太陽フレアとは?その影響と対策について解説
私たちが暮らす地球に、いつも同じように光を降り注いでいる太陽は、内部で発生する核融合反応によって、表面の黒点などの状態が刻一刻と変化する巨大なエネルギーの塊です。この太陽の活動のなかで、いま大きな関心を集めているのが「太陽フレア」です。太陽表面の黒点の周辺で発生する爆発現象である太陽フレアが放出する電磁波や高エネルギー粒子は、最短で約8分という短い時間で地球に到達し、通信インフラや電力網などに障害をおよぼす恐れがあります。この記事では、2025年に活動のピークを迎えるともいわれる太陽で発生する太陽フレアが、地球環境や私たちの暮らしにもたらす影響や、そこではどのような対策が求められるのかについて解説します。
1. 太陽フレアとは?
まず、太陽の基礎知識について整理しながら、太陽フレアがどのようにして発生するのかについて解説します。
1-1. 太陽の基礎知識
太陽系の中心に位置する太陽は、太陽系で唯一の恒星(自ら光を放つ天体)です。その誕生は46億年前までさかのぼるとされ、大きさは直径約140万km(地球の約109倍)と太陽系で最大を誇ります。約1億5,000万km離れた地球に届く太陽の熱や光は、水素をヘリウムに変換する核融合反応によって生み出されており、地球上の多くの生命体にとって欠かせないエネルギーとなっています。
太陽で最も温度が高いのは中心部の核であり、最高で1,600万℃に達します。光球と呼ばれる表面部分の温度は約6,000℃、表面上空の大気層であるコロナの温度は約100~300万℃とされています。
太陽の表面や内部は、常に同じ状態にあるわけではありません。表面の熱対流によって生じる「粒状斑」、同じく表面に存在し強い磁場を持つ「黒点」、高温のプラズマであるコロナに炎のように浮かび上がる「プロミネンス」などの現象によって、その変化を観測できます。そして、これらを総称して「太陽活動」と呼んでいます。
1-2. 太陽フレアはどのようにして発生するのか
太陽活動のなかでも、最も大きなエネルギーを放出する現象のひとつが「太陽フレア」です。太陽フレアは太陽系で起きる最大の爆発現象であるとされ、大規模なものは水素爆弾100万個分にも匹敵するエネルギーを放出します。これを電力に換算すると、一度の大規模な爆発で全人類が使用する数十万年分に相当するエネルギーが放出されるともいわれています。
太陽フレアの発生メカニズムは明らかになっていない点が多いものの、その発生は太陽の表面に現れる黒点を構成する強い磁場と深い関係があるとされています。磁場には磁石と同じようにN極とS極があり、この2つの極は磁力線でつながっています。磁場はねじれたり、変形したりすることでエネルギーを蓄え、太陽フレアはこのエネルギーが「磁気リコネクション」によって解放されることで発生すると考えられています。磁気リコネクションは、プラズマ中で向かい合った磁力線が短時間で急速につなぎ変わる現象です。これにより、黒点のエネルギーの大きな爆発現象が生み出されるのです。
1-3. 太陽活動の周期
太陽フレアの発生頻度は、太陽活動の周期と連動して増減します。太陽活動は約11年の周期で変動を繰り返しており、この周期のなかで太陽の磁極は反転し、光球(太陽の表面近くの層)、彩層(光球の外側の層)、コロナ(太陽の大気)それぞれで大きな変化が生じます。そして、太陽活動のピークである「太陽極大期」には、表面に多くの黒点が現れ、大規模な太陽フレアが頻繁に発生します。逆に太陽活動が低下し、黒点の数も太陽フレアの発生も少なくなる時期は「太陽極小期」と呼ばれています。
太陽活動は、黒点が記録されはじめた1755年から1766年までを第1活動周期として、現在も観測が続けられています。NASA(アメリカ航空宇宙局)とNOAA(アメリカ海洋大気庁)が共催する国際的な専門家グループ「太陽活動第25周期予測パネル(The Solar Cycle 25 Prediction Panel)」は、太陽活動は2019年12月に第25活動周期に入り、2025年7月に次の極大期を迎えると予測しています。
2. 太陽フレアがもたらす影響
