カーボンフットプリントとは?商品の例や計算方法、CFPマークについて

      2021年8月9日に公表された国際連合の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書で「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と明記され、気候変動の要因のひとつとされる温室効果ガスの排出削減が急がれています。
      カーボンフットプリントは、世界でさまざまに実施されている温室効果ガス削減のための取り組みのひとつです。
      この記事ではカーボンフットプリントの概要や目的、具体例、世界や日本の動向、エコロジカル・フットプリントとの違いなどについて詳しく解説していきます。また、温室効果ガス削減をめざす科学技術についても紹介します。
      (公開日:2022/01/18 更新日:2024/03/25)

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      1. カーボンフットプリントとは?

      カーボンフットプリント(CFP=Carbon Footprint of Product)とは、商品やサービスの原材料調達から生産、流通・販売、使用・維持管理、廃棄・リサイクルに至る「ライフサイクル」(商品やサービスが生まれてから消えるまでの全過程)を通して排出される二酸化炭素(CO2)やメタン、一酸化炭素、フロンガスなどの温室効果ガスの排出量をCO2に換算し、商品やサービスにわかりやすく表示する仕組みです。

      (画像出典:独自作成)

      上図のように「ペットボトル入りいちごジュース」を例にした場合、以下のようなライフサイクルが想定されます。

      • 原材料調達...ペットボトルの製造、原材料(いちご)の栽培
      • 生産...ジュース製造、パッケージング
      • 流通・販売...輸配送、冷蔵輸送、販売
      • 使用・維持管理...冷蔵
      • 廃棄・リサイクル...ペットボトル収集、リサイクル処理

      カーボンフットプリントの計算にあたっては、これらすべての過程における温室効果ガス排出量をCO2に換算します。

      カーボンフットプリントは、サプライチェーン全体における温室効果ガス排出量の定量的な把握により、事業者単位を超えた一体的な削減対策の実践が期待されています。また、消費者に対しては、自身の温室効果ガス排出量の把握による低炭素なライフスタイルの実現、および低炭素な商品・サービスの選択による低炭素社会構築への貢献が期待されています。

      カーボンフットプリントの実践はイギリスからはじまったといわれています。日本でも2008年から重点的に取り上げられ、経済産業省などにより「CFPプログラム」(詳細は後述)が展開されました。
      2017年4月からは、CFPプログラムは一般社団法人サステナブル経営推進機構が運営する「SuMPO環境ラベルプログラム」(2022年4月に「統合版エコリーフ環境ラベルプログラム」から名称変更)に統合されています。
      また、CFPプログラムに準拠した製品には下図のようなCFPマークが表示されています。

      (画像出典:CFPプログラム『初心者のためのCFP』)
      (画像出典:CFPプログラム『初心者のためのCFP』)

      1-1. カーボンフットプリントの懸念点

      前述のとおり温室効果ガスにはCO2のほかメタンや一酸化炭素、フロンなどがあり、それらすべての効果により気温上昇を招いています。カーボンフットプリントではわかりやすくCO2に換算しますが、気温上昇を防ぐためには根本原因の温室効果ガスの発生源をトータルで削減していくことが必要です。
      また、カーボンフットプリントには「温室効果ガスの排出量を本当にすべて網羅できているのか」という懸念点もあります。

      たとえば、ハム・ソーセージについていえば、原材料である豚の飼料そのものについては計算に入っていますが、飼料を生産するための水の調達は計算に入っていません。
      バーチャルウォーター(※)という考え方によれば、牛の場合なら、飼育に使われる飼料のトウモロコシ1㎏を生産するには、灌漑用水として1,800Lの水が必要となり、従って牛肉1㎏の生産にはその2万倍の水が必要になるといわれます。この水は、温室効果ガスを排出せずに調達できるのでしょうか?

