雷の予測と制御における現実と課題

雷は驚異的な自然現象のひとつです。大空に轟く雷鳴は日本の夏の風物詩ですが、雷には謎も多く、いつどこで発生するか予測困難な自然現象です。この記事では、雷の発生メカニズムや雷から身を守る方法、現在の雷予報、最先端の雷制御技術などについて紹介します。(公開日:2022/06/17  更新日:2023/07/05 )

雷は、多くの人にとって世界ではじめて目にする、驚異的な自然現象のひとつではないでしょうか。大空に轟く雷鳴は日本の夏の風物詩でもありますが、実は雷にはいまだに謎も多く、いつどこで発生するか予測困難な自然現象なのです。
この記事では、雷の発生メカニズムや雷から身を守る方法、現在の雷予報、最先端の雷制御技術などについて紹介します。

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1. 謎の多い自然現象「雷」


雷は電気でできています。よって、雷の発生を理解するためには、物理学における電気の基礎である「放電」の原理から考えることになります。
放電とは、本来は電気を通さない「絶縁体」に強力な電場をかけたとき、その物質の絶縁性が失われ(絶縁破壊)、電流が流れる現象のことです。一体空気の中で何が起きているのでしょうか?

1-1. 雷発生のメカニズム

ミクロな視点で空気を見ると、そこには酸素分子や窒素分子、二酸化炭素分子など、さまざまな「分子」が存在しています。分子内では、原子が互いに「電子」を共有して結合しています(共有結合)。この空気中でまれに電子が飛び出すことがあります(偶存電子)。そのときに、高い電圧がかかっていると、マイナスの電荷を持つ電子は加速し、プラスの極へと引き寄せられていきます。その際にほかの分子に衝突すると、電子が新たに放出されます。これが再びプラスの極へと引き寄せられ、さらに衝突することを繰り返し、電子の量がなだれのように増えていく現象を「電子なだれ」と呼びます。
電子なだれが繰り返されることでプラス極とマイナス極の間にプラズマ電路が形成されます。これがいわゆる「絶縁破壊」であり、これによって大きな放電電流が発生します。このような現象が、雷雲と大地の間といった巨大なスケールで発生するのが雷です。
続いて、実際に雷が発生する際、空ではどのような現象が起こっているのか見ていきましょう。雷を発生させる雲の代表格は、夏によく見かける、まるで巨大な建造物のように背の高い「積乱雲」です。雲の中(雲放電)や、空と大地の間(対地放電)で放電が起きる場合は、その間にある空気に強い電場がかかっています。この電気はどのようにして生まれているのでしょうか?

実はまだ正確にはわかっていないことが多いのですが、雲を構成する「雲粒」が引き起こす「静電気」が、雲の中の電場を構成すると考えられています。
雲は、空気中の水蒸気が上昇することで生じる水滴や氷晶(微小な氷の結晶)、あられなどによって構成されています。積乱雲の中で氷晶とあられがぶつかり合うことで静電気を帯び、雲の中に電場が生まれると考えられているのです。

氷晶はプラスの電荷を帯びやすく、氷晶よりも大粒であるあられはマイナスの電荷を帯びやすいとされています。雲の中の上昇気流の働きによって、軽い氷晶はプラスの電荷を帯びて積乱雲の上層部へと、重いあられはマイナスの電荷を帯びて下層部へと移行します。
このように積乱雲の上層部はプラスの電荷を、下層部はマイナスの電荷を帯びている状態となり、2つの層の間に絶縁破壊が起きることで放電現象が生じます。これは「雲放電」と呼ばれており、雲と地上の間で発生する放電は「対地放電」(落雷)と呼ばれています。

落雷には種類があり、落雷時に中和される雷雲内の電荷の極性によって名前が異なります。落雷時に雲内の負電荷が中和される場合は「負極性落雷」、正電荷が中和される場合は「正極性雷」と、2種類に大別されます。
さらに、落雷時には絶縁破壊が起きますが、強い発光に先行して「リーダ」が伸びていきます。このリーダの進行方向により、雷雲から地上へと下向きに放電する「下向き雷」、逆方向の「上向き雷」にわかれます。日本の夏に見られる典型的な落雷の約90%を占めるのが下向き負極性雷です。

図1
(画像出典:一般社団法人日本風力エネルギー学会 日本風力エネルギー学会誌『技術連載その30 雷』図 3.2 落雷の種類をもとに独自作成)

では、いよいよ対地放電の基本的なプロセスを、夏の落雷現象を例に見ていきましょう。
まず、マイナスの電荷を帯びた積乱雲の下部から「ステップトリーダ」と呼ばれるものが大地へと進みます。ステップトリーダが大地に接近すると、まるで手を伸ばすように、大地からプラスに帯電した「結合リーダ」が伸びていきます。この2つのリーダが結ばれることで、落雷する場所が決定されるとともに、天地の間に電気の通り道「放電路」ができます。そして2つのリーダの結合点から「帰還雷撃」が雲へと進展し、大きな電流が流れるとともに、激しい閃光が生じます。その際、放電路の温度は約3万ケルビンに達し、周囲の空気が一瞬で膨張し、衝撃波が生まれます。これが大空に轟く雷鳴の正体です。ひとつの落雷で、平均4.5個の帰還雷撃が発生するとされています。

