更新日:2020/02/27

    目に見えない電波を見える化する!
    ドローンを使った電波測定技術の確立と電波伝搬状況をモデル化に成功。NTTアクセスサービスシステム研究所

    スマートフォンでネット動画を楽しむ。ワイヤレスイヤホンで音楽を聴く。スマートスピーカーでエアコンや照明のスイッチをオンにする。ドローンで上空からの景色を撮影する。現在、私たちの身の回りにはさまざまなIoT機器が存在しており、それらの活用にはWi-FiやBluetoothといった無線通信システムが欠かせません。
    多様化する無線通信システムの開発や設置に向けて、NTTアクセスサービスシステム研究所は、地表だけでなく上空においても電波の受信強度を測定し、評価する技術を確立しました。今回は、ドローンを用いた上空での電波測定と電波状況のモデル化について、NTTアクセスサービスシステム研究所の山田氏、中村氏、久野氏にお話を伺いました。

    話し手

    山田 渉 氏
    山田 渉 氏やまだ わたる
    NTTアクセスサービスシステム研究所
    無線アクセスプロジェクト
    特別研究員
    中村 光貴 氏
    中村 光貴 氏なかむら みつき
    NTTアクセスサービスシステム研究所
    無線アクセスプロジェクト
    研究員
    久野 伸晃 氏
    久野 伸晃 氏くの のぶあき
    NTTアクセスサービスシステム研究所
    無線アクセスプロジェクト
    研究員

    研究の背景

    ドローンが飛び交う近未来に役立つ技術を

    想像してみてください。10年後、いえ、5年後には、ひょっとしたらドローンが配達やビルのメンテナンス、防犯カメラとして、都市の上空を飛び交っているかもしれません。今や空飛ぶクルマの開発も進められています。そのような飛行する機械を制御するには、無線通信システムが欠かせませんが、もし、都心の上空を飛んでいるドローンの通信回線が途絶えて落下したら、危険ですよね。そこで私たちは上空にどれくらいの強度の電波が届いているのかを研究し、電波の状況を把握しておく必要があると考えました。上空における電波の受信強度を測定し、モデル化する技術の確立を目指したのです。

    電波は自由にどんなところへも飛んでいけるものだと思われていますが、実際は、建物の縁で回折したり、壁に反射したり、ガラスを透過したり、障害物の影響を受けて減衰しています。基地局との距離や位置関係で、電波が伝わる状況はさまざまに変化します。基地局が見える場所でスマホを使うときは受信感度が高いけれど、基地局が見えない場所ではつながりにくいのは、そういった理由からです。しかし、電波の到来状況は実際に見ることができません。それを、目に見える数式などのモデルに落とし込む技術が「電波伝搬技術」であり、私たちが専門としているところです。

    インタビューの様子

    冒頭で、上空の電波状況を把握する理由のひとつとして、ドローンが飛び交う世界の想定を挙げましたが、理由はほかにもあります。無線通信システムの通信エリアは地上面のみならず建物内部にも存在しますが、建物内部における電波の受信強度を推定する上では、「基地局から窓ガラスまで」の受信強度が基準となります。なぜなら、電波はビルの中層階や上層階の内部へ建物の窓ガラスを経由して入ってくることが一般的ですが、窓ガラスを経由することにより、さらなる電波の減衰が発生するからです。さらに、無線エントランス回線やセルラードローン(※1)、ガラスアンテナ基地局(※2)といった、新しい形の無線通信システムが開発されており、これらの設置場所を検討する上でも、上空の電波状況を把握する技術が必要です。

    1. ※1セルラードローン:ドローン中継局と呼ばれるもので、基地局から電波を飛ばし、新たに通信エリアを形成できるもの。被災地などでの活用が想定されている。
    2. ※2ガラスアンテナ基地局:高所の基地局から電波を飛ばし、そこから電波を吹き直すこともできる。
    多様化する無線通信システムの解説図
    図1:多様化する無線通信システム

    (お知らせ)セルラードローンの送信電力最適化機能を開発
    https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2019/03/12_00.html

    (お知らせ)ドコモとAGCが提携し、世界初『窓の基地局化』に成功
    https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2018/11/07_00.html

    成果と技術のポイント

    「高周波数帯伝搬測定技術」と「端末高特性評価モデル」の確立

    本研究によって上空における「高周波数帯伝搬測定技術」と「端末高特性評価モデル」の確立に成功しました。従来研究における「端末高特性評価モデル」には3つの課題がありました。1つ目は、5Gの新しい周波数帯に対応していなかったこと。2つ目は、基地局の位置が周辺の建物よりも高い位置にある場合しか想定していなかったこと。これがなぜ問題かというと、今後、高層ビルが建築されていくことにより、結果的に基地局が周辺建物よりも低い位置に設置されている状況が増えると考えられているからです。3つ目の課題は、従来研究の測定器は伸縮ポールにアンテナを取り付けたものであり、最大で地上10m程度しか測定できなかったことです。

