更新日:2018/10/11

    ダイバーシティ・ナビゲーションの実現に向けて〜屋内外の移動を安心・安全・便利にサポートする〜NTTサービスエボリューション研究所

    ※記事本文中の研究所名が、執筆・取材時の旧研究所名の場合がございます。

    階段、段差、傾斜、言語。私たちの身の周りにはさまざまなバリアが存在します。こうしたバリアは、人によって通行の妨げになることがあります。車いす利用者や視覚障がい者、高齢者、杖やベビーカーを利用する人、訪日外国人といった方々が、安全に通行できる道、安心して目的地まで辿り着ける経路をナビゲーションしたい。こうした考えから、様々な属性を持つ人々の日常の移動を、安心・安全・便利にサポートする、ダイバーシティ・ナビゲーションの実現に取り組んでいます。具体的には、「屋内外シームレスな立体地図」、「バリアフリー情報の収集・更新」、「位置検索」、「自動案内文生成」など、さまざまな技術の研究開発が行われています。前編、後編の2回に分けて、ダイバーシティ・ナビゲーションの実現に向けて、NTTによる地図やナビゲーション(移動案内)に向けた取り組みについてご紹介します。前編では、「屋内外シームレスな立体地図」と「バリアフリー情報の収集・更新」について、NTTサービスエボリューション研究所の松田氏と小西氏に、その取り組みや目指すところを伺いました。

    話し手

    松田 治 氏
    松田 治 氏まつだ おさむ
    NTTサービスエボリューション研究所
    プロアクティブナビゲーションプロジェクト
    主任研究員
    小西 宏志 氏
    小西 宏志 氏こにし ひろし
    NTTサービスエボリューション研究所
    プロアクティブナビゲーションプロジェクト
    主任研究員
    プロジェクトの背景
    「実世界の地理空間情報をデータベース化し、有効活用する」

    我々の取り組みが注目されたきっかけの一つは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックです。開催にあたり、オリンピック・パラリンピックに来日し、慣れない街中の移動や交通機関を利用する際に、誰もが安心かつ安全に目的地までたどり着けるナビゲーションを実現する必要があると、産学官において様々な検討の機運が高まりました。なかでも具体的な課題として、ビルや地下街、駅、空港といった屋内の地図情報の整備が進んでいない点が挙がりました。既に普及の進んだ屋外に比べ、屋内の地図整備は十分でないため、人の移動経路の所々が欠けてしまうのが現状です。屋内外を問わず、現在地から目的地までを最適な経路で全体のナビゲーションを可能とすることを目標に、屋内外シームレスな地図の生成・管理・表現技術の研究を加速させました。

    さらに、屋外・屋内問わず、バリアフリー情報の収集とその供給も急を要する課題です。車いす利用者や視覚障がい者、高齢者といった方々に向けて、それぞれの移動手段を考慮し、それぞれが通りやすい道をナビゲーションするために、バリアフリー情報の収集技術、更新技術も研究開発しています。

    「地図の技術を研究している」とお話しすると驚かれることもあるのですが、NTTには数十年前から線路設備管理のために自前で地図を作成してきた歴史があります。加えて、いわゆるポータルサイトの入口としての地図サービス提供もあり、我々はまさにその分野において、Webポータル、情報検索、データマイニングの切り口から研究開発を続けてきました。現在の取り組みは、そうした先端技術開発とNTTグループの地図ノウハウとを掛け合わせることで、地図基盤技術の更なる高度化・効率化を目指すものと考えています。

    2.5D地図基盤技術
    屋内外シームレスな立体地図を実現する技術

    松田氏(以下、敬称略):我々がまず取り組んだのは、「2.5D地図基盤技術」の開発です。自動車と違い、人の移動は屋内外を行き来し、かつ階段やエレベータなど上下の移動もあります。従来の地図サービスでは平面(2D)地図の重なりを切り替えて表示することでこれに対応してきましたが、その方法では、例えば上下階の位置関係をそれぞれ把握する必要があり、見通しの良い表現にはなりません。そこで我々は、従来の屋外2D地図上で位置合わせした屋内2Dフロアマップに対し、さらに「高さの情報(各階の階層数、天井高等)」のみを加える(+0.5D)ことで、平易な立体地図=「2.5D地図」を自動的に生成・提供可能とする「2.5D地図基盤技術」を確立しました。
    地図を2Dから2.5Dという立体表現に変えると、先に述べたように階段やエレベータといった階層間の繋がり、位置関係も一目で把握することができます。加えて、床面の透過表現なども加えることで、実世界では見えない「壁の先の見通し」も、自由に確認することができます。

    本技術ではダイバーシティ・ナビゲーションをコンセプトとしていますから、2.5D地図はナビゲーションに必要な情報だけを立体的に表現することを狙っています。いわゆる3D地図のように精緻で写実的な表現とはなりませんが、その分、既存の平面地図や屋内フロアマップを元手に地図制作の時間とコストを低減する他、端末の読み込むデータ量や処理負荷も低減できます。無駄なデータはそぎ落とし、最適なナビゲーションに資する情報に集中したいと考えています。

    2017年10月から、NTTデータが、成田空港のデジタルサイネージ「infotouch」に空港ターミナル内ナビシステムを提供しました。この空港内ナビシステムに、2.5D地図基盤技術を採用した「高精度屋内デジタルマップシステム」が搭載されています。また2018年9月からは、「infotouch」とも連携可能なスマートフォン向けのサービス「NariNavi」も始まり、空港内でのレストラン探索や施設探索などにおいて、我々の2.5Dマップを気軽にご活用いただくことができます。「NariNAVI」では、1階から4階へといったような、複数フロアにまたがる案内の場合にも、直感的にわかりやすくするために、立体的な2.5Dマップで表示して、目線を「上から」「横から」など自由に操作することができ、現在地と目的地を俯瞰的に把握することが可能になりました。この「NariNAVI」の地図は現地以外でも見ることができますし、Webサイト版もありますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

