更新日:2024/07/12

行列式に始まる表現論と組合せ論NTT基礎数学研究センタ

行列式に始まる表現論と組合せ論

   
  • α-行列式
  • リース行列式
  • 表現の既約分解

確率分布の統一的扱いの考察から現れた a-行列式は行列式とパーマネントを補間するものです。それ自体に不変性はありませんが、それが生成する一般線型(リー)群の表現は、その既約分解を通して興味深い不変式を定め、対称関数、表現論、組合せ論、数論、確率論などの未解決予想にもつながる豊かな数学を生んでいます。

Cid Reyes-Bustos/若山 正人(わかやま まさと)
NTT基礎数学研究センタ

目次

はじめに

本稿では、リー群の中でも行列の線型変換としての合成で積が定義されている行列のなす群、中でももっとも基本的な一般線型群の表現論の、またその特別な表現論を出発点として、さまざまな数学につながり広がる研究を、未解決予想や探究すべき重要テーマに寄り道をしつつ紹介します。なおリー群とは、群構造を持つ幾何学的対象(微分可能多様体)であり、群構造と可微分構造とが両立しているものです。

集合G.pngが群であるとは、①積3258d3eb6f3be91c6b62a1c8e2db38a1.pngが定義されて結合律acfbddc6e522130c237a5dbe580d2a67.pngが成立、②単位元e0f4a8e3cadad518cf76f47f3b3697e9.pngが存在:すべての354972e68105afc55ce400ca5d8d2c5a.png に対して639714c82834ea3c16792df9620da926.pngが成立、③逆元70ad84e841f2a6192f91e88848337a33.pngがつねに存在する:b20727d3697e01c1465486ad1c9cb03f.png=c110d96296a438407720fa9c70f785d2.png = e.png が成立。
例としては、m.png 個の文字の置換の全体からなるm-.png次対称群 d2a55fa83006e8cb2509a7a0a6ec8e0d.png 、そしてn.png次の実数(複素数)を成分に持つ正則行列(逆行列を持つ行列)全体がなす一般線型群a24b63055c6bd864b4952621a7edd04f.pngなどがあります。後者は本稿で扱う群です。

リー群・リー環の表現論

G.png の表現とはG.pngからベクトル空間V.pngの線型変換のなす群への準同型(ie.png積を保つ)写像31bf0b12546409e15021243132fc7574.pngの組 (31bf0b12546409e15021243132fc7574.png,V.png) です。ここではもっぱら有限次元表現のみを考えます。V.pngが無限次元のときは、位相を入れて考える必要があります。V.pngとして、通常は複素ベクトル空間を考えます。(n.png次元の)V.pngに内積(エルミート内積)を入れて、ユニタリ行列がなすユニタリ群U.png(n.png) を考えることもあります。また、この状況を、群G.pngV.pngに作用している、あるいはV.pngG-.png加群であると言ったりします。さらに、文脈上明白であれば記号31bf0b12546409e15021243132fc7574.pngを省略します。表現論は、量子力学や相対論という革命的な物理理論と並走するように発展したため、用語において数学と物理のニュアンスが混在していることが多くあり、利点とともに戸惑いを生むこともあります。
しかしながら、リー群G.pngは多様体ですので、"曲がっていたり"、連結でないなど、構造が複雑であり線型代数だけでは話が徹底しません。そのため、リー群G.pngを"微分した"リー環 gg.pngというものを可能な範囲で活用します。理論的には道具として不足ですが、本稿では有限次元表現のみを扱うためリー環で事が足ります。実際、幾何学的にはリー環とは単位元e.pngにおける接空間がなす線形空間です。よって線形代数を駆使できます。つまり、リー群の作用からくる変換の無限小変換を考えるわけです。d44be465c392fb1d2eeb4ad3f93c00d1.pngのリー環03bf79b0b77f44a00e3f08e5519cda72.pngn.png次行列全体(全行列環)です。そこでX.png03bf79b0b77f44a00e3f08e5519cda72.png に対して行列の指数写像を考えるとdet (expX.png) =fabf7893c31df66f49f230af6619c4e6.png≠0からexpX.pngd44be465c392fb1d2eeb4ad3f93c00d1.pngが分かります。したがって、d44be465c392fb1d2eeb4ad3f93c00d1.png61bdd52e8c3eacddbb1b8ba980cf175a.png上の多項式f.pngに(gg.png,f.png)(x2.png) =21f826b18d1e45af608f9b9f33559538.pngとして作用するとき、その無限小作用は次のように定まります。5a6bf466f99c1de002a43bfe0bcb9c93.png

