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大気大循環とは?大循環のモデルから気候までわかりやすく解説

そよ風から台風に至るまでの気象現象や季節を生み出し、生態系を形づくる気候はすべて、地球の大気のダイナミックな動き「大気大循環」と関連しています。この記事では、大気大循環の概要、大循環のモデルとその解明の科学的な歴史、そして気候変動の予測を「海洋大循環」にも触れながら解説します。

そよ風から台風に至るまでの私たちの身のまわりに起きる気象現象、そして季節を生み出し、生態系を形づくる気候はすべて、地球の大気のダイナミックな動き「大気大循環」と関連しています。
この記事では、大気大循環の概要、大循環のモデルとその解明の科学的な歴史、そして気候変動の予測を「海洋大循環」にも触れながら解説します。

1. 大気大循環とはわかりやすくいうと?


大気大循環とは、空気の地球規模の移動のことです。太陽からのエネルギーの多くは地表面で熱に変わります。これらの熱が風によって運ばれることで生じる大規模な空気の循環が、さまざまな気象現象や気候の変化に関係しています。

1-1. 温室効果と対流

大気大循環、つまり地球の空気の大移動の出発点は太陽の光です。太陽から地球へ届くエネルギーは、その一部が大気に吸収・反射されながら、大部分は地表や海に吸収されます。そして地表や海は、吸収したエネルギーを赤外線として再び地球の外へと照射します。
これらの赤外線は、地球に大気がなければ、そのまま宇宙空間へと放たれてしまいますが、大気中の二酸化炭素などに吸収され、再び地球の表面に戻されます。こうした大気が温室のような働きをすることによって、地球の表面付近の空気が温められることを「温室効果」と呼びます。

空気の大移動の基本に「対流」があります。空気は温められることによって膨張し、冷たい空気よりも密度が低くなります。先述した温室効果によって温められた地表付近の空気は大気中を上昇します。 一方で、大気上空にある冷たい空気は、温かい空気と比べて密度が高いために下降します。すると、上昇した温かい空気と入れ替わるように空気が移動することを繰り返します。このとき、地表では「風」が吹きます。このように、空気の密度差によって熱が移動することを対流といいます。

1-2. 3つの大循環

次に、地球規模でどのような空気の大移動が起きているのかを見ていきましょう。

地球は球体をしており、一定の地軸の傾きをもって、太陽の周囲を公転しています。よって、赤道付近は年中を通して太陽の高度が高く、日差しが強いのです。一方の北極や南極などの高緯度地域は太陽の高度が低く、日差しが弱い特徴があります。

すると、赤道付近の温かい空気と極付近の冷たい空気の間で熱の移動が起きるようになります。つまり、対流が生じるのです。実際には、赤道付近から極付近へ一直線に対流が起こるのではなく、地球の自転の影響(後述)を受け、緯度に応じて3つの循環が生まれます。

まず赤道付近の低緯度(約30度以下)の「ハドレー循環」、次に極付近の高緯度(約60度以上)の「極循環」、そしてその中間程度の緯度の「フェレル循環」です。
これらの循環はそれぞれ地表面で「貿易風」(低緯度)、「極偏東風」(高緯度)、「偏西風」(中緯度)の風を吹かせ、地球規模の複雑な空気の移動を生みます。これが現在主流となっている基本的な大気大循環のモデルです。

図1
(画像出典:独自作成)

このように大気の循環は、地表で温められた空気によって対流を起こし、地球規模で熱の移動を行っています。これらの循環は降水などさまざまな気象現象に影響を与えるだけでなく、長期的かつ一定のパターンを持って繰り返されることで、地域の気候を決定します。そして、地域の気候に応じた生態系が生まれ、その上で人間活動が行われているため、気候が大きく変化することがしばしば問題になるのです。

2. 大気大循環モデルとその歴史

ここでは、どのような発見が大気大循環を解明し、現在主流のモデルへと変化していったのかを解説します。

2-1. ハドレーの大気大循環モデル

大気大循環において重要な科学的発見をした人物は、弁護士兼アマチュア気象学者のジョージ・ハドレー(1685年-1768年)でした。同氏は大気における子午線(南北)の循環パターンを世界ではじめて科学的に理論化した人物です。

彼はアマチュアとして気象学に興味を持ちましたが、当時の海洋探検にとって大きな挑戦であった、熱帯地方の風を熱心に研究し、1735年には「一般貿易風の原因について」という内容の論文を発表します。彼がその論文で、貿易風を説明するために用いたものが初期の大気大循環モデルでした。ハドレーの大気大循環モデルでは、赤道付近で温められた低密度の温かい空気が大気上層を南北の極地方へと流れ、北極・南極付近で冷やされて下降し、高密度の冷たい空気が再び赤道付近に戻ってくるという、現在主流となっている大気大循環のモデルよりもシンプルな、南北の長大な循環を予測しました。

図2
(画像出典: Harvard University『Hadley Cells』Hadley cells could extend all the way to the poles.

