FIP制度とは何か?FIT制度との違い
現在、再生可能エネルギー(以下、再エネ)を導入する動きが高まっています。導入を促進するためには、再エネの発電事業者に対する制度設計が鍵を握ります。日本では、2012年に「FIT制度(固定価格買取制度)」が導入され、再エネの導入が促進されました。また、今後さらに再エネを利活用していくために、2022年度から「FIP制度」の運用に切り替わりました。
この記事では、FIP制度の概要やFIT制度との違い、さらにFIP制度が実現する未来について解説します。
(公開日:2022/10/04 更新日:2023/09/27)

1. FIP制度の概要
FIP制度は「フィードインプレミアム(Feed-in Premium)」の略で、日本が標榜する2050年までの「カーボンニュートラル」を下支えする制度として注目されています。
欧州などではすでに導入されているFIP制度について、まずはその概要を見ていきましょう。
1-1. FIP制度とは「再エネを電力市場に統合する制度」
再生可能エネルギーは、2012年のFIT制度の施行後、急速に導入が進みました。水力を除く再エネが日本国内の全発電量に占める割合は、資源エネルギー庁『国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案(2022年10月)』によれば、2011年度は約2.6%であるのに対し、2020年度には約12%に増加しています。
しかし、固定価格による買取制度であるFIT制度は、再エネを電力市場から独立した別個のものとして扱ってきたところがあります。そこで新しく誕生したのが、再エネを変動価格の電力市場に統合し、より多く利活用していくことを前提とした制度がFIP制度なのです。
1-2. FIT制度とFIP制度の違い
FIT制度は、電力会社による固定価格での買取制度です。そのため、発電事業者は需要の多寡によらず、一定の単価での売電が可能でした。
一方FIP制度は、再エネの売電価格に対し一定の「プレミアム(補助額)」を上乗せし、電力市場に統合しながら導入を促進する仕組みです。
発電に天候や自然条件の影響を大きく受ける再エネは、一般的な発電方法と比べ、不安定な電源です。ほかの安定的な電源と同様の条件となれば、発電事業者にとっては投資対効果が低くなるため、導入が進みません。そのためFIP制度では、プレミアムを補充するという策がとられています。
1-3. FIP制度における価格を理解するためのキーワードその1:プレミアム
FIP制度を理解する上で重要になるキーワードは、「プレミアム」です。
プレミアムは、卸電力市場で再エネ発電事業者の売電価格に上乗せされる補助額です。その額は、「基準価格(FIP価格)」と「参照価格(卸電力市場における期待収入)」の差額によって決まります。
プレミアム=基準価格(FIP価格)−参照価格(卸電力市場における期待収入)
FIP制度にも、FIT制度同様に基準として設定される価格があります。FIT制度では、電力会社が買い取る際の1kWhあたりの単価として設定されていましたが、FIP制度では再エネ電力が供給される際に必要となる費用を見込んだ基準価格(FIP価格)としてあらかじめ設定されます。
参照価格は卸電力市場において販売されたときに得られる期待収入です。参照価格は卸電力市場の市況によって変動します。
また、参照価格は、「卸電力市場」などの価格に連動して算定された価格と「非化石価値取引市場」の価格に連動して算定された価格の和から、「バランシングコスト」(後述)を引いた価格です。参照価格(およびプレミアム単価)は1か月ごとに見直されます。
参照価格=卸電力市場などの価格に連動して算定された価格+
「非化石価値取引市場」の価格に連動して算定された価格-バランシングコスト
バランシングコストは、FIP制度上で再エネ発電事業者が電力を取引する上で負担となる運用コストに対する補助金であり、この補助金を卸電力市場などにおいて予想される価格から差し引き、参照価格が決定されます。
