更新日:2025/03/11
NTT物性科学基礎研究所では、光の極限制御技術として、超高速光物理研究を推進してきた。その主要なテーマの1つがアト秒レーザの発生とそれを用いた超高速光物性の研究である。アト秒レーザの発生は、2023年ノーベル物理学賞を受賞したテーマであり、タイミングもよいことから、本特集ではNTT物性科学基礎研究所で進めるアト秒レーザ技術とアト秒光物性の研究を軸とした超高速光物理研究の最前線について紹介する。
NTT物性科学基礎研究所では、光の極限制御技術として、超高速光物理研究を推進してきた。その主要なテーマの1つがアト秒レーザの発生とそれを用いた超高速光物性の研究である。アト秒レーザの発生は、2023年ノーベル物理学賞を受賞したテーマであり、タイミングもよいことから、本特集ではNTT物性科学基礎研究所で進めるアト秒レーザ技術とアト秒光物性の研究を軸とした超高速光物理研究の最前線について紹介する。
超高速光物理研究の最前線への期待と展望──ペタヘルツ波をエンジニアリングする
2023年ノーベル物理学賞の対象となったアト秒パルスは、アト秒領域の時間幅を持つ極端紫外光パルス(列)です。アト秒パルスの時間幅は、典型的な光の1周期よりも短く、その時間スケールでは、光はサブペタヘルツ(PHz=10¹⁵Hz)周波数で振動する電界としてとらえ直すことができます。本稿では、"アト秒科学"の時代を切り拓いたアト秒パルス発生技術について解説し、NTT物性科学基礎研究所が進めるアト秒パルスレーザ技術と、ペタヘルツ電界-電子系相互作用ダイナミクスに関する超高速光物理研究の概要と展望について紹介します。
高輝度アト秒分光に向けた1.7サイクル高強度光パルスのMHz繰返し発生
アト秒光パルスは現状人類が持つ最短の光パルスであり、極限的な超高速現象を露わにするための重要な要素技術です。しかし、現在のアト秒光パルスは光量が乏しく、多様な分光技術への応用において深刻な制約となっています。本稿では、次世代の高輝度アト秒分光技術実現に向けた、高輝度アト秒ドライバ光源の開発について紹介します。
固体からのトポロジカル高次高調波発生
トポロジカル光波はレーザ光のビーム断面方向に特異な幾何学空間形状を持った光であり、既存技術によって赤外から可視光領域では光通信をはじめとして分光、レーザ加工、光ピンセット(光操作)など多様な応用が期待されています。このような特異な光を高次高調波発生によりつくり出すことで、これまでにない極端紫外領域の波長やアト秒といった時間精度と組み合わせた極限光計測技術が可能になると期待できます。本稿では、高次高調波発生によるトポロジカル光波の生成にかかわる物理現象、およびその背後にある物理法則の世界初の実証について解説します。
アト秒パルスを用いた固体電子系超高速ダイナミクス計測
単一アト秒パルスをプローブ光としたポンプ・プローブ型アト秒時間分解計測技術は、アト秒パルスの時間幅で超高速現象をとらえることが可能な人類が持つ最速のコマ撮り技術です。本稿では、本計測技術を構成する単一アト秒パルス光源の発生法と、もっとも基本的なアト秒時間分解吸収分光法について解説します。また、本分光法をワイドギャップ半導体に適用し、光波電界によって引き起こされる電子応答の実時間計測の成果について紹介します。
高強度光パルス―─固体電子系の実時間量子ダイナミクスシミュレーション
本研究は、光と物質の相互作用の物理限界を探求し、特に高強度光電場が引き起こす超高速電子ダイナミクスに注目しています。高強度光を念頭に、大振幅電場が半導体・絶縁体に印加された際のトンネル効果による電子の遷移率を量子ダイナミクスシミュレーションで評価しました。電子・正孔相互作用を含む理論モデルを用いることで、電子間相互作用がトンネル遷移率を増強すること、増強度が印加電場に応じて増大することを明らかにしました。