更新日:2019/06/13

    ICTサービスの一括構築・一元保全を可能にするワンストップオペレーション技術NTTネットワークサービスシステム研究所

    ICTサービスにおいて複雑になりがちなサービスごとの設定を自動化し、迅速に一括構築可能なワンストップオペレーションの研究が進んでいます。ラスベガス市で行われた公共安全ソリューションの共同実証実験では、データセンタ内の環境を一括構築する技術として活用され、ソリューションは2019年1月より商用化されました。また、保守運用を容易にする研究も始まっており、一括構築だけではなく一元保全をも可能にすることで、サービスの「はじめるとつづける」をシンプルにすることを目指しています。NTTネットワークサービスシステム研究所でオペレーション基盤研究に取り組む研究員の3名に、ワンストップオペレーション技術による一括構築と、2018年度より本格的に取り組みはじめた高度化保全、アダプタ作成支援についてのお話を伺いました。

    話し手

    小内 伸夫 氏
    小内 伸夫 氏おない のぶお
    NTTネットワークサービスシステム研究所
    オペレーション基盤プロジェクト
    研究主任
    池谷 友基 氏
    池谷 友基 氏いけがや ともき
    NTTネットワークサービスシステム研究所
    オペレーション基盤プロジェクト
    研究員
    金丸 翔 氏
    金丸 翔 氏かねまる しょう
    NTTネットワークサービスシステム研究所
    オペレーション基盤プロジェクト
    研究員

    複雑な組み合わせサービスの一括構築が可能

    「オペレータが指示するだけで、自動で環境を構築することが可能です」

    API(Application Programming Interface)はソフトウェアコンポーネントが互いに情報をやり取りするためのインタフェースです。ネットワークおよび、クラウドやアプリの事業者はそれぞれのサービスで独自のAPIを提供しています。例えば、ネットワークカメラを設置し、監視サービスを構築しようとした場合、録画用サーバのクラウド環境構築やネットワーク、モバイルSIMのアクティベート等をそれぞれ設定していく必要がありますが、複数のAPIを破綻させずに設定するのは複雑で、時間も手間もかかります。これを容易にするのが、現在我々が研究しているワンストップオペレーション技術(ワンストップ構築エージェント)です。複雑な設定や管理を自動化し、自律的に連携させるオーケストレータ技術を使い、オペレータが指示するだけで自動的にAPIを設定し、組み合わせサービスの一括構築や一元保全までも可能にします。これにより、サービス提供までのリードタイムや、不具合があった際のサービス回復までの時間を短縮し、ワンストップで構築から保全までできるオペレーションを目指しています。

    ワンストップオペレーション技術の研究は構築技術と保全技術の2軸で取り組んでいますが、まず構築についてご説明します。現在、クラウドコンピューティングサービスやマップサービスなど、複数の事業者が提供するネットワークやクラウド、アプリケーションのAPIは独自仕様となっており、世界共通のものはありません。そのため、組み合わせてエンドユーザにサービスを提供しようとする事業者は、使う機能の分だけ申し込み手続きと設定が必要で、構築や運用にはそれぞれ公開されているAPIのドキュメントを学ぶ必要もありました。しかし、ワンストップ構築エージェントを使えば、事業者がネットワーク及びクラウドリソースの自動構築をオーダーするだけ。ワンストップ構築エージェントがサービスごとの設定を行い、環境を構築します。

    この一括構築については、2016年に遠隔監視カメラサービスの構築の共同実験を行い、ネットワークカメラによる遠隔モニタリングの環境を一括構築し、効果を測定できました。その後、2018年にはアメリカのラスベガス市において市街地やイベント会場における犯罪予防や、事件や事故の迅速対応に貢献する、公共安全ソリューションの実証実験が行われ、この中でデータセンタの構築をワンストップ構築エージェントで行いました。仮想サーバやネットワークを一括で作るミッションでしたが、仮想マシン数やアプリケーションの異なるデータセンタ内の複雑な環境構成を、迅速に一括構築することができました。また街中に取り付けたカメラとセンサで構成する、マイクロデータセンタの追加も容易に行えることを証明しました。

    図1
    図2

    保守者のプロセスを自動化する「高度化保全技術」

    「保守者の手間が減り、保全業務のコストカットが可能になります」

    構築については、ここまでの研究と実証実験で基盤はできました。その次の段階として、現在は保全技術についての研究を進めています。まずはワンストップオペレーション技術の中にある一つの技術として、高度化保全技術に取り組んでいます。

