更新日:2026/11/05

EMBC2026参加報告人間情報研究所 進藤 真人

EMBC2026参加報告

   

NTT人間情報研究所の進藤真人です。2026年7月26~30日にカナダ・トロントで開催されたEMBC2026に参加し、若年・中年成人の転倒歴と身体の使い方の関係を調べた研究を発表しました。EMBCへの参加は今回で4回目となります。本記事では、学会の概要に加え、今回発表した研究内容や、現地で得られた気づきを紹介します。

人間情報研究所 進藤 真人

目次

参加学会の紹介

EMBC(Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society)は、IEEEの医用生体工学部門であるEngineering in Medicine and Biology Society(EMBS)が主催する年次国際会議です(1)。同分野の世界最大規模の旗艦会議として、生体信号処理、医用画像、ウェアラブルセンサ、神経・リハビリテーション工学など幅広い研究を扱い、投稿論文は専門家による査読を経て採否が決まります。一般演題には、主に4~7ページのFull Contributed Paperと1ページのResearch Poster Paperがあり、Full PaperのみConference Proceedingsへの掲載対象です。Full Paperの発表形式は、採択後に学会側が口頭またはポスターへ割り当てます。
私自身、EMBCの大きな特徴は、幅広い研究者が集まり、分野を越えて議論できる点にあると感じています。EMBCで扱われる研究テーマはEMBSが刊行するTransactionsやJournalなどの専門論文誌とも関係が深く、学会で得た議論やフィードバックをもとに研究を発展させ、論文誌へつなげていく場としても重要だと考えています。
第48回となるEMBC2026には、80を超える国・地域から3,000件近い論文が投稿され、600件の口頭発表、862件のポスター発表に加え、27件のMini-Symposiumと15件のWorkshopが開催されました。Mini-SymposiumやWorkshopでは、特定テーマについて第一線の研究者が最新動向を整理・紹介し、主要論文誌の最新研究も多く取り上げられていました。個々の研究成果だけでなく、各分野の最先端を短時間で俯瞰できることも、EMBCの大きな魅力です。

自身の発表内容の紹介

発表概要

タイトル:Exploring the Relationship Between Fall History and Postural Control Strategies in Young and Middle-Aged Adults Using Multivariate Analysis
著者:Masato Shindo(進藤真人)、Ryosuke Aoki(青木良輔)
投稿種別: Full Contributed Paper
発表形式: ポスター発表、Young Professionals Paper Competition Finalist(Top 10)として口頭発表

今回、若手研究者の優れた研究を評価・顕彰する制度であるYoung Professionals Paper Competitionに応募しました。私が会場で説明を聞いた範囲では、通常のEMBC査読で高い評価を得た応募論文からTop 10が選ばれ、さらにEMBSとの関連性、異分野とのシナジー、新規性、実用・産業への展開可能性などの観点から評価される制度と理解しました。惜しくもTop 3の受賞には至りませんでしたが、Finalist(Top 10)に選出され、口頭発表の機会を得ました。

左:Young Professionals Paper Competition Finalist口頭発表、右:ポスター発表
左:Young Professionals Paper Competition Finalist口頭発表、右:ポスター発表

研究グループにおける位置づけ ― 生涯、自分の足で立ち、歩くために

私たちの研究グループでは、人の運動能力を理解し、その獲得・向上を支援する「運動能力転写技術」という研究コンセプト (2) のもと、姿勢バランスの評価・トレーニングに取り組んでいます。姿勢バランスに重要な視覚・体性感覚・前庭感覚への依存の仕方と身体の使い方の関係をモデル化し、個人の姿勢制御特性に応じたトレーニングによって、高齢になる前から将来の転倒予防につなげることをめざしています(3)(4)(5)。その研究基盤として、共同実験先の病院で人間ドック受診者を対象に姿勢バランスデータを蓄積してきました (6)。今回の発表では、このデータを用いて、若年・中年期の転倒経験の実態と、転倒歴に関連する身体の使い方を検討しました。

