更新日:2026/10/20

SIGGRAPH 2026 参加報告人間情報研究所 徳永 徹郎

SIGGRAPH 2026 参加報告

   

人間情報研究所の徳永徹郎です。2026年7月19日~23日にアメリカのロサンゼルスで開催されたSIGGRAPH 2026に参加し、2025大阪・関西万博NTT Pavilionのコンテンツを対象にしたユーザ評価について、ポスターセッションで発表を行ってきました。この記事では、SIGGRAPHの紹介と私の発表内容を書いていきます。

人間情報研究所 徳永 徹郎

目次

SIGGRAPH 2026概要

SIGGRAPHは、1974年以来北米で開催されているコンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術に関する世界最高峰で最大の国際会議・展示会です。
コンピュータ科学・情報技術分野の国際学会ACMの専門部会であるACM SIGGRAPH(Association for Computing Machinery's Special Interest Group on Computer Graphics and Interactive Techniques)が主催しています。
SIGGRAPH 2026は、The 53rd International Conference & Exhibition On Computer Graphics & Interactive Techniquesという名称のイベントなのですが、みんな通称のシーグラフと呼びます。
会場はLos Angeles Convention Centerでした。SIGGRAPHは展示会も併催されるため、大学やホテルでの開催ではなく、コンベンションセンターが使われます。後述の来場者数に対応できる必要もあるので、会場は広いです。

会場のLos Angeles Convention Center
会場のLos Angeles Convention Center

さて、最高峰と書きましたが、どれくらいか見てみると、COREランクは、「A*:当該分野のフラグシップ国際会議」となっており、この分野のトップカンファレンスといえます。
運営から発表された今年の採択率情報も合わせて書いておきます。なかなかの難易度です。
・Technical Papers: 投稿数1,177件、採択数327件、採択率27%
・Posters: 投稿数379件、採択91件、採択率24%
・Art Papers: 投稿数249件、採択23件、採択率9%
今年のTechnical Papersの投稿数は、昨年から20%増だったそうです。そしてTechnical Papersでは、セッション構成の都合上、SIGGRAPH ASIA 2026での発表に18件移ってもらったとも言っていました。(327件の中に含まれているのか別なのかまでは、わかりませんでした。)兄弟イベントとはいえ、そんなこともあるのだなと驚きました。
規模の観点では、SIGGRAPH 2026の来場者は69か国から9,500人以上だったと発表されています。かなり多いです。が、一昨年前にデンバーで開催されたSIGGRAPH 2024の来場者数は8,800人、2025年のバンクーバーは12,400人以上と発表されているので、2024よりは多く、2025より少なかったようです。SIGGRAPHは、国際会議だけではないイベントなので、来場者数は開催地や日程にも左右されるという話は耳にするのですが、一時的な減少なのか、減少傾向にあるのかが気にかかります。
このイベントで、どうやって何を発表したかを次に紹介します。

私の発表

はじめに、SIGGRAPHのPostersについて説明します。
ポスターで採択された人は、会期中の初日の開始時から最終日の終了時までポスターを掲示しておき、来場者が会期中いつでも見ることができるようにします。

West Hall ロビーのポスター会場
West Hall ロビーのポスター会場

その中で、初日と最終日を除いた3日間の12:00-13:00の時間帯が、ポスターセッションの時間として設定されています。この時間帯は、ポスター著者がポスターの前で説明や質疑応答を行う時間帯となります。時間がランチタイムでもありますし、並列で行われているセッションもありますし、大混雑とはならなかったですが、毎日30分ずつくらいは会話していた気がします。

さて、今回Postersへ投稿し、採択された論文はこちらです。
In-situ Evaluation of Multimodal Telepresence Using Point Clouds and Floor Vibrations at EXPO 2025
Tetsuro Tokunaga, Ayaka Sano, Naoto Abe
https://doi.org/10.1145/3799825.3818706