α- 行列式の表現論研究の契機

確率論の文脈で定義されたb66d11c774df0ef96f0bc9805718892f.png行列式は行列式の拡張であり、行列式とパーマネント(行列式の定義において符号がないもの)を補間するものです。以下で採用するb66d11c774df0ef96f0bc9805718892f.png行列式の定義によると、それはalpha2.png = −1のときに通常の行列式となり、alpha2.png= 1のときにパーマネントとなります。b66d11c774df0ef96f0bc9805718892f.png行列式という名称は白井・高橋(1)に沿ったものです(b66d11c774df0ef96f0bc9805718892f.png行列式は(2)において、最初はb66d11c774df0ef96f0bc9805718892f.pngパーマネントとして導入されました)。そこでは、昨今の金融時系列データ解析などで重要な、ボゾン点過程、ポアソン点過程、フェルミオン点過程の一般化となる点過程の構成を目的にb66d11c774df0ef96f0bc9805718892f.png行列式を用いました。しかしながら、b66d11c774df0ef96f0bc9805718892f.png行列式(alpha2.png≠ −1) はdet(AB.png) = det(A.png) det(B.png) のような乗法性を持ちません。それでは
疑問1:積の性質(乗法性)はいったいどこに行ってしまったのでしょう?
行列式はd44be465c392fb1d2eeb4ad3f93c00d1.pngの1次元表現を定めます。パーマネントが定めるのは1次元表現ではありませんが、対称テンソル積が張る空間上に既約表現を定めます。ここで既約表現とは、{0}と自分自身V.png以外に群G.pngの作用で不変な部分空間がない表現のことを言います。気分としては、(1と自分自身以外に約数がない)素数や素粒子のようなものです。では
疑問2:一般のalpha2.pngの場合、群で動かすとどんな空間を張るのでしょう?
以上はb66d11c774df0ef96f0bc9805718892f.png行列式が定めるd44be465c392fb1d2eeb4ad3f93c00d1.pngの表現論を考える契機となった疑問です(3)

α- 行列式

b66d11c774df0ef96f0bc9805718892f.png 行列式はパラメータalpha2.pngによる行列式の変形であり、正方行列A.png=490093ede900ae003c93e2b329c0b27d.pngに対して式(1)のように定義されます。ここで58fd64eb29838192a61ec141f56c6d6b.pngbd03d255a884b11eed39757c030df4f0.pngのサイクル分解に現れるサイクルの個数です。以下では v2.png(dee.png) : =n.png58fd64eb29838192a61ec141f56c6d6b.pngとおきます。v2.png(dee.png) はdee.pngを互換の積として表す際に必要となる互換の個数の最小値にも等しいことに注意しておきます。
Vere-Jonesの定理(2)は、a09aeaacb60a1908ebb17fbc7a8d3259.pngの展開が次のようにalpha2.png行列式を使って書けるというものです(式(2))。この等式の発見の経緯と応用については 参考文献(4)を参照ください。
74da2ccc78bfe39bd7d4f740e0c0c36d.png

