A collage of various exhibition booths and attendees at the forum.

NTT R&D FORUM 2025 開催報告

2025年は量子科学誕生100周年にあたり、日本政府が「量子産業化元年」と位置づけた年です。NTTでは、代表取締役社長島田明と執行役員研究企画部門長木下真吾が基調講演で語ったとおり、"Quantum Leap"をキーメッセージとして掲げました。
今年のR&Dフォーラムでは、目前に迫っている時代のターニングポイントを見据えて、これからの社会に必要不可欠となる研究や技術を幅広く網羅する形で行われました。光ネットワークとしての「IOWN」は、今年「1.0」から「2.0」へとバージョンアップし、来年以降「3.0」そして「4.0」へと進展します。光コンピューティング技術についても、NTTによってさらなる高みへと向かう展望を示しました。また、信頼と実績のある光通信技術を量子技術と融合させ、100万量子ビットという圧倒的なスケーラビリティを持つ「光量子コンピュータ」の開発と実現という新たな地平を切り拓きます。さらに技術セミナーでは、光量子技術を中心に、そこから派生するさまざまな研究と技術が語られました。また、技術展示では、大規模言語型LLM「tsuzumi 2」を筆頭に、光ファイバセンシングに代表されるサステナビリティ、自動運転や遠隔運転のモビリティ、デジタルツイン、セキュリティ、エネルギー、宇宙や人工衛星を活用した技術など、89件の最新研究や研究成果が展示されました。

講演レポート

講演サマリ

基調講演は、NTT代表取締役社長 島田明、NTT研究企画部門長 木下真吾、の2名が登壇しました。さらに、技術セミナーでは2日間にわたり、AI(人工知能)と量子技術に焦点を当て、深く掘り下げた4つの特別講演が行われました。日本発LLMの展望を示す『tsuzumi 2が描く、AIビジネスの新地図』、知性の起源に迫る『Physics of Intelligence:知性の創発の原理原則を探る』、次世代通信基盤を扱う『量子×IOWNがもたらす社会変革とビジネスの未来』、そして未来技術の核心である『未来を照らす光の量子計算~入門から最先端技術まで~』の4テーマです。5日間にわたった基調講演と技術セミナーは、すべてLIVE配信も行われ、会場以外からも多くのご参加をいただきました。

KEYNOTE SPEECH

基調講演

島田 明

光技術によるコンピューティングの革新
~IOWN 2.0/3.0への進化、そして量子への飛躍~

11.19 WED 10:30~11:00

11.20 THU 10:30~11:10英語講演

島田 明
NTT 代表取締役社長

今回のR&Dフォーラム2025で NTT代表取締役社長島田明は、光技術でコンピューティングの性能とエネルギー効率の限界を破るための2つのイノベーションを提示しました。

1つ目は「IOWN」による光コンピューティング。電気配線を光配線に置き換えることでGPU間などの大容量・低遅延通信に伴う消費電力と発熱が劇的に低減にされます。また、「PEC-1」「PEC-2」「PEC-3」と呼ばれる、光と電気の相互変換を担う「光電融合デバイス」や「光エンジン」、「光電融合スイッチ」といった新技術を段階的に導入し、「IOWN 2.0」で基板間の光化と102.4Tb/s級の高性能なスイッチを実装。従来比で消費電力約1/8を実現したと発表しました。ロードマップにある「IOWN 3.0」ではパッケージ間の「光I/O」をめざし、メンブレン構造の光チップレット(2028年商用予定)で小型化。2032年の「IOWN 4.0」では、配線全体の光化と消費電力1/100を目標に掲げています。もちろん、同時に生産ライン整備やサプライチェーン連携も進めているとしました。

2つ目は光量子コンピュータ。NTTは常温・常圧で動作する光量子方式に注力しています。光の高速性・低消費電力・通信親和性により圧倒的スケーラビリティを狙い、量子光源の高品質化で量子ビットの歩留まり向上を実現。OptQC社や理化学研究所と連携し、2027年に汎用的大規模計算が可能な光量子コンピュータを完成させて、2030年には世界トップクラスの100万量子ビットを達成します。さらに将来的には1億量子ビットを目標としています。これにより、創薬や交通最適化、核融合設計など、従来困難だった社会課題の解決をめざすと述べました。

また、量子コンピュータについては他方式の概略と課題も示しました。超電導方式はゲートの成熟度が高く、現在は最も実機開発が進展していますが、極低温冷却のための大型冷却装置が必要となる点や消費電力・設置コストが大きくスケールアップが難しい点を指摘しました。中性原子方式もスケーラブル性が期待されますが、レーザーや光学系の複雑度と安定性が課題になります。そのほかの方式はいずれも低温・特殊環境や制御回路のオーバーヘッドがボトルネックとなりやすい点が共通のデメリットです。これらの方式と比べて、NTTが開発を進める光量子方式は、光の特性を十分に活かして常温常圧での動作が可能でコンパクトな装置、NTTの持つ既存の光通信技術との親和性があり、冷却インフラや巨大な装置を必要としないため、消費電力やコスト面で有利となります。NTTは長年の光通信のノウハウを量子光源や増幅・変調技術に応用し、光チップレットや光I/Oと組み合わせることで、光コンピューティングと光量子コンピューティングを連携させたエネルギー効率の高い次世代インフラをめざしています。

島田社長は最後にこのような強いメッセージを伝えました。「NTTは光の技術を用いて、エネルギーの限界や計算処理の限界を打ち破り、コンピューティングの革新を実現する。世界はAIの進展によって、かつてない変革の時期を迎えているが、NTTはAI時代を支えるインフラを提供するだけでなく、量子時代のコンピューティングの革新を通じて、サステナブルな未来の実現に貢献する」として開幕を飾りました。

木下 真吾

IOWN∴Quantum Leap

11.20 THU 14:30~15:10

11.21 FRI 10:30~11:10

木下 真吾
NTT 執行役員 研究企画部門長

NTT執行役員 研究企画部門長 木下真吾による基調講演は、「IOWN ∴ Quantum Leap」と題して、AI時代の到来から量子技術、現在NTTが研究開発している光量子コンピューターの概要や展望、量子AI、また今回のR&Dフォーラムで発表された研究開発などについて総括しました。

まず最初に、大阪・関西万博でのNTTの展示事例を紹介。舞台出演者の3Dデータをリアルタイム伝送し、パビリオンで立体映像や振動・ライティングを同期させる体験を実現したと報告しました。