内容を一言で書くと、NTT PavilionのPerfumeのコンテンツに関するユーザ評価実験の報告です。
2025大阪・関西万博にて、弊社NTTはNTT Pavilionを出展しました。NTT Pavilionでは、吹田市の万博記念公園と夢洲をIOWNでつなぎ、離れた場所でパフォーマンスをしているPerfumeが目の前に現れるような体験(の追体験)を提供していました。
(このNTT Pavilion Zone 2のコンテンツがどのように作られたかは、こちらのページ「IOWN×空間伝送──離れた空間が1つになるコミュニケーション体験」で紹介しておりますので、ぜひご覧ください。)
上記リンク先で紹介している通り、無事に実証実験を成功させ、Zone 2コンテンツを完成させた後、その次の取り組みとして、このコンテンツについてのユーザによる主観評価を行いました。

本記事では、その評価の一部を紹介します。
評価したい内容はこちらです。「このコンテンツではPerfumeを、(1)点群、(2)ボリュメトリックCG、(3)実写の3種の映像表現で描いたが、その印象はどうだったのか?」
下の画像が、左から(1)点群、(2)ボリュメトリックCG、(3)実写の静止画です。

コンテンツ中の3種の映像表現。左から(1)点群、(2)ボリュメトリックCG、(3)実写
コンテンツ中の3種の映像表現。左から(1)点群、(2)ボリュメトリックCG、(3)実写

特に、これまでにない、離れた空間をリアルタイムで計測した結果を点群で描画した表現について、どういう印象を持たれたかが知りたいと思いました。

評価実験では、一般のモニターさん50名と映像専門家20名に協力してもらいました。
実験場所、すなわち体験場所はもちろん、2025大阪・関西万博NTT Pavilionです。万博で提供したコンテンツを万博の環境で体験してもらったうえで、評価しないと、万博で来場者に与えた印象がはかれないと考えました。そして、実験の実施時期も、NTT Pavilionでコンテンツを提供できる時なので、もちろん万博開催期間中です。とても暑い時期に4日に分けて実施しました。体験してもらってアンケートに答えてもらう形式です。
印象評価は、Semantic Differential法を用いて行いました。3種の映像の印象についてアンケートを行った結果を図示したものを下に示します。一般ユーザ、映像専門家の各グループが点群、ボリュメトリックCG、実写について回答した印象の平均値をプロットしたものになります。

両グループの各映像に対する印象評価結果
両グループの各映像に対する印象評価結果

点群映像と、実写映像に着目して、(p値を0.01として)統計学的に有意差があるかを調べたところ、

  • 一般ユーザにおいて、Clichéd-Original(陳腐だ-独創的だ)、Ordinary-Surprising(普通だ-驚きがある)以外には有意差がありました。逆に言うと、この2ペアの印象については点群映像と実写映像が肩を並べているといえます。
  • 映像専門家においては、優位差はありませんでした。おそらく、母数の少なさによる影響ではないかと推測しています。

有意差はなかったものの、映像専門家において、Ugly-Beautiful(醜い-美しい)、Crude-Refind(雑な-洗練された)、Clichéd-Originalでは、実写映像よりも点群映像がポジティブな評価となりました。
この結果より、点群映像は、一般ユーザからは、新たな表現手法としては受容された可能性があり、映像専門家の結果からは新たな表現手法としてだけでなく美しさなども評価されたということがいえます。
同じ映像を3つの映像表現で同条件で描画して比較した実験ではなく、このコンテンツについての印象評価なので、コンテンツ依存の評価結果であることは注意しないといけないですが、点群映像の事例の1つとして、このような可能性を持った映像表現だったということがわかりました。

最後に、論文内に記述していないことを、せっかくのこの場ですので、1つ。この実験は、万博来場者向けの予約数を減らさずに実施したことを書き残しておきます。パビリオン運営担当と私たちが実験計画を相談する中でのこだわりとして、運営運用への影響を最小限に抑えたいという観点がありました。その結果、保守点検、清掃などのメンテナンス時間を転用して作り出した時間で、実験を行うことができました。万博に来場いただいて、NTT Pavilionを予約できなかった方が多数いらっしゃることを知っている(私もお客さんの立場では予約とれませんでした)ので、予約枠を削らずに評価実験ができたことは個人的には達成感がありました。

