人間は触覚を通して、衣類や家具、電子機器、自分や他人の皮膚等、あらゆるものから、粗さや硬さ、温度、材質といった情報を知覚し、快・不快、しっくりくる感覚など、感性的な判断を行っています。わたしたちは、このような触覚の情報処理メカニズムを、センサレベルから、神経信号処理、感性的判断、感覚の言語表象まで、多層的に理解することを目指しています。研究成果は、脳科学・知覚心理学の発展に寄与するとともに、新しい触覚提示技術や感性コミュニケーションへの応用が期待されます。
近年、携帯情報端末やゲーム機において、触覚への情報提示が行われるようになりました。それに伴い、触覚の錯覚や感覚特性の研究、その特性を利用した情報提示技術の開発が盛んになっています。人間の触覚の情報処理メカニズムを知ることは、新しい触覚提示技術の開発へと繋がります。そして、触覚は、快適さや愛着など、心の動きと関係の深い感覚であり、そのような触覚の特徴を活かすことで、心をつなぐ感性コミュニケーションを実現します。
目の中で赤・青・緑を符号化する細胞が別であるように、皮膚の中も、振動や温度など異なる情報を検出する複数種類のセンサが存在します。人間は、これらのセンサ情報をうまく処理することで、触れた物体の粗さや硬さを感じたり、材質を推定することができます。私たちは、この神経信号処理が脳でどのように行われているか、心理学的な方法によって調べています。
錯覚とは「環境にあるもの」と「自分の脳が感じているもの」が異なる現象で、神経信号処理の本質を浮き彫りにする重要な手がかりとして使用されています。また、情報提示装置の提示原理に組み込まれ、その能力を飛躍的に向上させます。
以下、わたしたちが研究している触錯覚の例を挙げます。
(例1)同じ場所に弱い振動と強いノイズ振動を交互に提示した時、あたかも弱い振動が連続していているように感じます。
(例2)両端が温かく、真ん中が常温の板に三本の指で触れると、三本指全てに暖かさを感じます。
触覚は、好き嫌い、快・不快など、感性判断と深く結びついた感覚です。触覚によって心理状態がどのように変化するのか、逆に、心理状態が触覚の感覚特性に影響を与えるか、触覚と心の動きの関係性を探る研究にも取り組んでいます。