続いて「Quantum Leap」というキーメッセージの意味を解説。AI時代の計算資源と消費電力の爆発的増大という課題に対し、NTTが採った4つのアプローチを説明しました。それは、IOWNによる光通信技術の効率化、生成AI「tsuzumi 2」によるモデル効率化、光量子コンピューターによる計算能力の飛躍、量子AIの可能性とAGI(汎用人工知能/ ASI(人工超知能)研究です。これらをNTTの独自技術と共に明確に示しました。また、 OptQC社との提携を核として、2027年に1万量子ビットの実現、そして2030年には100万量子ビットという、現在の技術水準を大きく超える規模の光量子コンピューターの実現をめざしています。

IOWNのロードマップでは「IOWN 2.0」のフェーズで、光電融合デバイス(PEC-2)で光をスイッチ近接箇所まで引き込み、電気配線を短縮して消費電力の劇的な削減を図ります。NTTは、ハード面では、この光電融合デバイス技術を活用し、2026年度末に商用化することをめざしています。ソフト面では、分散GPUクラスタの構成を動的に最適化するDCIコントローラで、遅延・電力消費・リソースの配置をリアルタイムで制御し、大規模データセンタのエネルギー効率と処理性能を最大化する取り組みを紹介しました。

生成AIでは、国産LLMでありNTTがゼロから開発した大規模言語モデル「tsuzumi 2」の優位性が強調されました。日本語性能や特化型学習効率、低コスト・高セキュア性を備えており、応用事例としてフルディプレックスのスピーチツースピーチによる自然対話、ネットワーク運用のAIエージェント自動化、大規模行動モデルによるマーケティング最適化やモビリティ予測を挙げました。さらにAGI/ASI研究として脳活動の言語化(マインドキャプショニング)、特定知識の削除を可能にするマシンアンラーニング、LLM内部の「嘘」に対応するニューロン解析などにも注力しています。

最後に量子AIの可能性とノイズ活用の視点を伝えて、初代所長の言葉で「知の泉を汲んで研究し実用化により、世に恵を具体的に提供しよう」と結びました。

TECHNICAL SEMINAR

技術セミナー

tsuzumi 2が描く、AIビジネスの新地図
~日本発LLMの挑戦と展望~

11.25 TUE 10:30~11:30

西田 京介
NTT株式会社 人間情報研究所 上席特別研究員
浅見 太一
NTT株式会社 人間情報研究所 主幹研究員
荒川 大輝
NTTドコモビジネス ジェネレーティブAIタスクフォース長
モデレータ工藤 伊知郎
NTT株式会社 研究開発マーケティング本部マーケティング部門 担当部長

技術セミナーのトップを飾ったのは 、NTT人間情報研究所の西田京介上席研究員、浅見太一主幹研究員、NTTドコモビジネスジェネレーティブAIタスクフォース荒川大輝タスクフォース長の3名でした。日本発の大規模言語モデルLLM(Large Language Model)「tsuzumi 2」を活用したAIビジネスとその展望について、そのさまざまな関連技術や具体的な関連ビジネスの例を併せて紹介しました。

まず、10月20日商用提供を開始された「tsuzumi 2」の特徴と、前バージョンからの改良点について西田上席研究員が解説しました。「tsuzumi 2」の主な特徴は、オンプレミス環境で動作可能な点と、NTTが独自にゼロから開発した点です。286億パラメータのデンス型モデルで、高性能でありながらGPU1枚で動かしやすい設計を採用。日本語に最適化したトークナイザーと約10兆トークンの事前学習で、高い日本語理解・生成能力を持ち、データを完全に把握・管理する「ソブリンAI」を重視しています。学習は事前学習からインストラクションによる教師あり学習を経て、プリファレンスに基づくアラインメントを数百回繰り返す方式で、高い指示遂行能力と安全性を実現しました。ステージ上で示したデモでは、特許・論文から指定フォーマットの報告書作成や、平仮名しか使えない外国人のメールを流暢な日本語に修正・英語解説の例を示し、多言語・業務適用の有効性を強調しました。将来は「人生のパートナーとして、人と共に成長していくロボットをつくりたい」との希望を述べました。

音声対話領域では、浅見主幹研究員が、音声インターフェースの重要性と難しさ(「いつ話すか」の制御(=ターンテイキング)を説明しました。新しい音声対話AIは、0.1秒単位のストリーミング処理で、応答タイミングや相槌を自然に制御し、従来モデルより遅延や被せ発話の問題を改善。これは、音声による対人コミュニケーションのデモを使用して、わかりやすく説明しました。また今後は、より賢い会話やNG発言の制御、さらには声色やTPOに応じた話し方のコントロールを目標に「tsuzumi 2」との連携を強化していくことを強調しました。

一方、視点を変えたビジネス面では、荒川タスクフォース長がエージェントの到来を説き、プランニング能力、手足となる機能連携、短期・長期メモリの活用、さらには個性(パーソナリティ)の重要性を指摘しました。具体的なユースケースとしては、リアルタイムでの要約や次アクション提案、模擬商談を含む営業支援や、発明アイデア出しから明細書作成までの実践的な特許支援が可能であることを示しました。エージェント導入の鍵は、1.業界・業務特化した業務知識、2.人との協働(Human in the loop/Human on the loop)による管理、そして3.AIエージェントの安全性を保証するセキュリティ(オンプレ/プライベートクラウド対応)の3要素です。これらで暗黙知の継承や国内データの扱いを含む「ラストワンマイル」の解決をめざすとしています。最終ビジョンは、AIコンステレーションによる分散的で効率的なAI群が、人と共に成長・共生する社会の実現であり、特に音声インターフェースの進化が社会受容に不可欠だと結びました。

Physics of Intelligence:知性の創発の原理原則を探る

11.25 TUE 14:00~15:00

田中 秀宣
NTT Research, Inc. Scientist
堀川 友慈
NTT株式会社 コミュニケーション科学基礎研究所 特別研究員
モデレータ石井 亮
NTT株式会社 人間情報研究所 デジタルツインコンピューティングプロジェクト 特別研究員

はじめに、シリコンバレー拠点の脳科学や心、知性といった分野の研究者である田中氏は、AIを第一次産業革命の蒸気機関に匹敵するパラダイムシフトを起こす存在と位置づけました。「AIにおける知性」や「AIにおける創造性の有無」などといった独自性の高い考察から、AIを「心」というものを物理的視点で理解するための新たな観測窓としています。 人間の「心とは何か」とか「知性とはとは何か」ということを研究するためには、カウンセリングなどの方法で、心理学的なアプローチを取らざるを得ませんが、対象がAIであれば、物理的に思い切ったアプローチが可能になります。田中氏は、AIであれば全てを観測できると強調しました。また、AIは「非常に賢い対象でありながら内部を観測できる」存在であるため、「心」や「知性」というものの原理を、数理的に探る好機であるとも述べました。現在、AIと呼ばれているものは、ニューラルネットワークという人間の「脳」を模したニューロンの集合で、基本的にはディープラーニングであり、実務的にはディープラーニングのスケール(AIにおけるモデル規模・データ量・計算量など)増加に伴い、概念理解や創発的能力が突然現れる現象を観測して、これを厳密な理論への落とし込みを試みているといいます。具体例として、AIが色・形・関係などの概念を段階的に学ぶ様子や、「見たことのない組み合わせ(例:帽子をかぶった女性)」を内部ベクトル空間の操作や指示法で引き出す研究成果を示しました。 これによりAIが「隠れた能力」を持っていること、そして適切に誘導すれば、AIからも創造的出力が得られることが示されました。