太陽フレアは、その爆発によって高エネルギー粒子や高エネルギーの電磁波を放出します。これらは光速かそれに近い速さで移動するため、最短で約8分という短い時間で地球に到達します。地球と太陽は約1億5,000万km離れていますが、太陽フレアは遠い星の出来事ではなく、地球環境に即座に大きな影響をおよぼしかねない現象なのです。
ここで気になるのが、太陽フレアが私たち人間、また地球上の多くの生物にもたらす影響です。この点について、本来であれば太陽フレアが放出する電磁波や高エネルギー粒子は生物にとって有害ですが、地球が持つ固有の磁場と大気によって守られていることで、人体などへの直接的な影響はないとされています。
しかし、特に太陽フレアから放出される高エネルギーの荷電粒子(主に高エネルギーの陽子)や電磁放射線(主にX線)は、私たちの目に見えないところで地球環境にさまざまな影響をもたらしています。
2-1. 電離圏への影響
太陽から放出されたX線などは地球の大気によって吸収されるため、一見すると無害に感じられますが、大気上層にある「電離圏」に影響を与え、不規則な乱れが生じることで通信障害などを引き起こします。また、放出されたX線は地球の上層大気を加熱して膨張させます。これにより軌道上の衛星が受ける抵抗が増大し、安定的な運用に影響を与える可能性があります。
2-2. 磁気嵐がもたらす影響
しばしば太陽フレアに伴って発生する「コロナ質量放出(CME)」によって引き起こされる「磁気嵐」による影響も見逃せません。CMEは太陽フレアと同様に、太陽活動が活発な太陽極大期に頻繁に発生します。フレアが太陽周辺で高エネルギー粒子を発生させるのに対し、CMEは衝撃波を宇宙空間に伝播させ、その過程で高エネルギー粒子を発生させます(太陽嵐)。CMEが地球に衝突すると、大きな地磁気変動によって磁気嵐が発生し、特に高高度の静止軌道にある人工衛星などが損傷を受ける可能性があります。
2-3. 太陽風が生み出す太陽圏
太陽フレアを含む太陽活動が地球にもたらす影響について、現時点で明らかになっていることはごく一部です。通信インフラなどの障害にとどまらず、地球上の生命体(人間以外の生物など)にも何らかの影響があるのではないかと考える人もいます。
また、太陽活動の周期によって地上に降り注ぐ宇宙線の量が変わり(太陽活動が弱まると宇宙線の量が増加する)、そのことが大気中での雲の成長を加速させるなど、地球の気候に影響を与えているという研究報告もあります。まだわかっていないことが多い太陽活動ですが、そのなかでも「太陽風」の働きを理解することは、地球以外の宇宙における生命の存在を考える上でも非常に重要です。
太陽風は、太陽から放出される荷電粒子(プラズマ)の流れのことです。この太陽風によって、太陽と惑星の周りには「太陽圏」が形成されています。太陽圏は惑星の形成や進化の道筋を左右するとともに、生命の存在を支える重要な役割を果たしています。
太陽風が宇宙空間に放出されると、放射線と磁場による特殊な環境がつくり出されます。この太陽圏の複雑な環境は、「銀河宇宙線(太陽系外から飛来する荷電粒子)」から太陽系の惑星を守る防護バリアのような役割を果たしています。さらに、地球は独自の磁場を持つことによって、銀河宇宙線に加え、太陽風による大気の侵食やさまざまな放射線からも守られているのです。
対照的に、火星や金星といった惑星は地球のような磁場を持たないため、これらの宇宙現象にさらされたことで、地球とは異なる進化の道を歩むことになったと考えられます。
3. 太陽フレアの人間社会への影響とその対策
ここからは、太陽フレアが人間社会へもたらす影響を考察しながら、今後どのような対策が求められるかについて解説します。
3-1. 情報社会にとっての脅威
太陽フレアは、地球そのもの、また情報社会を生きる私たちの日常生活に大きな影響をもたらします。これらの影響を予防・回避するための技術を確立することは、多くをテクノロジーに依存する現在の世界において、潜在的な混乱を緩和する上で極めて重要です。
