更新日:2024/07/12
本特集では、2021年10月に発足した基礎数学研究センタの取り組みを紹介する。具体的な研究の紹介を通じて基礎数学の発展や夢、また物理学などの異分野とのつながり、さらには好奇心と自由な発想に基づき探究する基礎数学の考え方や展望を紹介する。

数論・代数幾何・表現論が紡ぐ数学の世界
NTT基礎数学研究センタでは、数学の基礎研究をとおして科学技術の源泉である「知の泉」をより豊かにしたいと考えています。本稿ではまず、NTT基礎数学研究センタでの研究の全体像を俯瞰します。さらに、センタの中心的な研究領域である「数論、特に数論力学系」「代数幾何・数論幾何」「表現論・保型形式」について紹介します。

多様な数学が交差する複素力学系の世界──非アルキメデス的力学系の視点から
複素力学系は純粋数学の一領域です。力学系理論という解析的な領域でありながら、代数学や幾何学などを含めた純粋数学における幅広い分野とのつながりの中で研究が進められてきました。特に筆者はこの複素力学系を、整数論という全く異なる分野で生み出された非アルキメデス的数と呼ばれる数の理論を用いて研究しています。本稿ではこれらの研究の概要とその魅力を紹介します。

モチーフ理論――数・形・圏の織りなす抽象絵画
数論幾何では、数論の問題を代数多様体という図形(幾何的対象)の問題に変換して研究します。代数多様体の情報は、コホモロジーを用いれば線形代数的なデータとして抽出できます。抽出する情報に応じて多様な種類のコホモロジーがつくられていますが、それらは「モチーフ」という普遍的な対象により背後で結び付けられていると考えられています。本稿ではモチーフ理論の概要と、執筆者らによるモチーフ理論の一般化の試みについて解説します。

保型形式とフーリエ展開
フーリエ解析は現代社会においてなくてはならない技術ですが、数学においても同様です。本稿では、保型形式の歴史を振り返りながら、表現論とフーリエ解析そして保型形式のかかわりについて考察します。難しい用語の説明は脚注にとどめ、概念間の関係性に注目しました。最後に、現代の保型形式論に残り続ける困難について述べ、その課題と著者の研究の関係について議論します。

対称性とリー群・リー環の表現論
リー群の表現とは、線形空間の連続的な対称性を抽象化したものです。また、その微分(線形近似)を考えることにより、リー環の表現を得ることができます。これらはフーリエ解析の一般化とみなすことができ、さらに数学のみならず物理学等においても重要な道具となっています。本稿では、リー群・リー環の表現の基本的かつ重要な具体例についていくつか紹介します。また、筆者自身の最新の研究についても簡単に触れます。

行列式に始まる表現論と組合せ論
確率分布の統一的扱いの考察から現れた a-行列式は行列式とパーマネントを補間するものです。それ自体に不変性はありませんが、それが生成する一般線型(リー)群の表現は、その既約分解を通して興味深い不変式を定め、対称関数、表現論、組合せ論、数論、確率論などの未解決予想にもつながる豊かな数学を生んでいます。

力学系に現れる数論的課題
離散力学系の分野では、ある種の図形の変換(自己写像)が与えられたとき、その変換を反復して施すときの各点の漸近挙動を理解することが究極的な目標です。数論力学系の分野においては、特に数論的に興味を持たれる値(代数的数や p 進数)を座標に持つ点の漸近挙動が調べられています。こうしたものの研究に関連して、曲線の有理点決定問題に帰着される課題群があります。本稿では数論力学系におけるこれらの課題の問題意識について紹介します。

光と物質の相互作用とゼータ関数
量子系における分配関数と対応するスペクトルのゼータ関数を知ることの重要性は、物理と数学のそれぞれにおいて等しいものです。本稿では、光と物質の相互作用の背後に隠れる整数論的な構造を、多様な数学を基盤に相互作用の分配関数とスペクトルゼータ関数の特殊値に着目して考察します。