4693932c6461c8d99b700da52f4e1ce4-500x51.png

表現論の準備

d44be465c392fb1d2eeb4ad3f93c00d1.png とそのリー環03bf79b0b77f44a00e3f08e5519cda72.pngの有限次元既約表現(既約c2eca1124d3bc78b99ced08bfb7b006a.png- 加群)は、最高ウェイトというものでパラメトライズされることが知られています。その背後には、d44be465c392fb1d2eeb4ad3f93c00d1.png18d8a6814332655fbfe940be4b722cee.pngへの標準的な作用に対して、m.png個のテンソル積空間9320d62d3a0833b5cf0db2c19d858270-1.pngに対する自然なd44be465c392fb1d2eeb4ad3f93c00d1.pngの作用を考えると、m.png個のテンソル積の間の置換として働く対称群 d2a55fa83006e8cb2509a7a0a6ec8e0d.pngの作用が(互いに精一杯に)交換可能という事実から導かれる双対性があるからです。これが有名な Schur-Weyl 相互律です(5)。また、最高ウェイトは分割というものと同一視できます。ただし d.pngn.pngの分割とはn.png=f1f9695cb58114b3d169b05d12bd92d5.pngといい、このときc.pngn.pngと表します。l.png(c.png) でc.pngの長さ(非ゼロ成分の個数)とします。分割c.pngとそれが定めるヤング図形
686349efa68e7996107657e9b859eb7b-1.png
をしばしば同一視します。またヤング図形を「左揃えで、上からi.png段目に92a4e62896dc51c4b378f8b1d3212611.png個の箱を並べたもの」と図示します(図1)。Stab(c.png) でc.pngのヤング図形に対する標準盤の全体がなす集合を表します。ここで標準盤とはn.png個の箱に 1,2,... ,n.pngの数を「各行で数は左から右に増加、各列で数は上から下に増加するように入れた」ものです。

図1 ヤング図形ー分割の視覚化
01-10.jpg

α- 行列式が生成する巡回加群

一般線型リー代数 03bf79b0b77f44a00e3f08e5519cda72.png3dcaa8f38189ee4bdcd5cd9eabf083e7.pngに関する多項式(がなす)環 de2d5fc4609ece40b5be4cf64f37e1de.pngへの作用は合成関数の微分法より