地球大気の上層には、太陽からの紫外線やX線を吸収する働きを持つ、一部がイオンと電子に電離している「電離圏」(高度約60km~1,000km)があります。すでにふれたように太陽フレアは電離圏に影響を与え、 短波帯の電波を使用する通信に障害を引き起こします(デリンジャー現象)。たとえば航空機では、通信障害、測位誤差、搭乗員の被曝が発生する可能性があり、安全な航行に大きな支障をきたすことが考えられます。さらには、地球の磁場による恩恵を受けることのできない人工衛星にも、電子機器の誤作動や宇宙飛行士の被曝といった悪影響を与える可能性があります。
たとえば、1989年にカナダのハイドロ・ケベック発電所で起きた障害は、太陽フレアが情報社会にもたらした最大の脅威のひとつです。これにより、ケベック州では大規模な停電が発生し、約600万人に影響が出ました。この太陽フレアは、アメリカのニュージャージー州で変圧器に多大な損傷を与えたことでも知られています。
3-2. 過去に発生した太陽フレアの研究
世界の科学者たちは現在、太陽フレアの脅威をより詳細に解明すべく、その歴史をひもとこうとしています。過去に発生した太陽フレアの地球への影響を調査することで、今後の予測と対策に役立てるためです。
記録が残されているなかで最も重要な太陽フレアとして挙げられるのは、1859年の「キャリントン現象」(イギリスの天文学者であるリチャード・キャリントンにちなんで命名)です。このとき発生した大規模な磁気嵐によって、ヨーロッパと北米の電信網に広範囲な障害が引き起こされ、世界各地でオーロラが観測されました。
約46億年という壮大な太陽の歴史のなかで、太陽フレアははるか昔から数多く発生していたはずです。さらには、太陽に似た恒星で太陽フレアとは比較にならないほど大きなエネルギーを放出する「スーパーフレア」が発生していた可能性もあるのです。
名古屋大学の研究グループは、樹木の放射性同位体「炭素14」に着目し、過去の太陽フレアを探る研究を行っています。炭素14は、荷電粒子である銀河宇宙線が地球大気と反応することで生成される放射性同位体です。通常、大気中の炭素14のレベルは比較的安定していますが、太陽フレアやスーパーフレアのような大規模な太陽活動が発生し、地球に到達する宇宙放射線の量が大幅に増加すると、炭素14の生成率が上昇します。この上昇が、まるでレコードのように樹木の年輪に保存されているのです。
研究では、樹木の年輪中の炭素14含有量が西暦993年から994年にかけて大幅に増加していることが報告されています。この現象は、西暦774年から775年頃にかけて観測された炭素14含有量の増加と類似しています。
さらに同研究グループは、樹木の年輪中の炭素14含有量と、南極の氷床から得られた放射性同位体のベリリウム10(炭素14と同じく宇宙線によって大気で生成される)とのデータ比較を行いました。すると、炭素14とベリリウム10の増加比が類似していることがわかり、共通する事象がこれらの増加を引き起こした可能性が示されました。これらの事象の正確な解明にはさらなる研究が必要ですが、スーパーフレアのような大規模な太陽活動が原因となっている可能性が高いとされています。
このような過去に発生した事象を解明するための研究は、将来の太陽活動を予測し、私たちの社会に与える潜在的な影響に備える上でも極めて重要です。
3-3. 太陽フレアに立ち向かう新たなテクノロジー
この記事のテーマである太陽フレアのほか、宇宙で発生する事象が地球環境や私たちの社会にもたらすリスクが問題視されています。そのため現在では、それらのリスクを予防・回避するために、さまざまな取り組みや研究が進められています。
そのひとつとして、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が発表している「宇宙天気予報」があります。宇宙天気予報は、太陽フレアや磁気嵐などが、通信インフラや人工衛星などにどのような影響を与える可能性があるかを予測しています。
同様にNTT宇宙環境エネルギー研究所においても、宇宙線から社会を守るためのテクノロジーの開発が進められています。
