『NTT R&Dフォーラム2020』 開催報告

基調講演2

Into the IOWN
限界打破のイノベーション

川添 雄彦 NTT常務執行役員 研究企画部門長 工学博士

本稿では、「Into the IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)限界打破のイノベーション」について紹介します。本記事は、2020年11月17~20日に開催された「NTT R&Dフォーラム2020 Connect」での、川添雄彦 NTT常務執行役員研究企画部門長の講演を基に構成したものです。

人類が背負う未知なるリスク

今回の新型コロナウイルスで人類は未知なるリスクを背負う存在であると多くの人が認識したことと思います。21世紀の今日でも人類はさまざまなリスクにさらされています。2015年に公開された文明を脅かす12のリスクというレポート(1)では世界規模のパンデミック、異常気象、核戦争、政治の失敗による国際的影響、そして隕石の到来などが挙げられています。こちらは地球に接近する隕石の現在の発見数です。平均して1週間に30個ほど新しい隕石が発見され続けています(図1)。現在の観測技術ではまだ発見できてない隕石があるということです。このグラフのオレンジと赤で示す隕石は大都市をも破壊できる140m以上の危険な隕石です。私たちはさらなる技術革新を進めてこの危険な隕石の発見を加速する必要があります。

図1. 地球近傍の隕石の累積発見数

一方パンデミックについてはどうでしょうか? コンピュータシミュレーションの観点からみてみましょう。スーパーコンピュータでは新たなウイルスの特徴やその動きをシミュレーションするのに、だいたい年単位の時間がかかります。新しいウイルスに対して本格的な対策をつくり出すのに、1年以上もかかるということです。もし劇的に短い時間で新型ウイルスのシミュレーションを行い、どのような人が重篤化しやすいのか、どのような行動が感染拡大につながりやすいのかなど、予測把握することができたら、より効果的な対策を迅速に取ることができるでしょう。しかしこのシミュレーションを高速化するためには現在のコンピュータが直面している消費電力、性能限界となっている熱問題を突破しなければなりません。私たちの今保有している技術、これでは人類の明るい未来を実現するためには、まだ不十分だと思います。

価値を生み出すデジタル化

それでは私たちは何をすれば良いのでしょうか。これまで情報通信技術はデジタル信号処理を導入することで高速化、汎用化、効率化を進めてきました。生活やビジネスを“より豊かに経済的に実現”する。そこに対して貢献してきたといっても良いと思います。しかしあのパンデミックを経験して私たちは認識しました。課題は1つではないのです。いろんな問題が複雑に重なり合っていて、それを解決するための価値も、1つではないです。世界にはさまざまな価値が存在し、さらにこれは不変でもないのです。その時々に必要な新しい価値を生み出すデジタル化、これが本当に今後求められていくことではないかと思います。

昨年のNTT R&Dフォーラムで環世界の考え方を紹介しました。ドイツの生物学者ユクスキュル博士が提唱した環世界なのですが、生物にはそれぞれの情報認識処理なり、それに応じて世界が形成されるという理論です。同じくドイツの哲学者カントが発表したコペルニクス的転回はこのユクスキュル博士の環世界のベースとなった考え方で、まず世界が存在してそれを人間が認識するという発想ではなく、世界は人間の認識の形式が成立させた現象であるというもので、すなわち私たちすべて異なる環世界で生きているということになります。例えば私たち人類にはこのように綺麗に花が見えているこの世界が、餌となる蜂の蜜に価値が置かれた世界になり、次に爬虫類の蛇が見ている世界では、餌となるネズミが価値となる世界になります(図2)。それぞれの固有の環世界が存在することをご理解いただけたかと思います。

