2024年の仕様確定、そして2030年の商用導入を目指すIOWN構想。すでに実現に向けて様々な取り組みが開始されています。今回は、その中からオールフォトニクス・ネットワークの実現に向けた取り組み、スマート農業への適用に関する取り組みについて紹介します。
IOWNを構成する3つの技術分野のひとつである「オールフォトニクス・ネットワーク」。フォトニクス(光)ベースの技術を導入し、現在のエレクトロニクス(電子)ベースの技術では実現困難な、情報処理基盤のポテンシャルの大幅な向上を達成しようというものです。低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送の実現に向けて、「電力効率を100倍に」「伝送容量を125倍に」「エンド・ツー・エンド遅延を200分の1に」の3つの目標性能が掲げられています。
オールフォトニクス・ネットワークの実現に向け、NTTは遠隔映像制作環境をユースケースとした実証ネットワークを実験室内に構築しました(図1)。
実証ネットワークでは、試作したコントローラーから光伝送装置を制御して遠隔拠点間を接続し、マルチバンド・マルチコアファイバを利用して大容量データを超高速転送したり、高精細映像を圧縮することなく低遅延で転送したりといった実験を実施しました。
さらに、このネットワークを活用して「光パス網の設計技術」「リソース設計/制御技術」の2つの要素技術の研究開発にも取り組んでいます。
伝送データの大容量化、分散処理の拡大が進むなかで、伝送設備をどこにどう配置するか、お客さま拠点とデータセンタ間などを接続するルート、すなわち「光パス」にどのような経路や波長を割り当てるかなどを決定する設計技術が重要となってきています。
そこでNTTでは、設備への投資コストを抑えつつ、物理的な距離や信頼性等、お客様の多様なニーズに合わせて最適な光パスを提供できるような光パス網の設計技術の研究開発を進めています。
これらの研究開発により、オールフォトニクス・ネットワークを基盤とする将来の通信ネットワークにおいて柔軟なICTサービス提供の実現を目指します。
将来の通信ネットワークを使用したサービスでは、より高速な演算、より高速な通信が必要とされることが予想されます。現在のネットワークシステム構築においても構成するネットワークリソース(ハードウェア、ソフトウェア等)に関する深い技術的スキル、経験が必要とされていますが、将来的にはさらに難易度が上がり、技術者や運用者などの人材育成も課題となることでしょう。
そこで、これらの課題を解決するため、低遅延/広帯域のネットワークシステムを比較的簡単に、かつ短時間で設計/構築可能な技術の研究開発に取り組んでいます。具体的には、NTTグループの事業会社と研究機関との協力のもと、プライベート5Gの実証実験環境を構築し、遠隔地から産業用ロボットを制御する製造業などをユースケースとして有効性の評価に取り組んでいます。また、モバイル通信において5G回線やWi-Fi等、種類の異なるさまざまなアクセス網を使用する場合でも通信経路をスムーズに切り替え、安定した通信環境を確保する「E2Eオーバーレイネットワーク技術」の研究開発も併せて行っています。
国立大学法人北海道大学、岩見沢市、NTT、 NTT東日本、NTTドコモは、産官学連携協定を締結し、上記のようなネットワーク技術に最先端のロボット農業技術、高精度な測位技術等を加え、スマート農業への適用に取り組んでいます。
少子化、高齢化の進む現代日本において、さまざまな問題が顕在化しつつあります。なかでも第一次産業における労働力不足の問題は深刻であり、特に農業分野においては就農人口の減少などによる労働力不足の問題が取りざたされています。今後、将来にわたり日本の農業を維持、発展させるためには、ロボット農機等を活用した飛躍的な生産性向上が求められるでしょう。
北海道岩見沢市で行われた実験では、安定的で円滑な農機の広域自動走行とその遠隔監視制御が実証されました。米国自動車技術者協会(SAE)の定義によれば、自動走行には運転自動化のまったくない「レベル0」から運転を完全に自動化する「レベル5」までの6段階がありますが、今回は遠隔監視下において無人状態の農機が自動走行をする「レベル3」を達成しました。
同一圃場内、または圃場周辺から農機を監視し、危険発生時に停止等の緊急操作を実施する「レベル2」と違い、「レベル3」では5GやLTEなどのネットワークを介して遠隔地から監視および制御を行います。そのため、ネットワークを含めたシステム全体として低遅延、かつ安定的に遠隔監視を行う必要があります。
実証においては、各種処理を効率化しネットワーク負荷の軽減を実現するとともに、前述の「E2Eオーバーレイネットワーク技術」により良好な通信品質を確保することに成功しました。また、通信環境が悪化した場合の農機の自動停止などの動作も確認できました。
NTTでは今後も研究を進め、任意のプロトコルに対応するエンド・ツー・エンド、大容量の光パスをユーザの要求に応じてダイナミックに提供する技術の確立を目指します。