    伸縮ポールの写真
    伸縮ポール

    これら3つの課題を解消すべく、私たちは測定にドローンを活用することにしました。開発したドローンはとても大きく、重量は10kg、羽を伸ばすと直径は1.7mにもなります。GPSアンテナや緯度経度情報を取り込めるシステムを取り付け、プリズムを反射させることにより、どんな環境下でも位置座標を認識できるようにし、その後の分析とモデル化に必要なデータを収集するための装置が多数取り付けられている手作り感満載のドローンです。ドローンを応用した「高周波数帯伝搬測定技術」の開発に半年かかり、その後は8日間に渡って測定を実施、測定データの分析とモデル化にはさらに半年ほど有しました。

    測定機器を搭載したドローンの写真
    測定機器を搭載したドローン

    ドローンを用いたことは本研究の差別化ポイントのひとつです。実際、これまでにヘリコプターを使った測定例や気球を使った測定例も公表されています。しかし、本研究のようにドローンを活用することで、上空の伝搬特性が簡単に、かつ安定して取得できるようになりました。ですが、ドローンはあくまでモデル化に必要なデータを集めるための測定器に過ぎません。これまで積み重ねてきた電波伝搬技術の経験をもとにモデリングした点が差別化ポイントといえるでしょう。実測という泥臭い努力と長年の経験の複合の末に確立した「端末高特性評価モデル」は、一般的な都市環境で想定される設置形態すべてに対して精度よく対応しています。図2でいう領域①〜領域④すべてに対応している点が本技術のポイントです。

    測定場所の図と測定結果のグラフの解説図
    図2:測定場所の図と測定結果のグラフ

    従来研究モデルの適用範囲であった領域③に関しては整合性を確保しつつ、「周波数」、「基地局高」、「端末高」すべての適用範囲を拡げることができました。「周波数の範囲」は0.8〜8.0GHzに対して、0.8〜40GHz。「基地局高」は20m〜100mに対して、15m〜100m。「端末高」は1m〜10mに対して、0m〜40mまで測定できるようになりました。また、領域④に関しては、最大150mまでの測定が可能となりました。

    なお、確立したモデルの精度に関して言及しますと、「伝搬推定精度」の評価を行う際に「RMSE(RMS誤差)が6dB程度」という値が一つの目安になるのですが、本成果モデルでは「RMSE=6.48dB」という値を得ることができました。十分、事業に活用可能な精度であるといえます。

    今後の展望

    測定機会を増やし、さらに高精度なモデルの確立を目指して

    私たちが目指す未来は、ドローンのような自律飛行機械が、都心の上空を多数飛び回っているような世界です。防犯カメラや配達、ビルのメンテナンスなど様々な目的で、機械同士がぶつからずにものすごい大群で動いている。個人的にはスター・ウォーズのような世界を想像しています。空飛ぶ自動車が実現しているかもしれません。そんな未来を創造するためには、電波状況の把握が急がれます。ドローンは縦方向だけでなく、横方向にも操縦できますから、確立した技術を用いれば、電波を3次元的に捉えられることができます。とはいえ、すべての空間を漏れなく測定するわけにはいきません。どういった場所を押さえて測定したら、価値ある分析データを採取できるのか。今後は測定ポイントのキモを、明らかにしていきたいと考えています。

    実は、今回最も苦労したのは測定ポイントを探すところでした。現在の規制では、人が住んでいるところの上でドローンを飛ばすことは簡単にはできません。本成果の測定実験は、武蔵野研究開発センタと新潟大学の協力を得て、なんとか実施できたのです。本心では「新宿や大手町といった大都会で飛ばしたい!」という強い思いがありますから、ドローンを飛ばせる場所に関する情報をお持ちの方は、ぜひ教えてください!日本での飛行が厳しいようなら、海外での実験も積極的に検討しています。ある程度の高さの建物があればよいので、廃墟やゴーストタウンなども候補となるかもしれません。

    また、一緒に研究に取り組んでくださる仲間も募集しています。モデルの精度を高めるためにも、測定を積み重ね、データを大量に集めたいと思っています。ドローンが飛び交う未来創造のためだけでなく、災害対策にも役立つ社会貢献性の高い技術であると思います。私たちの考えに共感してくださる仲間を増やしたいです。

    編集後記

    普段、どれだけ無線通信システムの恩恵にあずかっていたのか。考えたこともなかったが、目に見えないWi-FiやBluetoothといったシステムに、私の生活は確かに支えられている。今後も、想像もつかない多種多様な無線通信システムが続々と登場するに違いない。そんな発展が著しい領域において、「目に見えないものを、目に見える形に落とし込む技術で貢献する」という事実に惹かれた。研究者の山田さんは、電波伝搬技術を「仙人のような世界です」とおっしゃる。目に見えないものを、目に見える形に変える。まさに仙人だけが許された神通力のようである。現状はドローン飛行のポイント探索で苦戦を強いられているが、いち早く望みの環境と巡り合えることを願ってやまない。人間は不老不死ではないから。

    2019年12月12日取材
    外山 夏央

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