    ■「NariNavi」モバイル端末表示例

    TOP画面
    2.5Dマップ表示
    経路表示

    実証実験や商用導入の結果を踏まえつつ、2.5D地図基盤技術に関する研究開発は続いています。特に、2.5D地図の素となる屋内2D地図について、現状まだまだ手作業による制作が多いのですが、既存データを活用して自動生成ができないか、検討を進めています。既存の建物データとしては、紙の設計図やCADデータが一般的ですが、これを地図化するには単たる図形的・フォーマット的な変換では十分でなく、情報の不足を手作業で補う必要が発生してしまうのです。技術開発において、経済化はポイントの一つと考えていますので、可能な限り地図制作作業の効率化を技術で後押しし、低コスト・短期間で屋内地図の充実を図りたいと考えています。

    MaPiece(まっぴーす)
    歩行者移動支援向けのバリアフリー情報を収集・更新する技術

    小西氏(以下、敬称略):屋内・屋外問わず、歩行者にとって必要なバリアフリー情報を収集、更新するための技術を開発しました。それが、MaPiece(まっぴーす)です。MaPieceは、大きく3つの技術で構成されています。

    1. 測ってMaPiece
      タブレット端末を使って、バリアフリー情報を手軽に収集する技術です。選択肢から選びながら、段差や階段、道幅、傾斜などのバリアフリー情報を入力することができます。

    ■入力画面例

    これがあれば、専門家がいなくても、ボランティアの方がイベントなどで、必要なバリアフリー情報を簡単に収集することができます。既に実利用が始まっており、オリンピック・パラリンピック等経済界協議会が主催する国交省整備仕様案に基づくバリアフリー情報の収集調査に活用されています。2016年から2018年7月までで、2019年のラグビーW杯と2020年の東京オリンピック・パラリンピックの51会場のうち、19会場の調査が済んでいます。その他にも、全国の自治体から要請を受け、現地調査に活用されています。

    1. みんなでMaPiece
      スマホアプリによる投稿をもとに、情報を更新する技術です。住民の皆さんに、バリアフリーマップやルート検索を使っていただきながら、工事などでバリアフリー情報が古くなってしまっている地点や間違っている情報を投稿してもらいます。その地域の皆さんに情報を提供していただくことで、情報を常に最新に保つことができる技術です。
    2. 歩いてMaPiece
      スマートフォンで路面状況を収集する技術です。アプリを起動したスマートフォンをいつものように持ち歩くだけで、加速度センサーなどから道路の段差や傾斜を推定します。多くの参加者によって、広い範囲の情報を収集することができます。こちらは現在研究中です。手入力することなく、スマートフォンを持ち歩くだけという手軽さから、より多くの方の協力が望める技術です。

    MaPieceによって収集・更新されたデータは、「有効幅員」、「勾配」、「段差」、「階段」といった情報を、総合的に分析することで、「手動車いす」、「電動車いす」、「ベビーカー」、「杖」といったさまざまな移動手段に合ったナビゲーション情報とバリアフリーマップを生成することができます。前述の2.5D地図基盤の属性情報として組み合せることにより、より直観的にわかりやすく、さまざまな人に合わせたナビゲーションを実現していきたいと考えています。

    今後の展開
    地図づくりは、まちづくりの貢献に繋がる

    松田:我々が行っている地図にまつわる技術の研究開発は、NTTグループ内でもあまり知られていません。まずは、こうした活動に興味を持っていただければ嬉しいです。地図に掲載する情報が正しいか、正しくないかという正誤の判断は、未だに人間が行っています。しかし、これからは、AIや画像認識技術なども活用され、地図作成の効率化は進むと考えています。AIや画像認識などの技術分野の専門家と協力しながら、地図作成の技術革新にチャレンジしたいと思います。

    小西:MaPiece等を使用したバリアフリー情報収集活動は、社会的活動として少しずつ認知され始めています。しかし、もっと多くのボランティアの方の協力が必要です。まずは、東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて。開催後も、各自治体で継続的に調査を行う必要があると思います。NTTグループ内でもボランティア募集を案内することがあり、誰もが快適に過ごせるまちづくりに貢献できる取り組みですので、興味のある方は、ぜひボランティアとして協力していただきたいと思います。

    (2018年8月31日現在 有限会社ハッテンボール 外山夏央)

    【参考情報】

    2020.ntt - B2B2Xコラボレーション事例 - 増加する訪日外国人に快適な旅を提供するために
    https://2020.ntt/jp/innovation/usecase/02.html

    NTT公式チャンネル - R&Dフォーラム2018 - 歩行者移動支援向けのバリアフリー情報収集・更新を簡単にします
    https://www.youtube.com/watch?v=9CZfHNVIST4

    NTT公式チャンネル - Mobile World Congress 2018 - 【MWC2018】NTT interview movie _ Mobility&Logistics
    https://www.youtube.com/watch?v=yad9zO8WvV4

    ダイバシティ・ナビゲーションを実現するための「MaPiece」の巻 - 事例・レポート",NTT R&Dポータルサイト,2017.
    http://rdportal.ecl.ipxp/case/AP99-296.html

    NTT公式チャンネル - R&Dフォーラム2017 - 【R&Dフォーラム2017】2.5D地図表現技術
    https://www.youtube.com/watch?v=9M0n2hwDwsg

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