雷サージとは?発生の仕組み・電圧や被害、対策を詳しく解説

      雷サージとは、雷によって電源線や通信線などに発生するパルス状の過電流・過電圧のことで、「らいサージ」や「かみなりサージ」と呼ばれています。この記事では、雷サージの意味や発生の仕組み、電圧、被害、対策などについて詳しく解説していきます。(公開日:2022/02/14  更新日:2023/03/14)

      雷サージとは、雷によって電源線や通信線などに発生するパルス状の過電流・過電圧のことで、「らいサージ」や「かみなりサージ」と呼ばれています。大きいものは30万アンペアにもおよび、電圧は100万ボルトを超えることもあるため、対策を施していない場合、テレビやパソコン、電話、その他家電製品などが破壊したり劣化したりすることもあります。
      この記事では、雷サージの意味や発生の仕組み、電圧、被害、対策などについて詳しく解説していきます。

      1. 雷サージとは?

      次の図は雷サージの概要を示したものです。

      (雷サージの概要)
      (雷サージの概要)

      雷サージは通信線や電源線、テレビアンテナなどを通って屋内に侵入することがあります。1,000アンペア~300キロアンペアの大電流であるため、対策を施さないとテレビやパソコン、電話、FAX、その他の家電製品などに絶縁破壊や誤作動、劣化などの影響を与えます。

      2. 雷・雷サージ発生の仕組みと雷サージ電流の特徴

      雷・雷サージ発生の仕組みと雷サージの特徴を見てみましょう。

      2-1. 雷発生の仕組み

      雷の正体は静電気です。雷を発生させる積乱雲の内部には、無数の小さな氷の塊(あられやひょう)が浮かんでいます。これらの氷の塊は互いにこすれ合い、静電気を発生させます。こすれ合う際に叩き出された電子を吸収した氷の塊は負電荷に、電子を失った氷の塊は正電荷に帯電するのです。

      (画像出典:安全な実験・観察のハンドブック作成委員会『雷発生の仕組み』)
      (画像出典:安全な実験・観察のハンドブック作成委員会『雷発生の仕組み』)

      積乱雲内部では、正電荷に帯電した氷の塊が上方に、負電荷に帯電した氷の塊は下方に集まり、電荷の分離が進行します。正電荷の氷の塊が上方に、負電荷の氷の塊が下方へ集まるのは、まだ理由は解明されていないものの、大きな氷の塊(あられ)の方が負電荷に帯電しやすいからです。
      また、積乱雲の底に多くの負電荷が集まることで、その負電荷によって大地に正電荷が誘導されます。
      電荷がある程度たまってくると「放電」が起こります。雲底の負電荷が正電荷をめがけて高速で移動するのです。

      (画像出典:安全な実験・観察のハンドブック作成委員会『雷発生の仕組み』)
      (画像出典:安全な実験・観察のハンドブック作成委員会『雷発生の仕組み』)

      正電荷は雲の上方にありますので、雲底の負電荷はこの正電荷をめがけて上方に移動することもあります。しかし、雲が低くたれ込めているケースでは、上空の正電荷より大地の正電荷の方が近いことがあり、その場合には大地に向けて移動します。これが「落雷」となるわけです。
      雲底を出た負電荷は、途中で空気中の原子に衝突し、衝突した原子から負電荷を叩き出しながら大地へ向けて移動します。叩き出された負電荷も、やはり大地へ向かいます。

      (画像出典:安全な実験・観察のハンドブック作成委員会『雷発生の仕組み』図中の電子は負電荷をさす)
      (画像出典:安全な実験・観察のハンドブック作成委員会『雷発生の仕組み』図中の電子は負電荷をさす)

