アクセスサービスシステム研究所では、無線LANを使用したNWA(Nomadic† Wireless Access)システムの研究開発として、無線LAN制御用のチップの開発、マルチメディア通信を高品質で行うための無線LAN通信技術の開発、および事業会社のNWAシステム開発への技術支援を実施してきました。
(1) HiSWANa規格準拠の無線LAN「AWAシステム」の開発
映画などのストリーミングサービスを安定して楽しむことが可能な公衆無線LANサービスの提供を目指し、2001年に、5GHz帯を用いた日本のHiSWANaおよび欧州のHiperLAN/2規格に準拠したAWA(Advanced Wireless Access)システムを開発しました。
(2) 無線LAN通信用デバイスの開発
NTTは、5GHz帯の高速無線LAN規格 IEEE 802.11aの標準化に際し、主要技術であるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing、直交周波数分割多重)バースト伝送を提案するなど多大な貢献をしました。このOFDMバースト伝送技術は、後のIEEE802.11g/n/acにおいても適用される基盤的な技術となりました。OFDMは、周波数が一部重なり合うものの互いに干渉しない複数の搬送波を使用して広帯域伝送を実現する技術で、この適用により無線LANの伝送速度を従来のIEEE 802.11bの5倍近い54Mbit/sまで高速化できました。
研究所では、さらに、2002年に、世界で初めて、PCMCIAカードに実装可能な小型、低消費電力のIEEE802.11a準拠高速無線LAN用小型チップセットを含むIEEE802.11a準拠イーサネットワイヤレスアクセス(EWA)を開発しました。
また、2003年8月にスコットランドのEICC(Edinburgh International Conference Center )において、無線LANを使用したブロードバンド通信技術の共同実験に参加し、開発したIEEE 802.11aおよびHiperLAN2の無線LANを提供・設置しました。
(3) 無線LANの通信技術の開発
無線LANは、お客様宅での使用を想定して標準化されましたが、公衆無線LANサービスやオフィスにおける基幹業務へ適用するため、高い品質が要求されます。このため、研究所では、キャリアグレードの通信品質の無線LAN技術の実現を目指して、標準仕様の評価と製品・システムにおける利用技術の開発を行ってきました。
また、データファイルの送信のほかに、IP電話や映像配信などのマルチメディア通信に対応可能とするため、下図に示すような無線LANのQoS制御技術の開発を行ってきました。
・2005年に、簡易に無線LANの通信品質を評価できる無線LAN通信品質評価技術を確立し、無線LANアクセスポイントの設置作業をより簡易に効率よく行うために無線LANアクセスポイント評価装置を開発。
・2006~2007年に、IEEE802.11eで規定される優先制御方式の一つであるEDCA(Enhanced Distributed Channel Access)を適用し、無線LANのQoS制御技術として、無線LAN優先転送パラメータの動的更新技術、および無線LANにおける受付制御技術とトラヒック制御技術を開発しました。
(4) NTT事業会社のNWAシステム開発への技術支援
次のNWAシステムの開発において、NTT事業会社に対し技術支援を実施しました。
・2006年8月にサービスに供された「つくばエクスプレス列車内高速インターネットアクセスシステム」、2009年にサービスが開始された「東海道新幹線列車内高速インターネットアクセスシステム」、「台湾新幹線列車内高速インターネットアクセスシステム」などの「列車内高速インターネットアクセス」の実現に向け、2006年~2009年に実走行車両等を使って実証実験を実施。
・2010年に製品化された、バッテリー駆動の小型、可搬型コグニティブ無線ルータ「PWR(Personal Wireless Router)」の技術検討、フィールドトライアルサポートなどを実施。
・2008~2010年に、ルーラルエリアのブロードバンド化を目指して、実フィールドにおけるマルチホップ無線LANフィールドテストを実施。
†:「Nomadic(ノマディック)」とは、駅や喫茶店、ホテルなどさまざまな場所からネットワークにアクセス可能とすることを意味する。一般に個々の通信エリアが限られており、無線端末は静止した状態で通信することが多い。
(5) 地上系災害対策用無線システム
東日本大震災発生以降、新たな災害対策用無線システムの研究開発に取り組んでいます。これまで開発された無線システムを事業会社が活用することによって、通信サービスの早期復旧と通信孤立の早期解消を強化することが可能となりました。