また、AIと人間の関係性の重要性を強調。西洋と東洋のAIに対する価値観の違いや、アラインメント(価値調整)だけでなく「人とAIの関係性の健康」を設計する必要があるとして、優しさや長期的影響を数理的に定義する試みや、精神医学との協働の重要性を伝えました。こうした田中氏の研究成果は、政策や安全基準(NIST: 米国国立標準技術研究所)にも影響を与えつつあるといいます。

続いて堀川特別研究員は、「脳活動から人間の思考を探る」というテーマで、脳活動データのデコード(エンコードまたは圧縮されたデータを、人間やコンピュータが理解できる元の読み取り可能または使用可能な形式に戻すプロセス)研究を発表しました。MRIで計測した人間の脳活動を、AIの表現空間に変換し、そこから視覚的内容や想起内容をテキスト化する「マインドキャプション」技術を紹介。方法は動画に付与されたキャプションを用いて、脳→機械表現の写像を学習するもので、これはマスク言語モデル(ある文章中の伏せられた単語を推測)と反復最適化(試行錯誤を繰り返してより良い答えを導き出す)で、脳活動に最も近い説明テキストを探索するというものです。これにより従来の限定カテゴリ認識を越え、未学習カテゴリの識別や予測精度が向上し、想起時の内容抽出も可能としました。評価では複雑な文構造をも捉えており、単語順をシャッフルすると性能が低下する点などから、関係性の復元を裏付けました。さらに、言語ネットワークを用いずとも非言語的視覚思考を解読し得るため、この研究はAIのみならず、失語症患者ら言語表出困難者のコミュニケーション支援や、ブレイン–マシンインターフェースへの応用が期待されます。

量子×IOWNがもたらす社会変革とビジネスの未来

11.26 WED 10:30~11:30

白井 大介
NTT株式会社 未来ねっと研究所 主席研究員
矢実 貴志
株式会社NTTデータグループ 技術革新統括本部Innovation技術部 課長
モデレータ八木 毅
NTT株式会社 研究開発マーケティング本部マーケティング部門 担当部長

この技術セミナーでは、NTT未来ねっと研究所の白井大介主席研究員より光量子コンピュータ技術的な側面からと、NTTデータグループ技術革新統括本部イノベーション技術部の矢実貴志氏によるビジネス視点の側面からの解説が二部構成で行われました。

白井研究員はNTTがOptQCと連携し、2030年を目標に100万量子ビット級の汎用光量子コンピュータ実現をめざすという、11月18日に行われた報道発表について言及しました。光量子方式は量子ビットを光通信方式で扱うためスケーラビリティに優れ、冷却や大規模制御が不要なため、消費電力を抑えられる点が強みあることを述べました。この方式では、光パラメトリック増幅器(OPA)を用いた「スクイージング」技術で量子雑音を低減し、世界最高の8dBを達成したことをもとに実機化に近づいていると説明しました。

量子計算は量子ビットの重ね合わせと干渉を利用して、古典コンピュータでは困難な指数的な組合せ空間から解を効率的に導きだします。この特性から、組合せ最適化や分子シミュレーションに強みを発揮します。光量子コンピュータは時間・波長・空間の多重化によって大規模化が可能で、将来的には光クロックによるテラヘルツ級の高速動作やラックスケールの小型実装化をめざしています。しかし一方で、量子光の損失対策、大規模化のためのファイバ低損失化、高速化のための光回路化、実装のためのパッケージングやシリコンフォトニクス等の課題があると指摘しました。100万量子ビット実現までのロードマップでは、2027年ごろからユースケースの実証を開始し、2030年に誤り耐性を備えた汎用大規模機の実現を目標としています。さらに長期的には、量子通信や量子センサと結びつけて、地球規模の量子コンピュータ網を構築するという壮大なビジョンも示しました。

矢実氏は、技術進展、ユースケース探索、政府の投資、そしてAIやデータ量増加によるHPC(高性能計算)需要の急増を挙げ、ビジネス観点から量子技術の期待要因を整理しました。既存の半導体アーキテクチャは限界と電力課題に直面しており、量子が有力な解の1つであると説明しました。量子システムには、ゲート型(汎用)とイジングマシンと呼ばれる量子アニーリング(特化型)があり、用途や成熟度が異なるため適材適所の検証が重要であることも強調しました。期待される適用領域は、化学・創薬、金融、AIに加え、交通・物流、製造の最適化、そしてセキュリティ(量子耐性暗号)など多岐にわたります。

具体事例として、ガラスカット最適化、匂い再構築プラットフォームの共同開発や車両テスト工程最適化コンペなどの取り組みを紹介。これらは短期的な現行量子機での性能検証から、将来の大規模量子機を見据えたビジネス創出までの「短期的・長期的」な連続性を意識した取り組みとなります。NTTデータはユースケース探索、シミュレーション、検証環境、データセンタ基盤まで含めたトータル支援を提供し、技術と人材・エコシステムの整備が鍵と結びました。

総じて、光量子×IOWNは低消費電力・高スケーラビリティという特性から、2030年を目処に社会実装をめざし、化学・物流・金融等で競争優位を生む可能性があります。しかしその実現には、ハードの集積化・誤り訂正・ネットワーク連携・実装技術といった複数の技術課題の克服が必要です。ユースケースの精査とエコシステム構築が同時並行で必要だというのが講演の核心でした。

加えて、実用化に向けては、標準化や法制度の整備、データ保護・プライバシー対策、量子耐性暗号への移行といった社会制度面の準備が不可欠です。企業や研究機関は、短期的なPoC(概念実証)で即効性を検証しつつ、長期的には基盤技術への継続投資や人材育成、産学官・国際連携を強化してエコシステムを育てる必要があります。標準化とオープンな技術共有を進めることで、互換性や安全性を担保し、リスク管理とビジネス価値の両立を図ることが、量子×IOWNの社会実装を加速する鍵となるとしました。

未来を照らす光の量子計算 ~入門から最先端技術まで~

11.26 WED 14:00~15:00

高瀬 寛
OptQC株式会社 代表取締役CEO
梅木 毅伺
NTT株式会社 先端集積デバイス研究所 上席特別研究員
モデレータ芝 宏礼
NTT株式会社 先端総合研究所 企画部 企画部長

