Pythonとは?特徴や世の中における活用事例、学習方法について解説
プログラミング言語のなかでも「Python(パイソン)」は近年の人気が高く、科学技術分野を中心に広く使われている言語です。
普段プログラミングに取組まない方でも、Pythonという言語を耳にしたことがある方は多いでしょう。本記事では、Pythonの主な特徴や活用事例について解説します。併せて、Pythonがなぜ多くの人々に親しまれるようになったのかについても紹介しますので参考にしてください。
1. Pythonとは
はじめに、Pythonの特徴や成り立ちについて説明します。世間でのPythonの需要や人気は徐々に高まり、近年ではプログラミング言語のなかでもトップクラスの人気となりました。
1-1. Pythonという言語の特徴
Pythonは、コードの記述が短くシンプルな言語で、初心者でも比較的容易に利用できます。一方で豊富な機能も備わっているため、科学技術分野をはじめ、幅広い分野で重宝されています。
Pythonの主な特徴は、人が書いたプログラムを機械語に翻訳して実行する「インタプリタ言語」であることです。CやJavaなどの言語の場合、人が書いたプログラムを機械が認識できる形式に変換する「コンパイル」という作業を行わなければなりません。一方、インタプリタ言語であるPythonの場合は、コンピューターがプログラムを読み込みながら即座に実行するため、コンパイルが不要です。変換作業とプログラム実行を同時に行うため、実行速度は遅くなりますが、動作確認をしながらプログラムを書けるため、エラーなどを即座に発見できます。
また、Pythonにはプログラムの開発で利用できるコードや機能を提供する、ライブラリやフレームワークが豊富に用意されています。ライブラリはプログラムに組み込めるコードの集まり、フレームワークはプログラムに必要な機能や構造を提供するソフトウェアのことです。
Pythonでは特に科学技術分野向けのライブラリが多く提供されており、難解な計算処理を簡単に実行できます。具体的な用途として、Pythonは人工知能(AI)の開発に適しており、データの収集やデータ分析などにも強いプログラミング言語です。加えて、Pythonは誰でもソースコードの修正や拡張、再配布ができるオープンソースの言語であるため、多くのボランティアが開発に携わっています。
1-2. Pythonの成り立ち
Pythonはオランダ人のグイド・ヴァンロッサム氏によって開発された言語です。同氏はオランダにあるCWI(国立数学情報科学研究所)に勤めており、「Amoeba(アメーバ)」と呼ばれる分散オペレーティングシステムの開発に携わっていました。
Pythonは、同氏が当時開発に用いていたABC言語を拡張した言語として1989年に開発したものですが、その成果が認められ、AmoebaプロジェクトにおいてもPythonが活用されることになります。そこから約1年の開発期間を経た1991年2月にPythonが一般公開された後も次々と新しいバージョンがリリースされ、現在(2023年時点)ではPython3が最新バージョンとして提供されています。
1-3. Pythonの需要と人気度
Pythonが公開されたのは1991年ですが、世間での知名度が高まったのは2018年以降です。ソフトウェア品質の評価と追跡を行うオランダのソフトウェア品質ベンダーTIOBE Softwareの調査によると、Pythonはプログラミング言語人気度ランキングで2018年から順位を伸ばし、2021年には1位を獲得しています。また、それ以降もC言語と首位を争うなど、人気の高さがうかがえます。
さらに、ITや製造分野向けメディアである日経クロステックが読者を対象に実施した「プログラミング言語利用実態調査2022」でも利用言語第1位はPythonで、回答者の約4割がPythonを使用していると回答しました。
近年はデータやデジタル技術を業務で活用するというDXの推進に向けて、専門家だけでなく働き手一人ひとりがDXリテラシーを身に付けることが求められています。初心者でも扱いやすいPythonは、日常業務の改善にも役立つ身近な言語として重宝されているといえるでしょう。
2. Pythonの活用事例
次に、実際にPythonが活用されている事例について見ていきましょう。AIやデータ分析、Webアプリケーション開発、事務作業の自動化、その他さまざまな趣味における活用事例について取り上げます。
2-1. AI、機械学習
「AI」は日本語で人工知能と訳され、人間の脳のような思考や検討ができる技術をさします。しかし、現段階では人間のようにあらゆる状況に対応することは難しく、ある特定の内容に関する思考や検討のみ実現できるAIが主流です。
AIのなかでも、データから規則性や判断基準を学習し、未知のものを予測・判断する技術を「機械学習」と呼びます。機械学習の技術のひとつに、人間の神経ネットワークであるニューロンの働きを模擬した技術である「ニューラルネットワーク」があります。特に多数のニューロンを層状に積み重ねる技術を「ディープラーニング」と呼び、より複雑なパターンの学習が可能です。
ディープラーニングの登場をきっかけに2000年代に第三次人工知能ブームが起こると、機械学習を実現する開発言語として、Pythonが注目されるようになりました。その理由として、Pythonには機械学習用のライブラリが多く用意され、機械学習のモデルを容易に作成できる点、また拡張可能なオープンソースの言語であるため、必要に応じて新たな機能を組み込める点があります。
AIおよび機械学習へのPythonの活用例としては、ネットショッピングサイトにおけるおすすめ商品の提示があります。ユーザーの商品購入に関する履歴などのデータを収集しておくことで、ある商品を購入したユーザーに購入可能性の高い別の商品を選定し、推薦することが可能です。