図2. 生物固有の環世界

新たな価値を生み出すことができたデジタル化の事例を紹介します。歌舞伎ではファンの高齢化が進み、若い人が観に来てくれないという問題を抱えています。そこで若い人と歌舞伎の大好きな高齢者の2つの環世界を融合する試みをしました。歌舞伎俳優の中村獅童丈とボーカロイドの初音ミクの共演です。今まで歌舞伎に興味がなかった若者が夢中になって歌舞伎を見てコメントとして歌舞伎伝統の掛け声を叫んでくれています。また昔からの歌舞伎のファンも初音ミクや最新技術によってできる新しい演出、この良さを感じてくれました。2つの環世界を融合することで、新しい価値を生み出すことができたと、これが私たちのめざすべき新たな価値を生み出すデジタル化というふうに思います。
人類の未知なるリスクへの対応、新たな価値を生み出すデジタル化を推し進めるために昨年5月にIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を発表しました。本構想ではネットワークから端末そして情報処理まですべてに革新的な光技術を導入することにより、情報処理基盤の性能向上の壁である熱問題を解決し、消費電力、伝送容量、遅延時間の大幅な性能向上を図ることをめざします。まさにこれは限界打破のイノベーションです。

IOWN構想の進捗

次にIOWN構想の具体的な進捗内容について説明していきます。昨年IOWN構想では大きく3つの要素として説明しました。それはオールフォトニクス・ネットワーク、デジタルツインコンピューティング、コグニティブ・ファウンデーションです。このIOWNの起源は2019年4月に発表した世界最小の消費エネルギー1.6 fJ/bitで動く光のトランジスタの発明ですが、この光のデバイス開発はさらに進展しました。11月には世界で初めて超高速と超低消費電力を両立した全光スイッチ、そして2020年3月には世界初の光の干渉だけで任意の論理演算ができる超高速光論理ゲートの発明を成し遂げ、光技術の可能性を格段に広げることができました(図3)。こうした光デバイスの進展を踏まえ今回はIOWNの上に構築する3つの共通基盤として、光ダイレクト多地点接続、エクストリームNaaS(Network as a Service)、そしてデータセントリックコンピューティング基盤を紹介していきます。さらにこの3つの共通基盤によって創出されるさまざまなサービスを紹介したいと思います(図4)。

図3. 光デバイスの進展
図4. IOWNの構想

共通基盤

(1) 光ダイレクト多地点接続技術

光ダイレクト多地点接続技術では、光のインタフェースによって大容量光パスを実現します。エンド・エンドを光のパスでつなぐことにより、低遅延で大容量通信、高精度な時刻同期、多地点へのマルチキャスト、AIで高度化された自然な情報通信が可能となります。光の波長ごとに機能別専用ネットワークをつくることができます(図5)。ネットワーク形状は光のリング型構成として高い信頼性と迅速なエリア展開が可能となります。またこれまで新たな需要が発生するごとに心線を増設する必要がありましたが、需要に応じて光の分岐を追加し、最小限の光ファイバで広いエリアをカバーしていきます。大容量光パスをダイナミックに提供することが可能となるのです。この光分岐の技術は、特殊な光ファイバの研磨加工分岐接続技術によって実現されます。この技術によってネットワークを止めることなく、光分岐が可能となるのです。

図5. 光ダイレクト多地点接続
(2) エクストリームNaaS

エクストリームNaaSは強靭で柔軟なネットワークサービス基盤を提供します。IOWNの革新的光技術およびコグニティブ・ファウンデーションのマルチオーケストレータによって移動網と固定網が物理的にそして機能的に融合していきます。移動と固定のそれぞれのメリットが享受可能となります。すなわちネットワークのこの違いを超えた新たな強靭な移動固定融合型サービスが創造されます。ユーザはどのネットワークを利用しているのか全く意識することなく、利用環境が変化してもサービスを安定して利用することが可能です(図6)。北海道岩見沢市でのトラクターの自動走行においては、先読み予測でつながり続けることを実現いたしました。今まで、ローカル5G (第5世代移動通信システム)、5G、BWA(Broadband Wireless Access)などの別々のネットワークの間のハンドオーバはできませんでしたが、この基盤によってネットワークが切り替わってもつながり続けられることを可能にしています。

