NTTデバイスイノベーションセンタでは、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想におけるオールフォトニクス・ネットワーク(APN)実現の基盤となる光・電子信号処理デバイスの研究開発に取り組んでいます。光信号処理デバイスとしては、石英系平面光波回路(PLC:Planar Lightwave Circuit)を用いた光スイッチ、光フィルタ、マルチコアファイバ用Fan-In/Fan-Out(FIFO)等の光ノードを大規模化・マルチバンド化するデバイスの開発・実用化を進めています。電子信号処理デバイスとしては、大容量・長距離光伝送を低消費電力で実現するデジタルコヒーレント光伝送システムの主要なデジタル信号処理を行うコヒーレントDSP(Digital Signal Processor)の開発・実用化を推進しています。本稿では、大容量光ネットワークを支える信号処理デバイスとして、PLCデバイスとコヒーレントDSPについて解説します。
ここでは、大容量デジタルコヒーレント光伝送における主要な信号処理を担うコヒーレントDSP(図2)について解説します。コヒーレントDSPでは、光信号の偏波、振幅、位相の情報をすべてデジタルデータとして取り込み、高度な信号処理によって光ファイバ伝送路や光・電子デバイスで発生する光信号歪みを補償します。これにより、伝送容量の飛躍的な大容量化を可能とします。 デジタルコヒーレント光伝送では、これまでに1波長当り100Gbit/sから1.2Tbit/sまで大容量化が進み、そこでは変調速度が32Gbaudから140Gbaudまで高速化してきました。同時に、経済的にシステム実装密度を上げるために、低電力化の進展も著しく進んできており、光トランシーバの1bit当りの伝送エネルギーは、500pJ/bit以上から40pJ/bit以下まで1桁以上に及ぶ電力効率の改善が進展してきました。最近では、1波長当りの伝送容量800Gbit/sを25pJ/bit程度で実現する低電力コヒーレントDSPの研究開発に成功しており、光送受信デバイスと一体パッケージ実装した光電融コパッケージの開発も進めています。これらのデバイスは、QSFP-DD(Quad Small Form Factor Pluggable Double Density)やOSFP(Octal Small Form Factor Pluggable)といった小型光トランシーバモジュールに実装可能であり、大容量の光伝送システムを低電力・高密度に実現できます。現在は、1Tbit/s超級のデジタルコヒーレント光伝送をより小型・低電力に実現する次世代コヒーレントDSPの研究開発を進めています。今後もデータセンタネットワークやコアメトロといった基幹ネットワークの光伝送システムの大容量化・低電力化を実現する光電融合デバイスの実用化を推進していきます。
IOWNのプレイヤである「人」と、土台となる「インフラ」を対象として、その長寿命化を図ることで、豊かで持続可能な社会の実現に貢献することをミッションとしたデバイスの開発を行っています。 「人」に対しては、NTTグループの医療・ヘルスケア事業を推進し、健康管理に貢献が可能なウェアラブルデバイス技術の開発を行っています。その代表的な開発デバイスがNTTテクノクロスから商用化されている「ウェアラブル生体・環境センサー:TX02」(図6)です。本センサは、NTTと東レ社が共同開発した、電気を流すことができるテキスタイル素材であるhitoe®*4を適用したウェア(シャツやベルト)に取り付けることで、着用者の生体情報(心電・心拍)、衣服内の温度・湿度、加速度を自動取得するデバイスです。計測したデータを基にセンサの内部で心拍数や歩数などの特徴量を解析する機能を備えており、データは無線モジュールによりセンサ着用者のスマートフォンやIoT(Internet of Things)ゲートウェイに送信され、リアルタイムでのモニタリングが可能です。また、複数のセンサで連続的に計測・解析・通信を行うと動作時間が短くなり、頻繁な充電や大きな電池が必要になりますが、本センサではCPUを休止させた状態でデータをバッファに蓄積し、短時間だけCPUを起動させて一括して波形処理や特徴量解析を実行するマルチセンサデータ信号処理技術を構築したことで、小型電池でも40時間以上の連続計測が可能となっています。センサで測定されたデータは、国立大学法人名古屋工業大学との共同研究により確立した、体内温度変動のリアルタイム推定手法により体内温度の変動および体調不調リスクとして推定し、作業者の暑熱による体調不良リスクの管理に活用されます(NTTテクノクロスより「hitoe®暑さ対策サービス for Cloud」として提供中です(3)。ウェアラブルデバイスの開発だけでなく、そのデバイスが収集するデータの活用方法についても技術開発を進めています。 「インフラ(ここでは主に屋外で使用される通信用設備を対象にしています)」に対しては、材料そのものの劣化を分析することで材料の観点から設備を長寿命化・延命化する技術、また開発したデバイスをツールとして活用することで点検・保守の作業効率を向上する技術の開発を行っています。ここでは通信用鉄塔のメンテナンスを事例として、その一例を紹介します。鉄塔のメンテナンスにおいては、その構造材である鋼を保護するための手段として塗装を行っています。塗装の前には、鋼の表面の古い塗料や生成している錆を落とす、素地調整という作業が必要になり、点検、素地調整、再塗装の工程でメンテナンスが行われます(図7)。素地調整においては、電動工具や手工具などが用いられますが、これらに代わるツールとして、塩分除去ができ、反作用力がなく自動化も見込めるツールであるハイパワーレーザによる素地調整技術の開発を行っています。また塗装においては、促進腐食試験や促進耐候性試験による長寿命な塗料をスクリーニングする評価技術や、複数塗料の塗り重ね方(塗装仕様)の最適化のほか、ジンクリッチペイント(高濃度亜鉛粉末含有塗料)という塗料そのものの性能向上を図る技術開発により、鉄塔のメンテナンス効率化およびメンテナンス期間の延伸(設備の長寿命化)を進めています。
(1)Y. Morimoto, K. Suzuki, K. Yamaguchi, F. Hamaoka, M. Nakamura, T. Kobayashi, Y. Miyamoto, and O. Moriwaki:“Lattice-type Reconfigurable Spectral Filter for S/C/L Multiband WDM Signal Equalization,”Proc. of ECOC2024, Paper M2G.2, 2024.