この技術セミナーでは、OptQC(オプト・キューシー)株式会社 高瀬寛代表取締役CEOとNTT先端集積デバイス研究所 梅木毅伺上席特別研究員によって、量子コンピュータの現状と課題、その課題の突破口となりうる新技術などについて語られました。

高瀬氏はまず、東京大学の古澤研究室からなるOptQC社の設立背景について紹介し、現行の計算インフラが直面する深刻なエネルギー消費問題を背景に、この課題を解決するための2つの画期的な転換を提唱しました。それは、従来の古典計算から量子計算への移行と、電気信号から光信号を基本とする物理系への移行です。

量子ゲートは量子テレポーテーション(測定誘起型量子計算)で実現します。その際、量子もつれ状態の量子資源が大量に必要となりますが、物理実装の拡張性は時間領域多重化で解決。これは、高速のコアを使い回して量子ビットの入力数を時間的に多重化することで、ハードウェアが再現なく巨大化することを抑制できます。ハードウェアの規模を一定に保てる事例として、理化学研究所に設置された100量子入力・クラウド接続可能な光ゲート型システム(MQC3)を紹介し、過去に作成したシステムの大きさと、現在作成している最新型の大きさがほとんど変わらない事実を示しました。OptQC社はモジュール化された100量子ビットの1号機を開発中(2026年完成予定)で、さらに2027年ごろに完成すると目される2号機では、光パラメトリック増幅器(OPA)等を用いて、現状の100倍のクロック・入力数(1万量子ビット)をめざす計画を示しました。究極的には測定・制御といった、いまだに電気系でまとめられているシステムの部分を全て光で置き換える「全光量子コンピュータ」を目標に、シリコンフォトニクスや薄膜リチウムニオベートなど集積光技術の応用によって、これから生まれる技術にも期待していると述べました。

一方、梅木研究員はPPLN(Periodically Poled Lithium Niobate)デバイスの技術的詳細と、光通信との親和性について解説しました。光量子技術とデジタルコヒーレント技術は、光源・伝送路・受信という基本的な構成や光の位相・振幅(IQ平面)を用いて情報を扱う点で共通しています。しかし、光量子技術には量子の重ね合わせ・量子もつれ・損失感受性など、量子特有の要件があり、これが異なるため、この相違点を補正・修復するために必要になるのが「PPLNデバイス」であると述べました。このデバイスによって高効率な相互作用を実現し、高効率な相互作用を実現し、増幅利得や変換効率を大幅に向上しました。特に、位相感応増幅モードにより低雑音増幅やスクイーズド光(現在8dB以上)の生成が可能になったと報告しました。

さらに量子技術においては、非ガウス状態生成の重要性を強調し、高速化の課題として、量子信号は損失に弱いため、従来の技術では高速化は困難でしたが、位相間増幅(PSA)でロス耐性を付与することによって、通信で用いられる高速検出器や回路の流用が可能になり、43–60GHz帯でのEPR(量子もつれ状態の粒子間の非局所的相関のこと)相関測定に成功している点を示しました。PPLNは単なる量子光源にとどまらず、古典光を量子光に、あるいはその逆に変換する前置増幅器として、光通信と光量子コンピューティングの融合を促進する鍵となる技術であると結びました。

高瀬氏と梅木氏は、光の連続変数表現と時間領域多重化を軸に、NTTが光通信で培った超広帯域伝送やコヒーレント検出、集積導波路などの光通信技術を量子計算へ取り込む共通ビジョンを示しました。スケーラブルで高クロックな光量子コンピュータの実用化に向けては、誤り訂正の高度化、損失対策、光集積化・光電子融合という技術課題の克服が必要です。これに加え、産学連携・標準化、商用モジュール化による実装性の向上が今後の鍵になると締めくくりました。

展示レポート

展示サマリ

NTT R&D FORUM 2025における技術展示は「生成AI」、「IOWN」、「量子」、「サステナビリティ」、「モビリティ」、「NW(ネットワーク)」、「セキュリティ」、「宇宙」、「デジタルツイン」、「UI/UX」の10のテーマで構成され、会場の1~2階を5つのエリアに分けて展示いたしました。さらに、各展示はWebサイトとも連動し、これにより、利用シーンや業界に基づいたおすすめの展示がレコメンドされるなど、来場者の関心にあわせた観覧を可能としました。

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進化する大規模言語モデルtsuzumi 2

進化する大規模言語モデル<span class="tsuzumi">tsuzumi 2</span>

NTTが開発した大規模言語モデルの新バージョン「tsuzumi 2」がリリースされました。1GPUで動作可能な軽量モデルでありながら、日本語性能においては超大型モデルに迫る世界トップクラスの性能を実現した運用効率と性能のバランスに優れたAIモデルです。その特徴の第一はビジネスシーンで頻繁に利用される能力が強化されている点です。特に利用用途の80%を占めるドキュメントに対するQ&Aタスクや、ドキュメントからの情報抽出・要約タスクの能力が集中的に強化されています。

また、40ギガバイト以下のメモリを保有したGPUでの動作を想定して開発されているため、単一の企業や団体のクローズドサーキットでの運用も比較的容易となります。そのため、機密性の高い情報を安心して取り扱うことができ、企業秘密の漏洩などのリスクを大幅に減少し、極めて高いセキュリティを確保することができます。加えて金融・自治体・医療分野については特に多くの知識を学ばせているため、経済安全保障、デジタル赤字解消、AI産業強化といった分野では多くのケースで優れた性能を発揮します。

展示ではtsuzumiの将来の活用事例として「オーケストレータ」が紹介されました。これは名前のとおり、tsuzumiにオーケストラの指揮者の役割を与え、この「オーケストレータ」が業務をコントロールします。例えば「今期の○○支店の売上低下の対応策」といった命題を与えられた場合、過去の売上データやお客様からいただいた苦情の内容などといったさまざまな情報を収集して答えを導き出します。もし情報が足りない場合は、この「オーケストレータ」が独自の判断でチャット機能を使用して直接担当者に問い合わせを行い、足りない情報を補うというような能力も付加されています。

他社がさまざまなAIモデルを発表する中で、この「tsuzumi 2」は、NTTがゼロからフルスクラッチ開発を行った純国産モデルです。そのため、開発過程においての信頼性も確保された、まさに日本人のためのAIモデルといえます。

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コンテンツのフェイク対策技術

コンテンツのフェイク対策技術

コンテンツ(写真や動画等)の信頼性を守るため、コンテンツのフェイクに対応した対策技術を開発しました。現在、スマートフォンやタブレットPCなどでも誰もが容易に撮影ができるコンテンツについて、その来歴情報を付与する「C2PA」(Coalition for Content Provenance and Authenticity)は、コンテンツの出所や来歴の認証に関する技術仕様を策定している標準化団体の略称であり、そのコンテンツの来歴や信頼性と同義で使用される言葉です。しかし、「撮影場所」や「日時」、「撮影した機材」などのデータ情報はさまざまなアプリケーションを使うことで容易に改ざんすることが可能です。まして生成AIを使用すれば、誰もが簡単にコンテンツの修正を行うことができます。つまり、今や「C2PA」は保証されたデータとはいえないという状態です。私たちが日頃、目にしているコンテンツが改ざんされていないという保証はありません。