      負電荷が大地にたどり着くと、同じ経路をたどって大地の正電荷が上空へ登ります。正電荷が上空へ向かう際に放たれる強烈な閃光が「稲妻」です。

      2-2. 落雷から雷サージが発生する仕組み

      落雷から雷サージが発生する仕組みを見てみましょう。

      雷サージの3つの種類とその電圧

      雷サージには大きくわけて、直撃雷、誘導雷、逆流雷の3種類があります。それぞれの概要と、発生する電圧は以下のようなものとなります。

      直撃雷

      直撃雷とは、配電線や通信線、避雷針やアンテナなどに直接雷撃するものです。発生する電圧は、電流3万アンペア程度の標準的な雷でも100万ボルトを超えるとされます。

      誘導雷

      誘導雷とは、樹木や建物などへの落雷で放射される電磁界により、付近の配電線に電圧が誘導されるものです。たとえば、3万アンペアの雷が落雷した場合、100m離れた配電線には10万Vの電圧が発生します。

      逆流雷

      逆流雷は、山頂の通信設備や放送設備などに電力を供給する配電線などで起きます。山頂の鉄塔などに落雷した場合に、一度落ちた雷が大地を経由して送電線に流れ込むことをさします。

      雷被害のほとんどは非直撃雷によるもの

      公益社団法人 全国市有物件災害共済会『公共施設のための雷害対策ガイドブック』によれば、次の図に示されるとおり、雷サージ被害の約99%は誘導雷や逆流雷などの非直撃雷によるものとされています。

      (画像出典:公益社団法人 全国市有物件災害共済会『公共施設のための雷害対策ガイドブック』雷被害における落雷の種類[全国自治協会])
      (画像出典:公益社団法人 全国市有物件災害共済会『公共施設のための雷害対策ガイドブック』雷被害における落雷の種類[全国自治協会])

      従って、同ガイドブックでは「適切な設置システムの構築や、サージ防護デバイス(SPD)の設置などの対策によって、ほとんどの雷被害をなくすことができると考えられます」と記載されています。
      ただし、雷サージの侵入ルートは、次に示されているとおり大多数が「不明」とされます。

      (画像出典:公益社団法人 全国市有物件災害共済会『公共施設のための雷害対策ガイドブック』雷サージの侵入ルート[全国自治協会])
      (画像出典:公益社団法人 全国市有物件災害共済会『公共施設のための雷害対策ガイドブック』雷サージの侵入ルート[全国自治協会])

      そのため、同ガイドブックでは「侵入経路のほとんどが不明であり、また原因が判明したものについても電源線・通信線・接地線とすべての配線から侵入していることから(ルートの特定による適切な設置が現実的には難しいので)、雷対策については部分的な対策ではなく、建物やシステム全体の包括的な対策の実施が必要」としています。

      2-3. 雷サージの特徴

      雷により発生するパルス電流である雷サージは、次の図に示されるとおり「波高値」「波頭長」「波尾長」で表されます。

      (画像出典:関東電気保安協会『雷現象と雷害対策』雷電流の表示)
      (画像出典:関東電気保安協会『雷現象と雷害対策』雷電流の表示)

      雷サージ電流の最大値を表す波高値は、小さな雷でも1,000アンペアくらいから、大きなものになると300キロアンペアくらいまであり、中心は30キロアンペア程度です。また、電流が流れはじめてから波高値に至るまでの時間を表す波頭長は、1マイクロ秒(100万分の1秒)~10マイクロ秒(10万分の1秒)程度となっています。
      雷サージによって通信線や電源線などに生じる過電圧は、波高値が大きいほど、また波頭長が短いほど大きくなります。
      また、波尾長は雷のエネルギーに関係します。波尾長が長いほど、回路や素子などを破損・焼損させる可能性が高くなります。

      3. 雷サージによる被害

      雷サージによる被害の例および被害発生のメカニズムを見てみましょう。

      3-1. 雷サージによる被害の例

      雷サージによる被害の例には、以下のようなものがあります。
      ある事例では、民家のすぐ近くを直撃した雷が、ケーブルインターネット回線の同軸ケーブルを伝わって家屋内に侵入しました。まずモデムとルーター、さらにLANケーブルを伝ってパソコン本体のメイン基板、USB回線・配線を伝ってプリンタ複合機のメイン基板を破壊し、起動不能の状態にしました。
      ルーターは、下の画像のように黒く焼け焦げています。