1-4. FIP制度における価格を理解するためのキーワードその2:バランシングコスト、計画値と実績値
発電事業者は「計画値同時同量制度」のもとで発電を行っています。計画値同時同量制度とは、電力安定供給のための発電量の「計画値」をあらかじめ策定し、実際に発電された「実績値」と一致させることを制度化したものです。これを「バランシング」と呼びます。FIP制度下においては、再エネ発電事業者も計画値同時同量制度の責任を負うことになります。
すなわち、ほかの発電事業者(火力発電や水力発電など)同様の電源として扱われるということです。
計画値同時同量制度において、実績値が計画値と一致しない場合は、ペナルティとして発電事業者が費用を支払わなければなりません。計画値と実績値の差をインバランスといい、このインバランスを発生させないようにするためには相応の運用コストがかかります。天候など自然現象による影響を受ける再エネでは発電量の予測が難しいことから、FIT制度下での再エネ発電事業者にはインバランスのペナルティが免除されていました。たとえば太陽光発電の場合、発電量は日射量の影響を受けます。規定通りの燃料を足していればよい火力発電などと異なり、太陽光発電では晴天の昼間などは十分な発電が可能ですが、天気予報が外れた場合など、予定していた発電量に満たないことが予想されるのです。一方FIP制度下では、再エネ発電事業者は、たとえ天候や自然現象による影響であったとしてもインバランスのペナルティを支払うことが求められます。
しかし、急にインバランスのペナルティのすべてを再エネ発電事業者が負担することは現実的に難しいため、補助金としてバランシングコストがプレミアムに加味される形で交付されます。
2022年のFIP制度の運用適用開始時は、太陽光・風力発電に対し、1kWhあたり1.0円を交付することが決まっており、翌年からは段階的に交付額が減額されます。
2. FIP制度のメリット・デメリット
FIP制度の導入によって、再エネ発電事業者は一定価格の買取ではなく、電力卸市場における変動価格での売電が可能になります。戦略的な売電によって電力市場で利益を上げることができるメリットもある反面、変動価格だからこそのデメリットもあります。 ここでは、FIP制度におけるメリットとデメリットを見ていきましょう。
2-1. メリット:再エネが主力電源になるチャンス。設備投資が鍵
JEPX(卸電力取引市場)のスポット市場では、絶えず発電事業者が売り入札を、小売事業者が買い入札を行います。需要と供給が釣り合うところで約定価格(円/kWh)と約定量(kWh)が決定されます。基本的には、需要が供給を上回るときに価格は上昇し、需要が供給を下回るときに価格は下落します。
従って、供給側である発電事業者の基本的な戦略としては、価格が下落しているときは消極的に、価格が上昇しているときは積極的に電気を売るということになります。
蓄電池などの設備投資を行うことで、再エネ発電事業者も、計画的な売電によって利益を上げることが可能になるかもしれません。すなわち、太陽光発電であれば好天時に、風力発電であれば風がよく吹いているときに発電し、需要が供給を下回って価格が下落しているときには蓄電池にためておき、需要が供給を上回って価格が上昇しているときに売電するということです。さらに環境意識の高いユーザーを顧客にすることで、電力の地産地消を促すことができるかもしれません。
またFIT制度では、電力会社が再エネ電力を買い取った際に生じるコストの一部を国民が賦課金として、つまり、電気料金に上乗せされる税金として負担しています。2021年の見込み額では、この金額がおよそ2.7兆円におよぶとされており、再エネを導入していく上での障壁となっています。FIP制度は自由な市場競争を促進することで、こうした状況を好転させることが期待されています。
2-2. デメリット:高価な運用コストをどのように回収するか?