そこでこの技術では、撮影時に真正性を確認したのちに署名することで、利用者の行うファクトチェックを簡易化するものになります。これは「真正性チェックモジュール」と「真正性チェックツール」で構成されており、撮影日時や位置情報などの真正性を確認することができるうえ、そのコンテンツの真正性の高低を判定することができます。また、修正されたコンテンツであれば、修正前のコンテンツを確認することや、トリミングされたコンテンツでも切り取られる前のコンテンツの画角を確認することがそれぞれ可能です。この機能を使えば、あらかじめ署名を付与したコンテンツのファクトチェックを個人でも容易に行うことができるようになります。現状の課題として、専用アプリで撮影したコンテンツにのみ本情報が付与されるという制約があります。今後は、本技術を必要とするアプリへの機能搭載であったり、最終的には端末への標準搭載をすることが目標となります。

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生成AIによる超高速ソフトウェア開発技術

生成AIによる超高速ソフトウェア開発技術

ソフトウェアの新規および追加開発において、生成AIを活用して超高速かつ低コストで高品質なアウトプットを実現し、ソフトウェア開発にかかる稼働・工程を4割削減・短縮をめざしているのが本技術です。現状、個々のユーザの要望を反映した高品質なソフトウェアの開発には、多くの部分で人手を要する工程が必要となります。ただし、この方法では開発者グループのそれぞれがプロジェクト全体を把握する必要があり、コスト的にも時間的にも多くのデメリットがあります。これまでもコーディング(いわゆる実装)の工程では、生成AIを活用するケースもありましたが、実は生成AIは大量のコンテキスト(状況・文脈・前後関係などの意)を理解することを苦手とします。特にソフトウェアの開発においては開発中のソフトウェア固有の知識を求められるため、一般的な知識しか有さない汎用的な生成AIで、この高度なタスクを遂行することは困難で、そこに人手を必要とする要因がありました。

そこで、ソフトウェア開発に必要となる多様なデータを多面的に解析して、その依存関係を把握し、知識データベースを構築する技術を開発しました。この知識データベースから生成AIにその時々のタスクに必要なデータを、自律的に選択させて、適切かつ正確に遂行させるようにすることで、人手が必要となる部分を最小限にし、高品質でコストパフォーマンスに優れたソフトウェアの開発が可能となります。

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生成AIを活用した機器故障修理判定自動化

生成AIを活用した機器故障修理判定自動化

家庭でインターネットがつながらないなどの不具合が発生した場合、現状ではコールセンタにそのお客様からの問い合わせがあり、事情をヒアリングしたうえで現場に連絡し、お客様宅を訪問して対応するということなります。しかし、そうした問い合わせのうち、ONU(Optical Network Unit:光回線終端装置)のケーブルが抜けかけていただけというような軽微な不具合が50%ほどあります。こうした故障ではない不具合に対して、LLM(Large Language Model)やVLM(Vision-Language Model)と呼ばれる高精度なAIを活用してONUなどの機器状態確認および軽微な不具合の修理のユーザセルフ化を実現するのが本技術です。

一方、現行のLLM/VLMといったAIは汎用的なAIではありますが、専門性の高いドメイン知識はあまり持っていないため、通信機器の故障判定業務に特化したAIが必要になります。NTTでは、マルチモーダル入力が可能なAIエージェントを構築すると共に、画像処理などの技術を組み合わせたVLMのユーザフレンドリーなUI(ユーザインターフェイス)などの周辺技術により、機器故障修理判定の自動化を実現しました。現在は電話やWEB上での対応となっていますが、ゆくゆくはスマートフォンのアプリケーションとしての提供をめざしています。

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実社会センシングとロボティクスAI

実社会センシングとロボティクスAI

少子化などの要因により、人口減少が危ぶまれる我が国は、一次産業を始めとする労働力不足も徐々に現実化してきています。そうした課題に対してセンシングデバイスやAI、ロボティクス技術を有機的に組み合わせることで、熟練者のノウハウや精密な作業を代替し省力化を計ります。あえて低解像度サーモセンサと専用AIを組み合わせることで人の顔が判る映像・画像を一切取得しないため、高い匿名性と従来のAIでは扱いきれなかった熟練者の判断力を両立させました。これによって、例えば農場の数cmほどの畝間を正確に自律走行できるロボットの制御が可能となります。具体的な例が今回展示した1つの「自動除草ロボ」です。ホウレンソウや小松菜といった比較的狭い畝間やハウス内で栽培されている作物では、人が入り込むことが難しいことや慣れない人が作業すると作物自体を踏みつけてしまうことがあり、こうした狭い場所での雑草の除去を目的として開発しました。

また、AIによって電源が続く限り完全に自律行動できるため、農場での狸や鹿などによる害獣被害にも対応可能です。実際に福井県のとあるキャンプ場で行った実験では、夜間にこの試作ロボットを巡回させることで実際に害獣を追い払うことができることを実証しました。

現在の目標は、このような一次産業など実社会での維持管理業務を省力化および無人化を推進することです。将来的には例えば福島県の原発事故跡地など、人が容易に入れない場所での精密作業に役立つようなロボットの開発をすすめていきます。

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  • B18
  • モビリティ

交通分野向けワールドモデル

交通分野向けワールドモデル

ワールドモデルとはAIに環境の変化や行動の結果を効率的に学習させたり、予測させたりする技術の1つで、特定の入力から数秒後の未来の状況を高精度に推定する技術です。重要な推定対象としては、主に人間行動と物体運動の2つが挙げられ、AIが観測データを基に学習した現実世界の状態や挙動を予測することで、学習データになかった未知の事態に直面しても、柔軟に対応可能となります。NTTでは、このワールドモデルを交通分野で活用しようと考えています。人間は複雑な行動(意図した行動や無意識の行動)を取るため、適切な「人間行動予測モデル」がないと、将来を精度高く予測することは困難です。例えば交差点では、赤信号で歩行者が停止し、青信号で歩き出すという、交通ルールに従った行動が通常想定されます。しかし、歩行者が2人連れで、会話に夢中になっている場合、信号に気づかず(無意識のうちに)横断を開始してしまう可能性もあり、そういった例外にも対応できる予測モデルが必要となります。