      (画像出典:マイベストプロ『落雷被害を受けたルーターを分解したら、想像以上にひどかった事例』焼け焦げたルータの内部)
      (画像出典:マイベストプロ『落雷被害を受けたルーターを分解したら、想像以上にひどかった事例』焼け焦げたルータの内部)

      また、下の画像のように通信装置の回路基板が焼損した事例もあります。

      (通信ケーブルの焼損例 画像提供 音羽電機工業株式会社 出典:音羽電機工業株式会社『雷サージとは』)
      (通信ケーブルの焼損例 画像提供 音羽電機工業株式会社
      出典:音羽電機工業株式会社『雷サージとは』)

      3-2. 雷サージによる被害の発生メカニズム

      雷サージによる被害の発生メカニズムを見てみましょう。下の図は、通信線に雷サージが侵入した場合に、被害が発生するメカニズムを示しています(ただし、雷サージは電源線側から侵入することもあります)。

      上図のとおり、雷サージによる被害は、以下のような段階を踏んで発生します。

      1. 通信線に雷サージが発生
      2. 電源線に対して通信線の電圧が上昇
      3. 通信線と電源線との間に大電圧がかかる
      4. 通信機器内で「絶縁破壊」が発生し、電源線側に大電流が流れる

      4. 雷サージの対策

      雷サージの対策について見ていきましょう。

      4-1. 雷サージ対策の3つの方法

      雷サージ対策の方法は、大きく以下の3つにわけられます。

      1. アースの等電位化

      電子機器が雷サージによって故障するのは、電子回路の部品などが回路の基盤などの間で絶縁破壊を起こすからです。絶縁破壊は、その部分に非常に大きな電位差が生じるために起こります。そのため、仮に雷サージが侵入しても、電源アースや通信アースなどのアース電位を同じレベルにしておけば、システム全体のアース電位が同じように上昇し、絶縁破壊は生じません。
      電源アースや通信アースを等電位化するためには、それらをすべて共通にする方法があります。

      2. サージ防護デバイス(SPD)などを設置し、雷サージのバイパスを行う

      SPDは建物内部の電子機器を雷サージから保護するための機器です。SPDを設置すると、電源または通信回線から侵入した雷サージは、電子機器の中を通らずに逃げ道(バイパス)を通ってアースに流れるため、電子機器は安全に保護されます。なお、電子機器によって、故障する雷エネルギーが異なるので、最適なSPDを選択する必要があります。

      3. 絶縁トランスなどを設置し、雷サージの絶縁化を図る

      絶縁トランスは、交流電力や通信信号は通しつつ、雷サージのみを遮断します。そこでこれを電源線や通信線に挿入することで、雷サージが装置へ侵入することを防ぎます。前述のSPDとの組み合わせにより、さらに防護効果を高めることができます。

      4-2. 一般の建物における雷サージ対策

      一般の建物における雷サージ対策モデルは、次の図で示すものとなります。

      (画像出典:公益社団法人 全国市有物件災害共済会『公共施設のための雷害対策ガイドブック』雷害対策モデル概念図)
      (画像出典:公益社団法人 全国市有物件災害共済会『公共施設のための雷害対策ガイドブック』雷害対策モデル概念図)

      まず直撃雷対策として、避雷針などの外部雷保護システムを設置します。次に、電力線、電話回線、データ回線などのそれぞれにSPDを設置します。その際に、SPDの接地をすべて共通にして等電位化を図る(等電位ボンディング)ことで、SPDの効果を十分に発揮させることができます。

      4-3. 通信センタビルなどにおける大規模な雷サージ対策

      通信センタビルなどは、雷サージによる機器の故障が発生すると大規模な通信障害につながるため、安定的な通信サービス提供のためには確実な雷サージ対策が必要です。また、複数フロアにわたるため、対策も一般の建物と比較してより複雑なものになります。
      通信センタビルの雷サージ対策は主に「等電位化」と「絶縁」の2つの方法を用いて接地の適正化が進められています。構成は下の図のようになります。