他セッション・発表の紹介

SIGGRAPHでは、さまざまなタイプのセッションが開催されます。いくつか紹介します。

まず基調講演は、Disney Researchのフェローであり、Walt Disney ImagineeringのイマジニアでもあるLanny Smoot氏。講演の内容は、彼のこれまでの成果や若者へのメッセージという内容の講演でした。講演後にWebを検索してみると、1955年生まれのSmoot氏は107件の特許を保有し、2024年に全米発明家殿堂入りしているという紹介が一般的のようです。しかし、NTT研究所に在籍している自分にとっては、ディズニー以前はベル研究所でビデオオンデマンドやテレビ会議の研究をしていた、その後ディズニーに移ったという経歴が、刺激的でした。

Technical Papersは、通常のアカデミックな国際会議らしく、CGとインタラクティブの技術に関する口頭発表があり、その後ポスターセッションで質疑が行われるものです。
すべてのTechnical Papers採択者がショートプレゼンを行うPapers Fast Forwardが、2500人ほど収容できるホールで、初日の18:00-21:00に行われました。(SIGGRAPHは夜もセッションがあります。)このセッションは並列セッションがなく、全員参加ができるようになっています。ショートプレゼンの持ち時間は20秒。ただし、ナレーション付きで登壇者が話さないプレゼンについては今年から10秒になりました。このルールがチェアから発表されたとき、観客からは拍手喝采でした。ほとんどのちゃんとしたプレゼンでは普通に拍手が送られるのですが、プレゼンによってはピーピーと指笛が鳴ったり、大拍手になったりと、ノリが国内とは違います。多くは真面目です。
こちらの模様が、YouTubeで公開されていました。 SIGGRAPH 2026 Papers Fast Forward in LA

SIGGRAPHでは、技術ではなく芸術のアプローチも歓迎されます。アート作品の発表として、Art Papers、Art Galleryがあります。Papersは口頭発表で、Galleryはアート作品の動態展示です。今年のArt Galleryは12作品ありました。

SIGGRAPH名物の1つとして、Emerging Technologiesというセッションがあります。直訳すると「新興技術」となりますが、口頭発表ではなく新興技術のデモ発表です。革新的な取り組み、新たな可能性、新たな体験を可能にするプロジェクトが展示されます。今回は20件あり、そのうち12件が日本からの出展でした。このセッションは日本が多いのです。2025では21件のうち11件、2024は21件のうち13件が日本勢です。Best in Showを獲得した" EmerFlux: A Two-Layer Liquid Surface Display for Organic Pixel-Based Aesthetic Representation of Information"は水性油性の液体を制御して作られたディスプレイは、これまでに見たことのない出力装置でおもしろかったです。精細化していくような技術の進化もあると思いますが、今の性能でも安定性向上や運用管理UIなどを作って、公開実証実験などもできるのではないかとも思いました。
下の写真は、SIGGRAPHの「SI」を表示しているところです。この文字が左にスクロールしていって、SIGGRAPHと表示されていました。

EmerFlux。SIGGRAPHの「SI」を表示
EmerFlux。SIGGRAPHの「SI」を表示

もう1つのデモ発表が、Real-Time Live!セッション。これは、先述の大ホールの観衆の前で、動態デモを行います。PCの操作画面と、操作している人が、会場の大画面に投影され、注目された状態で、説明をしながら操作してデモを行うものです。複数人での役割分担も可能です。今年は親子参加者がいて、簡単にできるんだよということをアピールしているチームもありました。そして、今年からYouTubeで生配信という条件も追加されました。下にアーカイブへのリンクも書いておきます。学会のデモっぽくない雰囲気が伝わるでしょうか。今年は、システムが動かなくなるという事態になるチームはなかったので平和でした。(以前参加した時には、途中で動かなくなるチームがありました。)あとは、QRコードを示して観客のスマホを巻き込むデモもあって、ノリノリで参加する来場者たちと、アドリブのプレゼンターのやりとりなども楽しかったです。
SIGGRAPH 2026 Real-Time Live!