bfc70dfb715963416f8fe89e329d426b.png


ただし 68c7a038334ce891861347ca1e70a867.png (1 ≤ i.pngj.pngn.png ) は 03bf79b0b77f44a00e3f08e5519cda72.png の標準基底(行列単位)です。X.png = f9f7c991604161041003a0e3fa9fa2aa.png として、32d30c9b84559f2d2db62a847e49809d.pngが生成する巡回 03bf79b0b77f44a00e3f08e5519cda72.png-加群を 452d23d268f82a2de557ca3bfe0dd622.png とします。つまり 452d23d268f82a2de557ca3bfe0dd622.png は、32d30c9b84559f2d2db62a847e49809d.pngde2d5fc4609ece40b5be4cf64f37e1de.png03bf79b0b77f44a00e3f08e5519cda72.png のあらゆる元を任意回作用させて、そのすべてで張られるベクトル空間(加群)です。 alpha2.png = −1のときは 32d30c9b84559f2d2db62a847e49809d.png = det X.png なので f68a0f370631ec4df102312231ad6cc2.png = cc.png ⋅det X.png です。したがって、452d23d268f82a2de557ca3bfe0dd622.png の構造を調べるという問題は疑問1と疑問2双方への回答をめざすものです。
定理 2.1 (3)ed87a7e485b160832a0fb574733bba52.png を最高ウェイト c.png を持つ既約 03bf79b0b77f44a00e3f08e5519cda72.png -加群とする。このとき 452d23d268f82a2de557ca3bfe0dd622.png は次のように既約分解される:
ace62f14000797a80ed7fa6d88091fa9.png
ただし a8ccaa28ceb351d1dd48db222d4f7c6c.png : = |Stab( c.png )|(元の個数)、64fbf6f939edbf0f6bf176753347469e.png : = 7795e78f0321ad855d61b1b87f87b92a.png (1+ ( j.pngi.png ) x2.png )(分割 c.png の content polynomial)である。
この定理は、alpha2.pngf3842dfdedfb77319e752d49dd68e03f.png であれば、452d23d268f82a2de557ca3bfe0dd622.png は標準表現 c3.png のテンソル積 e4bfcbda8587d77b4dacbaea4e273685.png に同値であり、alpha2.png が| n.png |未満の整数の逆数となる場合に構造の退化が起こる、という状況を示しています。
この問題の自然な一般化として、冪 b2c77b3d42c4e2577ede5895838297ac.pngが生成する巡回 c2eca1124d3bc78b99ced08bfb7b006a.png- 加群の構造を調べる問題があります。この場合、既約分解に現れる各最高ウェイト加群に、組合せ論的に非自明な重複度の評価が現れます。この重複度の評価は一般的に困難です。ただし n.png = 2 のときは、対称群とそのヤング部分群の対 fc5e78cc9a25cb77410a45698de94c18.png がゲルファント対と呼ばれるものとなり、ゲルファント対に対する帯球関数の値が超幾何多項式を用いて書けるという事実から、重複度を明示的に表す公式が得られます(6)。一般の場合は具体的な予想すらできていませんが興味が尽きない問題です。また、対称関数の理論においてもっとも古典的で根本的な問題の1つにプレシズム(7)といわれるものがあります。参考文献(8)では 9a4526cc91419d96dfd13f7373e8150b.png(パーマネント)の冪に関してそれが生成する巡回加群の構造からプレシズムについて対称テンソル積に関するある予想を提示していますが、高次の冪 l2.png の場合は大変難しく、 = 2では任意の l2.png に対して確認できるものの、n.png = 3 のときでさえ l2.png = 2 の場合しか確認できていません。また対応する研究は量子群の場合にも進められています(9)。特に n.png = 2 の場合に、上述の重複度が ae46b1f460ee46f789c27b264a6cb421.png- 超幾何多項式と超幾何多項式の両者! が混ざり合った多項式で表示され、ふしぎな魅力を感じます(10)(11)

リース行列式

alpha2.png 875ccdc18c75ad6795b12a3026d5f949.pngのときにb66d11c774df0ef96f0bc9805718892f.png行列式が生成する巡回加群は退化するのでした。この特殊性を注意深く眺めると、alpha2.png=875ccdc18c75ad6795b12a3026d5f949.png のときb66d11c774df0ef96f0bc9805718892f.png行列式に弱い交代性が見つかります。実際、1, 2, ...,n.pngから任意に + 1 文字を選び、他を動かさない置換全体からなる3c83263212ea03bcb06f600dacaf5f44.pngの部分群をk2.pngとするとd5b421d2b50ac837a40b590c399671c5.pngは、( 1 + c)( 1 + 2alpha2.png) ... ( 1 +k.pngalpha2.png)(A.png61bdd52e8c3eacddbb1b8ba980cf175a.png) を因数に持ちます。つまり704d8391142c306552fc6652b12de4a1.png= 0 となりA.pngの列のうち k.png +1個が一致すればd529f7f50ae16d91156cfaf8b0768271.pngA.png = 0 が分かります。またp3.pngdee.pnge7f20346632ced7ccf1c48efb3ead5e3.pngに対する置換行列とすると42ce66a0bd680f531f3c1d92269f56a2.png=a34b57494d8269798f3a3407a42e9daa.pngにより、行についても同様です。この弱い交代性のおかげでヴァンデルモンド行列式やコーシー行列式といった特殊行列式の類似も得られます(12)

リース行列式と不変式

すべての成分が1であるp.png×ae46b1f460ee46f789c27b264a6cb421.png行列を3ab879e8f432bd322e8c31c6cdb4c560.png とします。f1e878cc7f3e31f3073b97cd32a98e89.pngに対してそのk.png- リース行列式を以下で定義します。