図2
(画像出典:一般社団法人日本風力エネルギー学会 日本風力エネルギー学会誌『技術連載その30 雷』図 3.4 先駆雷撃、帰還雷撃をもとに独自作成)

また、珍しいものではありますが、雷は冬にも発生しています。冬の日本海側は気候の特性上、積乱雲が発生しやすいのですが、冬の積乱雲は夏とは異なり、背が高くありません。その結果、雲の中のプラスの電荷とマイナスの電荷を持つ雲粒がきれいにわかれないとされています。メカニズムの詳細は不明ですが、こうした雲の組成の違いからか、冬の落雷の約33%は正極性落雷といわれており、上向きの雷が生じる確率も高いとされています。

1-2. 雷に関する身近な誤解

落雷はときに自然が生み出した脅威となります。もしも落雷を受けてしまうと、人は呼吸停止や心肺停止を起こし、死に至るでしょう。こうした甚大な被害を受けるにもかかわらず、「金属のものを持っていなければ安全」「雷の音が遠いから大丈夫」といった誤解が広まっています。さまざまな実験によって、これらは事実ではないことが判明しています。

音速は秒速約340mです。よって、雷が光って、雷鳴が轟くまで10秒であった場合、雷の発生場所は3.4km離れていることになります。「遠いじゃないか」と思われるかもしれませんが、実際の雷雲の大きさは十数キロメートルあるとされています。仮に、直前に起きた落雷が3.4km先であっても、次の雷が自分の頭上に来ないという保証はないのです。

雷から身を守るためには、安全な場所へすぐに避難することが大切です。鉄筋コンクリートの建物や車の中は安全です(『ファラデーケージとは?原理や仕組み、測定法、雷制御について解説』3-3. 落雷時の避難場所 参照)。また、そうした場所に逃げられない場合に限っては、背の高い建物の近く(建物を45度以上の角度で見上げられる場所)で、足の両かかとを合わせてつま先立ちで座る「雷しゃがみ」などの姿勢で待機するとよいでしょう。ただし、背の高い木の近くでは金属類を持っていなくても「側撃雷」という落雷を被る可能性があるので避ける必要があります。これは木よりも人体の方が電気を通しやすいために起こる現象です。

図3
(画像出典:独自作成)

2. 現在の雷予測にできること

気象庁が提供する「雷ナウキャスト」をはじめ、現在はさまざまな雷予測が実用化されています。しかし、「いつ・どこに」落雷が発生するかなど、災害を未然に防ぐ上で重要な予測には課題もあります。

2-1. なぜ雷予測は難しいのか?

大気の状態から、おおまかな発生箇所を予測することはできても、落雷の具体的な時間や場所を明確に予測することは難しいとされています。雷は、降雨などの気象予測と比較して、小さな範囲の気象現象であるため、現在の天気予報では正確な予測ができないためです。

現在の天気予報は、スーパーコンピュータによるシミュレーション「数値予報」をもとにしています。数値予報は、地球の大気を無数の格子状に区分けし、それぞれの格子に地球上の現在の観測データ(気温や風速など)を割り当てていきます。それら格子に割り振られた現在の状態から、物理学や化学の法則に基づき、スーパーコンピュータによって将来の予測を算出することによって、現在の天気予報は成り立っています。

数値予報には、「全球モデル」「メソモデル」「局地モデル」があります。つまり、格子の間隔が異なるモデル(全球モデルよりもメソモデルが、メソモデルよりも局地モデルが格子の間隔が小さい)を併用し、用途に合わせてこれらのモデルを使いわけています。
しかし、雷はより小さな範囲の予測を必要とする気象現象であり、発生のメカニズムも完全に解明されていないため、防災に関して重要な指標となる、落雷の具体的な時間や場所の精緻な予測までは難しいのです。

2-2. 気象庁「雷ナウキャスト」

気象庁が提供している「雷ナウキャスト」は、10分ごと、60分先までの局地雷予測を行っています。精度としては、1kmの格子単位であり、「雷監視システム」による雷放電の検知やレーダー観測をもとに、4つの「活動度」で雷を解析しています。

活動度は4が「激しい雷」であり、落雷が多数発生している状況を示しています。3は「やや激しい雷」で、落雷が発生している状況です。また、雷放電を検知していないが、雨雲の特徴から雷雲を解析し、電光が見える、雷鳴が聞こえる、落雷の可能性が高まっている状態を2「雷あり」と分類しています。さらに、雷雲が発達する可能性についても、現在は雷の発生はないが、今後落雷の可能性がある状況を1「雷可能性あり」としています。

