金井関利

Sekitoshi Kanai
分散処理基盤技術プロジェクト
研究員
(2018年11月取材時点)

より速く 簡単に そして安全に
AI深層学習の今。

今話題のAI(人工知能)を活用した取り組みである「corevo®」を支える基盤技術の研究に取り組むチームに所属し、深層学習の分野の研究に従事しています。車の自動運転などへの活用が期待される画像認識や、瞬時に言語を翻訳する自動翻訳など、AIは人々の暮らしを便利にする技術として様々な分野から熱い視線を浴びています。AI技術の中で今最も注目を集めている技術が深層学習です。時間がかかりがちな深層学習を、より速く、そして簡単にできる技術が求められていますが、ただ便利になるだけではなく、同時に安全性も担保しなければなりません。

金井関利

誰もが手軽に使えるAIを目指して。

金井関利

深層学習は学習の時間や経験と知識を必要とし、いまだ簡単な技術とは言えません。深層学習によって著しい進歩を遂げている機械翻訳を例に挙げると、まず膨大な数の英文データをコンピュータに入れていきます。この行為は人間同様に“学習”と呼ばれ、英語と同じように日本語の文章も入力すると、それらの関係をモデルが自動で学習します。例えば、「apple = りんご」というように単語単位で学習させるのではなく、「This is an apple」と入力すると「これはりんごです」と返すよう対訳文章を学習させます。このようなたくさんの対訳文章を学習させると、その単語の意味も含めてモデルは自動で学び、学習させたデータにはない文章も精度の高い翻訳ができるようになるのです。学習だけでも費やす時間は長く、数百万から数億単語に及ぶ文章データを学習させなくてはいけないので1、2週間かかることも稀ではありません。また学習には試行錯誤的にチューニングすべきパラメータが多数あるため、それをチューニングする知識や技術も必要です。この難しさを減らし、誰もが簡単に、そして安定的に深層学習を行なえるとしたら、AIの世の中への普及は飛躍的に加速するでしょう。

新たな“危機”のAdversarial attack

世界が最も注意を払っている危機管理は、AIとて無縁ではありません。むしろ、AIの活用により新たに危機管理が必要なことも出てきます。例えば、人間の目には犬と見える画像なのに、人の目には気にならない程度の特殊なノイズを画像データに加工することで、機械に犬と認識させなくできる事例が報告されています。日常的なことで例に挙げるとしたら、車の自動運転で標識を深層学習で認識させたとすると、前述の特殊ノイズが悪用されれば、標識を機械に誤認識させ、運転を誤らせることができてしまうのです。これはAdversarial attackと呼ばれるものですが、これを防ぐための技術はいまだ研究の途上です。

多彩な分野を研究するメンバーの集合体。

SICには、ソフトウェアという軸を起点に様々な研究分野のメンバーが集合しています。普段は個別に研究を進めていますが、定期的にグループミーティングの場を設けて、それぞれの取り組みをシェアする機会をつくっています。研究をする中で壁というのはつきものですが、このミーティングをきっかけに糸口が見つかることがあります。人に話すためには論理立てが必要ですし、資料をつくるためには自分がやっていることをまとめる必要が出てきます。この準備のプロセスのおかげで、冷静に自分の研究を見ることができます。また、メンバーとのディスカッションを通して、自分の理論の弱い部分、足りていない部分を見つけることもあります。悶々と一人で考えていてもなかなか出口が見つからない時、気軽に議論できる環境はSICの良さでもあります。

入社5年目、これまでは自分のできることから研究テーマを見つける形で研究を進めてきましたが、これからは求めに応えられる研究へとステップアップしたいと考えています。事業会社が必要とするものが何なのか、アウトプットで何をもたらせるかを考えながら動いていけたらと思います。

Profile

金井関利

金井関利

Sekitoshi Kanai
分散処理基盤技術プロジェクト
研究員

経歴

2015年

  • 日本電信電話株式会社入社。
  • 現在までソフトウェアイノベーションセンタ所属。
  • 深層学習に関する研究開発に従事。

2018年4月

  • 慶應義塾大学に博士課程進学。

研究発表

Sekitoshi Kanai, Yasuhiro Fujiwara, and Sotetsu Iwamura. "Preventing gradient explosions in gated recurrent units." Advances in Neural Information Processing Systems (NIPS) 2017.

Sekitoshi Kanai, Yasuhiro Fujiwara, Yuki Yamanaka, and Shuichi Adachi. "Sigsoftmax: Reanalysis of the Softmax Bottleneck." Advances in Neural Information Processing Systems (NIPS) 2018.