世界初!ドローンによる雷誘発・誘導技術の実証に成功
目次


長尾 篤(ながお あつし)
NTT株式会社
宇宙環境エネルギー研究所
プロアクティブ環境適応技術グループ 主任研究員
NTT株式会社は、ドローンを使用した雷を誘発・誘導する実験に世界で初めて成功しました。これにより、ドローン自身が雷に耐えられる独自の耐雷技術と、雷を能動的にドローンに落とす雷誘発技術の有効性を実際の雷で実証しました。
将来的にはインフラ設備や街、人々の安全を守る空飛ぶ避雷針としての実用化をめざしています。
この記事では、ドローン誘雷の研究を牽引するNTT宇宙環境エネルギー研究所 レジリエント環境適応研究プロジェクト プロアクティブ環境適応技術グループのサブグループリーダーを務める長尾篤氏に、研究の経緯、技術のポイント、苦労話、そして未来展望についてお聞きしました。
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世界初、ドローンを使用した雷の誘発・誘導に成功~空飛ぶ避雷針として街やインフラ設備を守り、雷被害ゼロの社会をめざす~ | ニュースリリース | NTT
1. 研究の背景とドローンによる雷誘発の意義
今回の研究テーマに至った経緯を教えてください。
落雷は毎年国内で1000億円~2000億円規模の被害をもたらす自然災害です。NTTグループの通信インフラ設備についても落雷による被害を防ぐため様々な対策を実施してきましたが、被害を完全に防ぐことはできていません。また、従来の雷対策技術として避雷針が多く使われていますが、避雷針は雷を受ける範囲が限られるうえに、風力発電の風車、スポーツや音楽の屋外イベント会場のように設置すること自体が困難な場所も多くあります。
そこで、位置や高度を自由に制御できるドローンを利用し、雷を能動的に誘発・誘導する技術の研究開発を開始しました。耐雷対策を施したドローンが雷を誘発し、安全な場所に誘導する役割を担い、インフラ設備や人への雷被害をゼロにする─そんな未来像を描いて研究を進めています。
2. 実験の内容とドローン誘雷技術の仕組み
具体的にどのような実験が行われ、どんな成果があったのでしょうか?
2024年12月~2025年1月にかけて、冬季に落雷の多い島根県浜田市の山間部(標高約900メートル)でドローンを使用した誘雷実験を実施しました。雷雲(電気を帯びた雲)が近づくと、その電気によって地上付近の電界強度が上昇します。そこで、フィールドミルという装置を用いて電界強度をモニタリングし、電界強度が上昇をはじめたタイミング(=雷雲が近づいたタイミング)で、耐雷対策を施したドローンを離陸させ、高度300メートルまで上昇させました。ドローンと大地はワイヤで接続されています。ただし、このワイヤと大地の間にはスイッチを配置しており、飛行当初はこのスイッチがOFF状態のため、ドローンと大地は電気的にはつながっていない状態です。このスイッチを電界強度が更に上昇したタイミングを見計らって遠隔操作でONにし、ドローンと大地とを電気的に接続しました。その直後、上空の雷雲が発光し、同時にパーンという発砲音が鳴り響きました。測定器類を確認したところ、発光・発砲音と同時にワイヤに大電流が流れたこと、ならびに周囲の電界強度が大きく変化したこと(すなわち、雷雲内の電気の量が大きく変化したこと)がわかりました。このことから、世界で初めて、ドローンを使用した雷の誘発・誘導に成功したことが確認できました。また、耐雷ケージを備えたドローンは、雷が直撃したにもかかわらず誤作動や故障することなく、安定飛行を継続することができました。
3. 二つの核心技術─耐雷ケージと電界変動による雷誘発
雷に直接当たってもドローンが壊れない仕組みについて教えてください。
雷の正体は非常に大きな電流(数万アンペア)ですので、一般的なドローンに落雷した場合はその電流によって回路等が故障し、墜落してしまいます。そこで私たちはドローンを金属パイプで構成されるかご状のケージ(通称耐雷ケージ)で覆い、雷の大電流をケージに流す設計としました。これにより雷電流がドローン本体を直撃することなく、機器や制御系の故障を防いでいます。
また雷電流が流れることで発生する磁界もドローンの制御回路などを誤作動させる原因になります。そこで、ケージのデザインを工夫して、発生した磁界が互いに打ち消し合うようにすることで、その悪影響を抑制しています。これにより、150kAの人工雷(平均的な自然落雷の約5倍相当)に対してもドローンが耐えられることを確認しました。
雷を誘発する原理はどのようなものですか?