Python を活用した代表的な機械学習やディープラーニングのライブラリ としては、「scikit-learn(サイキット・ラーン )」や「TensorFlow(テンソルフロー )」などがあります。チュートリアルなどで各ライブラリを利用すれば、機械学習の事例を簡単に試してみることができます。
2-2. データ分析
私たちの身近において、通信機能やセンサを持つ電子機器は増えつつあり、それに伴って多くのデータも生まれています。たとえば、スマートフォンは内部に装着されたセンサで周辺環境の情報を収集し、インターネットに接続して頻繁に通信データの送受信を行います。
高頻度かつ大量に生成されるデータの分析は、私たちの生活に役立つ取組みに欠かせません。スマートフォンのデータから人々の動きを可視化し、災害時の人の流れを予測する研究事例もその一例で、研究現場でもデータ分析やデータの可視化、データを活用した機械学習などでPythonが活用されています。
データを活用できるのは研究者に限りません。近年では、人工衛星の気象データや家計に関する調査データなどの行政が収集したデータが一般に公開されるようになり、誰でもデータを活用できる環境が整ってきました。
Pythonが科学技術分野を中心に活用されているのは、データの分析や可視化を得意とする言語であるためです。専用のライブラリやフレームワークを活用することで、データの抽出や分析、特徴の把握、データ可視化などの作業が容易になります。
Python を活用した代表的な数値計算向けライブラリとしては、「NumPy(ナンパイ/ナムパイ)」が、データの読み込みや分析向けのライブラリとしては「pandas(パンダス/パンダ)」などがあります。ほかには収集、分析したデータを可視化するライブラリとして「Matplotlib(マットプロットリブ)」があります。
2-3. Webアプリケーション
動画共有サービスのYouTubeやGoogleのサービスなど、私たちが日頃使用する多くのWebアプリケーションにもPythonが使用されています。
Pythonには、Webアプリケーション開発に必要な機能を有する「フレームワーク」やライブラリが豊富にあるため、Webアプリ開発でPythonが採用されるケースが多くあるのです。 Python使用者の約23%がWeb開発にPythonを使用しているという調査結果もあり、Webエンジニアの需要が高い言語といえます。
代表的なWebアプリケーションフレームワーク「Django(ジャンゴ)」や「Flask(フラスコ/フラスク)」には、データ処理ロジックや画面に表示される情報の処理などの機能が備わっており、簡単なWebアプリケーションを作成する場合に向いています。
2-4. 事務作業の自動化
研究者や開発者でなくても、Pythonを日常の業務に活用できます。たとえば、ルーティンワークとなっている作業の手順をPythonのプログラムに落とし込んで自動化することで、業務の効率化を図ることが可能です。
具体的には、ExcelやWordのファイルからデータを抽出したり、データをまとめて新しくファイルを作成したりといった作業を効率化できます。また、Webブラウザのログイン操作の自動化や、Webサイトの情報を収集・加工する「スクレイピング」も実現できます。
Pythonを活用した事務作業向けライブラリとしては、Excelファイルを操作する「openpyxl(オープンパイエクセル/オープンピーワイエックスエル)」やWebブラウザ操作を自動化する「Selenium(セレニウム)」などのライブラリがあります。実行したい作業内容に応じたライブラリを利用すれば、自動化作業を容易に実現できるでしょう。
2-5. 趣味における活用
Pythonは業務だけでなく、さまざまな趣味でも手軽に活用できます。趣味に近い内容からスキルを習得しはじめ、徐々に業務でも使うようになったというケースも珍しくありません。
たとえば、絵やカメラなどが趣味の方であれば、Pythonを用いた画像処理などがおすすめです。「OpenCV」と呼ばれるライブラリを用いると、画像のサイズ変更やトリミング、モザイク処理などができます。また、画像から特定の物体を検出するといった処理も可能です。
自宅で植物などを育てている場合は、Pythonを活用して水やりの自動化に挑戦するのもよいでしょう。「マイコン(マイクロコントローラ)」と呼ばれる小型のコンピューターと温度や土壌の湿度を測定するセンサを使えば、計測した値に応じて自動的に水を供給するシステムを作れます。マイコンの「Raspberry Pi(ラズベリー パイ)」ならOSに標準でPythonがインストールされており、通信機能も備わっているため、スマートフォンに記録を送信することも可能です。
そのほか音楽が趣味の場合は、Pythonを曲の解析や楽譜作成に活用することもできます。Pythonで曲の特徴を解析してサビ部分を抽出したり、曲に合わせてアニメーションを動かしたりといったことも可能です。
3. Pythonを学習するメリット
Pythonはコードが短くシンプルな言語ですが、ライブラリを活用することで難解な計算処理にも対応しています。そこでプログラミング初心者がPythonを学習するメリットについて見ていきましょう。 Web上の情報をもとに自主学習を進めたり、有料の教材を活用したりなど、初心者でも学習を進められる環境が整っています。
3-1. 文法がシンプルで習得しやすい
Pythonは文法がシンプルで、C言語などのほかのプログラムよりも短いコードで読みやすいプログラムを作ることができます。その理由としては、複雑な操作をひとつの実行文で表現できること、C言語では実行文に括弧が必要な箇所でもPythonでは不要であること、変数や引数の宣言が不要であることが挙げられます。
ここで実際に、PythonとC言語のプログラムを比較してみましょう。
新しいプログラミング言語を学習する際は、画面に「Hello, World!」と表示されるプログラムを作ることが慣例ですが、PythonとC言語のプログラム例はそれぞれ以下のようになります。
<Python>
print("Hello, World!")
