ESG時代の企業価値とは?企業価値を向上させていくためには何が必要?

      この記事では「企業価値」について、従来の「企業価値」の意味を押さえた上で、これからのESG投資が拡大してゆく「ESG時代」に向けて、新たな「企業価値」を向上させていくためには今後どうすれば良いかを解説します。
      (公開日:2021/09/17 更新日:2023/09/14 )

      世界的に気候変動などの自然環境の変化に伴う問題、あるいは貧困などの社会課題への対応が注目されるようになっています。このような時代においては、企業活動についての評価も、従来の財務情報のみではなく、ESG課題(Environment=環境、Social=社会、Governance=企業統治)への対応状況といった非財務情報も考慮に入れて行うことが重要と考える機関投資家が増えてきています。

      この記事では「企業価値」について、まずは従来の「企業価値」の意味を押さえた上で、これからのESG投資が拡大してゆく「ESG時代」に向けて、新たな「企業価値」を向上させていくためには今後どうすれば良いかを解説します。

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      1. 企業価値を環境や社会との関わりから捉えるべき時代

      2015年の国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)が採択され、またESG投資が盛んに行なわれるようになるなど、特にこの数年前から気候変動などの環境問題、ならびに児童労働などの社会課題に対する企業の対応が注目されています。また、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、社会や経済活動のあり方に対する根本的な見直しが問われる状況にも直面しています。

      このような課題への対応では、以下の図で示すとおり、環境的、社会的、経済的側面を統合し、地球と人間の関係をより長期的な時系列でグローバルに捉える視点が求められます。

      (画像出典:NTT技術ジャーナル『地球環境、人間の社会・経済システムにおける課題や変化』地球環境、人間の社会・経済システムにおける課題や変化)
      (画像出典:NTT技術ジャーナル『地球環境、人間の社会・経済システムにおける課題や変化』地球環境、人間の社会・経済システムにおける課題や変化)

      気候変動を例にとると、産業革命により化石燃料を利用することで発展してきた先進国と、これから発展するための化石燃料使用が制限される発展途上国との南北問題、また人為起源の温室効果ガス排出による将来世代への影響など、国家や世代を超えた影響が挙げられます。環境問題や社会課題はそれぞれが独立したものとしてあるのではなく、互いに複雑・密接につながっており、5年~10年、あるいはそれ以上の期間を経て、大きな危機となって現れてくることもあります。

      このような事例をみると、企業活動が環境や社会に与える影響についても、グローバルで長期的に考えることが必要であることがわかります。これまでの企業は、一般的には事業規模などの財務指標によって評価されてきました。しかし、これから企業が存続していくためには、ESG課題への対応など、非財務指標を財務指標に内包するような、グローバルかつ長期的視点での経営戦略やアクションが重要です。

      その際にポイントとなるのが、企業の「ウェルビーイング(Well-being)」な状態の評価です。ウェルビーイングとは身体的、心理的、社会的に良好な状態のことを指し、人間の心の豊かさや満足に関する概念です。従来の「企業価値」は、売上や事業規模などの経済指標で表現されることが一般的でした。しかし、そうした指標で表現される「企業価値」は、働いている社員やサービス提供を受けるユーザーの側から見た新たな「企業価値」と、必ずしも一致しているとは限りません。

      これからのESG投資が拡大すると考えられる「ESG時代」において、経済指標だけでなく、精神面や社会面をも満たすウェルビーイングな状態を評価できる新たな「企業価値」が、企業と社会の豊かな関係を構築するためには重要だといえるでしょう。

      以下では、従来使われてきた「企業価値」の定義をまず押さえた上で、新たな「企業価値」を向上していくためにはどうすれば良いかを見ていきます。

      2. これまでの「企業価値」とは?

      これまで一般的に使われてきた企業価値とは、事業価値に事業以外の資産価値も含めた、企業全体の財務的な価値のことです。

      2-1. 企業価値と事業価値・株主価値・株式価値

      企業価値と似た言葉として、事業価値、株主価値、および株式価値があります。

      まず事業価値とは、事業から創出される財務的価値を意味します。会社の超過収益力を示す「のれん」(企業買収時の買収金額から会社の純資産を差し引いたもの)のほか、貸借対照表には計上されない無形資産や知的財産価値などを含めた財務的価値のことです。

      企業価値とは、この事業価値に、事業以外の非事業資産の価値も含めた、企業全体の財務的価値を意味します。株主価値とは企業価値から、銀行などからの借入金や社債など、株主以外から調達した「他人資本」を差し引いた、株主に帰属する財務的価値のことです。

      株式価値とは、特定の株主が保有する、普通株式や種類株式など特定の株式の財務的価値のことです。

      2-2. 価値と価格

      ここで、「価値」の「価格」との違いにも注意が必要です。価格とは、取引の際に売り手と買い手との間で合意し、決定された金額です。

      それに対して価値とは、その会社から創出される経済的な便益を意味します。

      従って、評価の目的や、評価を買い手が行うのか、売り手が行うのか、あるいは売買に際して会社の経営権を取得するかの状況など、評価の仕方によって変わってくる「一物多価」になるのが一般的です。