      すなわち、温室効果ガスの排出量をもれなく計算するためには、水の循環や炭素循環などを考慮に入れて評価する必要があるともいわれているのです。
      ※バーチャルウォーター:食料を輸入している国で、その輸入食料を自国で生産するとしたらどれだけ水が必要かを推定したもの。

      2. カーボンフットプリントの具体例

      次に、カーボンフットプリントの具体例を見てみましょう。

      2-1. 商品やサービスのライフサイクル

      商品やサービスのライフサイクル、および温室効果ガス排出量の計算方法を、ハム・ソーセージと衣類用洗剤(粉末)を例に紹介します。

      (1)ハム・ソーセージ

      (画像出典:CFPプログラム『初心者のためのCFP』)
      (画像出典:CFPプログラム『初心者のためのCFP』)

      CFPプログラムにおいては各段階で、以下のような場合における温室効果ガス排出量が計算に入れられます。

      原材料調達段階
      • 原材料として生育する豚に与える飼料に加え、繁殖用の家畜に与える飼料の生産時の排出量
      • 家畜の消化管内発酵により発生するメタンガスや、排せつ物処理により発生するメタンガスと一酸化炭素
      • 容器包装の製造に伴う排出量
      • 原材料や容器包装などの輸送に伴う燃料使用
      生産段階
      • 製品の生産・検査・保管・梱包時に使用する水・燃料・電力の使用
      • 工場間などでの輸送で必要な燃料使用
      • 廃棄物や排水から発生する温室効果ガス
      • 廃棄物を処理施設へ輸送するための燃料使用
      • 廃棄物を焼却・埋立処理する際の温室効果ガス
      流通段階
      • 輸送・保管のための水・燃料・電力の使用
      使用・維持管理段階
      • 家庭などでの保管に伴う電力の使用
      • 調理プロセスに伴う水・燃料・電力の使用
      • 廃棄物や排水から発生する温室効果ガス
      廃棄・リサイクル段階
      • 廃容器包装を焼却・埋立処理する際の排出量、処理施設へ輸送する場合の燃料

      (参照:カーボンフットプリントコミュニケーションプログラム『カーボンフットプリント製品種別基準(CFP-PCR)対象製品:ハム・ソーセージ類』)

      (2)衣料用洗剤(粉末)

      (画像出典:CFPプログラム『初心者のためのCFP』)
      (画像出典:CFPプログラム『初心者のためのCFP』)

      CFPプログラムにおいては各段階で、以下のような場合における温室効果ガス排出量が計算に入れられます。

      原材料調達段階
      • 界面活性剤や補助剤・漂白剤・容器・附属物(計量スプーンなど)の製造および輸送に必要な水・燃料・電力の使用、廃棄に伴う排出量
      生産段階
      • 配合・造粒などの製造段階で必要な水・燃料・電力の使用
      • 廃棄物処理に伴う排出量
      流通段階
      • 輸送のために使用される燃料
      • 輸送資材の製造・廃棄に伴う排出量
      使用・維持管理段階
      • 家庭などで使用される際の水・電力の使用
      廃棄・リサイクル段階
      • 洗剤成分の分解による排出量
      • 排水処理のための排出量
      • 廃容器・廃附属品の輸送のための燃料や、焼却・埋立処理の際の排出量

      2-2. エコリーフ環境ラベルプログラムに登録している商品例

      エコリーフ環境ラベルプログラムに登録している商品から、具体的なカーボンフットプリントの例を紹介します。単位の「kg-CO2eq」「g-CO2eq」は、排出される温室効果ガスがすべて二酸化炭素だった場合の重量を示しています。

      (1)清涼飲料

      日本生活協同組合連合会が製造する「CO・OP《D》ラベルのないただの炭酸水(天然水使用)500ml《PET》×24本」のカーボンフットプリントの算定結果は以下のとおりです。

      (画像出典:エコリーフ環境ラベルプログラム『CFP宣言 登録番号:JR-AH-20002C』)
      (画像出典:エコリーフ環境ラベルプログラム『CFP宣言 登録番号:JR-AH-20002C』)

      また主な温室効果ガス排出源は、ペットボトル製造、輸送用ダンボール、工場の電気や燃料、製品輸送とされています。

      (2)ウインナー

      ある食品メーカーが製造するあらびきウインナー(85g)のカーボンフットプリントの算定結果は以下のとおりです。

      (画像出典:エコリーフ環境ラベルプログラム『CFP宣言 登録番号:JR-BD-20001C』)
      (画像出典:エコリーフ環境ラベルプログラム『CFP宣言 登録番号:JR-BD-20001C』)