2-2. コリオリの力とウィリアム・フェレル

ハドレーは貿易風を説明するために先述の大気大循環のモデルを考案しましたが、「コリオリの力」を考えていなかったために、不十分なものでした。地球上で実際に吹いている風と、ハドレーのモデルによって説明できる風が異なっていたのです。

コリオリの力とは、フランスの科学者ガスパール=ギュスターヴ・コリオリによって発見された「回転座標系」の運動物体に働く「慣性力」のことです。自転する地球は回転座標系といわれ、その座標系における運動は、ニュートンの運動方程式にコリオリの力を含む慣性力を加味しなければ正確に記述することができません。
コリオリの力は地上を吹く風に作用し、北半球において南北へと吹く風を見かけ上右側へ押すように働きます。

図3
(画像出典:独自作成)

ハドレーのモデルの補完・改良を行ったのが、後にフェレル循環に名を冠することになる気象学者、ウィリアム・フェレルです。フェレルは各半球に3つの循環が存在する必要があることを示しました。

さらにその後、アメリカの気象学者カール=グスタフ・ロスビーらによって現在主流の大気大循環のモデルが確立されました。

3. 地表を旅する3つの風

先述のとおり、地球上の大気の循環は、ハドレー循環(低緯度)、極循環(高緯度)、フェレル循環(中緯度)にわけられています。また、それぞれの地表面では貿易風(低緯度)、極偏東風(高緯度)、偏西風(中緯度)という風が吹いています。風向きは風の吹いてくる方向で呼称し、たとえば北から南へ吹く風は「北風」、東から西へ吹く風は「東風」と呼びます。

3-1. 低緯度に吹く貿易風

貿易風は、低緯度付近で吹く風で、北半球では北東の風「北東貿易風」、南半球では南東の風「南東貿易風」が吹いています。
赤道付近で温められた空気は上昇気流となり、北半球では上空を北上する気流を生み出します。しかし、気流はコリオリの力により実際には真北ではなく、北東へ向かって流れます。そして北緯30度付近に近づくと、気流の一部が冷却されて降下し、再び赤道へ向かう気流を構成します。これがハドレー循環です。ここでもコリオリの力が働き、気流は真南ではなく南西向きに流れることから、地上では北東の風(北東貿易風)が吹くことになります。南半球では対照的な風となり、南東の風(南東貿易風)となります。
ハドレーは赤道から極付近に至る長大な循環を予測していたため、実際とは異なりますが、功績をたたえ、この空気の流れはハドレー循環と呼ばれるようになりました。

3-2. 高緯度に吹く極偏東風

極地方で冷やされた空気は地表を60度付近まで下降する気流を形成します。このときに地表で吹く風が極偏東風です。この風もコリオリの力の影響を受けるため、進行方向に対して右向き、すなわち北半球では北東の風(北東から南西へ吹く風)になります。
また、南下した空気は暖気を受け取って上昇気流となり、再び極地方へと戻っていきます。こうして起きる循環が極循環です。

3-3. 中緯度に吹く偏西風

偏西風は中緯度に吹く上空の風で、北半球、南半球ともに西の風(西から東へと吹く風)です。偏西風は平均的には低緯度(緯度30度付近)から高緯度(緯度65度付近)の間における温度差によって生まれる気圧の勾配と地球の自転、すなわちコリオリの力の影響によってもたらされます。また、冬は低緯度側へと広がり、夏は高緯度側へ偏りがみられます。
大気上空では、空気は気圧の高いところから低いところへと流れます。よって、低緯度側から高緯度側へ、北半球では北上、南半球では南下する気流が生まれます。しかし、これらの気流はコリオリの力によって、北半球、南半球ともに大きく東へと曲げられることによって、北半球、南半球ともに、地球を周回する西の風となるのです。

4. 大気大循環と海洋大循環

地球上には大気大循環だけでなく、海水の大移動「海洋大循環」も存在します。ここでは、大気大循環と海洋大循環がどのように関連するのかを見ていきましょう。また、それによって引き起こされている気候現象「エルニーニョ・ラニーニャ現象」、そして大気大循環と海洋大循環を計算モデル化し、統合することで可能になる気候変動のシミュレーションについても解説します。

4-1. 風成循環

地球の気候には、大気の大循環と海洋大循環によって生み出される海流が大きくかかわっています。
たとえばイギリスは高緯度ですが、温帯気候に属しています。これは、暖流であるメキシコ湾流が関係しています。メキシコ湾流は、赤道付近の海流が貿易風によってアメリカに運ばれ、偏西風によってヨーロッパに運ばれることで生まれています。では、大気と海洋の大循環はどのようにかかわっているのでしょうか。
大気と海洋には、複雑で多岐にわたる関係性があります。たとえば、海上を吹く風によって、海洋の循環に影響を与えることがあります。
海洋大循環は、海水が世界中の海洋を移動し、循環することです。(海洋大循環の詳しい解説はこちらを参照)海洋が循環するメカニズムには、大きくわけて海上を吹く風によって起こる「風成循環」と、海水の密度の勾配によって生じる「熱塩循環」があるとされています。