太陽光発電などによる再エネは、人間には操作することのできない自然現象や天候の影響を受けるため、気象予測に基づいて発電量の計画値を決定することになりますが、それでも発電が計画通りにいかないことも少なくありません。その際は、計画値同時同量制度に従ってインバランスのペナルティを支払うことになります。プレミアムで補填されるとはいえ、気象予測の費用やインバランスのペナルティなどの高価な運用コストを、売電でどのように回収するかは重要です。
天候は自然現象であるがゆえ、その影響は広範囲におよびます。再エネ発電事業者が利益を上げるためには、電気の価格が上昇しているときに売ることが必要です。しかし、地域一帯が同じ天候条件にさらされた場合、太陽光発電の場合、晴れのときは一様に需要を供給が上回り、売電価格は下がります。春や秋の晴れた日には、JEPX(卸電力取引市場)における最低価格である0.01円/kWhほどで推移しています。
一方、曇りや雨のときは供給が需要を下回りますが、肝となる発電は一様に困難なため、戦略的な発電と売電ができません。
こうした状況を回避するため、発電事業者は蓄電設備などを備える必要があります。蓄電池などの設備投資があれば、FIP制度の長所を存分に利用できるかもしれません。 しかし、発電所が利用する大容量の蓄電池などは非常に高価で、事業者としてはなかなか手を出すことができません。また、設備投資においてできるだけ短期間で投資資金を回収し、利益を生み出していく必要性がある点も課題といえるでしょう。
3. FIP制度で変わる再エネ発電の未来
FIP制度により新たな電気事業の創出や、電力市場や電力事業の多様化が期待されています。再エネ発電の拡大により、従来の大規模発電所による一極集中型の発電から、小規模な再エネ発電業者による自律・分散・協調型の発電への移行が見込まれています。
3-1. 再エネ発電が変える、電力需給の形
再エネ発電事業者にとってのFIP制度下における課題は、計画値と実績値のバランシングを実現することです。しかし先述したように、高価な蓄電設備をすべての再エネ発電事業者が独自で保有することは困難です。
そこで現在注目されているのが、「再エネアグリゲーション」です。再エネ発電所を束ねて管理し、発電量をまとめて予測したり、蓄電設備などを利用することでインバランスの問題を解消したり、市場価格に合わせて蓄電池の充放電制御を行ったりする取組みです。すでに再エネアグリゲーションは、国内の企業によって実証事業も進められています。
再エネ発電のさらなる拡充を図るため、今後はDR(ディマンドレスポンス:需要家側が適切な電力使用量の抑制を行うことで、社会的に需給の逼迫を避けること)の大規模な実施が行われていきます。また、これらを下支えするためのAIを用いた高精度の発電量予測、電力需要予測システムなどが開発されていくと考えられます。
4. まとめ
- FIP制度とは、再エネを電力市場に統合する制度のこと。
- プレミアムとは、卸電力市場に再エネ発電事業者の参入を促すための補助額のこと。
- プレミアム=基準価格(FIP価格)−参照価格(卸電力市場における期待収入)
- 再エネ発電事業者は、たとえ天候や自然現象による影響であったとしても、FIP制度下ではインバランスのペナルティを支払わなければならない。
- FIP制度のメリットは、再エネが主力電源になるチャンスを提供すること。
- FIP制度のデメリットは、高価なインバランスのペナルティが発生するリスク。
- 再エネアグリゲーションはFIP制度の普及を促進する取組みであり、FIP制度は再エネ発電の在り方を一極集中から自律・分散・協調へと変え、再エネの社会的利用を進める。
参考文献
- NTT研究開発『VPPとは? 電力システムの効率化や再生可能エネルギー普及拡大のメリットも』
- 一般社団法人 日本卸電力取引所『スポット取引インデックス情報』
- 環境省『再エネ100%電力調達要件について』
- 資源エネルギー庁『国内外の再生可能エネルギーの現状と 今年度の調達価格等算定委員会の論点案(2022年10月)』
- 資源エネルギー庁『再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート』
- 資源エネルギー庁『再生可能エネルギーの大量導入時代における 政策課題と次世代電力ネットワークの在り方』
- 資源エネルギー庁『2019年、実績が見えてきた電力分野のデジタル化2~バーチャルパワープラント編』
- 電気学会論文誌B(電力・エネルギー部門誌)『第130回テーマ:FIP制度 (Feed In Premium)』





