視覚が生み出す力

脳情報処理の不思議―触れずに手の動きを曲げたり速めたり

広い視野の動きによって無意識に腕の運動応答(MFR:Manual Following Response)が起こることを発見し、さらにその視覚入力パターンの違いによる応答特性の変化を定量化しました。この現象の発見によって、視覚情報処理と腕の運動制御メカニズムの間に、意識にのぼらないインタラクションが存在することが示され、その情報処理メカニズムの一端が明らかになりました。また、この無意識な情報処理を視覚運動インタフェースに利用し、通信や表示の遅延を補償する方法を提案しました。

将来どのように役に立つのか

すでに巷では双方向映像コミュニケーションやオンラインゲームが盛んに使われています。近未来においてはテレプレゼンスや遠隔手術などに代表されるような、感覚・運動が密接に絡むインタラクティブコミュニケーション手段が求められていくことでしょう。そのための優れた通信サービスを提供するためには、情報の受け手でありかつ送り手である人の脳における視覚情報処理と運動制御のインタラクションメカニズムを知ることが重要になってきます。映像を見ながら手を動かす際の「不自然な動作」や「無意識におこる動き」のメカニズムを知ることにより、安全でリアル感・臨場感の得られる通信サービスをデザインする指針を提供することができます。

視覚刺激パターンの違いはMFRを変える

MFRは運動を意図しなくても無意識に視覚刺激に応じて手が動く応答です。では、どのような視野の動きに対してこの応答が作られるのでしょうか?視野の動く速度は同じでも、見ている刺激の特性により腕応答の大きさは変化します。視覚入力のパターンが粗いと、視野の動きにより腕は大きく動かされますが、細かいとあまり動かされません。視覚の動きの時空間周波数に応じたMFRの特性を調べたところ、知覚感度特性とは異なるチューニングが明らかになりました。
視覚入力に応じて腕を動かすことを想定したインタフェースの安全性・快適性を満たすために、このような意識にのぼらない情報処理の特性を考慮することは不可欠になってくると考えています。今後、様々な状況における意識にのぼらない感覚運動系の特性を明らかにすることにより、複雑な状況におけるインタフェース設計の明確な指針となるように発展させたいと考えています。

流れる模様で文字がすらすら

ネットワークを介した遠隔操作やゲームでは、表示の遅れによる操作感の悪化が問題です。私たちは、流れる模様を画面に表示するだけで、通信や表示システムなどに時間遅れがあるインタフェースを使うときに感ずる「遅れに伴う抵抗感(重たさ感)」を軽減する手法を開発しました。この技術では、MFRの無意識的な運動制御の原理や様々な発見を利用しており、人間の感覚運動情報処理を利用してインタフェースの操作性を改善できる可能性を示しました。

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