「揺れの大きさ」だけでは見えない特徴を探る

転倒対策というと高齢者を思い浮かべがちですが、今回注目したのは24~63歳の若年・中年成人です。硬い床と柔らかいマット上で、目を開ける・閉じる計4条件の立位を30秒ずつ行い、床反力計で足圧中心(COP)、モーションキャプチャで身体各部の動きを計測しました。あわせて、スポーツ中を除く過去1年間の日常生活での転倒経験を調査しました。
225名のうち必要なデータがそろった179名を解析した結果、19名(10.6%)に転倒経験がありました。興味深いことに、今回の対象では年齢が高くなるほど転倒経験者が増える明らかな傾向はみられず、若年・中年期にも一定の割合で転倒が生じていることが示されました。
そこで、「どれくらい揺れたか」だけでなく、どのように身体を使って姿勢を保つかに着目しました。COPの揺れや身体各部・関節の動きなど243指標から、転倒歴との関連をもとに15指標を選び、主成分分析によって7つの姿勢制御の特徴に整理しました。これは、多数の指標を組み合わせることで、単独の数値では捉えにくい身体の使い方を明らかにするためです。

違いは、細かな調整と股関節の使い方に

特に転倒歴の有無で違いがみられたのは、目を開けた立位でCOPを細かく調整する特徴と、目を閉じた立位で股関節を活用する特徴でした。転倒歴のある人ではこれらの特徴量が有意に低く、「揺れの大きさ」だけでなく、どのように身体を使って姿勢を調整しているかを見る重要性が示されました。
7つの特徴を用いたモデルでは、転倒歴の判別指標ROC-AUCは0.834となり、高齢者を対象とした従来研究に匹敵する判別性能が得られました。ただし、過去の転倒歴との関連を調べた探索的研究であり、将来の転倒を予測できることを示したものではありません。今後は対象者を増やした検証や追跡調査が必要です。
今回の結果は、揺れの大きさだけでなく、身体の使い方まで含めて評価することで、高齢になる前の段階から転倒に関連する潜在的な特徴を捉えられる可能性を示しています。将来的には、こうした評価を健診などの機会に取り入れ、一人ひとりに適した予防的な介入につなげるための基礎になると考えています。

他発表紹介:実環境における動画ベース身体動作計測の精度をどう考えるか

EMBCのMini-Symposiumの一つ、"From video to clinical insight: computer vision-based movement analysis in neurological disorders"を聴講しました。マーカーレスモーションキャプチャなど、動画から身体運動を計測する方法を臨床で用いる際に、計測精度や信頼性をどう考えるか、臨床的に意味のある変化をどう捉えるか、さらに臨床現場で利用できる形へどう落とし込むかまで、関連する最新研究を交えながら一連の流れとして紹介されていました。個々の研究成果だけでなく、計測した情報をどのように臨床的な価値へつなげるかを俯瞰できる構成でした。
特に参考になったのは、「臨床で使うために、計測精度をどこまで求めるべきか」という視点です。講演では、病院やリハビリ環境で動画から歩行を継続的に計測した事例において、歩行速度では改善が頭打ちに見えても、関節運動などのkinematicsには改善が続く例が示されました。これは、従来の指標だけでは捉えきれない回復の変化があることを示しています。講演を通じて、こうした変化を安定して捉えられるかどうかを、画像ベース計測に求められる臨床上の精度や信頼性を考える視点とする考え方が示されていました。つまり、重要なのは高精度な計測装置との誤差を極限まで小さくすることだけではなく、臨床で必要な情報を、現場で使える方法と精度で提供できるかという点です。
これは、私自身の姿勢バランス研究を今後、健診や臨床フィールドへどのように組み込んでいくかを考えるうえでも参考になりました。EMBCは、個々の技術や解析手法を学ぶだけでなく、こうしたMini-Symposiumを通じて、自分の研究をその先でどのような価値につなげるのか、研究の方向性そのものを考える機会を得られることにも大きな価値があると感じました。

終わりに

今回のEMBCでは、若年・中年期の転倒に関連する身体の使い方を発表するとともに、さまざまな研究から今後の方向性を考える機会を得ました。今回得られた知見をさらに発展させ、検証を重ねながら論文誌での発表へつなげていくとともに、今後は個々の姿勢制御特性に応じたバランス練習方法の確立をめざします。

進藤 真人
進藤 真人

2018年東北大学工学部機械知能・航空工学科卒業。2020年同大学大学院工学研究科ファインメカニクス専攻博士前期課程修了。同年NTT株式会社(旧日本電信電話株式会社)入社。2026年北海道大学大学院保健科学院博士後期課程に進学(社会人学生)、現在に至る。専門は生体医工学、姿勢制御、ヒューマンコンピュータインタラクション。

関連するコンテンツ