バイオロギングとは何か?基礎技術の解説から応用まで

「バイオロギング」とは、陸上や海中の野生動物に行動記録用の電子端末「データロガー」を装着し、その生態を観察するサイエンスの分野または技術をさします。バイオロギングによって、従来の観察手法ではわからなかった野生動物の生態や行動が明らかになる一方で、記録された海中の水温や水圧、または分布のデータを分析することで、地球環境の未来予測に有用な情報を得られるなど、副次的なデータ利用に注目が集まっています。
またバイオロギングによって、野生動物がインターネットに繋がる社会も構想されています。地球に生きるすべての動物が「地球環境のメッセンジャー」になるのです。

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1. バイオロギングは、野生生物の生態をデータ化する


「バイオロギング(bio-logging)」は、「Bio(生物)」と「Log(記録する)」からなる造語です。主に生態学の分野で発達した調査手法ですが、従来の生物学のアプローチでは捉えられなかった野生動物の生態を次々に明らかにしています。東京大学大気海洋研究所でバイオロギングを用いた研究を主導する佐藤克文教授によれば、バイオロギングによって科学者は従来の生物学とは異なるアプローチが可能になるとされています。

従来の生物学では、科学者は解明したい問題を設定し、それを解明する仮説を設定し、その仮説を証明するために調査や実験を行います。

一方バイオロギングでは、科学者は野生動物にデータロガーを取り付け、得られたデータから考え得ることを推論するというアプローチをとることができます。 また、各種センサーを搭載するデータロガーはもちろん、通信技術、スーパーコンピュータを用いた解析技術など、テクノロジーの進歩によって得られるデータの量と質が向上していくことも、バイオロギングの長所だといえるでしょう。

現在、バイオロギングによる調査はペンギンなどの鳥類、イルカなどの哺乳類、サケやサメなどの魚類などで幅広く行われており、対象となる生物種は 100 を超えるといわれています。

1-1. バイオロギングに用いられるセンサー

バイオロギングの観測手法は、基本的には各種センサーを搭載したデータロガーを野生動物に搭載し、そのデータを取得するというものです。
センサーは、取得したいデータによってさまざまなものが利用できますが、動作や姿勢に関する情報を取得する「加速度センサー」や、水中における対水速度を計測する「プロペラセンサー」、環境情報を取得する「温度センサー」「光量センサー」「地磁気センサー」、また位置を計測する場合は、水圧から深度を計測する「圧力センサー」「人工衛星測位システム(GNSS)」、水中で用いられる「音響テレメトリ」などが一般的に用いられています。

また現在は、GNSS や加速度、温度や地磁気など複数のセンサーを同一基板上に搭載した小型データロガーなども開発されています。
さらに、非侵襲的に動物にセンサーを搭載する方法がある一方で、動物の体内にセンサーを侵襲的に搭載する方法もあります。動物保護における倫理的観点からは問題が残るものの、体温や筋電位などの動物の生理状態をデータで取得することが可能です。

1-2. データの取得方法

バイオロギングによるデータの取得方法は 2 つに大別されます。
ひとつ目は、野生動物にデータロガーを搭載し、それらを直接回収することによってデータを取得する方法です。この取得方法では、野生動物を再捕獲する、あるいはそれに準ずる方法でデータロガーを回収しなければなりません。多くのデータを取得できる反面、たとえば魚のバイオロギングの場合、再捕獲率は数%から 20%ほどといわれており、低い再捕獲率に課題があります。
現在魚の群れなどのバイオロギングにおいては、データロガー間で相互通信を行い、データを共有することで、ロガーの回収率が低くてもデータの取得率を上げる試みなどが行われています。

もうひとつのデータ取得方法は「バイオテレメトリ」と呼ばれるものです。衛星通信や無線通信を利用し、データロガーを回収することなく、データを取得することができます。
しかし、海洋汚染など自然界に置き去りにされるデータロガーの環境負荷が問題視されており、バイオテレメトリと直接データロガーを回収する方法を利用することで、互いの長所を活かす取組みも現在進められています。

2. バイオロギングの歴史と技術の進歩

私たちの携帯電話が技術革新によって小型軽量化・多機能化を重ね、スマートデバイスへと進化して私たちの生活を劇的に変化させたように、ロガーの技術革新はバイオロギングそのものを変化させ、進化させてきました。バイオロギングの歴史とは、技術革新の歴史なのです。
ここでは、生物の不思議を解き明かす技術革新の歴史を振り返ってみましょう。

2-1. はじまりはキッチンタイマーの改良品

バイオロギングは 20 世紀初頭に鳩に小型カメラを搭載する手法として考案されたといわれています。もちろん当時は現代のような小型カメラは存在していないため、バイオロギングの実施は 1960 年代のアザラシの研究を待つことになります。

1964 年にアメリカ人の生物学者、G.L.クーイマン博士が開発した最初のデータロガーは、キッチンタイマーを改良した簡易なものだったといわれています。しかし、このロガーによって、直接観察することのできなかった、南極のウェッデルアザラシの潜行距離と深度がはじめて測定され、バイオロギングの先駆的事例となりました。

その後、ペンギンやアザラシ、ウミガメなどの生態がバイオロギングを用いて研究されることとなりますが、当時はロガーそのものが非常に大きい上に、アナログ方式でもあったため、大型動物への搭載が主流でした。

2-2. デジタル技術の進歩がバイオロギングを革新した

バイオロギングが転換点を迎えるのは 1980 年代です。デジタル技術が進歩したことで、センサーやメモリ、バッテリーが搭載されたロガーの小型化が実現されました。
1980 年代末から 1990 年代はじめにかけては、約 10 グラムの小型軽量ロガーも登場し、鳥類や魚類などの小型動物にも利用が拡大しました。
またこの時期には、衛星利用測位システム(GPS)も活用が進みました。