67c681dd903b35d800b7ab3042260fd6.png


例えば、リース行列式(式(3))は、以下のように行列式と類似の特徴付けを持つ左 -GLk.png ,右 -73cef5e37e6d10ff4a6e15692b0d8451.png3c83263212ea03bcb06f600dacaf5f44.png相対不変式です。ここで73cef5e37e6d10ff4a6e15692b0d8451.png3c83263212ea03bcb06f600dacaf5f44.png73cef5e37e6d10ff4a6e15692b0d8451.png3c83263212ea03bcb06f600dacaf5f44.pngのリース積と呼ばれ、(2つの群から新しい群をつくる)群の半直積という概念を通して構成されるものです。
定理 3.1(12)。 写像f.png:2ee5cbf37b7b3bb2efd25c190aefd448.pngcc.pngであって以下を満たすものは定数倍を除いてA.pngcf761d27eda6343d076d3911418241b8.pngに限る。
1.f.pngは列に関して多重線型写像、
2. 任意のQ.png61bdd52e8c3eacddbb1b8ba980cf175a.pngに対してf.png(Q.pngA.png) =cf1f78c42dbb2198af4d866c29dbc386.png。特に左 -GLk.png- 相対不変、
3. 任意のdee.png73cef5e37e6d10ff4a6e15692b0d8451.png3c83263212ea03bcb06f600dacaf5f44.pngに対してa4c451359dc5fac14a54405666379e15.png= ±f.png(A.png)。特にdee.png48c6fd8b297912390cf9e6c88e47238c.pngに対してa4c451359dc5fac14a54405666379e15.png=f.png(A.png)。
この定理の背後にはe5f6fea7911c5664c7c1920209301ed4.png-dualityという双対性があり、それを用いれば簡潔に導かれますが、(記号を適切に準備すれば)初等的かつ直接的にも証明できます。
52534b915146604816bedfb0b1f4ee03.png

リース行列式が定める群・部分群の群行列式アナログ

有限群の指標理論はフロベニウスによって始まりました。そのときに群行列式が重要な役割を果たしました。群行列式は、有限群G.pngに対し、不定元239cb82f726f0a8c76adf6adb4ff4705.png(gg.pngG.png) を用意して
905f301829f116969cc17b3af3ddff01.png
と定義されます。群行列式は群の同型類に関する完全不変量です。すなわち、次が成立します。
66447857ca3512da3c6c1a03a198dd1a.png
フロベニウスは自身が基本定理と呼んだ重要な定理、現代的にいうと群の正則表現(G.pngG.png自体の群環に作用)の既約分解を与えました。このフロベニウスの成果は1896年にデデキントがフロベニウスに宛てた手紙が発端でした。デデキントは有限アーベル群に対して群行列式がどのように分解するのかを示したうえで、非アーベル群のときには群行列式がどのように分解されるかをフロベニウスに手紙で尋ねたのでした。表現論が創始された瞬間です。
さて、k.png-リース行列式はn.png×k.pngn.png行列に対して定義されるので、有限群G.pngとその指数 の部分群H.pngのペア(G.png,H.png) に対して群行列式の類似を
f05ff80f512d5d8482702794f97e7541.png
と定めたくなります。しかしながらリース行列式には列の入替に関する相対不変性がありませんので、この定義は行列成分の並び順に依存します。そのため、群の元に名前・番号を付与して定義する必要があります。今、全単射6170a69e6e40c79225af0d96f3726a30.png: {0, 1, ...,k.pngn.png−1 } →G.pngを1つ固定して、812dc5f7e80855f8291b928e241b7ecb.pngと書き、これをG.pngの元の番号付けと呼ぶことにします。ここで、cc.png-代数(例えば( k.pngn.png−1) -変数の多項式環)A.pngを考えてf.png:G.pngA.pngを1つ定めることで特殊化と呼びます。G.pngが有限アーベル群のとき、G.pngの元に番号を付け、701b1e639eea2624d360a98fb756afa2.png という特殊化を選ぶと、kigou.png(G.png,H.png)が 57c4ca6260161cadd6349f4685af4a79.png − 1 の形の因数たちの積にきれいに分解することなどが分かります(13)。具体例を1つ挙げます。そのため、分割23b36745aa7c7fbc002d2cbf0ada5b31.png= (k, ... ,k) ⊢k.pngn.pngに対応する7f876e5de7cb2ac0f54e3e4310856014.pngの既約指標1063e6e92a995ce36bff87748684c73d.png48c6fd8b297912390cf9e6c88e47238c.png上で平均して得られる両側 48c6fd8b297912390cf9e6c88e47238c.png- 不変な7f876e5de7cb2ac0f54e3e4310856014.png上の関数7e42630c3bdd8e7972060a098dc149b4.pngを式(4)で定義しておきます。
例 3.1.G.png=z.png×z.png,H.png=z.png× {0} のとき、式(5)でdee.png,t.png40f0bd63cb65b37df6273eba42d33049.pngp2.png(t.png) =c486565494dae152a31d7d08cc766695.pngc486565494dae152a31d7d08cc766695.png,a2b5b9c764e05e3a265ef7572b59dd80.png676436e12618e9c7edffad2cdbbcd457.png= (676436e12618e9c7edffad2cdbbcd457.pnga2b5b9c764e05e3a265ef7572b59dd80.png)p3.png から定まり、式(6)が得られます。特にn.pngが3以上の奇数ならばkigou.png(G.png,H.png) = 0です。
しかしながら現時点では、群・部分群行列式による新しい理論は構築されていません。ただし、2つの興味深い研究が生まれました。木本によるAlon-Tarsi 予想との関連と、もう1つは群・部分群による新しいグラフの構成です。

