NTTと三菱重工、大気の影響が強い環境下でのレーザ無線給電で世界最高効率を達成

NTT宇宙環境エネルギー研究所では、社会課題の解決に向け多様な人材を募集しています。

落合 夏葉(おちあい なつは)

NTT株式会社 宇宙環境エネルギー研究所
環境負荷ゼロ研究プロジェクト
次世代エネルギー技術グループ 研究員

~1km先へ光でエネルギーを届ける。被災地・離島・宇宙への電力供給を切り開く次世代技術~

NTT株式会社(以下「NTT」)と三菱重工業株式会社(以下「三菱重工」)は、レーザ光を用いて1km先にワイヤレスでエネルギーを届ける「レーザ無線給電」の実証実験を実施し、大気の揺らぎが強い環境下でシリコン製の光電変換素子※1を用いたレーザ無線給電として世界最高効率となる15%(レーザ出力1kWに対し152Wの受電)を達成しました。長距離伝搬後にビームの強度分布が均一になるように設計したビーム整形技術と、大気の揺らぎの影響を抑制する出力電流平準化技術という二つの革新的な技術を組み合わせたことで、従来は困難とされていた厳しい屋外環境下でのkmオーダの高効率給電に成功しました。この成果は、電力ケーブルの敷設が困難な離島や被災地、さらには将来の宇宙空間での電力供給など、社会の幅広いニーズに応える次世代インフラ技術として大きな期待が寄せられています。

この記事では、今回の研究において送光光学系の設計・実装を担当したNTT株式会社宇宙環境エネルギー研究所の落合夏葉氏に、レーザ無線給電技術の詳細や研究の舞台裏、そして今後の展望についてお聞きしました。

※1 光電変換素子:光を電気に変換する半導体素子。太陽電池も光電変換素子の一種。半導体のバンドギャップを超えるエネルギーを持つ光が照射されると起電力が発生するため、レーザ光の波長に最適な半導体材料を用いることで高効率に電力に変換することができる。

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NTTと三菱重工、大気の影響が強い環境下でのレーザ無線給電で世界最高効率を達成~被災地・離島・宇宙などの社会ニーズに応え、新市場を切り開く次世代長距離ワイヤレス送電の確立へ~ | ニュースリリース | NTT

1. 「光で電力を届ける」-レーザ無線給電の挑戦


まず、落合さんが担当されている研究テーマと、チームの中での役割について教えてください。

私が所属するグループでは宇宙太陽光発電の実現に向けた研究に取り組んでいます。宇宙太陽光発電の技術的な枠組みは大きく三つに分けられます。まず、宇宙空間で太陽光をレーザに変換する部分、次にそのレーザを長距離にわたって伝送する部分、そして最後にレーザ光を電力に変換する部分です。私が担当しているのはその真ん中、つまり「レーザをどのように空間伝送するか」という部分になります。協力会社、共同研究先と連携しながら、チームのメンバーと要素技術を分担して研究を進めています。

レーザで電力を送るという発想自体がとても新鮮ですが、そもそもこの研究にはどのような社会課題が背景にあるのでしょうか?

電力は私たちの暮らしに欠かせないライフラインですが、世界には電力インフラの構築や維持に課題のある場所が数多くあります。たとえば、離島や山間部、海上では電力ケーブルの敷設自体が物理的に困難であり、また敷設できたとしても災害や事故により送電網が寸断されるリスクがあります。

レーザ無線給電は、そうした電力が届かない場所に対して、光を使ってピンポイントかつオンデマンドに電力を届ける技術です。必要な場所に、必要なときだけエネルギーを届けることができます。「これまで電力が届けられなかった地域に、いかに安定して、迅速に電力を供給するか」-この全世界的な課題の解決に直結する技術だと考えています。

図1. レーザ無線給電システム模式図
図1. レーザ無線給電システム模式図

2. 世界最高効率を支えた二つの独自技術


今回の研究成果で、特に独自性の高いポイントはどこにあるのでしょうか?

一番の強みは、長距離かつ大気の揺らぎが大きい環境において、高効率なレーザ無線給電を実現したという点です。

この成果を支えたのが、NTTが開発した「長距離フラットビーム整形技術」と、三菱重工が開発した「出力電流平準化技術」の二つです。

NTTが担当したビーム整形技術について説明すると、レーザ光を電力に効率良く変換するためには、受光パネルに照射されるビームの強度分布が均一であることが重要です。しかし、レーザ光は長距離伝搬すると強度分布が不均一になってしまい、そのまま光電変換素子に当てても効率が大幅に低下してしまいます。

そこで今回、ビームの外周部分はアキシコンレンズ※2の効果を利用してリング状のビームに整形し、中心部分は凹レンズの効果でビームを広げるように位相を制御しました。これらが重なり合うことで、伝搬後の強度分布が均一になるように設計したのです。

