VPPとは?電力システムの効率化や再生可能エネルギー普及拡大のメリットも

      VPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)とは、地域内に分散している複数の分散型エネルギーリソース(Distributed Energy Resources、以下『DER』)を、ICTを活用してあたかもひとつの発電所であるかのように統合・制御し、電力の需給バランス調整を行う仕組みです。近年は、経済産業省によるVPPの実証事業が各地で行われたり、「アグリゲーター」と呼ばれる新たな役割を担う事業者が誕生したりしています。
      この記事では、VPPとは何かということ、注目される背景、仕組み、メリットなどについて解説します。(公開日:2021/11/05 更新日:2024/02/14)

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      1. VPPとは何か

      VPPは、複数のDERを遠隔で統合・制御することで、あたかもひとつの発電所のように機能するため仮想発電所を意味する「Virtual Power Plant(バーチャルパワープラント)」と呼ばれます。

      VPPの構成要素のひとつであるDERとは、さまざまな場所に存在する比較的小規模な電源や設備などです。DERは幅広く、エネルギーを「つくる」「ためる」「使う」というはたらきを持つさまざまな主体が含まれます。

      たとえば、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーのほか、コージェネレーションシステムなどの発電機や蓄電池、電気自動車などが挙げられます。ほかにも、空調や照明といった電力を消費する需要家側の負荷設備もVPPで活用されることがあります。

      点在するDERの一つひとつは小規模であっても、統合・制御することで大きな発電所に匹敵する規模にすることも可能です。集められた電力を適切にコントロールして、電力システム上のさまざまな課題を解決するのがVPPの役割です。

      2. なぜ今VPPが注目されているのか

      VPPが注目される背景として、電力の需要と供給に対する考え方の変化があります。考え方はどのように変わったのか、また、変化のきっかけについて詳しく見ていきましょう。

      2-1. 大規模・集中電源への依存の問題点が顕在化

      そもそも、電力は私たちの暮らしを支える重要なエネルギーのひとつですが、ためておくのが難しいという特徴があります。そのため、電力の需要と供給は常に一致するように管理しなければなりません。

      これまでは、使う分だけ電力をつくるという、需要に合わせて発電する運用が主流でした。大規模な発電所が集中して発電していたために、発電のコントロールがしやすく、このような運用がなされてきました。

      ところが、東日本大震災の際の電力需給のひっ迫などをきっかけに、原子力発電所や火力発電所といった大規模な発電所に集中的に頼りすぎることの課題が浮き彫りになりました。同時に、地球温暖化対策などの観点から再生可能エネルギーなどDERの普及が大きく進みました。

      こうした背景から、大規模な発電所だけでなく、比較的小規模な発電機や蓄電池でも、電力を適切に管理することの重要性が強く認識されるようになりました。そのため、需要場所などに点在するDERを統合・制御するVPPに注目が集まっているのです。

      2-2. 再生可能エネルギーなどDERの普及に伴う影響

      再生可能エネルギーはDERに含まれますが、なかには、気象条件などによって発電量が変動するものも多くあります。たとえば、太陽光発電や風力発電は、日射量や風向、風量などによって発電量が左右されるため、発電量をコントロールすることが困難です。

      そのため、電力の需給のバランスを保つには、発電側だけでなく需要側の電力のコントロールが求められます。多く発電するときには電力の需要を増やし、逆に発電が少ないときには需要を減らすといった具合に、電力の需要をコントロールする重要性が高まっています。

      3. VPPの仕組みとアグリゲーター、デマンドレスポンスとは

      ここでは、VPPの具体的な仕組みを見ていきましょう。また、VPPを理解する上で欠かせないキーワードである「アグリゲーター」や「デマンドレスポンス」についても紹介します。

      3-1. VPPの仕組み

      (画像出典:資源エネルギー庁『エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス・ハンドブック』)
      (画像出典:資源エネルギー庁『エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス・ハンドブック』)

      VPPでは、上図のように、アグリゲーションコーディネーターやリソースアグリゲーターが要となり、多様なDERを統合・制御して電力の需給バランスをコントロールします。

      たとえば、太陽光発電が多く発電し電力が余るときには、蓄電池や電気自動車へ充電させたり、自家用発電機を停止させたりして電力の需要を増やします。また、需要家の空調・照明・生産設備などを稼働させることもあります。

      逆に、電力の需要が多すぎてひっ迫が予想されるときには、蓄電池や電気自動車からの放電や自家用発電機の運転、空調・照明・生産設備の稼働を減らすなどして需要を削減します。

