炭素循環とは? 温室効果ガスとの関連や窒素循環との違いも解説
炭素循環とは、地球上の大気、水、および陸上や海洋にいるさまざまな生物の間で炭素が循環することです。炭素はその循環過程に応じて、二酸化炭素、有機物、化石燃料など、さまざまな形態に変化します。
18世紀の産業革命以前の地球上では、大気中に存在する二酸化炭素の量とそれ以外の炭素量の均衡がとれていました。ところが、産業革命以降になると、人為的活動により排出される二酸化炭素が大気中に滞留するようになり、炭素循環の均衡が崩れています。
滞留する二酸化炭素の量が地球自身の持つ循環機能でまかなえる量を超えてしまうと、地球環境にさまざまな影響が生じてしまいます。そこで、大気中の二酸化炭素の量を直接低減する取り組みや、大気中に放出される二酸化炭素の量を低減する取り組みが世界で進められています。また、二酸化炭素を原料として活用する人工光合成技術などの人為的な炭素固定技術の研究開発も行われています。
この記事では、炭素循環の森林生態系や海洋などにおける様子や、生態系で重要となる窒素循環との違い、および人工光合成などの二酸化炭素変換技術についてわかりやすく解説します。
(公開日:2021/06/23 更新日:2022/07/20)


1. 炭素循環とはわかりやすくいうと?
炭素循環とはわかりやすくいえば、炭素が地球上の大気、水、および陸上や海洋にいるさまざまな生物の間を循環することです。循環の過程に応じて、炭素は二酸化炭素やさまざまな有機物、あるいは化石燃料などに形を変えます。
下の図は、炭素循環の概略を示したものです。

図にあるとおり、炭素は「大気」「森林」「土壌」「海洋」「人間活動」のあいだを、さまざまに形を変えながら循環しています。たとえば、大気と森林なら、大気の二酸化炭素が植物の光合成により、有機物の形で生物に取り込まれる一方、生物の呼吸などに由来する二酸化炭素が大気に排出されます。また、土壌の化石燃料などは、産業革命以降の人為的活動により、二酸化炭素などとして大気に排出されます。
2. 温室効果ガスである二酸化炭素の循環
ここで「温室効果ガス」の一つとされる二酸化炭素の循環について見てみましょう。IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書によれば、地球上の二酸化炭素の循環は下の図のようになっています。

