NTTソフトウェアイノベーションセンタ(SIC)では、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想実現に向けた取り組みを進めています。本稿では、SICが注力するData-Centric Infrastructure(DCI)の技術開発の取り組みに関して、NTT R&Dフォーラム2024でのDCI展示の内容と、IOWN Global Forumにて文書化・公開を行った実装モデルの解説を中心に紹介します。
二ノ方 一生(にのかた かずお)/Christoph Schumacher NTTソフトウェアイノベーションセンタ
目次
はじめに
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想実現に向けた取り組みをNTTとして進めていますが、NTTソフトウェアイノベーションセンタ(SIC)ではIOWNの全体アーキテクチャにおける重要な基盤の1つである、Data-Centric Infrastructure(DCI)の具体化に向けた取り組みに力を入れています。 本稿では、NTT R&Dフォーラム 2024およびFUTURES Taipei 2024でのDCIに関する展示内容と、IOWN Global Forumにて文書化・公開を行ったDCIのリファレンス実装モデルの解説を中心に紹介します。
取り組みの背景
IOWN Global Forumにおいて、IOWN APN(All-Photonics Network)の高速、低遅延といった特長を活用した新たなICT基盤であるDCIが提案されています。DCIはIOWN Global Forumが定義する全体アーキテクチャにおいて、分散データセンタ環境やヘテロジニアスなコンピューティング環境における高効率なデータ処理を可能とする基盤レイヤとして位置付けられています(図1)。これまで、IOWN Global ForumにおけるDCIのリファレンス実装モデルの文書化のための議論をSICがリードし、2025年3月の文書(1)の公開に至りました。
また、NTTではDCIがDCIコントローラソフト、光電融合スイッチ、コンポーサブルサーバの3つの要素により構成されるものとし、コンポーサブルサーバのシステムやデバイスのベンダ各社と連携したエコシステム構築にも力を入れています(図2)。それまでのコンポーサブルサーバ製品のインテグレーションや実証実験の成果を、NTT R&Dフォーラム2024(2)やFUTURES Taipei 2024(IOWN Global Forumメンバ会合併催の公開イベント)(3)での展示として紹介し、エコシステム構築に向けたエンゲージメントの強化につなげています。
なお、NTTではこれまでも、DCIを活用したコンセプト実証をサイバーフィジカルシステム(CPS)における映像解析のユースケースにおいて行い、アクセラレータを活用したデータ処理パイプラインの効果(4)やas a Service化の有用性(5)を示してきました。また、DCIコントローラソフトのコンセプトを示すリファレンス実装をOSS(Open Source Software)(6)としても公開しました。
DCIの利点として、アクセラレータを活用した高効率なデータ処理が可能となることが挙げられます。従来のデータ処理はホストCPU上でのソフトウェア処理が中心でしたが、計算コストが高いデータ処理では、データやワークロードに適したアクセラレータが活用されます。AI(人工知能)・映像処理におけるGPU(Graphics Processing Unit)やネットワーク通信におけるSmart NIC(Network Interface Card)/IPU(Infrastructure Processing Unit)/DPU(Data Processing Unit)の活用がその典型です。これらのアクセラレータを適切に活用することでデータ処理の高効率化が可能となりますが、サーバを基本単位とする従来のコンピューティング基盤では、データやワークロードによってはアクセラレータを効率的に活用できず無駄が生じます。この課題に対して、DCIコントローラソフトによりコンポーサブルサーバ、光電融合スイッチを適切に制御して、データ処理の高効率化を図ることがDCIの基本的なコンセプトです(7)。
データ処理を担うコンポーサブルサーバの特徴としては、光電融合・ディスアグリゲーション技術によりサーバ筐体を超えてコンピューティングのリソースプールを構成し、データとワークロードに適したアクセラレータによるデータ処理を可能とすることが挙げられます(図3)。さらに、CPUを介さない自律的な通信および一連のデータ処理の設計・実装により、アクセラレータ主体のデータ処理を可能として処理の高速化と電力効率の向上にもつながります(図4)。
コンポーサブルサーバに関しては、国内外のシステム・デバイスベンダと連携したエコシステムの構築を重視しています。その一例として、IOWN Global Forumメンバ会合に併催された公開イベントである FUTURES Taipei 2024)(3)では、台湾の工業技術研究院(ITRI:Industrial Technology Research Institute)とNTTにより共同で設計・検証を行ったコンポーサブルサーバを展示し、映像やポスターを使って紹介しました。今後も、コンポーサブルサーバのアーキテクチャ設計や仕様検討の成果を展示会やコミュニティでの活動を通じて展開し、システム・デバイスベンダへのエンゲージメント強化とエコシステム構築の推進を図っていきます。
DCIに関連するIOWN Global Forumの活動
上記では、DCIにおいてデータ処理を担うコンポーサブルサーバのエコシステム構築に向けた取り組みについて説明しましたが、今後DCIとして必要となる機能である、「WAN(APN)への接続・スケールアウト・地理的分散」は、検討が必要な課題として残されています。これらの上位機能はIOWN Global Forum(8)でも検討されており、SICもそこでの議論をリードしています。また、IOWN Global Forumでの議論を踏まえて、4つのコンピュートクラスタの実装モデルが文書としてまとめられて公開されました(1)。ここでは、当該文書においてまとめられたそれぞれの実装モデルについて紹介します。
モデル1:物理デバイスから論理サーバを構成
図6が示すモデルは、リソースプールに収納されている物理デバイス(アクセラレータやストレージ)から論理的にサーバを構成することを前提にしています。これらのサーバ構成技術は、本稿で紹介されたコンポーサブルサーバのシステムにおいても使われています。論理サーバを構成するために、バスフレームを転送するファブリックが導入されています。アプリによる論理サーバ間あるいはサーバとゲートウェイの間の通信のために、別の品質管理可能なイーサーネットワークも存在します。さらに、高性能なSmart NICもリソースプールに配置されており、バスファブリックを用いてオンデマンドでWAN(Wide Area Network)をまたぐ接続やローカル接続用にサーバに割り当てることが可能です。
図8が示すモデルは、少数のサーバをQoS(Quality of Service)管理されたWANに接続する構成です。想定される主要なユースケースは、仮想マシンの長距離かつ短時間でのマイグレーションです。このモデルでは、ローカルネットワークと仮想マシンに必要なRDMA対応ハードウェアを利用し、採用されることが想定されるプロトコルに関しても言及しています。さらに、ローカル通信用のトランシーバやケーブルの種類の候補も提案しています。
本稿では、IOWN構想実現に向けたDCI具体化の取り組みとして、NTT R&Dフォーラム 2024およびFUTURES Taipei 2024での成果の展示内容と、IOWN Global Forumにて文書化・公開を行ったDCIのリファレンス実装モデルの解説を中心に紹介しました。
今後は、2026年度の商用化をめざすDCI-2(9)の実現に向けた研究開発を強化していきます。具体的には、IOWNのもう1つの技術要素であるAPNを活用した郊外型データセンタの活用を進めるとともに、DCIの各種オペレーション機能の拡充に向けて、DCIコントローラソフトの技術開発やIOWN Global Forumへのシステムリファレンスの提案を行います。また、AI・映像処理を必要とするモビリティユースケースや、映像処理以外のユースケースへの技術の展開も図ります。