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光子や原子などの一つ一つに情報を載せ、それらを精密にコントロールすることにより、現在不可能とされているさまざまな情報処理が可能になります。この研究領域は量子情報科学と呼ばれ、近未来の情報通信技術において重要な役割を果たすと期待されています。私たちは量子情報科学の革新的原理の発見により、現在不可能とされている情報通信技術の実現を目指しています。
量子情報科学は情報科学と量子物理学の融合領域であり、その研究にはソフトウェア研究とハードウェア研究の連携が欠かせません。NTTでは、コミュニケーション科学基礎研究所(CS研)がソフトウェア、物性科学基礎研究所(物性研)がハードウェアの研究を推進することにより、量子情報科学の研究を戦略的に進めています。
研究は「量子ビットの性質解明」「量子情報処理方式の創出」「ハードウェアでの実現方法」の3つのフェーズから構成されています。これらの研究成果はハードウェア研究にフィードバックされ、さらにその研究成果が新たな研究サイクルに生かされます。
通常の情報処理と量子情報処理との差異は、情報の基本単位であるビットと量子ビットとの差異に由来します。特に、ビットが正確にコピーできるのに対し、量子ビットが正確にはコピーできない点は、さまざまな形で量子情報処理に利用されてきました。しかし、量子ビットも不完全にならコピーが可能で、より広い範囲への応用のためにはコピー精度に関する厳密な定量的評価が必要とされていました。私たちは、量子ビットのコピー精度に関する厳密な理論限界の証明に成功しました。
量子ビットに特徴的な性質を利用することにより、現在用いられている計算原理では達成不可能な効率性を実現できる場合があります。例えば、分散計算の代表的な問題(リーダー選挙問題)は、ある一般的な状況下において、従来の計算原理では解けないことが知られています。我々は、この問題を解く量子アルゴリズムを考案しました。
論理和関数が、入力桁数に依存しない定数ステップで計算できる演算(基本演算)であると仮定すると、実現性が高いとされる、定数ステップ量子回路により、算術演算等、様々なアルゴリズムの核となる演算を実行できることが知られています。しかし、論理和関数が定数ステップで計算できるかどうかは未解決でした。私たちは、この関数を定数ステップで計算する具体的な方法を構成し、定数ステップ量子回路が高い計算能力を持つことを示しました。