ビームの強度分布を均一にする、フラットなビームを整形するという技術は、レーザ加工やイメージングなどレーザ無線給電以外の分野でも広く活用され、研究が進んでいます。しかし、これらの多くは数ミリメートルから数メートル程度の比較的短い伝搬距離を前提として設計されたものが中心となっています。これに対し、1kmという長距離の伝搬後にフラットなビームを実現するかつ大気の揺らぎがある環境下でも動作する必要があるというのは、従来の延長では対応が難しい新たなチャレンジでした。

一方、三菱重工が担当した出力電流平準化技術は、大気の揺らぎによる出力の乱れを安定化する技術です。大気の揺らぎが大きくなると、上述のビーム整形によりある程度はビームの強度分布を均一化できますが、局所的に強度の高いスポットが発生してしまいます。この問題に対し、受光パネルの手前にビームホモジナイザを設置してスポットを拡散させ、さらに各光電変換素子に平準化回路を接続することで、大気の揺らぎによる出力電流の変動を抑制しました。これにより、厳しい屋外環境でも安定した電力出力を維持することが可能になったのです。

※2 アキシコンレンズ:円錐型のレンズで、リング状のビームまたは非回折ビームの一種として知られるベッセルビームを生成することができる。

図2. ビーム整形イメージ
図2. ビーム整形イメージ

実証実験はどのような環境で行われたのですか?

2025年1月から2月にかけて、和歌山県白浜町にある南紀白浜空港の旧滑走路で実験を実施しました。滑走路の一方の端に送光光学系を配置し、1km先に受光光電変換パネルを設置しました。送光時の光軸の高さは地面からわずか約1mで、水平方向にレーザを照射するため、地面からの熱や風の影響を極めて強く受ける環境でした。上述の2つの技術の効果を評価するため、大気の揺らぎの影響が厳しいと言われる条件をあえて選んで実験に臨みました。

実験の様子
実験の様子

送光側では出力1,035Wのレーザ光を発生させ、上述のビーム整形技術を実装した回折光学素子※3でビームを整形し、方向制御ミラーで受光パネルを正確に照射できるようビームの伝搬方向を調整します。整形されたビームは1kmの空間を伝搬し、受光光学系内のホモジナイザで均一化された上で受光パネルに到達します。

実験の結果、受光パネルから取り出せた電力は平均152Wとなり、送信したレーザ出力に対する受電電力の割合である効率15%のレーザ無線給電に成功しました。さらに、30分間の連続給電にも成功しており、長時間にわたって安定した電力供給が可能であることも確認できました。

※3 回折光学素子:面上に光の波長程度の微細な加工を施すことで、光の回折現象を利用し、ビームの形状や位相を制御できる光学素子。

実験の様子
実験の様子
安全上の観点から、高出力レーザ光の誤照射や反射光の拡散を防ぐために、送光光学系および受光パネルはそれぞれブース内に設置

効率15%という数値について、どのように捉えていますか?

実用化に向けてはさらなる効率向上が重要だと考えています。今回の15%という値は「送信した光出力に対する受電電力の割合」を示したものです。実際のシステムとしては、レーザ光源の発振効率-つまり電力をレーザ光に変換する際の効率-も含めて、「使いたい」と思ってもらえるレベルまで効率を向上していくことがレーザ無線給電を実用化する上で重要なポイントだと考えています。

一方で、今回1kmという長距離かつ昼間の大気揺らぎが大きい環境下において、この効率を達成できたことは、実用化に向けて大きな前進だと考えています。今回はコストと入手性を優先してシリコン製の光電変換素子を使いましたが、レーザ光の波長に最適化した光電変換素子の開発も進めています。このような素子を用いることで、さらに高い効率が見込まれ、技術的な伸びしろは十分にあると考えています。

3. これまでの試行錯誤


今回の研究で特に苦労された点や、困難をどのように乗り越えたかについてお聞かせください。

技術面で最も大変だったのは、やはり「1km先でビームをフラットにする」というビーム整形の設計です。先ほどお話ししたとおり、ビームをフラットにする技術自体はレーザ加工やイメージングの分野にも存在しますが、それらは距離や使用する環境が異なり、チャレンジングな課題でした。

この取り組みは2021年度から始まっていました。最初に距離1kmの実証実験を屋外で行ったとき、大気の揺らぎが大きく、思うような効率が出せませんでした。そこからシミュレーションと実験を繰り返し、様々なビーム整形手法を試行錯誤し、今回のアキシコンレンズの効果と凹レンズの効果を組み合わせるという方式にたどり着きました。約4年間にわたる積み重ねの結果として、今回の成果があります。