図6. エクストリームNaaS

移動網と固定網はこれまでそれぞれ提供するサービスが違っていたのでネットワークシステムも異なっていました。理由は機能レベルそれから性能レベルが異なるためでありました。一方、2000年代ぐらいからホワイトボックススイッチに代表されるようなネットワーク装置のオープン化が進展してきました。カスタムチップではなくて汎用チップを用いて、ハードウェアとソフトウェアを分離していくという考え方です。そのためこのアプローチでは、さまざまな用途で対応可能な汎用装置が実現でき経済化が可能となります。このアプローチは5GのRAN(Radio Access Network)、いわゆるvRAN(Virtualized RAN)にも今展開されてきています。しかしこの汎用チップを用いているために、どうしてもカスタムチップを用いる専用装置と比べてしまうと性能面でおよばず、その用途は非常に限定的でした。これに対してIOWN構想では光電融合技術によって汎用チップの高性能化を図りこの課題を解決したいと考えています(図7)。これによって移動網と固定網、これが両方共通に利用可能なシステムを実現したいと思います。

図7. 移動固定融合時代の新しいシステムアーキテクチャ
(3) データセントリックコンピューティング基盤

データセントリックコンピューティング基盤はデータすなわち情報を主体として構成する全く新しいICT基盤でこれまでのIPセントリックに変わるものです。左側がIPセントリック、右側がデータセントリックです(図8)。現在、ネットワークはその情報の違いによらずIPパケット、 TCP/IPプロトコルで情報のやり取りがなされています。しかし本来情報の種別ごとにその特性とかあるいはその利用法が異なりますから最適な伝送方式と処理方式が存在します。このデータセントリックな基盤を実現するための新しいコンピューティングアーキテクチャを提案します。
現在のコンピュータアーキテクチャでは、大規模情報処理を行うために複数サーバを高速ネットワークに接続して計算処理能力の向上を図っています。しかし、パケットの待ち合わせ遅延時間が大きな問題となります。提案するこのフォトニックベースのディスアグリゲーテッドコンピューティングでは光のI/Oを有する複数のメモリ、CPUを直接、光データ伝送でつないでいきます。この超高速大容量データ伝送を可能にするために、800 Gbit/s級光電融合デバイスの実現へ向けて超高速処理を行うシリコンフォトニクスチップを今回試作しました。この新しいコンピューティングアーキテクチャにより従来の消費電力による熱問題、処理限界を解決しシステムの大幅な性能向上が可能となります(図9)。

図8. データセントリックコンピューティング基盤
図9. フォトニックディスアグリゲーテッドコンピューティング

新たなサービス

次にIOWNによって提供される、さまざまなサービスを紹介します。

(1) ウェルビーイング

より幸福に生きるために将来を豊かに導く未来予測サービスが期待されています。自分自身の将来の変化、予兆、現時点の体調などの可視化とシミュレーションがポイントになります。しかしながら、現在も個々人の「体」のシミュレーションということはどこでも実現されていません。そこで私たちは非侵襲な血液・心電センシング技術を搭載したデジタルツインデバイスによって生体情報を取り込み、ヒトのデジタルツイン、すなわちバイオデジタルツインを作成したいと考えています。作成したデジタルツイン上でシミュレーション、未来予測を行い、診断や治療における個人ごとの症状の把握、薬の選択、疾患の予防、さらには未知なる自分の発見にも貢献していきます。このようなバイオデジタルツインを作成するためには正確に身体情報を把握可能とするデジタルツインデバイスが必要となります。その1つとして現在研究開発中のAIテレ聴診器を紹介します。これは18チャネルの装着型音響センサで、体のさまざまな場所の生体音を同時に収集し高品質、高音質で遠隔地に伝送することを可能とします。このテレ聴診器は今後、AI機能がさらに拡充して発展していくと考えています。取得した音と、これ以外のさまざまな情報を組み合わせて学習して、心臓の形状・動きを3Dモデルで推定することができるようになります。

(2) 環境負荷ゼロ

革新的な環境エネルギー技術の創出に向けて取り組む、新しい研究所、宇宙環境エネルギー研究所を立ち上げました。本研究所は宇宙視点から、地球環境の再生と、持続可能かつ包摂的な社会の実現に貢献していきます。具体的には環境負荷ゼロに向けて、人工光合成や雷充電、核融合炉の最適運用制御について取り組んでいきます。
NTTは民間企業としては初めてITER国際核融合エネルギー機構(ITER機構)と包括連携協定を締結しました。本プロジェクトではIOWNの超高速超低遅延ネットワーク、およびデジタルツインコンピューティングを活用し複雑で緻密な核融合炉の制御システムの実現に貢献していきます。
このITERの国際プロジェクトとともに、国内にて核融合の実現に取り組んでいる量子科学技術研究開発機構とも連携協力協定を結びました。ともに世界に先駆けた革新的なエネルギー技術の創出をめざします。量子科学技術研究開発機構の那珂核融合研究所所長でいらっしゃる、栗原研一様からメッセージをいただきましたので、紹介します。

