更新日:2019/02/07

    NTTの技術を活かした新しいフォトニック結晶光ファイバで ハイパワーレーザー光の長距離伝送を可能に NTTアクセスサービスシステム研究所

    2014年からNTTでは三菱重工業株式会社との包括連携を締結。NTTの研究所が持つICT技術分野の研究開発成果を、三菱重工業の社会インフラ関連製品や分野に適用することを目指した共同の研究開発が続いています。いくつか掲げられたテーマのうちの一つが、NTTが通信分野で培ってきた光ファイバ技術を、製造現場等における加工技術に活用できないかという取り組みです。鋼鉄などを切断できるようなkW級の高出力シングルモードレーザーを伝送できる光ファイバは、市販品では伝送距離に限界があって製造現場のニーズを十分に満たせてはいませんでした。そこで、NTTの持つ光ファイバ技術を活かして新しく生まれたのが、シングルモードの高出力レーザー光を遠くまで伝送することができるフォトニック結晶光ファイバ(PCF:Photonic Crystal Fiber)です。この光ファイバの研究開発に携わった、NTTアクセスサービスシステム研究所の松井氏に話を伺いました。

    話し手

    片山 太一 氏
    松井 隆 氏まつい たかし
    NTTアクセスサービスシステム研究所
    アクセス設備プロジェクト
    先端媒体グループ
    主任研究員、博士(工学)、技術士(電気電子部門)

    プロジェクトの背景

    「ハイパワーのシングルモードレーザー光を今より遠くに伝送したい」

    世の中で加工用に使われているレーザー光には2種類あります。まずマルチモードレーザーは光ファイバから射出されるレーザーの幅が広く、その分エネルギー密度は低め。加工精度としてはやや落ちますが、数十~百メートル程度遠くまで伝送できるので使い勝手は良く、多くの製造の現場で使われています。もう一つのシングルモードレーザーは射出される光の幅が狭いので、エネルギー密度が高くハイパワー・高効率で細かい加工が可能です。ただし、品質を保ったままレーザー光を送れる距離はたったの数メートルしかありません。そのためレーザー発振器の近くでなければ使えず、レーザー発振器自体が何百キロもの重量があるような大きなものなので、工場内の移動も困難です。自動車や航空機のように大きなものを加工するのに高速で高精度、かつハイパワーのシングルモードレーザーを使いたいとしても、伝送距離等に制限があるという課題がありました。そこで目指したのが、NTTの光ファイバ技術と三菱重工業の持つ高出力レーザー加工技術を融合させた、高品質シングルモードレーザー光の長距離伝送です。

    フォトニック結晶光ファイバをハイパワー用に改良

    「超ハイパワー伝送に対応した新たなフォトニック結晶光ファイバの設計に挑戦」

    新しいレーザー加工のシステムの確立を目指すにあたって、我々NTTアクセスサービスシステム研究所が担ったのは、ハイパワーのレーザー光を、品質を保ったまま遠くまで伝送可能な光ファイバの設計と製造です。従来用いられている光ファイバは数メートル程度の短い距離に限定されており、研究報告でも5kWのシングルモードレーザー光の20m伝送が最大となっています。

    レーザー加工で利用されるkWのレーザー光がどれくらいのパワーかというと、通信用で使われるレーザー光が数~数十mW程度なのでその10000倍以上であり、数kWになるとステンレスに一瞬で穴が空くようなパワーです。通信用レーザーよりもはるかに強力であるため、従来の光ファイバの構造では到底対応できません。そこでハイパワーで使えるものとしてチョイスしたのが、NTTが長年研究してきたフォトニック結晶光ファイバ(以下PCF)です。従来の光ファイバにはコアがあり、そこを光が通ります。PCFはガラスの中に細かい空孔をいくつも空け、その孔が囲む中央を光が通る構造で、孔を開けた領域の屈折率が低下することで、レーザー光をコアに閉じ込めることが可能になります。PCFは大容量の次世代通信のために研究が続けられてきましたが、今回はそれをハイパワーのレーザー光伝送用にチューンし直すことにしました。

    実験で要求条件を満たす性能を実証

    「10kW☓30m、1kW☓300mのシングルモードレーザー光伝送実験に成功」

    PCFは従来の光ファイバよりやや大きな0.35mmほどの直径で、今回完成したものの中には60ほどの穴が空いています。この孔の大きさや配置が大事で、空孔の直径や数、あるいは間隔の組み合わせで微細な特性の制御が可能になり、任意な波長で高品質シングルモードレーザー光を長距離伝送できます。通信用PCFの研究で、どのような孔をどういう風に空ければ求める性能が出るのか、その製造をどうするかといったノウハウ自体は蓄積されていましたが、何しろ扱うレーザーのパワーが通信用とは桁違いです。当初は曲げなどで光が漏れるとそこで光ファイバが破損してしまうことが、ハイパワーレーザー光ならではの苦労だったと言えます。何度も実験を繰り返しながら孔のデザインや被覆する樹脂の材料の修正が続きました。PCFの製造では、孔の大きさや配置次第で製造の難易度も違ってきます。最終的には孔の大きさはすべて同じにして、それを密度の異なるデザインで2層に配置する形を採用しました。そして最終的な実験でようやく、10kWのシングルモードレーザーを30m、1kWのシングルモードレーザーを300m伝送するという、当初の目標値を達成することができたのです。

    今回、共同研究の成果は3つとなります。

    1. PCFの採用による伝送出力と距離限界の克服
    2. 新たなPCF断面構造の考案による、高出力伝送能力と製造性の両立
    3. 新たなPCFによって10kWのシングルモードレーザーを30m、1kWのシングルモードレーザーを300m伝送することに成功

    今後の展開

    「システムの実用化に向け、三菱重工業において検証段階」

    2018年3月にフォトニック結晶ファイバによる高出力シングルモードレーザー光の長距離伝送のポテンシャルを実証でき、現在は三菱重工業においてレーザー加工システムとして検証を行っている段階です。自動車や航空機、船舶製造といった分野では今回のシングルモードレーザーを遠くまで伝送できるシステムが確立すれば、製造技術に大きな革新をもたらし、工場の設計や作業効率、加工速度や精度、品質の向上等が期待できます。今回その一部分を担う高品質レーザーの長距離伝送が可能な光ファイバを開発しましたが、特に重工業の分野では潜在的なニーズはかなり多いのではないかと思われます。

    我々の研究所のミッションは次世代の通信に必要な光ファイバについて考えていくことですが、今回は通信ではなく、レーザー加工という新しい分野でも蓄積してきた知見や技術を活かすことができました。また、超ハイパワーのレーザー光を品質劣化させず、遠くまで飛ばせる光ファイバを形にできたことは、容量が増えていく通信分野でも参考になる部分が多いと思います。私自身は現在マルチコアファイバーという1本のファイバの中にいくつもコアを持つ、次世代の光ファイバについて研究しています。PCFのように世の中に新しい価値を提供できるものを目指し、開発していきたいと思います。

    2019年1月10日
    魁生佳余子

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