人間が知覚する感覚量は物理量の変化に対して線形であるとは限りません。そのため、ごく短い時間に大きな加速度を生じさせ、逆の方向に小さな加速度を長時間かけると、小さな加速度が閾値下であるような刺激の場合、人間は大きな加速度の方向にのみ引っ張られたような感覚を得ます。これを周期的に繰り返すことで、時間的に安定した、連続的な牽引力感覚を作り出すことが出来ます。
クランクスライダ機構と呼ばれる機構を用いると、モータの回転でおもり並進運動させることができます。この機構を改良することで、おもりの加速度を往復で大きく異なる値に設計することが出来ます。おもりの加速度は一周期分積分すると0になるため、結果として装置は物理的には外に力を出していません。しかし、人間の知覚特性が非線形であるため、この機構が内蔵された装置を持つと片方の加速度(つまり片方の力)のみが与えられたように感じます。
モバイル式の力覚提示では、装置そのものを環境に固定することなく力ベクトルを提示する必要があるため、従来のモバイル式の力覚提示ではトルク感覚の提示(たとえばジャイロ効果や角運動量変化を利用した方式) に限られていました。つまり、短時間の回転方向の力感覚は提示できましたが、長い時間に渡って並進方向への力感覚を提示することはできませんでした。一方、ぶるなびは従来の力覚提示では不可能であった、非固定ながら並進方向の力を提示することが可能な世界初の力覚提示手法です。これまでに1万人以上の方に牽引力錯覚を体験していただき、ほぼすべての体験者が錯覚を生起することを確認しています。
ぶるなびは直感的に方向を伝えることができるため、歩行者ナビゲーションに応用することができると期待されています。わたしたちはその効果を検証するため、東西南北など水平面の任意の方向に牽引されるように改良した試作機を用いて、実証実験として京都市消防局と共同で、京都府立盲学校の協力のもと迷路内の歩行案内実験を行い、その有用性を確認しました。
視覚障がい者に限らず、携帯電話などの端末ユーザを対象として、ユーザの手を引いてくれるような歩行者ナビゲーションの実現を検討しています。ぶるなびの機能が搭載された携帯端末によって、小さな端末画面の地図を凝視することなく、手を引いて目的地まで携帯端末が引っ張っていってくれることを目指しています。そのため、歩行運動中に牽引力を効果的に知覚するための基礎実験をすすめ、有効な提示方法を検証しています。