そして 1990 年代後半になると、発信機能を持つロガーが実現し、バイオテレメトリによるデータ回収が成され、さらに多くの動物種でのバイオロギングが実現していきます。

(画像出典:ICARUS Global Monitoring with Animals『Animals on the air』Structure of an Icarus transmitte)
(画像出典:ICARUS Global Monitoring with Animals『Animals on the air』Structure of an Icarus transmitter

3. バイオロギングの応用

2000 年代以降、海洋動物の生態を解明するバイオロギングによって得られたデータは、海洋物理学や環境学、さらに気象学へと応用され、新たな知見を提供するようになります。
ここでは、野生動物を「地球環境のメッセンジャー」とし、地球の未来に役立つ情報を取得する試みを紹介します。

3-1. IoT(インターネット・オブ・シングス)から IoA(インターネット・オブ・アニマルズ)へ

国際的な研究協力機構である「ICARUS(イカロス)」は、バイオロギングの応用を次のインターネットとして位置付けています。イカロスとは、「International Cooperation for Animal Research Using Space(宇宙を利用した動物研究のための国際協力)」の略であり、衛星を活用したバイオロギングの包括的なシステムを開発しようという国際的な組織です。現在はマックス・プランク動物行動学研究所理事長マーティン・ヴィケルスキー氏らが中心的な役割を担っています。彼らが標榜していることが「IoA」(Internet of Animals: インターネット・オブ・アニマルズ)です。

「IoT」(Internet of Things: インターネット・オブ・シングス)は「モノのインターネット」と略されます。すべてのモノをインターネットに接続し、相互通信を可能にすることで、人を介することなく、モノが自律的に環境を認識したり、制御したりすることを可能にする概念です。これに対し、IoA は「動物のインターネット」を構築する概念です。

多種多様な野生動物に取り付けたロガーで計測したデータは、宇宙空間の受信ステーションに送られたのち、地上局に送信され、そこから関連する研究チームへと送られます。結果はデータベースとして公開され、誰もがアクセスできるようになります。

IoA によって集められ、世界中で共有される野生動物の行動データは、自然保護活動や津波、地震、火山噴火の警告などの人間社会にとって有用な気象予測に役立てられるばかりでなく、人間と自然界の関係を根底から覆すことになると考える研究者もいます。

3-2. 地球環境を知る技術としてのバイオロギング~海編~

バイオロギングの応用として代表的なものは、ロガーによって、一般的な観測ブイによるセンサーでは測定が不可能な領域における水温や塩分、それらに連動した深度のデータを取得し、気候シミュレーションなどに活用できるということです。

たとえば 2008 年の研究では、「アルゴフロート」(全世界の海洋を漂流する観測機器。表層および水深 2,000m までの水温・塩分を測定可能)と南極のミナミゾウアザラシのバイオロギングによる水温・塩分の観測データによって、太平洋、大西洋、インド洋をつなぐ海流「南極周極流」に伴う前線構造が明らかにされています。これは、南極周極流の熱輸送などのメカニズムを明らかにする上で重要な発見であると考えられます。

日本では、ウミガメを利用して海の深部の水温を測定する研究が行われています。東京大学大気海洋研究所 佐藤克文教授による研究では、深度 300m まで潜行するという三陸沿岸に回遊するアカウミガメを使って深度と水温を測定し、これらのデータを加味した上で深度 50m の水温分布の数値計算を行ったところ、初期値の精度が向上したといいます。

(画像出典:JST ニュース『生物の行動から気象情報を予測』深度 50 メートルの水温分布)
(画像出典:JST ニュース『生物の行動から気象情報を予測』深度 50 メートルの水温分布)

3-3. 地球環境を知る技術としてのバイオロギング~空編~

さらに、佐藤教授は空にも目を向け、鳥の飛行データから風速や風向の推定を試みました。ユニークなのはその研究手法です。まず、三陸沿岸を繁殖地とするオオミズナギドリを捕獲し、GPS を搭載したロガーを取り付けます。次に、そのオオミズナギドリを沖合 100km 沖へと調査船で運んで放します。オオミズナギドリは繁殖地である三陸沿岸に戻るため、ロガーはその飛行データを収集します。そして調査船はオオミズナギドリを追いかけながら、観測ブイで実際の海上の風速や風向を計測しました。

これらのデータを使い、まず、オオミズナギドリの飛行データから風速や風向を推定します。次にその精度を観測ブイによる実測データと比較することで検証しました。

結果として、オオミズナギドリの飛行データから、海上の風向、風速を実用レベルで推定できることが明らかになりました。今後は風だけでなく、潮流や波の高さも推定できるといいます。

この研究成果は、バイオロギングによる鳥類の飛行データが、実際の気象シミュレーションに利用できることを示しました。

4. まとめ

  • バイオロギングとは、野生動物に行動記録用の電子端末データロガーを装着し、その生態を観察するサイエンスの分野や技術のこと。
  • バイオロギングはテクノロジーとともに進歩し、現在は GNSS や加速度、温度や地磁気センサーなどを搭載した小型データロガーなども開発されている。
  • バイオロギングによって得られたデータを副次的に利用し、気象や気候シミュレーションなどに活かすことができる。
  • 国際的な研究協力機構である「ICARUS(イカロス)」などは、バイオロギングの応用を次のインターネット「IoA(インターネット・オブ・アニマルズ)」として標榜している。

参考文献

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