上の図にあるとおり、二酸化炭素は海洋、人間活動、および土壌・森林から大気中に排出される一方、海洋と土壌・森林は大気中の二酸化炭素を吸収します。排出と吸収の収支は161.6億t /年となり、これだけの二酸化炭素が大気中に毎年残留していくことになっています。
二酸化炭素だけでなく、メタン、一酸化炭素、ハロカーボン類などの気体は、地表から逃げていく赤外線を吸収し、地球の平均気温を高める温室効果の作用があります。メタンの温室効果は二酸化炭素の約10倍、一酸化二窒素は約100倍、フロンガスは約1万倍といわれており、これらの大気中における総量は二酸化炭素のおよそ半分程度といわれています。そのため、大気中の二酸化炭素だけを減らしても、地球温暖化問題は解決しませんが、二酸化炭素の排出量を削減する取り組みや、資源として活用する取り組みが盛んに行われるようになっています。
3. 森林生態系の炭素循環
ここからは陸上、および海洋における炭素循環の様子を詳しく見ていきます。
まず、森林などの陸上においては、そこに生息するすべての生物と大気との間で炭素は循環をしています。最初に植物が、大気中の二酸化炭素を光合成により有機物に変換して取り込んだあと、その有機物の動植物による消費、および微生物による分解と続きます。その様子をここでは見ていきましょう。
3-1. 植物の光合成による有機物の生産
森林生態系の炭素循環は、植物からスタートします。大気中の二酸化炭素が光合成により有機物に変換され、植物の体内に取り込まれます。取り込まれた有機物は植物自身によっても消費され、二酸化炭素となって呼吸として大気中に放出されます。また、落葉や枯死などにより脱落した植物体は、土壌の有機物として蓄積されます。
3-2. 動物などによる有機物の消費と二酸化炭素放出
森林生態系における炭素循環の次の過程は動物によって担われます。植物体内に取り込まれた有機物は、まず昆虫や草食動物などにより食べられて消費されます。さらには、それら昆虫や草食動物に取り込まれた有機物が肉食動物によって食べられ、消費されることになります。
動物により消費された有機物は、やはり二酸化炭素となって呼吸として大気中に放出されます。また、動物の糞や死骸は、土壌の有機物として蓄積されます。
3-3. 土壌の微生物による有機物の分解と二酸化炭素放出
森林生態系の炭素循環で次に登場するのは微生物です。脱落した植物体や、動物の糞や死骸などの形で土壌に蓄積された有機物が、細菌類や菌類などの微生物、あるいは小動物などにより取り込まれ、分解されます。分解された有機物は、二酸化炭素として大気中へ放出されます。
分解されずに残った土壌中の有機物は、一部は降水などにより河川などへ流出しますが、それ以外は土壌炭素として長期的に備蓄されます。長い期間を経て、この土壌炭素は化石燃料となっていきます。
以上のように、森林などの陸上において炭素は、大気中から二酸化炭素として植物に取り込まれ、生態系の動物や微生物の間を有機物として循環し、土壌の有機物として長期備蓄されるとともに、再び二酸化炭素として大気中に還っていきます。
4. 海洋の炭素循環
海洋での炭素循環は、物理・化学的な過程である「溶解ポンプ」と、生物学的な過程である「生物ポンプ」の両面から行われます。2つのポンプにより、二酸化炭素は大気中から海洋に吸収され、海洋中を循環したあと、再び大気中に放出されます。
4-1. 溶解ポンプによる二酸化炭素の吸収
溶解ポンプは、大気中の二酸化炭素が物理的・化学的に海水に溶け込むものです。表層の海水に溶け込んだ二酸化炭素は、冬季の冷却による沈降や海洋の循環などにより、中層から深層へと運ばれます。
4-2. 生物ポンプによる二酸化炭素の吸収
生物ポンプは、森林生態系の炭素循環とよく似ています。最初に海洋表層にいる植物プランクトンが、光合成により二酸化炭素を取り込み、有機物を作り出します。植物プランクトン自身も有機物を消費して、呼吸として二酸化炭素を放出するとともに、プランクトンの死骸に含まれる有機物は海中へ沈んでいきます。
次に、植物プランクトンの体内にある有機物が、動物プランクトンや魚などにエサとして取り込まれます。有機物は食物連鎖により、海洋のすべての生物に行きわたります。動物プランクトンや魚などの死骸や糞に含まれる有機物は、やはり海中へ深く沈みます。
4-3. 大気への二酸化炭素の放出
海洋に溶け込んだ二酸化炭素は、再び海面から大気中へ放出されます。海洋表層と大気とは常に二酸化炭素のやり取りをしているほか、中層や深層の海水に溶け込んだ二酸化炭素も、海洋の循環にともなって表層に押し上げられ、その際に大気に放出されます。プランクトンや魚の死骸や糞に含まれる有機物は、分解されて二酸化炭素へ無機化されることにより、やはり大気へ放出されます。
5. 生態系の窒素循環と水・エネルギーの流れ
生態系を循環するのは炭素だけではありません。タンパク質やDNAに含まれる窒素もまた循環しています。生態系ではそのほかに、水やエネルギーの流れもあります。ここでは、これら窒素循環と、水・エネルギーの流れを見ていきましょう。
5-1. 窒素循環とは?
窒素循環とは、生物の体を構成するタンパク質やDNAの形成に不可欠な窒素が、大気と生物、および土壌を循環することです。下の図は、窒素循環の概略を描いたものです。

