気候変動の農業への影響は?「予測より早く現れる」との研究結果

      国立環境研究所と国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構などが参加する国際チームが、将来の穀物収量に気候変動が与える影響について最新の予測を行ったところ、「影響が従来の予測より早く現れる」との結果となりました。今回は、この国立環境研究所と農研機構の予測についてご紹介します。

      地球にさまざまな影響を与えている気候変動は、穀物の生産にも影響しています。国立環境研究所と国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)などが参加する国際チームが、将来の穀物収量に気候変動が与える影響について最新の予測を行ったところ、「影響が従来の予測より早く現れる」との結果となりました。今回は、この国立環境研究所と農研機構の予測についてご紹介します。

      タイトル 最新の予測では世界の穀物収量に対する気候変動影響の将来見通しが顕著に悪化~気候変動適応の正念場、従来の想定より早い時期に~
      発行元  国立研究開発法人国立環境研究所、農研機構
      掲載URL http://www.nies.go.jp/whatsnew/20211101/20211101.html

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      1. 穀物収量への気候変動の影響は従来予測より早く現れる

      予測結果を発表した国際チームは米国、ドイツ、オーストラリア、日本など8か国・20の研究機関からなっています。予測には以下のものが用いられています。

      • 2021年8月に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書 第1作業部会報告書における最新の気候変動予測
      • 8か国・20の研究機関で開発された12の収量モデル(複数の収量モデルで得られた予測結果の平均値を用いることで、より信頼性の高い予測が得られる)

      世界の穀物収量に気候変動が与える影響についての予測は、前回は2014年に行われ、今回は7年ぶりです。

      前回と今回の予測結果を比較すると、気候変動の影響はさらに拡大し、トウモロコシ、ダイズ、コメの主要穀物の収量は大幅に悪化するとの予測となりました。

      まず、トウモロコシ収量の変化においては、全世界収量の今世紀末の現在に対する増減割合の前回予測が約1%の増加だったのに対して、今回の予測では25ポイント低下しての約24%の低下となっています。そのほかにも、ダイズは約15%の増加から17ポイント低下しての約2%の低下、コメは約23%の増加から21ポイント低下しての約2%の増加です。

      ただし、コムギについては約9%の増加から9ポイント増加しての約18%の増加と、前回より大きな増加を示す結果となりました。

      次に、気候変動の影響による収量変化が現れてくる時期についても、前回の予測より早まっています。

      主要生産地域が多い中緯度地域の場合、トウモロコシについては、影響が現れるのは前回予測では2090年代以降とされましたが、今回の予測では2030年代後半と、50年以上早まりました。また、コメについてはやはり2090年代以降だったものが2090年代に、コムギは2030年代前半だったものが2020年代後半と、それぞれ早まっています。
      ただし、ダイズについては、今世紀中は顕在化しないとの予測です。

      今回の予測が前回に比べより顕著に反応する要因として、論文では以下の3つをあげています。

      1. IPCC第6次評価報告書(IPCC6)での気候変動予測が第5次評価報告書(IPCC5)と比較して、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が著しく高いこと。
      2. 平均温暖化レベルもIPCC6の方がIPCC5より高いこと。
      3. 今回の収量モデルの気候や二酸化炭素濃度の変化に対する感受性が、前回のものと比較してより現実的に改善されたこと。

      たとえば、トウモロコシの収量予測は、IPCC6の今世紀末の平均温暖化レベルはIPCC5のものより高く、1. 全球の陸地・海洋よりもとりわけ、主要なトウモロコシ生産地域ではその差がさらに顕著になっているため、2. 生育の高温限界に近い比較的低緯度な地域で広く栽培されていて、温暖化進行による悪影響をもろにうけるため、大幅に低下しています。その一方、C4作物(C4型の光合成をする作物)であるトウモロコシは、CO2濃度の上昇による収量増加の恩恵を受けにくいとされているのです。

      それに対してコムギの収量予測は、高緯度域での穀物生産の制約要因だった低温が気温上昇に伴い軽減されるため、さらに増加する結果となっています。

      ダイズとコメについては、やはりIPCC6での温暖化レベルがIPCC5より高くなったことに加え、収量モデルの温暖化に対する感度がより高くなったことが原因で、前回より収量予測が低下したとされています。

      以上の予測結果は、気候変動が将来著しく進行し、今世紀末(2069~2099年)に、現在(1983~2013年)と比べて世界の平均気温が3.9℃上昇する「SSP5-8.5」のシナリオを使用しています。また、「気候変動の影響に焦点を当てるため、栽培地域の分布や栽培技術は将来も現在と同じと仮定しました」とされていますが、気候変動に適応した栽培地域・播種期の移動や、栽培技術の向上などによる収量増加の可能性があります。これらの点については現在、この研究結果を発表した国際チームで解析・評価が進められています。

      しかし、いずれにしてもこの研究結果では、穀物生産に対する気候変動の影響が従来の予測より早い時期に現れることが示唆されています。論文では気候変動への対策を「これまでの想定よりも早く進めることが必要」としています。

      1-1. 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の気候変動予測とは?

      IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)は1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立されました。参加国は195か国で、事務局はスイス・ジュネーブにあります。各国政府に推薦された科学者が参加し、地球温暖化についての科学的・技術的・社会経済的な評価を行い、報告書をまとめています。

      IPCCの最新の評価報告書「第 6 次評価報告書 第 1 作業部会報告書」では、1850~1900年の世界平均気温に対する短期(2021~2040年)、中期(2041~2060年)、長期(2081~2100年)の世界平均気温の変化予測は下の表のとおりとされています。

      (出典:IPCC『第 6 次評価報告書 第 1 作業部会報告書』)
      (出典:IPCC『第 6 次評価報告書 第 1 作業部会報告書』)

      ただし、表中の「シナリオ」とは、2015年以降の温室効果ガス(GHG)の排出を以下のように考慮したものです。

      • SSP1-1.9 ... GHG排出が非常に少ない場合
      • SSP1-2.6 ... GHG排出が少ない場合
      • SSP2-4.5 ... GHG排出が中程度の場合
      • SSP3-7.0 ... GHG排出が多い場合
      • SSP5-8.5 ... GHG排出が非常に多い場合

      1-2. 収量モデルとは?

      この研究において収量モデルは「プロセスモデル」が使われています。プロセスモデルとは、作物の⽣理・⽣態的な⽣育過程を数式で表現したコンピュータ・シミュレーション・モデルで、気象(気温や降水だけなく、さまざまな気象要素)や⼟壌、栽培管理についての⼊⼒データに基づいて、⽇々の葉や茎の伸⻑、収量の形成を計算するものです。

      2. 気候変動の影響はほかにどのようなものが?

      環境省ほか『気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018 ~日本の気候変動とその影響~』によれば、日本に関する身近なものにおよぶ気候変動の影響は、穀物の収量変化のほかにも、以下のような事例があるとしています。

      農業、森林・林業、水産業

      シイタケ栽培への影響、果実の品質・栽培適地への影響、サンマの南下の遅れ

      自然生態系

      ハチクマ(渡り鳥の一種)の渡りの経路変化、竹林の雑木林への侵入、藻場の衰退・消失

      水環境・水資源、自然災害・沿岸域

      河川の流況の変化、流域の複合的な水害・土砂災害、台風による高潮

      健康、産業・経済活動、国民生活・都市生活

      熱中症が増加、産業・経済活動や生活面にもさまざまな影響

      3. 気候変動の影響に対する企業の取組み

      気候変動の影響に対しては、世界各国でさまざまな取組みが行われています。気候変動対策には、大きくわけて「緩和策」と「適応策」の2つがあります。

      緩和策とは?

      二酸化炭素(CO2)の人的要因による排出量を減らすこと。節電や省エネ、再生可能エネルギーの利用、CO2排出量の少ない自動車の利用など。

      適応策とは?

      気候変動の影響に備えること。気候変動による水害対策として堤防を高くする、熱中症や感染症の予防、農作物の品種改良、生態系の保全など。

      以下では、気候変動に対する企業の取組み事例を緩和策と適応策にわけて紹介します。

      緩和策についての取組み事例

      CO2排出量を減らす緩和策については、多くの企業において自社におけるCO2排出量を減らす取組みが行われています。ICT(情報通信技術)活用による打ち合わせのための移動や資料などの紙の削減は、代表的なものといえるでしょう。

      また都市開発分野においても、クリスマスイルミネーションの省エネ対策や、都市の低炭素化などをはじめとしたさまざまな取組み事例があります。

      適応策についての取組み事例

      気候変動への影響に備える適応策の企業の取組みは、たとえば自社の通信ネットワークや設備を災害に強いものとするなど、やはり自社における取組みがまず活発に進められています。また、気候変動への適応を自社のビジネス機会として捉え、さまざまな人や企業・団体などの適応を促進するための製品やサービスを展開する「適応ビジネス」も活発化しています。

      参考文献

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