Production Sessions。映画やゲームなどのCG制作物の舞台裏が語られるセッションです。今回は、「ズートピア2」、「トイストーリー5」、「私がビーバーになる時」などのセッションがあり、気になってはいたのですが、参加できませんでした。私が部分的でも参加できたのは、ラスベガスのSphereで上映されているオズの魔法使いについてのセッションでした。1939年のオズの魔法使の映像を16K×16Kに適合させるために、生成AIを使ってスケールアップを行った話などが聞けました。1939年の時点で360度の撮影を行っているわけがないので、当時の映像の枠外の部分を補わないと、Sphereのスクリーンには合いません。なので、生成AIを使って枠外の映像を生成したという事例がいくつか紹介されました。

Computer Animation Festival。CGの映像作品を上映するセッションがいくつかあり、それらのセッションの総称として、こう呼ばれています。この中の最大のセッションが、会期中のうち2回行われるElectric Theaterです。夜の並列セッションがない時間帯で、2晩同じ作品が上映されます。社会問題を取り上げたり、不思議な世界観を描いたり、さまざまなタイプの作品を見ることができます。クレジットから学生さんが作ったんだなとわかる作品も多くありました。

Exhibition。展示会です。CG分野の専門家に向けて、最新のサービスや製品が展示されています。ここはビジネスの場です。NVIDIA、DELL、HPが大きなブースを構えていた印象です。3DCGを扱う時の特殊なUIデバイスや、3Dディスプレイなどもありましたが、やはりAI関連の出展が多かったです。写真は、Exhibition会場を歩いていたロボットです。

Exhibition会場にいたDELLのTシャツを着た二足歩行ロボット
Exhibition会場にいたDELLのTシャツを着た二足歩行ロボット

他にも、私が足をふみ入れたことのない種類のセッションがいくつもあります。本当に多様なイベントです。
最後に、Best Papersなどの情報が掲載されているページを紹介しておきます。
SIGGRAPH 2026 Technical Papers Awards: Best Papers, Honorable Mentions, and Test-of-Time
他にも、公式サイトの各セッションのページに、表彰されたものが書かれているところもありますので、気になる方は探してみてください。

おわりに

このSIGGRAPH、主催はACMで間違いなく学会なのですが、イベント全体としては研究者を対象とした国際会議だけではなく、CGとインタラクティブ分野の専門家が集まる世界最大のイベントです。この分野は、先端技術の商用展開されることが他分野と比べて速いのかもしれないと個人的には考えています。そのため、研究者の国際会議が周辺の専門家も取り込んだイベントになっていったのかなと思います。このユニークさをお伝えしたいなと思いながら書いたのですが、少しでも伝わったでしょうか。
また、万博のコンテンツの評価といった一見地味な研究ではあるものの、NTT研究所技術により実現し、多くの人に提供したコンテンツを評価しておくこと、そしてそれを論文化して記録しておくことができたことは、よかったかなと思っています。
来年のSIGGRAPH 2027はアナハイムで開催されます。少しでも興味を持ってしまった方がいれば、投稿や参加を検討してみてください。

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徳永 徹郎
徳永 徹郎

横浜国立大学大学院環境情報学府情報メディア環境学専攻博士前期課程修了。修士(情報学)。日本電信電話株式会社入社。
NTT研究所、NTTレゾナント、NTTぷららにおいて、研究開発からサービス企画・運営、開発プロジェクトマネジメントまで幅広い業務に従事。
研究所と事業会社の双方で経験を重ねながら、コミュニケーション技術やXR関連技術の研究開発と社会実装に取り組んできた。

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