炭素については大気から二酸化炭素を、光合成により植物が取り込みましたが、大気中の窒素を直接取り込むことは植物にはできません。そのため、上図にあるとおり以下の2つの経路により、窒素は植物に取り込まれます。
- 空気中の窒素が、マメ科植物の根や土壌中にいるバクテリアにより、アンモニウムイオンから亜硝酸イオン、硝酸イオンへと変換されたものを取り込む
- 土壌中にある、脱落した植物体や動物の糞・死骸が、土壌中のバクテリアによりアンモニウムイオンから亜硝酸イオン、硝酸イオンへと変換されたものを取り込む
植物に取り込まれた窒素は、生態系内の他の動物に、植物が、あるいは植物を食べた動物が、食べられることにより取り込まれていきます。また、土壌に蓄積される硝酸イオンの一部は、バクテリアの働きにより気体の窒素に変えられて大気中に放出されます。
5-2. 水とエネルギーの生態系における流れ
生態系には、水とエネルギーの流れもあります。水は、海面や地表からの蒸発、あるいは植物からの蒸散によって大気中に放出され、雨や雪の形で地上に降りてきたものを動植物が利用します。
エネルギーは、太陽光から光合成により植物に取り込まれ、有機物の形で植物自身によって消費されるほか、植物が食べられることによって他の動物に取り込まれていきます。動植物に消費されたエネルギーは、熱となって大気中に放出されます。
6. 二酸化炭素を変換する人工光合成技術
前述のとおり、現代では人為起源の二酸化炭素が大気中に滞留し、炭素循環の均衡が崩れてしまっていることが、地球の環境に対して大きな負荷を与えています。この環境負荷を低減するための方策のひとつとして、省エネや自然エネルギー活用などによる二酸化炭素排出量の削減が世界で進められています。
しかし、二酸化炭素による環境負荷の低減のための取り組みは、それだけではありません。排出された二酸化炭素を資源として活用することにより、炭素循環の均衡を回復し、炭素循環社会の実現をめざすための取組みも着実に進められています。それが二酸化炭素変換技術です。二酸化炭素変換技術では、二酸化炭素を工業原料や燃料、鉱物などさまざまな物質に変換し、活用することをめざしています。
この二酸化炭素変換技術と、そのうちのひとつである人工光合成技術について以下でご紹介します。
6-1. 二酸化炭素変換技術とは?
二酸化炭素変換技術とは、自然由来のエネルギーを利用して、二酸化炭素を別の物質に変化する技術のことです。二酸化炭素の分離・回収はこれまでも行われてきましたが、回収した二酸化炭素の利用法は以下のようなものに限られていました。
- 油田で原油を回収する際、原油を押し流すために圧力をかけて注入する水の代わりに二酸化炭素を利用する
- ドライアイスや溶接などに直接利用する
二酸化炭素の利用法がこれだけでは、分離・回収による二酸化炭素の削減に大きな効果が見込めないため、より再利用しやすい物質に二酸化炭素を変換するのが二酸化炭素変換技術です。変換する物質としては以下のようなものが想定されています。
化学品 | 含酸素化合物(ポリカーボネート、ウレタンなど)、バイオマス由来化学品、汎用物質(オレフィン、BTXなど) | 燃料 | 微細藻類バイオ燃料(ジェット燃料・ディーゼル)、二酸化炭素由来またはバイオ燃料(メタノール、エタノール、ディーゼルなど)、ガス燃料(メタン) | 鉱物 | コンクリート製品・コンクリート構造物、炭酸塩など |
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二酸化炭素変換技術は2030年までを「フェーズ1」として、2030年からの製品普及をめざして技術開発が進められています。
6-2. 人工光合成とは?
自然の営みでは、植物の光合成により、二酸化炭素からデンプンなどのエネルギー源が作られます。人工光合成とはそれと同様に二酸化炭素から、太陽光を使って液体燃料やガス燃料などのエネルギー源を作り出す技術です。

人工光合成技術による太陽エネルギー変換効率は、開発当初は植物の光合成と同程度の約0.2~約0.3%でした。しかし、開発にともない徐々に上昇し、2021年12月には、当面の目標とされていた10%を達成しました。変換効率が10%になると、化石燃料のコストを下回るとされています。今後は社会実装をめざして、変換効率向上だけでなく耐久性向上やコスト低減にも注力される見込みです。
人工光合成は、太陽電池とどう違うのかと思う方もいるかもしれません。どちらも確かに太陽エネルギーを人工光合成は燃料、太陽電池は電気と、別の形に変換するものです。人工光合成の太陽電池と比べた場合のメリットは、まず「二酸化炭素を再利用できる」という点にあります。また「燃料として備蓄できる」という点も大きなメリットです。
7. まとめ
- 炭素循環とは、炭素が地球上の大気や水、陸上・海洋にいるさまざまな生物の間を二酸化炭素や有機物、化石燃料などに形を変えながら循環すること。
- 森林生態系では、炭素は大気中の二酸化炭素から植物の光合成により取り込まれ、有機物の形でさまざまな生物の間を循環していく。
- 海洋では、物理・化学的な作用とともに、森林生態系と同様の生物学的作用により、大気中から二酸化炭素が取り込まれ、さまざまな生物の間を有機物の形で循環していく。
- 生態系においては、炭素循環とともに窒素循環も重要な役割を果たしている。
- 産業革命以来、二酸化炭素を初めとする温室効果ガスが大気中に大量放出されるようになり、それまでの炭素循環に変化を与えている。
- 炭素循環の均衡を回復するための取り組みとして、人工光合成技術などの二酸化炭素変換技術も開発が進んでいる。
参考文献
- ACS Sustainable Chemistry & Engineering『Solar Fuel Production from CO2 Using a 1 m-Square-Sized Reactor with a Solar-to-Formate Conversion Efficiency of 10.5%』
- NTT宇宙環境エネルギー研究所『人工CO2変換技術』
- NTT先端集積デバイス研究所『地球に優しい未来を切り拓く「人工光合成」と「土に還る電池(ツチニカエルでんち®)」』
- 環境省『平成19年版 環境/循環白書』
- 気象庁『海洋の温室効果ガス』
- 気象庁『海洋の炭素循環』
- 国立環境研究所地球環境研究センター『陸域生態系における炭素循環』
- 資源エネルギー庁『太陽とCO2で化学品をつくる「人工光合成」、今どこまで進んでる?』
- 資源エネルギー庁『未来ではCO2が役に立つ?!「カーボンリサイクル」でCO2を資源に』
- 日本原子力研究開発機構『地球の炭素循環』
- ビジネスコミュニケーション『植物を超える効率と100時間の寿命を実現 2018年度からCO2固定化に本格着手』
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