また、技術面以外で特に難しかったのは、安全面の配慮です。高出力レーザを屋外で使用するにあたり、厳重な管理体制のもとで実験を行いました。誤照射や散乱・反射光が外部に漏れることを防ぐため、送・受の光学系はブースに囲い、光路や出入り口を監視するなどの安全対策を施しました。また、屋外環境での実施ということもあり、雨風への対策として機材の覆いや固定など、運用面でもさまざまな工夫が求められました。関係者それぞれの知識や経験を結集し、安全かつ確実に実験をやり遂げられたことも、大きな成果の一つだと感じています。

図3. レーザ無線給電システム模式図
図3. レーザ無線給電システム模式図
図4. 受光パネルから取り出せた電力
図4. 受光パネルから取り出せた電力

4. 「光で届ける」未来-被災地から宇宙まで


レーザ無線給電には、マイクロ波を使った無線給電という競合技術もあります。両者の違いや、レーザならではの優位性はどのような点にあるのでしょうか?

マイクロ波無線給電はすでに実用化が進んでおり、それぞれに良いところがあります。マイクロ波は大気の影響を受けにくく、比較的安全性も高いといった利点があります。一方でレーザ光は指向性が高く、ビームの広がりが小さいため、受光装置を小型・軽量に設計できるという特徴があります。これは、特に、重量やスペースに厳しい制約がある移動体-たとえばドローンやHAPS-にとってメリットになると考えています。

どちらが優れているという話ではなく、それぞれの特性に応じた使い分け、いわば「住み分け」になっていくと考えています。レーザの強みは「小型で、ピンポイントで、長距離に送れる」こと。被災地や離島にあらかじめ小型の受光パネルを設置しておき、いざというときにレーザで電力を送るという運用であれば、導入する側の心理的にも物理的にもハードルが低いのではないかと思います。パネルは太陽電池パネルと同等のもので構いませんから、特別な大型設備は必要ありません。

めざしている将来像や今後の研究課題について教えてください。

今回確立した技術を用いることで、これまで電力ケーブルの敷設が困難だった離島や被災地などの遠隔地に電力を供給することが可能になります。また、レーザの方向を制御する技術と組み合わせることで、飛行中のドローンなど移動体への給電も進めていきたいと考えています。バッテリー交換のための着陸やケーブルによる給電といった運用上の制約を回避できれば、ドローンの長時間・長距離の連続運用が可能になります。これにより、災害発生時の被災地モニタリングや、山間部・海上における広域通信の中継など、これまで困難だった常時モニタリングや通信カバレッジの拡大が期待されます。

図5. レーザ無線給電システム模式図
図5. レーザ無線給電システム模式図

さらにその先には、NTTが宇宙ビジネスブランド「NTT C89」(NTTグループ『宇宙ビジネス分野におけるブランド「NTT C89」が本格始動!宇宙ビジネス拡大・発展へ | NTT STORY | NTT』)※4のもとで構想しているHAPS(High Altitude Platform Station)※5への給電や、宇宙データセンタ、月面ローバへの電力供給、そして静止衛星から地上へレーザで電力を送る宇宙太陽光発電への応用など、壮大なビジョンが広がっています。

今回の実証で得られた成果は、これらの実用化に向けた第一歩と位置付けており、地上での応用から宇宙への展開まで、あらゆるスケールの基盤技術となるものです。実際に運用するためには、想定される利用シーンごとに最適なシステム設計が必要になります。たとえば、被災地では通信や電力などのインフラが十分に機能しない中での運用が想定されますし、離島では特有の気象条件や環境条件に対応する必要があります。また、ドローンなどの移動体に対しては、距離や方向が変化する中で安定して電力を供給することが求められます。私自身の直近の目標としては、このような移動体への給電に向けて距離や方向に応じてビーム形状を動的に制御する技術やこれらの光学系を小型化する技術を進めていきたいと考えています。このような技術が確立できればレーザ無線給電の応用範囲は飛躍的に広がると確信しています。

※4 NTT C89:NTTグループ各社で取り組む宇宙ビジネスのブランド名。宇宙ビジネス分野における事業拡大とさらなる市場開拓を促し、宇宙産業の発展に貢献していく。
※5 HAPS(High Altitude Platform Station):高高度プラットフォーム。無人航空機を成層圏に飛ばし、通信などの基地局運用などが見込まれる。

最後に、このような研究に興味を持ち、将来、研究職に従事したいと考えている方々にメッセージをお願いします。

研究は単に技術を磨くだけでなく、社会の課題を解決し、人々の生活を豊かにする大きな可能性を秘めています。私はこの研究を通して、エネルギーや電力といった、社会に大きな影響を与える課題に取り組めていることに、大きなやりがいを感じています。

研究はすぐに答えが見えないことも多くありますが、試行錯誤を重ねながら向き合っていくことで、最初は難しそうに思える課題も、「もしかしたらできるかもしれない」と感じる瞬間があり、そこが面白いところだと思います。興味や好奇心を大切にしながら、社会にインパクトを与える研究を一緒に進めていけたらと思います。

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