      3-2. アグリゲーターとは

      このようなコントロールの司令塔の役割を担うのが「アグリゲーター」です。「aggregate(アグリゲート)」とは、日本語で「集約する」という意味です。

      アグリゲーターは、その役割によって「リソースアグリゲーター」「アグリゲーションコーディネーター」の2種類にわけられます。

      リソースアグリゲーター

      「リソースアグリゲーター」とは、需要家との間で、DERの統合・制御に関する契約を直接結び、制御を行う事業者です。
      ポイントは需要家と直接契約を結ぶ点です。需要家に最も近いアグリゲーターといえます。

      アグリゲーションコーディネーター

      「アグリゲーションコーディネーター」とは、リソースアグリゲーターが統合・制御した電力量をさらに束ね、一般送配電事業者や小売電気事業者と直接取引を行う事業者です。

      一般送配電事業者とは送配電ネットワークを管理・運用する事業者であり、電力需給のひっ迫などによって停電が発生しないように適切な運用を行う義務を負っています。小売電気事業者とは、需要家に電力を販売する事業者です。

      場合によっては、リソースアグリゲーターとアグリゲーションコーディネーターの両方の役割をひとつの事業者が兼ねることもあります。

      3-3. デマンドレスポンスとは

      VPPの実現手段として一例を挙げると、需要家のエネルギーリソースをコントロールして電力需要のパターンを変化させる「デマンドレスポンス(『ディマンドリスポンス』とも表記される。以下『DR』)」があります。デマンドレスポンスは需要の制御パターンによって区分され、需要を減らす「下げDR」と需要を増やす「上げDR」に大別されます。

      「上げDR」や「下げDR」では、まず、一般送配電事業者や小売電気事業者が、電力需要のコントロールをアグリゲーションコーディネーターに依頼します。
      次に、アグリゲーションコーディネーターが、リソースアグリゲーターの能力などを考慮して依頼事項を振りわけ、リソースアグリゲーターにそれぞれの依頼事項を伝達します。
      これを受けたリソースアグリゲーターが需要家に依頼事項を伝える仕組みとなっています。

      たとえば、「下げDR」を例にとると、暑い夏の昼間、電力需要がひっ迫する見通しがあるとしましょう。
      一般送配電事業者が〇時から△時間、電力需要を下げて欲しいという条件をアグリゲーションコーディネーターに依頼します。アグリゲーションコーディネーターは、各リソースアグリゲーターにこの条件を伝達します。リソースアグリゲーターは、契約している需要家のDERの特徴や規模を考慮しながら、条件に合うように電力需要をコントロールします。

      具体的には、自家用発電機を稼働したり、蓄電池からの放電で電力をまかなったりして電力の需要を減らします。また、需要家の空調や照明といった負荷設備の出力を下げたり、生産設備の運転時間をずらしたりして需要家側のエネルギーリソースを制御する場合もあります。

      4. VPPのメリット

      VPPは、電力システム上のさまざまな課題を解決すると期待されています。電力システム全体の経済効率の向上や再生可能エネルギーの有効活用、電力供給の安定化に要するコストの低減にも貢献するとされています。

      4-1. 発電コストの削減による電力システムの効率化

      これまでの電力システムでは需要に合わせて供給を行う考え方が主流だったことは、VPPの背景において説明したとおりです。電力の需要に供給を合わせるスタイルでは、ほんのわずかしか発生しない需要のピークに対しても、発電設備をあらかじめ準備しておかなければなりません。

      1年間というスパンで見ると、需要のピークが発生するタイミングはわずかなものです。そのため、ピークに対して用意された発電設備は、稼働頻度が低いと予想されます。一方で、稼働する頻度にかかわらず、適切な維持・管理は求められます。

      そこで、VPPを活用して電力需要のピークを抑えることができれば、稼働頻度の低い発電設備を準備しておく必要はなくなります。維持・管理コストだけでなく、稼働のための燃料コストも節約でき、結果的に電力システム全体の経済性が向上すると考えられています。

      4-2. 再生可能エネルギーの有効活用

      太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーは、気象条件によって発電出力が変動します。そのため、電力の需要と供給を一致させるには、ほかの電源を活用するなどして発電出力の変動の波を抑える必要があります。VPPには、こうした電力の需給を調整する効果も期待されています。

      たとえば、太陽光発電が電力の需要を超えて発電した場合、現在は発電の出力を抑制するなどして電力の需給バランスを維持しています。VPPによって需要家のDERをコントロールし、電力需要を作り出すことができれば、太陽光発電の出力を抑制しなくても電力の需給バランスを保つことができるようになります。太陽光による発電量を無駄なく活用し、太陽光発電所の稼働率の向上に貢献できます。