<C言語>
#include <stdio.h>
int main(void)
{
printf("Hello, World!");
return 0;
}
Pythonでは1行で実現できる内容ですが、C言語を用いるとライブラリの読み込みやmain関数、括弧の記載など記述しなければならない要素が多くなります。そのため、Pythonの方が初心者でもプログラムの作成や読解が容易に行えるといえるでしょう。ただし、C言語の方がコンパイル後の実行速度は速くなるため、用途に応じて使う言語を選択する必要があります。
3-2. 学習者が多く、Web上の情報が多い
プログラミングを学習する際は、わからないことが出てきたときの解決手段を見つけられることが大事です。職場などに相談できる人がいればよいのですが、独学で解決せざるを得ない方も多いでしょう。
その点Pythonは、プログラミング言語のなかでも人気が高く学習者も多いため、不明点を自分で調べたり解決したりしやすいといえます。
不明点がある場合は、自分が作成したいプログラムに近い内容を検索してみたり、質問サイトで問い合わせをしたりするとよいでしょう。プログラミング中にエラーメッセージが出てきた場合も、その内容を検索すればほとんどのケースで答えが見つかります。
マイナーな言語はWeb上の情報が少なく、英語の情報しかないことも少なくありませんが、Pythonは学習者や情報が多いため、学習する上でも心強いでしょう。
3-3. Pythonは、学習方法が豊富
Pythonを学習する際、ある程度プログラミングの経験や知識があれば、Web上の情報や書籍などを参考に学習を進めることも可能です。プログラミング初心者がつまずきやすい点として環境構築がありますが、WebブラウザからPythonを実行できる「Google Colaboratory(グーグル・コラボレイトリー)」を利用すれば、無料かつ面倒な設定をせずにプログラミングを体験できます。
また、有料のWeb教材やプログラミングスクールなどの選択肢も豊富に提供されているため、自分に適した学習方法を選ぶことが可能です。なおデジタル庁では、デジタル人材の育成を推進するために「マナビDX」というWebサイトを開設しています。同サイトに掲載されている講座は審査に合格したもののみであり、国が定めたITスキル標準の定義に沿って講座が整理されているため、学習方法や講座に迷う場合は、参考にするとよいでしょう。
- プログラミングについて詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
プログラミングとは?これからの社会に不可欠なプログラミングの基本と応用事例を解説
4. まとめ
- Pythonの主な特徴は、コードの記述がシンプルな言語であること、インタプリタ言語であること、科学技術分野向けのライブラリが多いこと、オープンソースの言語であることの4つ。
- 機械学習向けの言語として2018年頃から注目され、近年はC言語と首位を争うほど人気が高まる。
- AIやデータ分析、Webアプリケーション、事務作業の自動化などの業務に加え、趣味の分野でもPythonを活用できる。
- Pythonの文法はシンプルであり、Web上の情報や学習方法も豊富なことから、初心者でも習得しやすい言語といえる。
参考文献
- Django『Django ドキュメント』
- Flask『Flask web development, one drop at time』
- JetBrains『Python Developers Survey 2021 Results』
- Matplotlib『Matplotlib: Visualization with Python』
- NumPy『NumPy』
- OpenCV『OpenCV 2.2 Python リファレンス』
- openpyxl『openpyxl - A Python library to read/write Excel 2010 xlsx/xlsm files』
- pandas『pandas』
- Python 3.11.2 documentation『General Python FAQ』
- Python 3.11.2 ドキュメント『1. やる気を高めよう』
- Python 3.11.2 ドキュメント『歴史とライセンス』
- Python『Quotes about Python』
- Raspberry Pi『Raspberry Pi Documentation』
- scikit-learn『scikit-learn Machine Learning in Python』
- Selenium『Seleniumブラウザー自動化プロジェクト』
- TIOBE『TIOBE Index for April 2023』
- 経済産業省『IT人材の育成』
- 経済産業省『「デジタルスキル標準」をとりまとめました!』
- 産総研マガジン『サビやビートを自動解析!コンピュータが作る「音楽地図」ってなんだ?』
- 総務省『第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI~ネットワークとデータが創造する新たな価値~』
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