NTTでは、人間が知覚する世界を明示的に処理導入するAIモデルと、各物体に働く物理法則を考慮するAIモデルによって、人間の行動や物体の運動を高精度に予測することを可能としました。これにより、特に交差点における歩行者や自転車の5秒後までの将来位置の推定や、物体が落下や衝突、転倒する場合の物理運動変化の推定において高い精度を発揮します。こうした予測困難な行動や現象に起因する交通事故の低減に貢献し、安心・安全な社会を実現します。

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  • C05
  • IOWN
  • APN for Datacenter

ダイナミック ワット・ビット連携

ダイナミック ワット・ビット連携

「ワット・ビット連携」とは、電力(ワット)と情報通信(ビット)を高度に連携し、インフラ整備を一体的に進め、持続可能で効率的な社会基盤を築くことをねらった新たな概念です。NTTでは、この「ワット・ビット連携」の実現とデータセンタのカーボンニュートラル化をめざし、再生可能エネルギーの有効活用を可能とするダイナミック ワット・ビット連携」に取り組んでいます。例えば、再生可能エネルギーを含む電力需給状況に合わせ、APN(オールフォトニクスネットワーク)で接続された複数のデータセンタ間で生成AIの学習や推論のワークロードを移動させるワークロードシフトや、蓄電池による充放電制御の実現をめざしています。

この実現には、より安価に無駄なく再生可能エネルギーを使用することが求められるため時々刻々と変動する発電量や消費量を正確に予測し、各種リソースの最適な制御計画を立案する技術が不可欠です。そこでNTTでは、電力と情報通信のリソース情報を高度に連携する統一管理、予測、最適化、制御といった技術の開発に取り組んでいます。予測では、地理的・時間的特性を考慮して、再生可能エネルギーの発電量、および電力価格と取引量を統合的、高精度に推定します。最適化では、予測された各種電力データに基づき、再生可能エネルギーの利用量最大化とコスト最小化に寄与する、ワークロード配置と蓄電池の制御計画を立案し、リアルタイムに制御側に反映します。制御では、最適化された制御計画に沿って、ワークロードと蓄電池の制御をします。こうした取り組みにより、再生可能エネルギーの利用量最大化と、電力コスト最小化による経済的なデータセンタ運用が両立することから、世の中のカーボンニュートラル実現に、大きく貢献します。

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  • C07
  • IOWN
  • APN for Datacenter

長距離間のリアルタイムデータ同期

長距離間のリアルタイムデータ同期

遠隔地間のストレージをリアルタイムに同期させ、あたかも1台のストレージであるかのように扱う「長距離仮想ストレージ」技術を、IOWN APN(オールフォトニクス・ネットワーク)と組み合わせて検証した成果を紹介するのが今回の展示です。従来の通信回線では「長距離仮想ストレージ」を可能にできる距離に限界があり、およそ100kmが実用的な上限とされてきました。これは通信回線の往復応答時間が大きな要因で、複数ストレージの同期を成立させるためには20ミリ秒未満の往復応答時間が求められていたためです。

NTTではIOWN APNを用いた実証実験において、世界で初めて600kmの距離でのストレージ同期に成功しました。具体的には約600km(東京-大阪間相当)で約7.5ミリ秒の往復応答時間を達成しています。また、本実証では200km、400km、600kmと段階的に距離を増やしながら検証を行い、遅延が距離に比例して増加する一方で、600kmでも同期可能な性能が維持できることを確認しました。これにより、理論上はIOWN APNを利用すれば約1,600kmの距離でも遠隔地間のストレージ同期が可能であると見込まれます。これは東京を起点にすると、北は北海道、南は沖縄までをおおよそカバーできる距離になります。今回の展示では、実証実験で得られた成果をもとに構築したデモ環境を用いて、東京側のシステムを意図的に停止させ、大阪側のストレージへ自動的に処理が切り替わり、途切れることなくバックアップ・リカバリーが行われる様子をご覧いただきました。

この技術は、金融機関や社会インフラ事業者など、極めて高い可用性が求められる企業において「分散型データセンタ」の実現に寄与する重要な基盤となることが期待されます。例えば、もしも大規模な自然災害や停電などで、ある地域のデータセンタが停止した場合でも、同期している別地域のデータをそのまま利用できれば、切り替えや復旧の手間をかけずにサービスを継続でき、重要な業務データやサービス提供を途切れさせずに守ることができます。

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  • C08
  • IOWN
  • APN for Enterprise

IOWN × 映像プロダクションDX

IOWN × 映像プロダクションDX

映像制作拠点(撮影スタジオなど)での高度な映像処理によって発生する計算リソースの増加や消費電力の増加に対してIOWN APN(オールフォトニクス・ネットワーク)を用いて、その負荷を分散するための技術が、この「IOWN × 映像プロダクションDX」です。展示では実際にR&Dフォーラムの会場から3,000km離れたデータセンタで作成された仮想空間に、会場で撮影した人物の映像をリアルタイムで合成するという、バーチャル映像のデモンストレーションも行っていました。

この技術は、具体的には人物などの被写体と背景となる仮想空間の映像を1つのカメラで同時に撮影可能とするシステムです。これは「バーチャルプロダクション」という名称で呼ばれることもあります。これまでTV番組などでは、大掛かりなセットを組んだスタジオでさまざまな番組が撮影されてきました。仮想空間との合成映像を制作する場合も、その仮想空間のリアルタイムの描写に大量のGPUとそのほかの機器が必要でした。各撮影拠点の仮想空間映像に対して、映像レンダリングサーバとGPUをIOWN APNでリモート接続することで、従来ローカルの映像制作拠点で行っていたものと比べても違和感のない低遅延な環境での映像制作が可能となります。本技術によってシステム全体でのGPUリソースやそのほかの機器をスリム化することが可能となります。

また、IOWN APNで利用することで大容量、低遅延、ゆらぎなしの映像レンダリング処理や時刻同期が可能になります。今回のデモでは仮想空間用のGPUを3,000km離れたデータセンタに置いて実証実験していますが、この映像処理を含めた往復遅延はわずか84ミリ秒(0.084秒)に収まっているので、遅延による違和感もほとんど感じません。

