マイクログリッドとは?エネルギーの地産地消に貢献!停電被害も軽減する仕組み

      マイクログリッドとは、平常時には再生可能エネルギーを効率よく利用し、非常時には送配電ネットワークから独立し、エリア内でエネルギーの自給自足を行う送配電の仕組みです。非常時の停電を回避し、エリア内の再生可能エネルギーなどを地産地消できるため、平常時、非常時の双方においてメリットがあります。一方で、一般的な送配電システムとは異なる仕組みであるため、実現には乗り越えるべき課題もあります。
      今回は、マイクログリッドの意義や仕組み、メリット・デメリットについてわかりやすく解説します。(公開日:2021/09/27 更新日:2023/09/27)

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      1. マイクログリッドでできること

      そもそもマイクログリッドは、1999年にアメリカの電力供給信頼性対策連合(CERTS:Consortium of Electric Reliability Solutions)が提唱した考え方に基づいています。マイクログリッドは、送配電ネットワーク上の「分散型電源」を有効活用できるエネルギーシステムです。

      「分散型電源」とは、さまざまな地域に設けられる小規模な電源で、太陽光発電や風力発電、発電機などが挙げられます。また、マイクログリッドでは非常時に対象エリアを送配電ネットワークから切り離し、分散型電源によるエネルギーの自給自足を行うことができます。

      このように、マイクログリッドの対象エリアは、平常時は従来通り送配電ネットワークに接続されていますが、非常時には、エリア内で電力の独立運用を行います。そのため、既存の送配電ネットワークを使いながら分散型電源を有効に活用することに加え、非常時のエネルギー供給を確保することもできます。

      2. マイクログリッドが注目される背景

      なぜ、今、マイクログリッドが注目されているのでしょうか?その答えは、マイクログリッドによって「分散型電源」である再生可能エネルギーを効率よく活用できるからです。
      一方、これまでの送配電システムでは、大規模な発電所が集中的に発電する「大規模・集中型」が主流でした。近年の再生可能エネルギーの普及に伴って、分散型電源を活用しやすいマイクログリッドという送配電システムが注目を集めています。

      2-1. 頻発する気象災害の被害を軽減

      送配電ネットワークは、地震や台風といった気象災害によって被害を受けることがあります。たとえば、2018年の北海道胆振東部地震によって発生した大規模停電被害や、2019年に房総半島を襲った台風19号による停電被害などがその例です。
      このような事例からもわかるように、大規模・集中型の送配電ネットワークの場合、一度停電が起きると被害が広範囲にわたるといった脆弱性があるといえます。

      電力は、私たちの暮らしに欠かせないインフラのひとつです。災害などの非常時にも、安定的に電力を供給できるレジリエンスの強化が重要視されています。マイクログリッドは、平常時と非常時で異なる仕組みを用いることで、災害による被害を軽減し、レジリエンス強化に貢献できると考えられています。

      3. マイクログリッドの仕組み

      経済産業省が2021年4月16日に公表した『地域マイクログリッド 構築のてびき』によると、地域におけるマイクログリッドのシステムモデル例が次のように示されています。

      (画像出典:経済産業省『地域マイクログリッドのシステムモデル例』)
      (画像出典:経済産業省『地域マイクログリッドのシステムモデル例』)

      このモデル例から、平常時と非常時の電気の流れが異なることが読み取れます。
      平常時には普段通り送配電ネットワークから電気が供給されますが、非常時には送配電ネットワークから独立した運用を行える仕組みとなっています。独立した運用の場合には、地域に存在している太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー発電所を分散電源として活用することが可能です。同様に、蓄電池やコージェネレーションシステムなども重要な電源となります。

      地域マイクログリッドのモデルは、都市部・郊外・離島では、送配電ネットワークの密集度や非常時に期待される役割がそれぞれ異なるため、対象エリアの特性によって分類されます。