図4
(画像出典:気象庁『雷ナウキャストとは』

2-3. 雷予測の技術と仕組み

雷ナウキャストでは、雷の活動度を観測するために雷監視システムが使われています。雷監視システムでは、雷の種類である対地放電と雲放電の両方を検出することができます。対地放電密度や雲放電密度の大きさと、雷害の発生率には相関関係があります。
そこで、対地放電密度と雲放電密度を一定の条件のもと(単純な分布図とすると放電密度がわかりにくくなるなどの課題を克服する)に合成することによって導かれる「発雷密度(1km格子内の10分間あたりの放電数)」によって、活動度を階級分けしています。

また、雷ナウキャストは気象レーダーの雨雲の特徴から、落雷する可能性の高い雷雲をアルゴリズムによって予測しています。過去のデータを用いて、雷活動に関係する指標と、観測から30分以内に発生した落雷との間の統計的な関係を調べ、関係式を作成します。この関係式により、今後落雷する可能性が高い領域を予測します。また、レーダーエコー強度の分布から「対流雲」を推定し、雷雲として検出することも行っています。

雷ナウキャストでは、60分先までの10分ごとの雷予測を提供していますが、この予測には、雷雲がどのように移動するかの「移動予測」、そして雷雲がどのように発達するかの「盛衰傾向予測」も加味されています。
しかし現在の技術では、状況の大きな変化を予測することは難しいとされています。また、予測時刻の途中で発生する新しい雷雲は予測することができないという技術的な制限もあります。

3. 雷制御の新技術

現在、雷を制御しようとするさまざまな技術が開発されています。レーザーを使う手法やドローンを用いた手法など、近未来感漂う新技術を紹介します。

3-1. スイスで進む、レーザーによる雷制御

2021年7月、スイスのサンティス山山頂でジュネーブ大学の研究チームがレーザーを避雷針として活用する実証実験を行ったことが、CNNの報道により明らかになりました。具体的には、レーザーを空に照射し人為的に放電を引き起こすことによって、雷を制御するという内容です。

先述したように、雷雲の中にはプラスとマイナスの電荷を帯びた雲粒があり、これらが雲の中、あるいは大地との間で絶縁破壊を起こすことで放電が生じます。レーザーは、強力な電場を生み出すことができるため、雷に必要なプラスとマイナスの電荷を人為的に引き起こすことが可能です。

新たな「ハイテク避雷針」とも呼ばれる巨大レーザーを用いた落雷制御の実証実験は、今後も雷の活動増加時期に行われる予定で、数年以内の実用化をめざしています。

3-2. 標定誤差50m以下の精度で落雷を標定 これからの送変電設備の耐雷に向けて

社会のライフラインである各電力会社の送変電設備にとって、雷は大きな脅威です。現在は送電用避雷装置の普及もあり、被害こそ減少しているものの、完全な防雷・耐雷の実現には至っていません。
一般社団法人電力中央研究所では、従来の落雷位置標定システム(LLS)に代わる、より高精度な落雷位置を特定でき、雷エネルギーの推定もできる新型の落雷位置標定システム(新型LLS)の開発に取組んでいます。開発においては、位置標定誤差をより小さくするために、電磁波の波形変歪補正機能を加えています。落雷によるエネルギーなどの雷パラメータの推定は、保守手段や耐雷設備の最適化のための重要な指標を提供することが期待されます。

3-3. 誘雷ドローンで雷制御

NTT宇宙環境エネルギー研究所では、ドローンを用いた雷制御の研究開発が進められています。耐雷性能を持つファラデーケージに守られたドローンを飛行させ、いわば飛行する避雷針として機能させることで雷の制御を行います。加えて、意図的に雷を発生させる技術についても検討しています。
また、落雷の電気エネルギーを運動エネルギーや圧力エネルギーなどに変換して高効率に蓄積する革新的な方法を生み出すべく研究を進めています。
雷制御技術は、雷の予測精度向上と相乗効果があると考えられているため、現在は雷予測のシステムとともに研究開発が進められています。

図5
(画像出典:NTT技術ジャーナル『ドローンを用いた落雷制御・充電システムのイメージ』)

4. まとめ

  • 雷のメカニズムには、物理学における「放電」が深くかかわっている。
  • 夏の落雷は一般的だが、日本には特異な冬の落雷も存在する。
  • 雷防災における「金属のものを持っていなければ大丈夫」「雷の音が遠いから大丈夫」は迷信である。
  • 大まかな発生場所は予測可能だが、明確な落雷の位置や規模を予測するのは難しい。
  • 雷ナウキャストは、雷の活動を指標として提供する。
  • スイスではレーザーによる雷制御が実証実験段階である。
  • NTT宇宙環境エネルギー研究所では、ドローンを用いた雷制御技術、および雷エネルギーの取得・活用技術が研究されている。

参考文献

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