      (画像出典:NTT技術ジャーナル『自動判定機能を備えた接地設備評価シミュレータの導入』通信センタビルにおける雷サージ対策の構成方法)
      (画像出典:NTT技術ジャーナル『自動判定機能を備えた接地設備評価シミュレータの導入』通信センタビルにおける雷サージ対策の構成方法)

      上図にあるとおり、通信センタビルにおける雷サージ対策の構成では、以下の3点がポイントとされています。

      建物レベルでの等電位化(IF-A)

      建物内に複数の接地極がある場合には、それら接地極を連接してひとつにまとめ、接地極間の電位差を抑制します。

      フロアごとの等電位化(IF-B)

      フロアごとでも接地の基準をひとつにまとめ、複数の接地端子間の電位差を抑制します。

      フロア間をつなぐ通信ケーブルの絶縁確保(IF-C)

      フロア間をまたぐ通信ケーブルがある場合には、フロア間の電位差の違いにより通信装置が影響を受けるケースがあります。そのため、異なるフロアをまたいで接続される通信ケーブルには絶縁対策を施し、通信装置の雷故障を抑制します。

      5. 雷サージ対策の応用例と落雷制御・充電技術

      ここでは、雷サージ対策の応用例と雷制御の科学技術を紹介します。

      5-1. 次世代エネルギー供給技術における雷サージ対策

      「次世代エネルギー供給技術」とは、拠点となる通信ビルと周辺地域の電力需要家、再生可能エネルギー発電、定置・車載の蓄電池などを、高効率・高信頼な直流配電網でつなぐことにより、互いに電力を融通し合いながら安定した電力供給を行う技術です。
      ここで、再生可能エネルギーで発電された電力などを通信ビルに引き込むと、雷サージの侵入リスクが高まります。そこで、SPDおよび接地線の配線条件の最適化により、雷サージの電圧を大幅に低減する手法が確立されています。
      この技術を用いることにより、近年増加している極端な高温や低温、強い雨などの極端気象、あるいは発生が危惧される高高度核爆発攻撃による電磁パルス照射や、太陽フレアにより発生する宇宙線放出など、さまざまな事象に対しても安定した電力供給が可能になります。

      5-2. ドローンによる落雷制御・充電技術

      発生した雷による被害を抑制するだけでなく、落雷そのものを制御し、かつ雷のエネルギーを充電する技術の研究も行われています。
      落雷の制御にはドローンなどの飛行体が利用されます。雷が発生しそうなときにドローンを飛ばし、そのドローンに落雷を受けさせることにより、安全な場所に落雷させるというわけです。
      ただし、ドローンはただ落雷を受けたのでは、損傷して墜落します。そのため、まずはドローンに特殊な装置を設置することにより、落雷を受けても墜落しないようにする技術が研究されています。
      将来的には、高精度な落雷位置予測と組み合わせることによる、効率的な落雷の制御が目標となっています。
      さらには、大電流かつ短時間であるためバッテリーへの直接の充電が困難な雷の電気エネルギーを、運動エネルギーや圧力エネルギーなどに変換して高効率に蓄積する革新的な方法を生み出すべく、研究が進んでいます。

      6. まとめ

      • 雷サージとは雷によって発生するパルス状の大電流のこと。
      • 大きなものは30万アンペアにもおよぶことがある。
      • 雷サージの種類は大きくわけて直撃雷、誘導雷、逆流雷の3つ。
      • 設備の情報化が進んだため、雷サージの被害は近年増加している。
      • 雷サージの対策は大きくわけて等電位化、バイパス、絶縁の3つ。
      • 通信センタビルなどでは一般の建物と比べ、より確実で複雑な対策が施される。
      • 次世代エネルギー供給技術における雷サージ対策や、ドローンによる雷制御など、雷対策についての科学技術の研究も進められている。

      参考文献

      日本電信電話株式会社外からの寄稿や発言内容は、
      必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。

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