      都市部・郊外・離島における地域マイクログリッドには、以下のとおり3つの典型モデルがあります。

      3-1. 都市部における地域マイクログリッド

      都市部には電力の需要が密集し、郊外に比べると送配電ネットワークが密であることが多いとされています。そのため、地域マイクログリッドのシステムも複雑になる傾向があります。具体的には、非常時に送配電ネットワークから切り離すポイントや、非常時だけ電力が流れる部分などが多く、複雑な工事が必要になるとされています。
      主なモデルとしては、停電時の一次的な避難施設などへ電力を供給する構想などがあります。

      3-2. 郊外における地域マイクログリッド

      郊外・半島部・山間部では、災害時に送配電ネットワークの事故などによって停電が起こると長期化する恐れがあります。停電被害を軽減するために、地域マイクログリッドは有効な対策手段だと考えられています。

      対象となるエリアが送配電ネットワークの末端にある場合には、非常時に独立するシステムを比較的シンプルな構成で実施できるとされています。つまり、非常時に送配電ネットワークから切り離すポイントなどが少ないため、都市部と比べてマイクログリッドを実現しやすいと考えられています。

      3-3. 離島における地域マイクログリッド

      離島エリアも郊外や半島部などと同様に、非常時の孤立や長期化が懸念されています。離島という立地から、台風の被害を受けやすい可能性もあります。離島でも、非常時に送配電ネットワークから切り離すポイントなどが少ない傾向にあります。そのため、都市部よりシンプルな構成でマイクログリッドを実現できるとされています。
      また、比較的小さな離島では、島全体をマイクログリッド化する構想があります。

      4. 地域マイクログリッド導入によって期待される効果

      地域マイクログリッドにおいては、対象エリアの分散型エネルギーを活用します。分散型エネルギーとは、比較的小規模で、かつさまざまな場所に分散しているエネルギーの総称で、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーや蓄電池、コージェネレーションシステムといった発電機などのエネルギーを組み合わせて最適に活用されます。

      こうした分散型エネルギーの利活用によって、非常時のレジリエンス強化のほか、エネルギーの地産地消といった効果があるとされています。また、地域マイクログリッドというこれまでにない仕組みを構築することで、地域のさまざまな産業活性化につながるというメリットも考えられます。

      4-1. 非常時のエネルギー供給におけるレジリエンス強化

      非常時には、地域の特徴を踏まえた多様な再生可能エネルギーなどを組み合わせて電力供給を行います。地域の太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーのほか、蓄電池や発電機など複数の電源を組み合わせます。
      電源を分散することで、ある電源がトラブルに見舞われてもほかの電源で電力をまかなうなど、リスク分散がしやすくなります。これによって、災害など非常時のエネルギー供給におけるレジリエンスを強化する効果も見込まれます。

      4-2. 再生可能エネルギー地産地消で送電損失削減

      太陽光発電や風力発電、発電機など地域でつくられた電力を同じ地域内で消費する地産地消の実現につながります。需要地の近くで発電することによって、長距離送電による送電損失を抑えることができるとされています。

      電力と熱の両方をつくることができるコージェネレーションシステムなどを活用する場合には、熱の有効活用も可能となります。こうしたエネルギーの効率的な利用によって、送電損失の削減だけでなく環境負荷の軽減も期待されます。

      4-3. まちづくりと一体化する地域活性化

      地域マイクログリッドを導入することは、これまでの一般的な送配電システムとは異なる仕組みを構築することです。そのため、地域マイクログリッドに取組むことそのものが地域に新たな産業振興をもたらす可能性が考えられます。
      地域マイクログリッドの構築とまちづくりを一体化して取組むことで、地域の活性化につながるとされています。

      5. マイクログリッドの実現に向けた課題

      このように、さまざまなメリットが期待される地域マイクログリッドですが、実際にシステムを構築した地域はまだ少ない状況です。これからの取組みの進展が期待される一方で、実現に向けた課題としては、事業の収益化や関係者との協力、さらなるエネルギーの有効利用といった点が挙げられます。

