進されました。その結果として、環境汚染をはじめとしたさまざまな問題を生み出してきました。

      2-2. 循環型経済(サーキュラーエコノミー)

      一方、移行が模索されている循環型経済、すなわちサーキュラーエコノミーは、湖に例えられます。湖畔の集落に住む人々は湖の水を使って生活し、モノやサービスを作り、経済を生み出します。湖の水を汚染するとたちまち生活ができなくなるため、ここでのモノやサービスは、廃棄物で湖を汚染しないことを前提に、再資源化できるように作られ、その仕組みの上に雇用や経済が成り立ちます。

      循環型経済の社会では、可能な限り少ない天然資源からモノやサービスが作られ、それらは廃棄されることなく再加工・再資源化されることで再び循環します。
      循環は大きく「技術的サイクル」と「生物学的サイクル」の2つにわけられ、技術的サイクルでは製品の再利用や修理、再製造、リサイクルなどによって製品や素材を循環させ続けます。また、生物学的サイクルでは、生分解性材料を使用することで、それらを地球に返還し、自然を再構築します。
      なお、エレン・マッカーサー財団が提唱した、この2つのサイクルによって生み出される循環は「バタフライダイヤグラム」と呼ばれます。

      (画像出典:エレン・マッカーサー財団『The butterfly diagram: visualising the circular economy』)

      地球という湖の水を汚さないためには、製品の再利用や修理、再製造、リサイクルなどサーキュラーエコノミーの各プロセスにおいて、CO2排出量を正確に把握し、カーボンニュートラルを意識する必要があります。

      3. サーキュラーエコノミーへの取り組み

      すでにサーキュラーエコノミーの実現に向けて動き出している企業も数多く存在します。ここでは、エレン・マッカーサー財団によって紹介されている事例を中心に、企業や研究機関の取り組みを紹介します。

      3-1. 自動車製造におけるサーキュラーエコノミー

      フランスのある自動車メーカーでは、サーキュラーエコノミーにおける自動車産業の未来像を体現しています。自動車や部品の寿命を延ばし、材料を循環させることで、新しい材料の使用を削減し、自動車産業における新しいエコシステムを作っています。その中核を担う仕組みが「リマニュファクチャリング」です。

      リマニュファクチャリングとは、廃棄段階となった部品を、可能な限りもとの状態に復元し、再び販売することを指します。2021年のエレン・マッカーサー財団の紹介事例によると、前述の自動車メーカーでは、リマニュファクチャリングによって生み出される部品は、新品より約40%も安価でありながら、新品と同じ品質管理テストを通過できるまでの性能を有しています。2010年以降、ギアボックスの約60%、エンジン部品の約60〜70%が再生されていることから、同社のサーキュラーエコノミーへのアプローチが非常に実践的であることがわかります。

      3-2. ファッションにおけるサーキュラーエコノミー

      スウェーデンのあるアパレルメーカーでは、温室効果ガスの排出量よりも吸収量が上回っている状態である「クライメート・ポジティブ」を2040年までに実現することを公言しています。

      また、同メーカーは「循環型エコシステム」によって、次の内容を確立することを提唱しています。

      • 安全かつリサイクル可能であるサステナブルな素材で「循環型製品」を作り、それを長期にわたって循環させて製品を作る
      • 循環型の生産や素材の流れを生み出す「循環型サプライチェーン」を構築する
      • 循環型ファッションにユーザーが関わり、体験するための「サーキュラー・カスタマー・ジャーニー」を確立する

      3-3. ゲノム編集技術を用いた海洋生物によるCO2低減技術

      大気中のCO2は、海中へ溶け込むことで吸収されます。それらのCO2は藻類などの植物プランクトンに吸収され、魚介類がその藻類を食べる、つまり生物の食物連鎖によって、海中に保たれます。これを、CO2の「固定」と呼びます。

      NTT宇宙環境エネルギー研究所は、海中の生物によるCO2の固定に注目し、ゲノム編集でこの働きを向上させることで、自然界のなかでのCO2循環を高める研究を進めています。
      現在は、食物連鎖を担う藻類と魚介類の両方にゲノム編集を適用し、藻類のCO2固定と成長を促進させることで、魚介類の貝殻や骨の成長速度、炭素吸着量の向上をめざす世界初の試みを行っています。

      4. まとめ

      • サーキュラーエコノミーとは、廃棄物をなくし、資源を循環させ、自然を再生するための循環型の経済システム。
      • サーキュラーエコノミーは経済システムであり、廃棄物のソリューションであるリサイクルとは根本的に異なる。
      • これからの世界経済は、各国のサーキュラーエコノミーに関する法整備と不可分になる。
      • 直線型経済は、大量生産、大量消費、大量廃棄の経済を生み出した。
      • 循環型経済においては、可能な限り少ない天然資源からモノやサービスが作られ、それらは廃棄されることなく再加工・再資源化され、再び循環する。

      参考文献

      日本電信電話株式会社外からの寄稿や発言内容は、
      必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。

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