(栗原研一所長メッセージ)

NTTが持つIOWNという技術は非常に高度な光関連技術でありますし、また情報処理というのが非常に重要なものであります。核融合エネルギー開発プロジェクトにとって、重要な役割を果たすものと我々は考えております。将来の発電炉への実装を視野に入れてNTTとの協力を推進していきたいと考えています。NTTと量研という異なる分野の研究が融合することで、新しい日本初の技術が生まれ、人類の夢、核融合エネルギーの実現に大きく貢献することを期待しています。

(3) 雷充電技術

異常気象によって落雷がさらに多発すると、人や設備に対する被害が深刻になります。気象観測技術にIOWNのデジタルツインコンピューティングを活用し、雷が発生する場所を正確に予測することをめざします。さらにこの雷のエネルギーを取得充電する研究を推進し、2022年には自然環境での雷制御充電実験を開始したいと考えています。

(4) 4Dデジタル基盤TM

4Dデジタル基盤TMでは、高精度な高度地理空間情報データベースを位置起点とし、その上に位置・時刻が高精度な実世界のさまざまなセンサデータをマッピングし、高速にデータを収集・統合することでリアルタイムにサイバー空間上にデジタルツインを構築します。4Dすなわち緯度・経度・高度・時刻の四次元の情報を精緻かつリアルタイムに統合してデジタルツインを構築し、さまざまな未来予測と実世界へのフィードバックを行います。
4Dデジタル基盤TMと関連する技術を活用して、道路交通の整流化、都市アセットの活用、社会インフラの協調保全といった領域への価値提供を行います。さらには、光技術を応用した光ファイバ環境モニタリングによる新たなセンシングや、光格子時計ネットワーク技術による環境・防災に向けた地球理解への貢献もめざします。

この4Dデジタル基盤TMでは高精度にさらに低コストで物体を正確に認識する技術が必要となります。そこで冒頭に説明した、環世界の考え方をここで適用しました。人間が視覚情報を用いて物体を認識します。一方例えば、コウモリなどは超音波を出して、それで発信してその反射波を使って物体を認識します。これまでNTTグループは電柱などの通信設備の位置関係を正確にとらえるために、ライダーと呼ばれているレーザで位置関係を把握するセンサを用いており、これは高精度ですが、すごく高価なものでした。そこで今回は視覚からの映像情報と、簡易で安価なライダーを組み合わせることで、高性能のライダー以上に物体認識の性能が出るかということを実験したところ、非常に良い結果を得ることができました。すなわち2つの環世界を組み合わせて、複合環世界によって新しい価値を生み出すことができたということです(図10)。

図10. 4Dデジタル基盤TMの実現に向けた実空間構造化技術

私たちはこのIOWNの革新技術を用いて海運にも貢献していきたいと思っています。NTTは株式会社MTIと世界初の無人運航船舶実証実験に向けた共同研究契約を締結しました。株式会社MTIの代表取締役社長でいらっしゃる石塚一夫様からもメッセージをいただきましたので、紹介します。

(石塚一夫社長メッセージ)

日本郵船グループにとって最大の課題は、お客さまとともにESG経営を実現していくことです。将来の絵姿で言えば、ゼロエミッション船や自動運航船をめざした技術開発を業界のパートナーと共に進めていくことです。ここで共通することは物流および船舶がこれからますますシステム化されるということです。IOWNがめざす洋上も含めた大容量高速通信・高精度の位置計測は私たちにとって必要不可欠な技術です。