e72b7d67f3355561c6e05662153f5121.png
9e3bdc9ec0022c690fd4668993a2bbf3.png
d2ce5ea679c33b5d5cf882388f3e3d25.png

Alon-Tarsi 予想

各行・各列の成分が 1 ∼n.pngの順列となっているn.png次行列をn.png 次のラテン方陣と呼びます。例えば3次のラテン方陣は図2〔下、右、左(実際の場所に依存します)〕にリストアップしている12個です。n.png 次のラテン方陣L3.pngに対してその符号sgnL3.pngを行と列の置換の符号の積として定めます。SgnL3.png= 1 のとき偶方陣、sgnL3.png= −1 のとき奇方陣と呼びます。n.pngが奇数であれば、互換(1,2) に対して38112571640909acbb65958a34e2df67.png=01ece1be43be2dd4bea47508b5684998.pngですので、両者間の全単射が導かれ、n.png次の偶方陣と奇方陣が同数であることは明らかです。一方で、
予想 3.2 (Alon-Tarsi予想(1992))。n.pngが偶数のとき、n.png次のラテン方陣において偶方陣と奇方陣の個数は異なる。
これは、元々はグラフのある種の彩色問題に由来する予想でしたが、グラフ理論を離れたところでも、n.png次元ベクトル空間のn.png個の基底の合理的な選択可能性に関するRota予想や特殊ユニタリ群SUn.pngのsquare-free座標関数積のハール測度(SUn.png-両側不変測度)によるSUn.png全体での積分の非零性などの同値命題や、そこから従う非自明な命題もあり興味深いものです。そうした中、木本はリース行列式を用いた新しい同値命題を発見しました(12)
定理 3.2 n.pngを偶数とする。このときn.png次のラテン方陣に対するAlon-Tarsi予想は以下の3つのそれぞれと同値。
3.png


