更新日:2018/09/13
NTT未来ねっと研究所では、来るべきIoT時代の到来に向け「エッジコンピューティング」の研究開発を進めています。今回は、JAMSTEC(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)の地球シミュレータと連携することで、従来にはない高精度な局地的気象予測を目指す試みを紹介します。
本技術の背景と概要
昨今ではクラウドコンピューティングが一般化しましたが、今後のIoT化の進展により膨大なデータがクラウド/データセンタに集中することになり、トラフィックの混雑や遅延が生じると懸念されています。この課題に対しNTT未来ねっと研究所では、エッジコンピューティングと呼ばれる技術による解決を目指して、研究開発を進めています。これは通信網のエッジ(縁)にあたるIoTセンサ等のそばに「エッジサーバ」を設置し、クラウドの手前でデータを分担処理させることで、IoTアプリケーションの低遅延化やトラフィックの負荷軽減を狙いとしています。
今回ご紹介するのは、このエッジコンピューティングとJAMSTECの気象予測シミュレータを組み合わせることで、次世代型の気象予測を目指す試みです。様々なIoTセンサから集められたデータをエッジサーバ上で扱い、広域シミュレータの予測結果と連携させることで、5km2〜10km2といった局地的範囲の気象予測を高精度で実現できるようになります。
開発を担当されている中田氏は、こうした局地的予測に役立つIoTデータの一例として、カメラによる雲の映像データを挙げています。天候は西側から変化していくため、西向きに設置したカメラで雲の映像を撮影・解析することで予測精度の向上が期待できます。さらに今後は自動運転の普及により、自動車に多くのセンサが搭載されるようになれば、「ワイパーが動いているかどうか」も気象データの1つとなりえます。こうした様々なデータを活用した新たな気象予測を実現すべく、研究所のエッジコンピューティングが活用されています。

本技術の特徴と活用イメージ
本技術の特徴は、予測範囲を広域/狭域で分担している点にあります。もともとJAMSTECのスーパーコンピュータ上で動く「MSSG(Multi-Scale Simulator for Geoenvironment)」は、100km2のような広い範囲から1m2のような狭い範囲まで、マルチスケールでの計算に対応したソフトウェアでした。今回の試みではMSSGをエッジサーバ側にも導入し、狭い範囲のシミュレーションに特化させる構成となっています。これにより、スーパーコンピュータ側の計算資源をわざわざ使うことなく、エッジサーバを用いて局地的予測の精度を高められます。さらに、こうした局地的な予測結果をスーパーコンピュータ側にフィードバックすることで、広域シミュレータの精度向上にも繋がります。
こうした新たな気象予測システムが実現すれば、様々な分野での活用が期待できると中田氏はいいます。たとえばエネルギー分野では、太陽光発電の局地的予測が可能になることで「どれくらい火力発電で補うか」等の調整も可能になり、資源利用の効率化に繋がります。このほかにも自動運転であれば大雨を避けて運転するといったナビゲーション機能や、スポーツや農業といった天候に左右されやすい分野への活用も期待されています。
中田氏(以下、敬称略): プレゼンテーションでご説明したエッジコンピューティングは、NTT未来ねっと研究所で6〜7年前から取り組んできた技術です。NTTグループのキャリア網の中にエッジサーバを置くことで、クラウドへの負担を軽減し効率を高めるというコンセプトは当初からありましたが、私たちとしてはこの技術を活かせる分野やユースケースを検討していました。
そのなかの1つとして、本プロジェクトは2016年に立ち上がりました。JAMSTECでは、地球シミュレータを今後どのように役立てていくかを検討する上で、IoTを活用した展開も模索されていました。そこでIoTセンサとも親和性の高い私たちのエッジコンピューティングの取り組みに興味を持っていただき、共同研究が始まりました。
中田:比較対象として、主に気象庁と気象情報サービスを手がける民間企業の2者があります。前者の気象庁は日本全国にわたる広域の天気予報を出しており、後者の民間企業は地域や用途を絞った気象情報を提供しています。