      3. これまでの企業価値の計算方法

      企業価値をどのように計算するのかを見てみましょう。企業価値の計算方法は、大きく分けて①インカム・アプローチ、②マーケット・アプローチ、③ネットアセット・アプローチ、の3つがあります。実際に企業価値を計算する場合には、これらのうち複数の方法を利用し、総合的に評価するのが一般的です。

      3-1. インカム・アプローチとは

      インカム・アプローチとは、評価対象の会社から期待される利益(収益-費用)またはキャッシュフロー(収入-支出)に基づいて企業価値を計算する方法です。将来の収益獲得能力を企業価値に反映させやすいこと、およびその会社自身の収益性から計算されるため会社固有の価値を示しやすいことが優れている点といわれます。

      その一方、事業計画など将来の情報についての恣意性の排除が難しく、客観性が問題となるケースもあります。

      3-2. マーケット・アプローチとは

      マーケット・アプローチとは、上場している同業他社や類似取引事例など、類似する会社、事業、取引などとの比較により、企業価値を相対的に計算する方法です。第三者間、あるいは市場取引される株式などとの相対的な評価であるため、一定の客観性があるとみなせるところが優れた点といわれます。

      その一方、成長ステージにあるなど一般の企業とは異なる状況にある企業、あるいはそもそも類似する上場企業がないような企業の評価が困難となるケースもあります。

      3-3. ネットアセット・アプローチとは

      ネットアセット・アプローチとは、貸借対照表に記載される純資産に着目し、企業価値を計算する方法です。

      帳簿に記載された数字を基礎とし、一定の時価評価に基づく修正を行うため、客観性が高いことが優れている点とされます。

      その一方、貸借対照表に計上されない無形資産や知的財産などが企業価値の源泉であるような企業については、それらの価値が適切に評価されない可能性があります。

      3-4. 総合評価の方法

      企業価値の評価に際しては、評価対象の企業に適していると考えられる計算方法が上記の3つから選ばれます。どれかひとつの計算方法が適切とみなされる場合には、総合評価の方法として単独法が、複数の計算方法が選ばれる場合は併用法または折衷法が用いられます。

      • 単独法
        単独法においては、選んだ企業価値計算方法の計算結果が、そのまま企業価値として採用されます。
      • 併用法(重複幅併用法)
        併用法は、選んだ複数の企業価値計算方法の、一定の幅をもって算出された計算結果の重複などを考慮しながら総合評価を導くものです。
      • 折衷法
        折衷法は、選んだ複数の企業価値計算方法の、計算結果の加重平均から総合評価を導くものです。

      4. ESG時代の企業価値とは?

      これまで、従来からの財務的な企業価値について見てきました。それでは、これからのESG時代において、この財務的な企業価値を向上させるためにはどうすれば良いかを見ていきましょう。

      経済産業省で2016年8月に設立された「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資) 研究会」の報告書(伊藤レポート2.0)において、財務的な企業価値を向上させるためには以下のことが重要と指摘されています。

      ① 企業による戦略投資

      従来の財務的な企業価値の持続的向上にまず必要なのは、企業による戦略投資だとされています。企業価値を高め、人々に新たな価値を提供して収益を継続的に生み出すためには、価値を生み続けるための戦略投資を行ない、事業ポートフォリオを常に最適なものにしていかなければならないからです。

      ② 投資家による長期投資

      また、上述のような企業の戦略投資を支えるためには、中長期的な視野で企業に対して投資を行う投資家の存在も重要です。中長期的に企業価値を高める企業に対して投資を行う投資家の存在は、その資金の出し手である家計や年金などの資産運用の側から見れば、まさに国民一人ひとりの資産形成をもたらすものといえます。

      ③ 企業と投資家の協創的な関係

      以上のように企業にとって、長期投資を行なう投資家の存在が重要度を増し、投資家との関係強化の必要性が高まっているにも関わらず、これまで企業と投資家の関係は必ずしも緊密とはいえませんでした。なぜならば、日本企業はこれまで長期にわたり、資金の供給先を銀行などの金融機関に依存してきたからです。企業と投資家の関係は、以下のような「不幸な状態」が続いてきたと伊藤レポート2.0は指摘しています。

      企業の側から見れば、投資家は企業が大事にする理念や価値観に目を向けず、短期的な財務数値だけを追いかけて投資を行うとの声がありました。一方、投資家の側から見れば、企業は投資家が重視する経営指標を重要と考えず、また投資家に対して経営目標を口約束しても、実際にはそれをしっかりと実行しないとの不満があったとされます。

      このような企業と投資家の関係を改善し、「協創的な関係」を促進するためには、「建設的な対話」が必要と伊藤レポート2.0では指摘します。企業と投資家の建設的な対話のために必要なのは、以下の6つの観点だとしています。