このように都市部から郊外へ電力を分散することや、他利用者とのリソースをシェアリングすることにより、電力問題の解決や経済効果も望める未来の映像プロダクションです。

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  • C21
  • NW
  • スマートインフラ

光ファイバセンシングによる空洞化推定

光ファイバセンシングによる空洞化推定

今回のR&Dフォーラムに先立つ報道発表で、既存の通信光ファイバを活用し、地盤の空洞化を推定する技術を公開しました。これは、この技術は、近年各地で話題となり問題となっている、埼玉県八潮市での事故も記憶に新しい道路陥没事故の原因となる地盤空洞化への対策です。埼玉県八潮市での道路陥没事故は、社会的に大きな注目を集めました。従来は、電磁波や超音波レーダーを搭載した自動車による走行調査などを利用した地表からの計測が主流でした。しかし、これはコスト的な問題で数年に1度しか行えない不十分なもので状況の変化を見つけるための高頻度な測定が難しく、なおかつ地表からの3m未満の浅い所しか分からないという欠点がありました。必要なのは地中の深い部分(3m以上)のモニタリング技術で、そこで注目されたのが産業技術総合研究所で考案された、地盤工学的なアプローチである特殊なアレイを個別に配置する方法と、NTTが持つの「光ファイバセンシング」という技術です。産総研とNTTでの共同研究の結果、双方ともにおおむね同じ結果が得られることが実証されました。ただ、産総研のアレイは、調査したいそれぞれの場所に個別に設置する必要があるのに比べて、NTTの光ファイバケーブルは既に通信用として全国各地の地下に敷設されています。この既設の光ファイバをセンサとして利用して、遠隔から地盤の状況を調査できるため、圧倒的に低コストで行うことができます。今回、産業技術総合研究所と連携し、従来の地盤工学で用いられる微動アレイ探査という地表に複数のセンサを設置し地盤の特性を解析する手法と、地下の既設の通信用光ファイバを用いた光ファイバセンシングとで、双方ともにおおむね同じ測定結果が得られることが実証されました。これにより、光ファイバセンシングで得られる信頼性のある地盤情報から空洞化という地中の変化を推定できることがわかりました。また、地盤の空洞化というのは、徐々に進行していくもので、その進行度を調べるためには常時に近い頻繁なモニタリングが必要となります。その点でも「光ファイバセンシング」は優位性を発揮します。この技術は、2026年度は全国各地の自治体と協力して実証実験を進め、2027年にはプレサービスの開始を計画しています。NTTでは技術精度をさらに向上させて、地盤陥没リスクを早期発見し、地域の安心安全に貢献したいと考えています。

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  • C22
  • NW
  • スマートインフラ

SAR衛星による道路下の点検技術

SAR衛星による道路下の点検技術

SAR(合成開口レーダ)衛星の電波の送受信情報から、広範囲にわたる道路下の地盤やインフラの異常を、従来の現地調査よりも効率的かつ一括でモニタリングする技術です。この技術は、現在の地盤調査が抱える課題を解決します。現在は総延長約115万kmに及ぶ上水道・下水道管路下の調査を、調査員がそれぞれの場所に赴いて行うため、全てを定期的に点検するには莫大な人的・経済的コストが必要でした。一方で埼玉県八潮市の事故などの社会インフラの老朽化を原因とする道路陥没事故が社会問題化しております。これまで、我々は土壌の水分量を見ることで山間部などの土砂崩れを防ぐために衛星に関する研究開発を進めておりました。この社会背景を受けて、保有していた電波による衛星観測技術を道路陥没検知へ応用しました。この技術は、比較的浅い(50cm〜1m程度)場所の状態を広範囲にかつ同時に調べることができ、より緊急性の高い場所を発見しやすいという点が特徴です。

将来は、現状は、同じNTTの光ファイバセンシングと組み合わせることで、精度よく地中の空洞の検出を目指しています。2026年度はさまざまな自治体とも協力して実証実験を重ねて信頼性を高めるとともに、自治体の具体的な課題をお伺いしながら、世の中で広く使われる技術の確立を目指します。

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  • D01
  • 量子

光量子コンピュータが創造する未来

光量子コンピュータが創造する未来

今回のR&Dフォーラムの目玉の1つである「光量子コンピュータ」は、「光量子コンピュータの挑戦」「光量子コンピュータの動作原理」「光量子コンピュータの計算メカニズム」「光量子コンピュータが創造する未来」の4つのブースにわたる大規模な展示となりました。現在、量子コンピュータは各国で開発が進められていますが、量子コンピュータ実用化のためには、第1に性能(計算力)、第2に有用性(意味のある計算ができるか)、そして第3に実現可能性(計算結果が正確か)という3つの課題を全て満たさなければ成立しません。現在開発が進んでいる量子コンピュータにおいて、この3つの課題を全て満たしている機種はまだ存在していません。しかし、現在のスーパーコンピュータの性能を大幅に凌駕する量子コンピュータの開発は、今や未来に向けての必要不可欠な命題といえるでしょう。

現在開発が進められている量子コンピュータには、超伝導型、中性原子型、イオントラップ型、半導体型などのタイプがあります。NTTが東京大学や理化学研究所、OptQCと共同で開発を進めているのは、これらと異なる「光量子型」と呼ばれる量子コンピュータです。「光量子型」の特徴は光の特性を活かした「常温・常圧での動作」、他方式とは異なる「時間・波長多重による省スペース化」、光の周波数で動作するため「高速化」などがあります。さらに、光通信の技術との親和性が極めて高く、NTTが長年培ってきた技術を利用できるアドバンテージがあり、圧倒的なスケーラビリティ(量子ビットを増加させやすい)を誇ります。最終的なシステムの大きさは、幅60cm×高さ1250cm×奥行80cm程度という、量子コンピュータとしては極めてコンパクトなものになる予定です。

NTTの光通信および光伝送技術を活用した高速・低電力な「光量子型」の特性を活かして、2030年ごろの汎用大規模システムの実現と、これまで実現不可能だった社会課題の解決をめざします。

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  • D09
  • サステナビリティ

NTTグループの水素配管技術

NTTグループの水素配管技術

NTTは、電気やガスなど既存のエネルギーインフラに水素を加えるため、独自の配管技術を開発しています。水素は究極のグリーンエネルギーとなりえますが、その普及は水素ステーション不足や輸送の難しさが大きな課題です。パイプラインやボンベで水素を輸送する際、水素は炭素と結びつき、金属を腐食させてしまう「水素脆化」という現象を引き起こします。この現象を防ぐため、パイプやボンベには「水素脆化」を起こさない特殊な金属や素材が必要になります。そこでこの現象に対応した特殊な二重管方式のパイプを開発し、NTTが保有する通信ケーブルの経路を活用することで、低コスト化を実現します。このパイプラインを埋設して安全に水素を供給できる体制を確立するのが、この技術の根幹です。

この配管技術のもう1つの特徴として、安全性の確保が挙げられます。安全策として都市ガスと同様に水素が漏れた場合に認識できるよう臭いをつけるという手法も提案されましたが、この臭いの成分が原因で燃料電池などの機器の故障を誘発します。水素自動車の故障原因は、この臭い成分による燃料電池の故障が少なくありません。そこで無付臭による水素供給を可能にする新しいパイプラインを開発しました。さらなる安全性確保のため、パイプに光ファイバを通し、漏れなどの不具合箇所を検知します。万一水素漏れが発生した場合は、「乾燥空気装置」により、遠隔で配管内の水素を押し出すような機能も備えています。こうした異常検知技術と安全対策によって水素サプライチェーンを確立し、水素をメインエネルギーとする社会を実現するのが目標です。