先述したように、地球上では低緯度では貿易風、中緯度では偏西風が吹いています。これらの風が海洋の表面に吹き付けることで、海洋に表層的な循環を生み出すものが風成循環です。緯度が高くなるほど偏西風が強まる緯度15度~45度の地域の海洋において、北半球では時計回りの循環が生じ、南半球では反時計回りの風成循環が生じています。
風成循環は南大洋および北極海を除くそれぞれの大洋で循環を形成しており、海流を形成しています。日本近海の黒潮や親潮などは、風成循環によって生みだされている海流です。
また熱塩循環は、海水の温度と塩分の密度差によって生じる循環です。グリーンランド沖と南極大陸の大陸棚周辺で冷却された表層部の海水が、世界中の海洋の低層部へと沈み込んで広がり、その後、約1000年という長い時間をかけて表層部へ上昇しています。

4-2. エルニーニョ・ラニーニャ現象

気象庁のページの解説によれば、人間生活に大きな影響を与えるとされている「エルニーニョ・ラニーニャ現象」も、大気大循環によって生み出される貿易風が影響しているとされます。
エルニーニョ現象とは、太平洋の日付変更線付近の赤道域中央部から、ペルー沖にかけての海域の海面水温が平年より高くなる状態が1年程度続く現象です。また、ラニーニャ現象は、同海域の海面水温が平年より低い現象をさします。
平常時のペルー沖の海域では、海面付近の温かい海水が貿易風に吹かれて西側へと寄せられています。この貿易風と地球の自転の影響によって、海洋深部の冷たい海水が海面に湧き上がり、結果として海面水温が低くなっています。
しかし、貿易風が何らかの原因で強まった場合、この作用が促進されることによって、この海域の海面水温はさらに低下します(ラニーニャ現象)。一方で、貿易風が弱まった場合、海面水温が高くなります(エルニーニョ現象)。
先述したとおり、海洋と大気は深く連動しているため、この海域の海面水温の上昇・下降は気圧配置に影響を与え、気候に大きな影響を与えるといわれています。日本ではエルニーニョ現象発生時は冷夏や暖冬になりやすく、夏季に西日本日本海側で降水量が多くなるとされています。一方、ラニーニャ現象発生時の日本は、夏の猛暑や冬の寒波・豪雪になりやすく、夏季に沖縄・奄美などの南西諸島で降水量が多くなるとされています。

図4
(画像出典:気象庁『エルニーニョ/ラニーニャ現象とは』より『図2 エルニーニョ/ラニーニャ現象に伴う太平洋熱帯域の大気と海洋の変動』をもとに独自作成

4-3. 大気海洋結合モデル

気候変動を予測し、コントロール下に置くことは、もはや人類の未来にとって必要不可欠です。しかし先述してきたように、地球上の「気候システム」は海洋と大気などの「サブシステム」が複雑に関連することで維持されています。また、エルニーニョ現象やラニーニャ現象など、海洋と大気が関連することで生まれ、気候変動に大きな影響を与える現象も存在します。つまり、長期的な気候変動などを計算によって予測するためには、海洋と大気、両方の気候モデルが必要なのです。
米プリンストン大学 真鍋淑郎氏は、大気大循環と海洋大循環を結合したモデル化で2021年にノーベル物理学賞を受賞しました。同氏は将来にわたる地球温暖化を予測する上で重要な、コンピューター上の計算手法「気候モデル」を開発したことで知られています。
真鍋氏は、1960年代後半に、時代に先駆けてアメリカの海洋学者カーク・ブライアンとともに「大気海洋結合モデル」の開発を進めました。その後もモデル改良が進められ、現在の気候変動予測の基礎技術を支えています。
現在は地球シミュレータや富岳に代表されるスーパーコンピュータ上のもうひとつの地球「デジタルツイン」で、真鍋氏の開発した大気海洋結合モデルが使用され、私たちの未来を予測しています。そしてすべての生命にとってかけがえのない、宇宙の唯一の居場所である地球を守っているのです。

5. まとめ

  • 大気大循環とは、空気の地球規模の移動のこと。
  • 大気大循環には、赤道付近の低緯度の「ハドレー循環」、次に極付近の高緯度の「極循環」、そしてその中間程度の緯度の「フェレル循環」がある。
  • 循環はそれぞれ地表面で「貿易風」(低緯度)、「極偏東風」(高緯度)、「偏西風」(中緯度)の風を吹かせる。
  • 現在主流となっている大気大循環モデルは、ジョージ・ハドレーによる理論と、コリオリの力が兼ね合うことで実現した。
  • 大気大循環と海洋大循環は関連して、気候を生み出している。
  • 将来的な気候変動の予測には、大気大循環と海洋大循環の両方をモデル化した「大気海洋結合モデル」が必要である。

参考文献

日本電信電話株式会社外からの寄稿や発言内容は、
必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。

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