「ウェルビーイングを学ぶ」とは、生徒が自らのよく生きるあり方を、長期的な視点で捉える視野を持ち、それを周囲の生徒や先生、家族や地域社会の人々と、お互いのウェルビーイングを尊重しながら、主体的に実現する資質/能力を身に付けることだと言えます。ここでは、その資質/能力を「ウェルビーイング・コンピテンシー」と呼びます。
ウェルビーイング・コンピテンシーの学習は、学校生活の中にどのように取り込めるのでしょうか。このとき重要なことは、第1に、自身のよく生きるあり方(=ウェルビーイング)を実現する資質/能力は、教育活動を通して育むことができるというウェルビーイングに関する「教育観」です。さらに、第2、第3として、学びを具体化するために参照される「モデル」と、生徒自身や先生が資質/能力の獲得や向上を把握するための「基準」が必要になります。
多様な人々とともに、ウェルビーイングに生きるための実践的資質/能力。「現在、どれくらいよい状態なのか」という心身の状態ではなく、生活の中のさまざまな場面において、自身にとってよいあり方を、自己との関わりや周囲との関係性の中で、持続的に実践できる実現力や対応力をさす。
NTT社会情報研究所Well-being研究プロジェクトと金沢工業大学 基礎教育部教職課程 平 真由子准教授が協働する中で構築した「ウェルビーイング・コンピテンシー モデル」と、そのコンピテンシーを把握する基準となる「ウェルビーイング・コンピテンシー マトリクス」について述べていきます。ただし、ここでのモデルとは、具体的な授業設計などで参照される概念の枠組みのことをさします。
これまでNTTの研究所では、ウェルビーイングの要因について、関係性の範囲に関する以下の4つのカテゴリーから議論や実践を行ってきました。
「ウェルビーイング・コンピテンシー モデル(NTT―KIT 2024年度版)」では「I」「WE」「SOCIETY」の各カテゴリーに対して認知・感情・行動の3つの視点から、「UNIVERSE」に対しては1つの視点から、合計10のコンピテンシーを設定しています(図)。例えば、「I」のカテゴリーでは以下のようになります。
カテゴリー間は矢印によってつながれていますが、カテゴリーの優劣を表しているのではなく、学ぶ上での順序として「I」から始めることがスムーズではないかという提案です。また、これらは一度学んだら終わりではなく、高校や大学で得られる体験などを基に「I」「WE」「SOCIETY」と学習することで、より深く学べるでしょう。
次に、コンピテンシーを把握するための「ウェルビーイング・コンピテンシー マトリクス(NTT―KIT 2024年度版)」について述べます。ここでは、前述のモデルで設定された10のコンピテンシーそれぞれに対して、態度(コンピテンシー獲得へ向けた姿勢)、知識(コンピテンシーが発揮された状態や効果に対する理解)、技能(コンピテンシーを再現性高く発揮する遂行力)の3つの観点から、基準となる項目を設定しています。そうすることで、自身のウェルビーイングに関するコンピテンシーを体系的に把握できます。
「I」のマトリクスでは、「自己の探求・理解」「自己の受容・尊重」「自己の調整」の3つのコンピテンシーそれぞれに対して、態度・知識・技能の観点から合計9つの項目が示されています(表)。「WE」と「SOCIETY」のマトリクスもそれぞれ9つの項目、「UNIVERSE」のマトリクスは3つの項目があります。
ウェルビーイングという抽象的な概念と、具体的な教育活動の間に、中間言語としてウェルビーイング・コンピテンシーを導入することで、先生が教育活動を行いやすくなるだけでなく、生徒自身にとっても学びが意識化され、生徒同士のコミュニケーションを促進し、より主体的かつ協働的な学びが期待できるでしょう。
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