(5) リモートワールド

アフターコロナの社会ではソーシャルディスタンスの確保と、経済活動の活性化を両立させていく必要があります。これを実現するのがリモートワールドです。
NTTはこのたびリモートワールドという新しいサービスブランドを立ち上げ、Face to Faceを超える空間を実現すべく、さまざまなサービスの提供を開始しました。研究開発におきましても、あたかも目の前で競技が行われているような競技場の感動を共有することができる技術、イマーシブテレプレゼンス技術Kirari!の研究開発をこれまで進めてきました。コロナ禍におきましては、さまざまなスポーツが無観客で実施されるようになってしまいました。私たちの技術もそれに合わせてさらに進化する必要があると思っています。選手にとっては競技中のタイムリーな応援は元気とパワーの源であり、勇気を与えてくれるものです。また応援する側である観客にとっても熱い応援による観客どうしや、選手との一体感はまさにスポーツ観戦の醍醐味であります。熱心な応援によって選手にパワーを送ること、それで一体感を得るためには一番重要なのはタイムリーであるということだと思います。それはリモート観戦においても同じです。すなわち会場のスタジアムと遠隔の観客、さらに観客どうしの遅延をいかに少なくし感情的に同期することができるか、これが非常に重要だと思っています。光ダイレクト多地点接続技術によってすべての会場がリアルタイムでつながることで、リモートであっても選手を励ますことができて、観客どうしの一体感も生み出すことができます。さらに、各会場に熱量を感知するセンサをつけ、応援の強弱によって、照明の明るさを制御するような工夫を行うことでより一体感を増すことができると考えています。このようにリモートで観戦する人の感情の変化をとらえて、観客相互に作用することで一体感や対話性を生み出す情動的知覚制御技術の研究開発にも着手しています。この研究開発ではデバイス技術やインタラクション技術を強みとする、ソニー株式会社との共同研究も行っています。
アフターコロナ時代、リモートワールド時代のスポーツ観戦では超低遅延技術によって離れている会場が遅延なくつながっていて、まるで同じスタジアムで観戦しているような体験をすることができるようになるでしょう。

IOWN Global Forum

2020年の1月に NTT、Intel、ソニーで設立した、IOWN Global ForumではこのIOWNがめざす技術革新に賛同した世界の主要企業、Microsoft、Dell、エリクソン、NVIDIAなどが加盟し、その数は日々増えています。またIOWN Global Forumのロードマップとして、2021年に技術的中核文書を発行し、2024年には仕様決定、2030年にフォーラムメンバーによるIOWN準拠サービスを開始するという計画に合意しました。NTTとしてはこの2030年を待たずして2021年には今回紹介した光を用いた新しいコンピューティングアーキテクチャの具体的な内容を発表していきたいと思っています。私たちはさまざまなグローバルなパートナーと連携しながらこの技術革新を進めていきます。

新たな挑戦

次にR&Dの領域のさらなる拡大を図る新しい挑戦について紹介します。

グローバル化の取り組み

私たちはさらなる基礎研究の拡充と強化のために海外の基礎研究拠点として NTT Research、Inc. を2019年4月に設立、7月から3つの研究所が活動を開始し、すでに大きな成果を出しています。例えば、暗号の世界でいうと世界トップレベルの学会Cryptoがあります。年に1、2本論文が通れば良いというぐらい非常に難易度の高い会議において12本、全採録論文の15%をNTT研究所が占めています。こういう快挙をすでになし得たということです。同じくグローバルなR&Dとして、日本とオーストラリア両国の社会課題である、認知症ケアを研究テーマとして設定した活動を開始しました。これは患者に寄り添った真のニーズを洗い出すという研究です。この研究を通じて患者に生きることの楽しみや、喜びを取り戻してもらうために脳科学やヒューマンインタフェースなどのさまざまな専門分野を持った研究者が集まり、国をまたがってその議論を進めています。この取り組みはオーストラリア政府にも高く評価されています。オーストラリア政府貿易観光投資大臣のサイモン・バーミンガム様、教育大臣のダン・テハン様からメッセージをいただきましたので、紹介します。

(サイモン・バーミンガム大臣)

NTTがディーキン大学、西シドニー大学と合意したパートナーシップ協定は我が国にとっても、初めてのケースです。この協力関係は両国共通の問題の解決を目標とします。持続可能な農業や食の安全、住み良い都市や再生可能なエネルギー源、デジタルインフラ拡充などをめざします。すでに進行中の初のプロジェクトは、認知症を生きる人々の生活の質を向上させるテクノロジの開発です。