      4-1. 企業理念やビジョン、企業文化等の価値観

      伊藤レポート2.0では、企業と投資家の建設的な対話のためには、まず企業が自らを取り巻く社会課題をどのようにとらえ、またそれらを経営課題にどのように組み込んでいくのか、特にグローバル企業の場合なら、SDGsや気候変動問題など地球規模の課題にどのように向かうのかが、判断の核となるべきとしています。

      また、企業がイノベーションを生み出すためには、挑戦を促し、失敗を許容し、それを事業につなげていく企業文化の熟成が必要としています。

      4-2. ビジネスモデル

      企業が事業によって顧客や社会に価値を提供し、それを企業価値の持続的向上につなげていくための仕組みであるビジネスモデルは、投資家にとっては「稼ぐ力」を評価するための見取り図といえるものです。

      企業はビジネスモデルを、増資などで投資家と直接向き合う際にばかりでなく、常に意識することが重要としています。

      4-3. ESG、持続可能性(サステナビリティ)、成長性

      企業価値を中長期的に向上させていくためには、ビジネスモデルが持続可能なことが必要です。特に、企業活動の前提となる環境・社会との関係をどのように捉えるかは重要で、機関投資家の投資判断にもESGが組込まれるようになっています。

      そのため、伊藤レポート2.0では企業はまず、投資家がどのような視点でESGの要素を組み入れているのか理解することが重要としています。そのうえで、投資家が長期投資を決断するにあたっての財務情報の見通しの難しさを、ESGなどの非財務情報によって補い、ESGを成長戦略に落とし込む必要があるとしています。

      さらにまた、企業がESGをふくむ環境・社会的な課題を自らの事業機会としてとらえ、戦略的に取り組んでいくことは、今後必須の課題であるとされています。

      4-4. 戦略

      企業が厳しい競争環境のなかで生き残り、企業価値を持続的に向上させていくためには、事業ポートフォリオの組み替えや有形・無形資産への投資など、さまざまな戦略が必要です。特に、人材を獲得・育成していくための投資をどのように行っていくかは、企業戦略の要となるとしています。

      また、急速に競争環境が変化するなか、研究開発投資が企業戦略のなかにどう位置付けられるかを、投資家は重視しているとされます。

      4-5. 成果(パフォーマンス)と重要な成果指標(KPI)

      企業が企業価値の持続的向上をめざして投資家と対話する際には、自社がこれまでどれだけの経済的価値を創出してきたのかを振り返るとともに、経営計画の進捗状況が検証できる重要成果指標(KPI)を企業が独自で設定することも重要としています。

      4-6. ガバナンス

      ガバナンスは、企業がビジネスモデルを実現するための戦略を着実に実行し、企業価値を持続的に高める方向で規律付ける仕組みとして重要とされています。

      また、ガバナンスの全体像を投資家に対して的確に伝えることも必要になってきます。

      伊藤レポート2.0の発表後に、2022年5月には「人材版伊藤レポート2.0」、2022年8月には「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)が発表されました。人材版伊藤レポート2.0では、ESG時代に企業価値を向上させるためには、非財務情報の一つである「人的資本」を重視し、「人的資本経営」に向けた変革が必要と述べられています。また、伊藤レポート3.0では、これからは社会の持続可能性(サステナビリティ)と企業の持続可能性を同期化させるための経営変革「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」が欠かせないと主張されています。

      5. 企業価値を環境・社会との関わりから捉えるための科学技術

      企業価値を環境・社会との関わりから科学的に捉える「ESG経営科学技術」も研究が進んでいます。

      1. で述べたとおりこれからのESG時代において、企業価値を持続的に高めていくためには、上で見てきた従来の財務的な価値を高めることに加え、環境、社会、企業統治などの非財務指標を財務指標に内包するような、グローバルかつ長期的視点での経営戦略やアクションが必要です。それを科学的に支援するESG経営科学技術では、以下の3つの研究が行われています。

      ① ESGインテリジェンス科学手法
      グローバルな公開情報をAIやテキストマイニングなどの技術を用いて収集・分析し、課題ごとに社会・経済情勢に関する分岐点を抽出する。

      ② 企業Well-being評価手法
      環境影響評価の総合評価手法を応用し、環境と社会の持続可能性を社会のWell-beingとして評価する手法を確立する。

      ③ ESG未来予測手法
      社会パラメータの変化を確率分布予測および予測モデルにより数理変換し、ESGに関する経営戦略実施結果を定量的かつ説明可能なパターンとして予測する。

      6. まとめ

      • 企業価値を環境や社会との関わりから捉えるべき時代となっている。
      • これまでの企業価値とは、事業から創出される財務的価値に事業以外の資産価値を加えたもの。
      • 従来の企業価値の計算方法には、①インカム・アプローチ、②マーケット・アプローチ、③ネットアセット・アプローチ、の大きく3つがある。
      • 新しい企業価値を持続的に向上させるために必要なのは、企業による戦略投資と、それを支える投資家による長期投資とを実現する、企業と投資家の建設的な対話による協創的な関係。
      • 企業価値を環境・社会との関わりから科学的に捉え、企業の経営戦略策定を支援する「ESG経営科学技術」の研究が進んでいる。

      参考文献

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