これに対し本技術は、広域と局地の双方の予測をカバーし、さらに精度を高めようとしている点が特徴になります。もともと本技術のベースとなっているJAMSTECの気象シミュレーションモデルは、広域・局地の双方を予測できるマルチスケール対応の技術でしたが、そこに私たちのエッジコンピューティングを組み合わせることで、さらに細かな地域単位での気象予測を行うことができます。また、その予測結果をスーパーコンピュータにフィードバックして広域予測の精度を高められる点も他の気象予測シミュレータには見られない試みです。このようにJAMSTECと私たちでは、互いの技術を相互に連携させることで従来の気象シミュレーションにはない特徴を実現するのが狙いとなっています。
中田:そうですね。そもそも私たちは気象予測の専門家ではありませんし、逆に私たちはネットワークの専門ですがJAMSTECの方々はそうではありませんので、研究領域をまたいだコミュニケーションには苦労しています。たとえばJAMSTECのシミュレータでは、都市部特有の気象変化等に対応した予測モデルが数多く組み込まれているのですが、これらを理解しつついかにIoTセンサを活用していくかを考えるのには苦労しました。
環境構築という面でも苦労は多々ありました。JAMSTECのMSSGというシミュレーション・ソフトウェアは、いわゆる商用ソフトウェアとは違いスーパーコンピュータ用に作られたものですので、一般的なサーバですぐに動くものではありません。そこで私たちのエッジサーバ向けにカスタマイズし、JAMSTEC側とネットワークをどう接続するかといった点では多くのリソースを割いてきました。
さらに研究面では、本技術の評価自体が難しいことでした。たとえば気温予測の結果は実際とズレが生じますが、その評価はどこまでの精度を求めるか、その予測結果を何に用いるのかによって変わってきます。また局地的予測といっても、実際に1m2単位でIoTセンサを置いて気象データを取るのはコストもかかりますし、IoTセンサもきちんと管理されたものばかりではないため、気象庁の観測データ等と比べればまだ精度が高いとはいえません。こうした中でいかに評価を行って本技術を発展させていくかは、今後の課題となっています。

中田:IoTと気象は親和性が高く、また気象現象は幅広い範囲に影響を及ぼしますので、様々な方面からの反響をいただいています。私たちが展開先として想定しているスポーツやエネルギー関係の方からは、「これは興味がある」「こんなことができると嬉しい」といったご意見をいただいており、NTTグループ内からも農業や防災の観点から関心をもっていただくケースが多いですね。
中田:本プロジェクトは今年で3年目ですが、今後もJAMSTECとの共同研究は継続していきます。展開面としては、本技術の「リアルタイム性」や「局地的予測」を活かせるようなスポーツイベント等の分野で実証実験を行い、本技術の精度向上やビジネス的な評価ができればと考えています。
技術面では、IoTセンサをより多くの角度から増やして精度を高めていく予定です。それは必ずしも気象センサを設置するということに限りません。プレゼンテーションでは「車のワイパーのON/OFFで雨が降っているかどうかが分かる」という例を出しましたが、たとえば家庭内のエアコンのON/OFFといった情報を活用したり、ネットワーク・トラフィックから気象データを推測したりすることも可能になるかもしれません。ただ、そうしたデータを闇雲に集めるだけではなく、そのデータを気象予測モデルに結びつけていく必要がありますので、ここが研究開発の要になってきます。
中田:私たち研究所としては、ただ気象予測の精度を高めていくというよりもNTTグループとして新たな事業創出の貢献につなげたいと考えており、いまはスポーツ・エネルギー・農業・防災、そして自動運転といった様々な方面への展開を想定しています。ですので、こうした分野での実証実験にご興味のある方はぜひ一度お声がけいただければと思います。またその一方で、この他にも私たちが想定していないような活用先があるかもしれません。そうしたアイデアをいただければ、現状には存在しない革新的なサービスにも繋がっていきますし、私たちとしてもさらなる研究開発のモチベーションになりますので、皆様からのご意見やご相談をお待ちしています。
取材日:2018年7月12日
インタビュアー:濱野 智史 (rakumo株式会社)