      こうした再生可能エネルギーの変動性という課題をVPPによって解決できれば、再生可能エネルギーの有効活用やさらなる導入拡大につながると考えられています。

      4-3. 電力を安定供給するための対策コストの低減効果

      電力を安定的に供給するために、これまでは、火力発電や揚水発電といった発電所をコントロールして電力の需給を一致させる方法が一般的でした。一方、VPPでは、需要家がもつエネルギーリソースなどを活用して電力の需給バランスを維持します。

      需要家のエネルギーリソースは、本来、需要家自身の生産活動などのためにつくられたものです。そのため、電力の安定供給の対策専用に造られた火力発電所や揚水発電所と比べると、少ないコストで安定化対策ができると期待されています。

      5. 再生可能エネルギー拡大に向けたVPPや新技術の研究

      現在、VPPを早期にビジネス化するために、経済産業省を中心に実証事業が行われています。また、再生可能エネルギーの導入拡大のために需要家においても新しい技術が研究されているところです。

      5-1. VPPの構築に向けた実証事業

      経済産業省では、2016年度から2020年度まで、VPPを用いたさまざまなビジネスモデルの構築に向けた「需要家側エネルギーリソースを活用したバーチャルパワープラント構築実証」を実施してきました。

      これは、VPPのビジネス化のための技術実証や制度の課題の洗い出しなどの目的で行われてきたものです。2020年度には10のコンソーシアム、94の事業者が参加しました。
      2021年度からは「蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した次世代技術構築実証事業」として、技術の高度化などを図っています。

      5-2. ICT装置の制御で電力需要を制御する「仮想エネルギー需給制御技術」

      一方で、電力を消費する需要家側においても、情報通信業によるユニークな電力需要の制御技術が研究されています。

      VPPでは、アグリゲーターが需要家側のエネルギーリソースを制御して電力の需要パターンを変化させるデマンドレスポンスが活用されることがあります。この考え方を応用して、情報通信業では、全国の需要家のICT装置を制御することで電力の需要パターンを変化させる「仮想エネルギー需給制御技術」の研究が行われています。

      情報通信業では、サーバーやルータなどのICT機器を通じて、クラウドサービスや通信サービスを提供します。そのため、別の拠点に通信サービスを提供する情報処理を移行しても、同様にサービスの提供が可能です。

      情報通信業を製造業にたとえると、情報を材料として、クラウドサービスや通信サービスといった製品を生み出しているといえます。また、情報という材料は通信技術によって比較的簡単に移動させられるため、どこの製造拠点でも同じ製品をアウトプットできます。

      一方、多くの製造業では、物質である材料を移動させるには多くの時間やコストがかかると考えられます。そのため、製造拠点を変更して電力の需要を制御しようとすると、情報を取り扱う場合よりも多くの困難が伴うでしょう。
      もちろん、工場の稼働を制御して電力の需要を調整することはあります。しかし、電力の調整のために製造活動をほかの拠点に移動することは非現実的だと考えられます。

      情報処理には多くの電力を必要としますが、処理の拠点を移行することで、成果物の品質を保ったまま電力の需要を調整できると考えられます。そのため、電力の需給バランスに応じて、情報処理を移行する量やタイミングを最適化する技術の研究も進められています。

      6. まとめ

      • VPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)とは、複数の分散型エネルギーリソース(Distributed Energy Resources、DER)を、あたかもひとつの発電所であるかのように統合・制御し、電力の需給バランス調整を行う仕組み。
      • 東日本大震災の際の電力需給のひっ迫や再生可能エネルギーの普及などをきっかけに、電力をつくる側だけでなく、使う側も適切な管理が重要だという考え方へ変わってきた。
      • さまざまなDERを統合・制御し、VPPやデマンドレスポンスによって多様なエネルギーサービスを提供するのがアグリゲーター。その役割によってアグリゲーションコーディネーターとリソースアグリゲーターにわけられる。
      • VPPの実現手段のひとつに、需要家のエネルギーリソースをコントロールして電力需要のパターンを変化させるデマンドレスポンスがある。
      • VPPは、電力システム全体の経済効率の向上や再生可能エネルギーの有効活用、電力供給の安定化に要するコストの低減にも貢献すると期待されている。
      • 経済産業省では、2016年度から2020年度までVPPを用いた新たなビジネスモデルの構築に向けた実証事業が行われた。また、電力を大量に消費する情報通信業においても、情報処理を行う拠点を変更することで、電力の需要を調整する制御技術の研究が行われている。

      参考文献

      日本電信電話株式会社外からの寄稿や発言内容は、
      必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。

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