地球の大気と相互作用する宇宙線のなかには、中性子を発生させ「中性子線」として地上に降り注ぐものがあります。これらの中性子は高い透過能力を持つことから、電子機器の半導体デバイス(シリコン製)に到達し、保存したデジタルデータが書き換わってしまう「ソフトエラー」という現象を引き起こすことがあります。
NTT宇宙環境エネルギー研究所では、各エネルギー領域におけるソフトエラーの発生率を測定することに成功しました。これにより、ソフトエラーに強い電子機器をつくることが可能となります。この研究については、当サイトの記事『中性子による「半導体ソフトエラー発生率」の全貌解明は、地球上から宇宙まで、すべてのデジタルデバイスを守る鍵となる』でも紹介していますのでご参照ください。
さらにNTT宇宙環境エネルギー研究所は、宇宙線から人やものを守るための電磁バリア技術の開発にも取り組んでいます。宇宙線の性質を再現する粒子加速器を使った実験やシミュレーションによって、宇宙空間における宇宙飛行士の活動を保護し、またICT機器の防護や誤作動を予防するための技術(磁気シールド、遮蔽材など)を確立することで、人類の宇宙進出におけるさまざまな障壁を解消できます。
私たち人間は、これからも壮大な宇宙のなかで太陽と共存していかなければなりません。この共存によるメリットを最大化し、デメリットを可能な限り回避していくためにも、今後さらなる研究開発が求められます。まだ発展途上の領域ですが、宇宙線から地球を守るための新技術の開発は、私たちが暮らす社会の持続可能性を高めていく上でも重要な取り組みだといえます。
4. まとめ
- 太陽フレアは太陽系で起きる最大の爆発現象であるとされ、一度の大規模な爆発で全人類が使用する数十万年分の電力に相当するエネルギーを放出するとされる。
- 太陽フレアの発生は、太陽表面の黒点の磁場と深い関係があるとされ、この磁場に蓄えられたエネルギーが解放されることで発生すると考えられる。
- 太陽フレアの発生頻度は、約11年の太陽活動の周期と連動して増減する。太陽活動のピークである「太陽極大期」には、太陽表面に多くの黒点が現れ、大規模な太陽フレアが頻繁に発生する。
- 太陽フレアが放出する電磁波や高エネルギー粒子は、わずかな時間で地球に到達し、通信システムや電力網といった社会インフラ、また人工衛星などにも悪影響をもたらす。
- 過去においては太陽に似た恒星で太陽フレアよりはるかに大きなエネルギーを放出する「スーパーフレア」が発生していた可能性がある。
- 現在、太陽フレアの脅威を解明すべく、さまざまな研究が進められている。名古屋大学の研究グループは、樹木の年輪中の炭素14含有量を調査することで、過去に発生した太陽フレアが地球にもたらした影響について研究を行っている。
参考文献
- American Museum of Natural History『How the Sun Works』
- JAXA『The "Hinode" Satellite: Revealing the Trigger Mechanisms of Solar Flares』
- JAXA『太陽コロナ-活動・加熱の源を求めて-』
- NASA『Heliosphere』
- NASA『Our Sun: Facts』
- NASA『The Impact of Flares』
- NOAA『SOLAR FLARES(RADIO BLACKOUTS)』
- 国立科学博物館『宇宙の質問箱 太陽編 太陽黒点てなんですか?』
- 国立科学博物館『宇宙の質問箱 地球編 地球が磁石になっているのはなぜですか?』
- 国立研究開発法人情報通信研究機構『宇宙天気予報』
- 国立研究開発法人情報通信研究機構『太陽フレアなど宇宙天気による社会への影響を評価』
- 国立天文台『太陽フレアを監視せよ!』
- 銭谷誠司『磁気リコネクションにおけるプラズマ粒子軌道研究の進展』
- 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 宇宙線研究部(CR研究室)『年輪中炭素 14 測定』
日本電信電話株式会社外からの寄稿や発言内容は、
必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。