      温室効果ガス排出量が最も多くなったのは原材料調達の段階で、これはウインナーの原料である豚肉の生産に起因するとされています。

      (3)腕時計

      ある時計会社が製造する腕時計のカーボンフットプリントの算定結果は以下のとおりです。

      (画像出典:エコリーフ環境ラベルプログラム『CFP宣言 登録番号:JR-AV-20001C』)
      (画像出典:エコリーフ環境ラベルプログラム『CFP宣言 登録番号:JR-AV-20001C』)

      この製品で温室効果ガス排出量の約9割をしめる原材料調達段階は、本体部分のステンレスや銅合金とその加工によるものとされています。
      逆に、流通段階での排出量が小さい理由は、腕時計は軽くてかさばらず、トラックなどで一度に大量の輸送が可能であるためです。

      2-3. 家計消費のカーボンフットプリント

      国立研究開発法人国立環境研究所『脱炭素型ライフスタイルの選択肢 地域別データ可視化インタラクティブツール』は、国内の主要52都市(県庁所在地、政令指定都市)における平均的なカーボンフットプリントを推計し、公開しています。
      52都市全体を合わせた年平均の1人あたりのカーボンフットプリントは、下図のとおりです。

      (画像出典:国立研究開発法人国立環境研究所『脱炭素型ライフスタイルの選択肢 地域別データ可視化インタラクティブツール』該当都市のカーボンフットプリント。単位:kgCO<sub>2</sub>e/人/年)
      (画像出典:国立研究開発法人国立環境研究所『脱炭素型ライフスタイルの選択肢 地域別データ可視化インタラクティブツール』該当都市のカーボンフットプリント。単位:kgCO2e/人/年)

      上図では、食、消費財、住居、移動、レジャー、サービスの6つの要素についてカーボンフットプリントが推計されています。国立環境研究所のサイトでは、52都市それぞれのカーボンフットプリントの表示や比較も可能です。

      3. カーボンフットプリントの背景と動向

      カーボンフットプリント誕生の背景と、世界・日本の動向を見てみましょう。

      3-1. 温暖化・気候変動の脅威

      カーボンフットプリント誕生の背景には、温暖化や気候変動の脅威があります。前述のとおり、2021年8月9日に公表された気候変動に関する政府間パネル第6次評価報告書第1作業部会報告書(IPCC AR6 WG1)は温暖化について以下のように記載しています。

      • 過去40年間のうちどの10年間も、それに先立つ1850年以降のどの10年間よりも温暖だった。
      • 1850~1900年から2010~2019年までの人為的な世界平均気温上昇の可能性が高い範囲は0.8℃~1.3℃であり、最良推定値は1.07℃である。
      • 世界の陸域における降水量は、1950年以降増加している可能性が高く、1980年代以降はその増加率が加速している。
      • 人間の影響は、1990年代以降の世界的な氷河の後退と1979~1988年と2010~2019年との間の北極域の海氷面積の減少(9月は約40%、3月は約10%の減少)の主要な駆動要因である可能性が非常に高い。
      • 世界の海洋表層(0~700m)が1970年代以降昇温していることはほぼ確実。
      • 世界平均海面水位は、1901~2018年の間に0.20(0.15~0.25)m上昇した。

      また、温暖化のみならず、以下のような人為起源の気候変動が発生しているとしています。

      • 極端な高温(熱波を含む)が1950年代以降ほとんどの陸域で頻度及び強度が増加している一方で、極端な低温(寒波を含む)の頻度と厳しさが低下していることはほぼ確実。
      • 大雨の頻度と強度は、変化傾向の解析に十分な観測データのある陸域のほとんどで、1950年代以降増加。
      • 1950年代から1980年代にかけての世界の陸域におけるモンスーンに伴う降水の減少は、北半球における人為的なエーロゾル排出が一因であるが、それ以降の増加はGHG(温室効果ガス)濃度の上昇と十年から数十年規模の内部変動に起因する。
      • 強い熱帯低気圧の発生の割合は過去40年間で増加。
      • 人間の影響は1950年以降複合的な極端現象の発生確率を高めている可能性が高い。

      温暖化・気候変動の緩和には温室効果ガス排出量の削減が必要です。
      実際に、2015年にパリで合意され、2016年11月に発効したパリ協定では、以下の長期目標が掲げられ、達成に向けた実施計画の整備が進められています。

      • 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする。
      • そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる。