      5-1. マイクログリッド事業の収益化

      地域マイクログリッドの課題としては、収益の見通しが立ちにくいことが最大の障壁とされています。収益の見通しを立てるには、送配電ネットワークのメンテナンスにいくらかかるのかといったコストに関する情報が必要です。同時に、マイクログリッドが地域や住民にもたらすメリットを具体的に計算することも重要でしょう。コストを抑えながら、継続的に収益を得られる見通しを明らかにし、民間事業者などの取組みを促進することが喫緊の課題だといえます。

      そのためには、既存の送配電ネットワークの技術的な課題や維持管理コストなどが開示され、民間事業者が事業計画を立てやすい環境を整えることが望ましいと考えられています。

      5-2. 自治体や地域の関係者との協力

      まちづくりとも深く関係する地域マイクログリッドの構築にあたっては、地方自治体や民間事業者など地域の関係者との合意形成が必要です。円滑な合意形成のためには、地域の価値を高め、地域にとってメリットのある事業計画を立てなければなりません。

      マイクログリッドが地域の住民にどのようなメリットをもたらすのかについて、多くの関係者に理解してもらうには、具体的な数値として明らかにしなければなりません。マイクログリッドを活用することで暮らしがどれくらい便利になるのか、地域の課題解決につながる可能性があるのかなどを明確にする必要があります。今後は、こうした取組みも進めることが重要だとされています。また、さまざまな立場の関係者との話合いにおいては、全体をとりまとめるリーダーシップも求められます。

      5-3. 再生可能エネルギーのさらなる有効活用

      そもそも、マイクログリッドには太陽光発電や風力発電といった分散型電源を有効活用できるメリットがあります。再生可能エネルギーの活用を助ける電力の需給管理技術もいろいろと開発され、運用されています。

      しかし、再生可能エネルギーは、発電量が気象条件によって左右される変動電源の側面をもっています。刻々と変わる発電量に即座に対応し、さらに活用の効率を高めるには、電力の需要と供給を的確に管理する技術が必要です。特に、電力を使う側である需要を発電の変動に合わせていくための技術が注目されています。

      たとえば、再生可能エネルギーを最大限に活用する電力の需給管理のテクノロジーとして、情報流通ネットワークとエネルギーネットワークの融合による新たなエネルギー流通基盤技術が開発されています。情報流通ネットワークによって、バーチャル空間において需要を細かく予測し、蓄電システムや発電機などを活用しながら需給の調和を図る「仮想エネルギー需給制御技術」が研究されているところです。

      また、既存の交流の送配電ネットワークの各所に直流技術を段階的に導入することで、低コストでシンプルな仕組みをめざすテクノロジーの研究開発も進められています。
      これは、再生可能エネルギー発電所や蓄電池などの直流電力と、送配電ネットワークの交流電力の利点を組み合わせた直交流連系型のマイクログリッドです。

      6. まとめ

      • マイクログリッドとは、平常時には再生可能エネルギーを効率よく利用し、非常時には送配電ネットワークから独立し、エリア内でエネルギーの自給自足を行う送配電の仕組み。太陽光発電や風力発電、発電機といったさまざまな地域に設けられる小規模な電源である「分散型電源」と有効活用できるメリットがある。
      • 地域マイクログリッドの構築にあたっては、都市部・郊外・離島といった地域それぞれの特性に応じた仕組みを検討する必要がある。
      • 地域マイクログリッドのメリットとしては、災害時の停電被害を軽減するほか、地域の再生可能エネルギーや蓄電池、発電機を活用したエネルギーの地産地消が挙げられる。また、まちづくりと一体化した地域活性化に貢献すると期待されている。
      • 地域マイクログリッドの課題としては、マイクログリッドの事業収益化、地方自治体や民間事業者といった関係者間における協力関係の構築、発電出力が変動する再生可能エネルギーを有効活用するための需給管理技術も求められる。
      • 新たな需給管理のテクノロジーとして、バーチャル空間を活用し精密な需要予測を行う仮想エネルギー需給制御技術が研究開発されている。また、既存の交流の送配電ネットワークに段階的に直流電力を組み入れ、低コストで効率のよい直交流連系型のマイクログリッドの仕組みについての研究も進められている。

      参考文献

      日本電信電話株式会社外からの寄稿や発言内容は、
      必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。

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