ただしg2.pngGn2 g2.png (( i.png - 1 )n.png +j.png ) =( j.png− 1 )n.png+ i.png( 1 ≤i.pngj.pngn.png)なる置換であり、d9cc4e27bf8a21c141d580d8f573141b.png は{( i.png− 1 )n.png+j.png| 1 ≤j.pngn.png}(i.png= 1, ... ,n.png) たちを保つような置換の全体がなす40f0bd63cb65b37df6273eba42d33049.pngの部分群である。
容易に確かめられそうな風貌をしたAlon-Tarsi予想ですが、数論や組合せ論でしばしばみられるように手強い相手です。時点での最良成果は、p.pngを奇素数として、n.png=p.png + 1 の場合のDrisko(1997)、n.png=p.png− 1 の場合のGlynn(2010)による証明です(14)。なお、後者については、リース行列式を用いた別証明が木本(15)(16)により得られています。ところでラテン方陣の個数 ls(n.png) については、かなり弱いものですが漸近公式ls 99806461213c2b9beaf0324b6fe9e01e.png7471a1a51835b13c902dcc8b9002c2f2.png が知られています(17)。偶奇方陣の個数についても漸近的には大体等しいようです(そのため、予想の解決が難しいといってもよいでしょう)。そこで新しい研究課題を挙げておきましょう。
問題 3.3 次の比例式が成り立つようなラテン方陣ゼータ"e8ae3901e5fadb14adfb50c56ca430c3.png"を(あれば)見つけよ。
究極の素数定理(↔リーマン予想): リーマンゼータb454c1d3b0a8ac43a403b4c48c85ab45.png=Alon-Tarsi予想 :e8ae3901e5fadb14adfb50c56ca430c3.png

図2 リストアップした12個の行列
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群・部分群ペアグラフ

グラフ理論においてラマヌジャングラフというものがあります。ラマヌジャングラフはスペクトルグラフ理論的に"最良の"高拡散性・急撹拌性を持つエクスパンダーグラフです。ラマヌジャングラフはその性質から、例えば暗号学的ハッシュ関数の構成といった応用を持つため重要です。またグラフがラマヌジャンであることはそのグラフのゼータ関数がリーマン予想の類似を満たすことと同値であり、数論的観点からも興味を持たれてきました。ラマヌジャングラフの無限族を具体的に構成することは重要課題の1つで、Lubotzky-Phillips-Sarnak(1994)によるハミルトン四元数環とその極大整環を用いた有限体上の射影線型群に対するケーリーグラフとしての構成や、Pizer(1990)による有限体上の超楕円曲線の同型類の間の同種写像を用いた構成が有名です。ここでケーリーグラフとは、(有限生成の)群G.pngの各元を頂点とし、生成元をかけることによって移る元を辺でつないだグラフです。前者では、実際にp.pngが4を法として1と合同な素数であるときに(p.png+ 1 )-正則ラマヌジャングラフの無限族を構成しました。
新しい方向としては、ケーリーグラフの拡張である群・部分群ペアグラフ(有限群とその部分群および群の適当な生成系から定まるグラフ、図3に対してハッシュ関数を定義し、その暗号学的な安全性に関する問題の定式化があります(18)。ここで群・部分群ペアグラフg5.png(G.png,H.png,s.png) とは、群G.pngとその部分群H.png、そしてs.pngH.pngが対称となる部分集合s.pngG.pngをとりケーリーグラフのように定義される一般には非正則なグラフです。まりg5.png(G.png,H.png,s.png) はG.pngの各元を頂点としてhpng.pngH.pnggg.pngG.pngに対して条件hpng.pnggg.pnggg.png=hs.png( s2.pngs.png)なる関係∼を満たすとき辺としてつないでできるグラフです(19)。群・部分群ペアグラフによりラマヌジャングラフを構成することができますが、無限族の構成には至っていません(図3(b))。応用上も背後の数学の進歩という点からも無限族の構成は大きな目標です。

図3 群・部分群ペアグラフ
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正の特異値をめぐって:Wishart 分布、Wallach 集合、α-行列の正値性