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  • D10
  • デジタルツイン

空間データ基盤 安価に大規模3D化

空間データ基盤 安価に大規模3D化

NTTドコモでは、低コストで簡単にビルや駅などの大規模環境の高精度な3Dマップを作成できる技術を確立しました。この技術は、建築業界における調査や施工の進捗管理において有望です。従来、LiDAR(レーザー測量装置)は正確かつ高速でしたが、大変高価であり導入ハードルが高いというデメリットがありました。本技術と従来のLiDARとの相違点は、ユーザが市販の360度カメラ(スマートフォンなどでも可)で撮影した動画や画像からでも、高精度な3Dマップの作成が可能な点です。それに加え、サーマルカメラを使うことで、肉眼では見えない温度情報も可視化することができる点も有用です。例えば、工場などの建造物を上空からドローンで撮影して、屋上の温度分布から太陽光パネルの設置場所を決定することや、メガソーラーで大量に設置された太陽電池の中から、異常な高温部を探して故障部分を特定するなども低コストで可能となります。さらに電波測定装置を使えば、空間中の電波の弱い箇所を可視化することも可能になると考えています。例えば、オフィスフロアを撮影しつつ、そのオフィス内での電波強度の分布なども調べることができ、屋内基地局やWi-Fiルータのようなネットワーク機器の最適な設置場所の決定も容易になります。このように、3Dマップを短時間に簡易作成できるようになることで、さまざまな業界での業務効率化を図ることを可能にします。今後も、多岐にわたるニーズに応えるべく技術開発に取り組んでいきます。

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  • E01
  • セキュリティ

強固な鍵管理によるデータセキュリティ技術

強固な鍵管理によるデータセキュリティ技術

NTTではクラウドの暗号管理に関するインシデントを抑制してデータセキュリティを確保し、コストや利便性に優れる「暗号鍵」を実現しました。暗号鍵とは機密データなどを第三者が理解できない形式に変換するための暗号化アルゴリズムに使用される文字列のことで、データの保護や認証、デジタル署名などに利用されます。この暗号鍵は通常、クラウドサービス内で保護・管理されていますが、プロバイダの暗号鍵管理に人的ミスや内部不正などのインシデントが発生すると、セキュリティが破られてしまう可能性があります。具体的には、クラウドのTEE(Trusted Execution Environment : 高信頼実行環境)で暗号鍵の生成、運用を一元管理することによって、強固なセキュリティを確保すると共に耐量子暗号にも対応している点です。特筆すべきはアメリカにNIST(ニスト)というアルゴリズムの評価認定をする組織があり、このNISTの認定をパスすることで信頼できるライブラリであることの証明となりますが、現在、TEEでNISTの評価試験をパスする仕組みの暗号鍵技術を持っているのは、国内ではNTTだけです。政府機関や重要物資を製造している企業がこの暗号鍵を使用することによって、国家機密や企業秘密などの重要なデータを厳格に保護し、安全が担保できます。

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  • E04
  • セキュリティ

デジタルアイデンティティウォレットグローバルインフラ

デジタルアイデンティティウォレットグローバルインフラ

NTT Digitalではスマートフォンなどで提示可能で、かつ国内のみならず世界で通用するデジタルアイデンティティの普及を目指した技術インフラ提供を目指しています。デジタルアイデンティティとは電子化された個人情報という意味です。住所や名前、生年月日や年齢といった基本的な個人情報や職業・職歴などといったあらゆる情報をウォレット(財布)に保持し、オンライン経由のサービスの利用や商取引などのやりとりをストレスフリーで行うための証明書のようなものです。今回、TEEやMPCに関するNTT独自技術を実装することで、安全・安心・高信頼のデジタルアイデンティティウォレットを目指しています。この技術は欧州や国内でも大手企業においては実証実験が開始され、世界でみても大規模な導入や展開が今後拡大していくと予想されます。メリットは、例えば証券会社などで口座を新規開設する場合、通常証券会社の口座開設では住所や名前、銀行口座などの個人情報を所定の書面に記入して、免許証などの証明書のコピーと共に提出して申請。問題がなければ1週間くらい経過したあとに審査が通ってようやく口座開設となります。さらにポイントなど連携するサービスはその後に自分でアカウント等の連携が必要です。これがデジタルアイデンティティウォレットに対応している証券会社であれば、このウォレットに入力されたVC情報(個人情報/銀行口座情報/ポイントサービス情報)を提出することで、即日の口座開設が可能になります。ウォレットにはデジタルアイデンティティだけでなく、ステーブルコインやNFTなど暗号資産も取り扱い、このウォレット一つで何でもできる世の中を実現していきます。グローバル化が進む社会で、このような個人が自分の個人情報データを管理・制御できる技術インフラは、仕事で海外活動するビジネスマンのみならず、海外旅行やワーキングホリデーの際などにも今後必須となると考えています。

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  • E09
  • 宇宙

IOWNデバイスの宇宙通信活用

IOWNデバイスの宇宙通信活用

これまで宇宙空間では、電波を用いた通信が主流でした。しかし近年では、宇宙空間におけるデータ取得頻度やそのデータ量が飛躍的に増加しており、今後はより大容量通信が可能な光レーザ通信に置き換わっていくことが予想されています。この光レーザーによる通信を実現しているのは、OCT(OpticalCommunicationsTerminal)と呼ばれる光通信端末です。現在市場にある既製のOCTは、光の振幅(強度変化)に情報を乗せるIM-DD方式を主に採用していますが、振幅に加え位相や偏波を利用して情報伝達するデジタルコヒーレント伝送方式を取り入れることで、宇宙での光通信を高度化(高速、大容量、低消費電力)していくことをめざしています。

ここで鍵となるのが、デジタルコヒーレント光伝送の伝送品質を決めるデジタル信号処理部であるコヒーレントDSPです。これまでNTTは世界トップクラスの低電力性能のDSPを開発してきましたが、この特性を全く損なうことなく、宇宙ならではの機能を追加した宇宙用途のDSPを開発中です。加えて、光と電気の変換機能を集積したシリコンフォトニクス光回路、電気増幅器等のアナログ電子回路とこのDSPを1つのパッケージにCo-package実装することで圧倒的な小型化、省電力化を実現した、まさに宇宙版IOWNデバイスと呼べるものです。

この宇宙版IOWNデバイスは、前述した大容量伝送、低電力性能に加え、高速で軌道上を周回する衛星間の通信の安定性や伝送距離を延ばすための低速レートに対応していること、高速で相対位置が変化する衛星間で生じる周波数変化(ドップラーシフト)に対して広範囲で補正できることが大きな特徴となります。

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