      カーボンフットプリントは、このような温暖化や気候変動の脅威への危機感から生まれたものです。

      3-2. エコロジカル・フットプリント

      カーボンフットプリントに先立って誕生したのが、エコロジカル・フットプリントです。
      ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)のウィリアム・リースとマティス・ワケナゲル博士が1990年代初頭に開発したエコロジカル・フットプリントは、「人類全体の経済活動を支えるために必要な土地面積」を算出するための手法です。
      エコロジカル・フットプリントは国連食糧農業機関(FAO)のデータを使用し、各国の特定の地域が消費した漁業資源や木材資源などを、その生産に必要な土地や海洋の面積に換算し、消費の規模を表したものです。二酸化炭素については、排出された量を自然に吸収できるだけの土地面積に換算しています。

      人間の活動が持続可能であるためには、このエコロジカル・フットプリントの世界全体の合計値は「地球1個分」に等しくなければなりません。
      しかし、2022年に発表されたWWFジャパンのレポートによれば、近年ではこれが「地球1.75個分」になっているとされており、エコロジカル・フットプリントを地球1個分に近づけていくためのさまざまな取り組みが行われています。
      エコロジカル・フットプリントとカーボンフットプリントの違いは、カーボンフットプリントが温室効果ガスの排出削減に主眼をおいているのに対して、エコロジカル・フットプリントはそれだけではなく、食料や森林資源生産などさまざまな土地利用のあり方の全体を問題にしていることです。
      そのため、カーボンフットプリントが二酸化炭素排出量に換算されるのに対し、エコロジカル・フットプリントは土地の面積に換算されます。

      3-3. カーボンフットプリントの誕生と発展

      カーボンフットプリントは、2007年に、イギリスの食品会社が自社製品に表示したのが世界初といわれています。その後、フランスなど欧州諸国やアジア諸国にも試行の動きが広がっていきました。
      2013年には国際規格としてISO/TS 14067:2013(製品のカーボンフットプリント―算定およびコミュニケーションにかかる要求手法および指針―)も制定されています。

      3-4. 日本の取り組み

      日本においては、2008年に政府が「低炭素社会」「CO2の見える化」政策を重点的に扱い、その具体策としてCFPが取り上げられました。
      それにより、経済産業省など関係省庁により規定が定められ、温室効果ガス排出量を算定した商品やサービスに「CFPマーク」の表示を許可する「CFPプログラム」が2009年から3年間実施されました。
      2012年4月より国の事業を継承した「CFPコミュニケーションプログラム」を一般社団法人サステナブル経営推進機構が運営し、前述のとおり現在では「エコリーフ環境ラベルプログラム」へと統合・移行されています。

      4. カーボンフットプリントの計算方法とCFPマークの取得方法

      カーボンフットプリントの計算方法とCFPマークの取得方法は以下のようになります。

      4-1. PCRの選定

      カーボンフットプリントの計算をするにあたっては、最初にPCR(Product Category Rule=製品カテゴリールール)を選定します。
      PCRは「窓・サッシ」「清涼飲料」「エレベーター」「ハム・ソーセージ」「IT機器」などの製品種別ごとに、カーボンフットプリントの算定ルールを定めたものです。
      計算したい製品にPCRがない場合には、新たなPCR作成が必要です。

      4-2. 検証の申請

      次に、PCRに従ってデータを収集したうえで、製品の温室効果ガス排出量を計算し、PCR認定申請書を提出します。この計算にはエコリーフ環境ラベルプログラムから送付されるツールを利用できます。

      4-3. CFPマーク取得

      算定結果が第三者により検証されます。検証合格後に登録公開申請を行うことでCFPマークを取得できます。

      5. まとめ

      • カーボンフットプリントとは、商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至る過程を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算し、商品やサービスにわかりやすく表示する仕組みのこと。
      • 事業者に対してはサプライチェーン全体における温室効果ガス削減が、消費者に対しては低炭素なライフスタイルの実現が期待されている。
      • カーボンフットプリントが誕生した背景には、温暖化や気候変動の脅威への危機感がある。
      • カーボンフットプリントに先立って誕生したエコロジカル・フットプリントが、食料や森林資源生産などさまざまな土地利用のあり方全体を問題にしているのに対して、カーボンフットプリントは温室効果ガスの排出削減に主眼をおいている。
      • CFPマークは自社製品のカーボンフットプリントを計算・申請すると取得できる。

      参考文献

      日本電信電話株式会社外からの寄稿や発言内容は、
      必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。

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