負の特異値に対するリース行列と同様に、alpha2.png=43edb325536dcf65cdc60dc5e5000683.pngのときに期待されるパーマネント的な構造の研究は自然です。探究のヒントになりそうなことを述べて本稿を閉じたいと思います。ユークリッド空間における凸錐上の正定値関数を考えることは最適化問題にも応用があります。ところで、対称錐上(リー群の対称空間)の正則関数がなすヒルベルト空間の解析、ユニタリ表現論において、いわゆる Wallach 集合という重要で一般的な概念があります。対称錐上の積分核においてWallach集合は本質的に正の特異値 43edb325536dcf65cdc60dc5e5000683.png の逆数たちで与えられます(20)
統計学にWishart分布というものがあります。それはx2.png二乗分布の多変数一般化であり、半正定値対称行列に対する分布です。互いに独立なn.png個の7a970621914ca27e398e3b057286cf12.png変量の確率ベクトル 72efb7d5cb158c3d307fd787372c321b.png (n.png7a970621914ca27e398e3b057286cf12.png) が、平均が0、共分散行列がsigma.pngの多変量正規分布n2.png(0,sigma.png) に従うとき、X.png=3585419aad012fc838c2ca0150eb1e08.pngは自由度n.pngのWishart 分布に従います。Wishart分布は標本サイズでスケーリングされた後、多変量正規乱数データに対する標本の共分散行列の分布のモデルとして多くの場合に使用される重要な分布です。Wishart分布は対称半正定値行列がなす対称錐との関係から、いわゆるジョルダン代数の表現論(20)の応用分野の1つです。一方で、9fd651089d8ed4ede177363464a46d24.png- 行列式はこのWishart分布を用いての確率論的な表示を持つことが知られています(21)。このことを利用して白井は、非負定値の実対称、あるいはエルミート行列の場合に9fd651089d8ed4ede177363464a46d24.pngがそれぞれ 1c280a3dc4966a8dcdd81d9f3c09d3d9.pngb47dde04862cd7a943072f8d9292b7b9.png のときにその9fd651089d8ed4ede177363464a46d24.png- 行列式の非負定値性を示しました。証明にはJack多項式(7)といわれる重要な対称関数による議論が要となっています。本質的に、これらの値は本稿の負の特異値に一致しています。理由の解明が必要です。

■参考文献

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  5. (5)W. Fulton and J. Harris:“Representation Theory:A First Course(Graduate Texts in Mathematics, 129), Springer, 1991(木本(訳):“フルトン-ハリス表現論入門 上・下,”丸善出版, 2023-24).
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  10. (10)K. Kimoto:“Quantum alpha-determinants and q-deformed hypergeometric polynomials,”Int. Math. Res. Not., Vol. 2009, No. 22, pp. 4168-4182, 2009.
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  15. (15)木本:“ラテン方陣に関するAlon-Tarsi予想と対称群上の帯球関数について,”数理解析研究所講究録, Vol.2039, pp. 193-210, 2017.
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  17. (17)J. H. van Lint and R. M. Wilson:“A Course in Combinatorics(2nd ed.),”Cambridge University Press, 2001.
  18. (18)C. Reyes-Bustos:“Towards hash functions based on group-subgroup pair graphs. in“Mathematical Foundations for Post-Quantum Cryptography",” Springer, 2024.
  19. (19)C. Reyes-Bustos:“Cayley-type graphs for group-subgroup pairs.”Linear Algebra Appl., Vol. 488, pp. 320-349, 2016.
  20. (20)J. Faraut and A. Koranyi:“Analysis on Symmetric Cones(Oxford Mathematical Monographs),”Oxford,1995.
(左から)Cid Reyes-Bustos/若山 正人
(左から)Cid Reyes-Bustos/若山 正人

ごく特殊なものに着目することから始めるものの、表現論を通して多様に広がっていく数学研究の一端を見ていただければと思い本稿を執筆しました。ご紹介したのは一部ですが、解くべき問題は山積みです。

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