雷雲の下にドローンを飛ばしただけでは、雷をドローンに落とすことは困難であり、雷を積極的に誘発するための仕掛けが必要です。
私たちが考案した方法は、飛行させたドローンと大地の間を導電性のワイヤで接続し、その大地側に高耐圧スイッチを取り付けるというものです。雷雲が接近すると、雲と大地の間に大きな電界が発生します。このとき、スイッチを操作してドローンと地上を電気的に接続すると、ドローン周囲の電界強度が急激に変化します。この急激な電界変動が引き金となって、雷の放電が誘発されると考えられます。
4. 苦難を乗り越えた挑戦の軌跡
今回の世界初の成功に至るまでには、かなりの試行錯誤があったと伺っています。これまでの実験の経緯を教えてください。
はい、ドローン誘雷は自然相手の実験であり、過酷な環境で屋外実験を重ねてきました。もともとは石川県の内灘町や志賀町といった日本海側の海岸で、冬季雷をターゲットとした実験を行っていました。実験地が冬の日本海側であることから、強風や大雪の中で実験機材を準備し、ドローンを飛行させるのは大変でした。砂浜という環境も厳しく、風で砂が機材に入り込むこともありました。
しかし、最も苦労したのは、雷雲が到来するタイミングはランダムであり、さらにその頻度が少ないということです。私たちが実験の準備を整えて待機しているタイミングで雷雲が来てくれるとは限りません。石川県では約3年間にわたって冬季の実験を繰り返しましたが、私たちが準備を整えて待ち構えているときには雷雲が現れず、空振りが続くという状況が何度も続きました。
約3年間も成果が出ないというのは、チームとして相当厳しい状況だったのではないですか?
真冬の日本海側という過酷な環境の中で、来るかどうかわからない雷を待ち続けるのは、精神的にもかなり堪えます。
ただ、そうした逆境の中でも、私たちは諦めませんでした。それまでに得られた測定データを丁寧に分析し、電磁気や雷に関する知識を総動員して、実験のやり方そのものをブラッシュアップしていきました。たとえば、当初は比較的小型のドローンを自分たちで操縦していましたが、冬の日本海の強風に耐えるには限界がありました。そこでドローンを大型化し、さらに操縦もドローン運用会社であるジャパンインフラウェイマーク(JIW)に依頼しました。
また、実験の方式も大きく変えています。石川県での実験ではドローンから海の上にワイヤを投下して誘雷するという方法を採用していたのですが、ワイヤの投下機構がうまく作動しないといった問題がありました。そこで方式を転換し、地上に置いたワイヤをドローンが引き上げる方式に変更しました。さらに、地上側に高耐圧のスイッチを新たに開発・設置し、最適なタイミングでドローンと地上を電気的に接続可能としました。これが今回の成功の鍵となった「電界変動を利用した雷誘発技術」です。
実験場所も石川県から島根県に移したのですね。その理由は何だったのでしょうか?
海岸での実験は標高が低いため、雷雲との距離が遠く、雷誘発を試みた場合にも成功確率は高くないと判断しました。そこで、標高を上げることで雷雲との距離が近くなり、誘雷の成功確率が上がるのではないかと考え、島根県浜田市の山間部、標高900メートルの地点に実験場所を移しました。山の上では、大雪で車が通れなくなるなど、環境の過酷さという点では変わりませんでしたが、雷雲との距離が近いという優位性は大きかったと感じています。
そしてついに2024年12月13日、世界初の誘雷に成功したわけですね。成功の瞬間はどのような状況だったのでしょうか?