    監視カメラシステムなどサービスを構築したあとは、サービスを提供し続けるために保守運用を行っていかなければなりません。そのため、保全もワンストップ保全エージェントによって一元的に担う仕組みを作ろうとしています。ネットワークやクラウド、アプリケーションの組み合わせサービスが主流になった現代では、運用でもそれぞれのAPIを知っていなければならず、これまで以上に保守者の負担は大きくなっています。例えば不具合が起こった場合、回復までの手順は煩雑です。まず保守者はサービス情報を集めて問題がどこで起きているのか、一つ一つ試験を行って切り分けします。それが終わると試験によって集めたデータを解析し、要因を判断した上で、回復処置を施す必要があります。中でも不具合を見つけるための切り分け作業には時間が必要です。一方、ワンストップ保全エージェントでは不具合の発見から切り分け、回復措置までのプロセスを自動化できます。チャット画面で指示や作業内容、試験結果などが表示されるため、APIに不慣れな保守者でも作業を可能にしています。さらに、保全用パーツの柔軟な追加・削除や、各サービスからの情報収集による監視も実現できます。機能の追加については、従来の保守の流れではその都度プログラムを開発し、保守システムを停止した上でファイルを更新するという流れが決まっており、時間もかかりました。しかしこの高度化保全技術では、保守システムを停止することなく新しい機能だけを作って追加することが可能であり、その部分以外には影響を与えません。ワンストップ保全エージェントによって構築後の保全が省力化できるだけではなく、保全に関する技術的な仕組みをつけ外しもできるというのは、これまでにない新しい取り組みです。

    図3

    変換アダプタを短時間で作る「アダプタ作成容易化技術」

    「アダプタ作成を簡単にし、リードタイム短縮とメンテナンスを効率化します」

    取り組んでいるもう一つの研究は、アダプタ作成支援です。ワンストップ構築エージェントを利用するには、ワンストップ構築エージェントからの実行コマンドを、各サービスから提供されるAPIコマンドに変換するアダプタが必要です。通常アダプタは組み合わせるサービスごとに作成しなければなりませんが、APIが統一されていないため、作成にも時間がかかります。また、組み合わせサービスが一般的になると組み合わせ自体の変更も頻繁になり、その都度アダプタ作成に時間がかかることは好ましくありません。そこで、このアダプタ作成を容易にし、開発リードタイムの短縮や、サービスに変更があったときに効率的にメンテナンスできる技術の研究を進めています。

    この技術では、アダプタ作成容易化ツールを用いて、アダプタの設計と実装において各作業間の情報連携をGUI化し、コードを自動で生成することで短期間でのアダプタ作成を実現します。全アダプタで共通的に使われるコードを再利用しやすくしたことで、 実装の負担が減ったことが大きな成果です。さらに、コーディングに不慣れな人でも作業ができるよう、GUI上で設定可能で、視覚的にもわかりやすい工夫を施しています。現状ではアダプタ作成容易化ツールによって、アダプタの設計と実装がこれまでの1/2の時間で可能になるところまで進んでいます。今後は作成の容易化だけではなく、試験を簡単にすることも視野に入れ、さらに作成時間の短縮を実現していきたいと思っています。

    図4
    図5

    今後の展開

    「高度化保全技術とアダプタ作成容易化技術確立に向け、研究を進めます」

    ワンストップオペレーション技術は複数事業者のサービスを、APIを利用して組み合わせ、一括構築のみならず、一元保全までも可能にするワンストップオペレーションを目指しています。サービスを作って終わりにするのではなく、保全や新機能追加もサポートすること、我々では「はじめるとつづける」と表現していますが、これをシンプルにできるところがほかにはない優位性です。そのため、2020年には実証実験などに取り組むことを目処に、高度化保全技術やアダプタ作成容易化技術を確立させていこうとしています。広く普及させるためにはより使いやすいものにして、実績を増やしていく必要があります。また、APIに関しては完全な統一は難しいですが、業界団体によって標準化を進める動きもあります。ここでNTTの発言力を高めていくことで、今後の研究開発において優位性を持つことも意味があると思っています。

    現在のワンストップ構築エージェントは組み合わせサービスを構築するときに手助けとなるものです。しかしいずれはNTTのみならず、内外の各事業者等、誰もがネットワークやクラウドの制御といったことをできるような、共通のプラットフォームにまで成長させることも目標にし、今後も研究を続けていきます。

    インタビューの様子

    編集後記

    普段何気なく使っているインターネットをはじめとしたさまざまなICTサービスですが、新しい機能が加わったり、サービスが強化されたり、気づけばあっという間に進化しています。こうしたサービス開発はスピードの世界。それだけに、このワンストップオペレーション技術によって構築の手間や保全まで省力化できれば、サービス開発者にとってはかなり利便性が高まるでしょう。また、NTTのB2B2Xビジネスの活性化にも大きく貢献することが期待できます。現在は保全関連の研究が始まった段階ですが、これが形になればより簡単で使いやすくなり、アピールもしやすくなるとのこと。一括構築のみならず、保全までできる一元管理は競合にはない優位性のため、ぜひとも早く研究が形になる日を待ちたいところです。

    2019年3月28日取材
    魁生佳余子

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