(ダン・テハン大臣)

オーストラリア政府は雇用創出や生産性向上のために、国内の各大学と産業界との協力推進に努めています。産業界が主導し、社会・経済的成果に焦点を当てたトランスレーショナルリサーチ能力の創出は我が国に大きな利益となります。フォーラムで共有された知識を武器に未来をつくり出せるでしょう。

セキュリティ

現在セキュリティ技術は攻撃者とのイタチごっこが長らく続いています。すべてが光でつながるIOWNの時代においては、現在注目されています量子鍵配送に限らず、新しいパラダイムになっていくと考えています。例えば光格子時計を用いることで10−18の時刻精度によってその遅延時間、通信相手との遅延時間やセンチ単位の高度を精密に測定することができますから、これを利用した全く新しい観点での認証技術を実現することができます。セキュア光トランスポートと題しましたが、まさに光の特徴を用いた新しいセキュリティ技術への挑戦です(図11)。

図11. IOWN セキュア光トランスポート

宇宙

NTTグループの宇宙への取り組みの本格的なセカンドステージです。NTTは2019年11月にJAXA宇宙航空研究開発機構と共同研究を進めることに合意しました。
宇宙空間と地上をシームレスにつなぐ超高速大容量でセキュアな光無線通信インフラの実現をめざします。この共同研究では、革新的な衛星IoTプラットフォームの軌道上実証をまず行います。世界で初めてMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術を衛星に適用し、今までの衛星通信のネックになっていた容量の問題を解決していきます。圧倒的な容量拡大をめざすとともに、地上通信網の未整備地域を含む、全世界のあらゆる場所における低コストのIoTプラットフォームの実現をめざします。本技術は2022年度打ち上げ予定の通信衛星への搭載がすでに決定しています。
JAXA宇宙航空研究開発機構部門長 張替正敏様よりメッセージをいただきましたので、紹介します。

(張替正敏部門長からのメッセージ)

NTT様とは2019年8月に地上と宇宙をシームレスにつなぐ超高速大容量で、セキュアな光無線通信インフラの実現をめざす協力協定を締結させていただきました。この協定の下でIOWN構想がめざすインターネットを超えた新しい情報基盤に宇宙空間も活用していただくべく、共同研究を進めさせていただいております。

そしてこの宇宙への挑戦ですが、今回、大きなビジョン「IOWNスペースコンピューティング構想」を公表します。

IOWNの光電融合技術が実現する超低消費電力、このコンピューティング能力は、今までの技術から想像もつかない可能性を秘めています。私たちは衛星上でデータを処理分析することができる宇宙データセンタを実現できると考えています。宇宙空間のエネルギーだけでさまざまな観測データを複数の衛星をまたがって処理分析することができる、全く新しいコンピューティング基盤を見すえています。IOWNの各種革新技術によって、地上のICTインフラとは全く独立して異常気象の影響もない、地球に負荷も与えない、エネルギーを含めすべて宇宙で完結する新しい超安定度の高い恒久ICTインフラになると考えています(図12)。

図12. IOWN スペースコンピューティング

おわりに

人類はさまざまなイノベーションを起こしてきました。現在の技術は過去からの積み重ねです。私たちは短期ではなくて長期的な視点で活動する必要があります。幸福を瞬間的なものではなく時間的な積分値としてとらえて、イノベーションによって最良の未来に導く必要があります。そのために技術がもたらす無限の可能性を正しく理解していくことが必要です。この大きな課題は私だけの知見ではいけません。あらゆる分野の方々とこの問題に真摯に向き合い、より良い未来をともに探っていきたいと思います。
今回はIOWN構想における具体的な進捗と、新たなチャレンジを紹介しました。未知なるリスクを背負う人類が、幸福であり続けるために、限界打破のイノベーションによって、私たちNTTグループはすべての人々に貢献していきます。

参考文献

(1) Global Challenges Foundation: “12 Risks that threaten human civilization: The case for a new risk category,” 2015.