12月13日に雷雲が接近し、電界強度が上昇したタイミングで、ワイヤを取り付けた耐雷ドローンを高度300メートルまで上昇させました。そして地上のスイッチを操作してドローンと大地を電気的に接続したところ、ワイヤに大電流が流れ、同時に周囲の電界強度が大きく変化しました。誘雷直前にはワイヤと地面の間に2,000ボルト以上の電圧が生じていたことも確認しています。急激にドローン周囲の電界強度を変化させたことで、雷がドローンに誘発されたと考えられます。
誘雷の瞬間には、破裂音が響き、ワイヤを巻き取るウインチ部分が強烈に発光しました。しかし、耐雷ケージを具備したドローンは誘雷後も安定した飛行を続け、無事に帰還しました。あの瞬間は、3年以上にわたる苦労が報われた思いでした。それだけに、チーム全員にとって忘れられない瞬間となりました。
プロジェクトを支えた「チームワーク」について教えてください。
誘雷実験では数多くの困難に直面し、過酷な環境であるため心が折れそうになることもありましたが、諦めず地道に改良を加えながら実験を続けられたのは、メンバー間の信頼関係と共通の目標意識があったためと確信しています。ドローンのパイロットや雷観測の専門家等のチームメンバーと密に連携し、役割分担とコミュニケーションを丁寧に行ってきました。
「絶対に成功させる」という熱意と、研究者としての「未知への好奇心」が過酷な自然環境で心の支えになっていたと実感しています。
5. 未来への展望と社会的意義
この技術が実用化されたとき、社会はどう変わると考えていますか?
まずはNTTの重要な通信ビルや風力発電所などのインフラ設備を雷から守ることが目標です。通信断やインフラ設備の破損を防ぐことで、社会システムの安定化に貢献します。
また将来的には、花火大会やスポーツイベントなどの避雷針を立てるのが難しい場所でドローンを飛行させ、雷を安全に誘導することで、人命を守り雷被害ゼロの社会を実現します。
さらに、誘雷した雷のエネルギーを蓄え、活用することもめざした研究開発にも取り組んでいきます。
海外展開の可能性はありますか?
気象条件の面では東南アジアのマレーシアやシンガポールなど雷が多い地域から本技術について関心を持たれており、問い合わせも受けています。ただし技術輸出規制や安全面の課題があるため、慎重に進めており、将来的な展開に向けて模索中です。
6. 最後に、このような研究に興味を持ち、将来、研究職に従事したいと考えている方々にメッセージをお願いします。
今回のドローン誘雷実験のように、実際の研究では、教科書で学んだ基礎的な知識を引き出しながら、「なぜうまくいかないのか」「別の見方はないか」ということを日々考え続けることが求められます。派手な研究成果の裏側には、地道で過酷な環境の中での実験や、試行錯誤の積み重ねがあります。「世界初」のドローン誘雷実験の成功も、実際には何年もの空振りや失敗を経てようやくたどり着いたものです。
ただ、今回の誘雷実験が成功したように、自分たちの研究が雷による人身事故の防止やインフラ設備の安全性向上につながると実感できる瞬間は、研究者として大きなやりがいを感じるものです。自分の手で社会をより安全にできるかもしれないという可能性が、厳しい環境の中でも前に進み続ける原動力になります。
今大学などで学んでいる基礎知識に対して「面白い」と感じる気持ちをぜひ大切にしていただきたいと思います。その「面白い」が、将来の研究の種になります。そして、たとえ結果がすぐに出なくても、自分なりの挑戦を諦めずに続けてもらえればと思います。私たちのチームも、3年以上の挑戦を経てようやく世界初の成果にたどり着きました。皆さんが未来の研究で同じような達成感を味わってくれることを、楽しみにしています。
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