更新日:2018/11/21
2020年の5G(第5世代移動通信システム)のサービス開始に向けて、あるネットワーク技術の研究開発が急がれています。それが5Gの実現に向けて開発されている「ネットワークスライシング(以下、スライシング)」という技術です。従来のネットワークでは、利用用途に応じて高価な専門機器を購入し、一つひとつネットワークを構築する必要があったのに対し、スライシング技術を用いると、比較的安価な汎用機器とソフトウェアの設定操作だけで、仮想的なネットワーク(以下、スライス)を作り出すことができます。従来の方法と比べて、構築費用も、期間も、大幅にカットすることができます。
今回ご紹介するのは、「スライシング技術」とスライスを別のスライスや既存網と接続するために開発された「スライスゲートウェイ」と呼ばれる技術です。5G時代のその先に訪れる新しいネットワークアーキテクチャの形を予測し、5Gだけでなく、クラウドやIoT用ネットワークなど、複数のネットワークを繋ぎ、お客様が求める多様な要件を満たすネットワークの構築を目指しています。今後、ネットワークアーキテクチャはどのように変化していくのか。スライスゲートウェイを用いると、どんな要件を満たすネットワークを構築することができるのか。NTTネットワークサービスシステム研究所の岡田氏、佐藤氏、西原氏に詳しく伺いました。
佐藤氏(以下、敬称略):スライシング技術とは、低遅延、高品質、高セキュリティといった、さまざまな要件が求められる5Gにおいて、共通的なネットワークを仮想的に分割(スライシング)することで、お客様が求めるサービス条件に合わせて、ネットワークを生成することができる技術です。仮想サーバや仮想リンク、仮想ネットワーク機能などの「資源(リソース)」を組み合わせた仮想網を、共通物理基盤上に構成することで実現します。現在、スライシング技術は試行段階にあり、まだ商用導入には至っていません。しかし、従来のネットワークの構築にかかっていた時間やコストの問題を改善できる技術として期待されており、お客様が求めるサービスをタイムリーに提供できるという点から、5G時代に必要不可欠な技術であるといえます。
西原氏(以下、敬称略):ここで注意していただきたいのが、現在のスライシング技術は主に「5G」という一つのネットワークドメイン(事業者が管理するネットワーク)に閉じて開発された技術であるという点です。世の中のネットワークは、5Gだけで構成されているわけではありません。「固定網」や「Wi-Fi」、「クラウド」といった、さまざまなネットワークドメインが存在しています。

岡田氏(以下、敬称略):5Gでスライシング技術を用いたネットワークを構築した場合、5Gの中では「高品質、低遅延」といったお客様の要望を叶えることができるでしょう。しかし、繋げる先のネットワークドメインがスライスに対応していなかった場合は、エンド・ツー・エンドでお客様の要望にかなったサービスレベルを実現できないかもしれません。我々は、将来的に発生するリスクを予測し、5Gを実現したさらに先の未来では、5Gのように一つのネットワークドメインに閉じたものではなく、複数の異なるネットワークドメインをまたいで、それぞれを繋げるエンド・ツー・エンドスライスが必要になるのではないかと考えました。そこで、私たちは、スライスゲートウェイという技術を試作し、例えば「5G」や「別のクラウドネットワーク」をエンド・ツー・エンドで繋いだ際に、最終的なエンド・ツー・エンドスライス上でお客様の期待するサービスの品質が保証できるように、研究開発を行っているのです。
■スライシング技術を用いて構築した仮想ネットワーク

佐藤:ここからは、スライシング技術と、我々が特に力を入れて研究開発している「スライスゲートウェイ技術」についてより詳しくお話していきます。

まず、スライシング技術ですが、その特徴は大きく分けて2点あります。1点目は、要件設定における自由度の高さです。スライシング技術によって作成されるスライスでは、「トラフィック量」や「モビリティ」、「容量」、「ユーザー数」、「遅延時間」といった多様な要件を、OSS(オペレーション・サポート・システム)やBSS(ビジネス・サポート・システム)などの運用・管理システムから、自由自在に設定することができます。一度設定しても、後から変えることもできますし、ユーザー認証機能やパケットカウント機能などの様々な付加機能をスライス上に持たせることもできます。
2点目は、運用管理がしやすいことです。これまで物理的な装置を用いたネットワークでは、ルータやスイッチ、サーバは、構築から設定、運用管理までを、それぞれの専用装置ごとに行っていました。それ相応の時間がかかっていましたし、ネットワークを管理する上での技術スキルも求められていました。そこで、私たちは、OSS/BSSから一元的に管理を行えるモデルを考えております。このOSS/BSSを通して運用管理を行うことによって、アクセスネットワークやコアネットワーク、各種サーバ類等を全て含めたエンド・ツー・エンドのスライス全体の構築や設定変更、監視制御等を一括で管理できるようになります。
次に、スライスゲートウェイ技術です。このスライスゲートウェイは、前述致しましたように、異なる事業者のネットワークドメインを跨って一定の通信品質が確保されたエンド・ツー・エンドスライスを生成するためのものです。具体的には、スライスゲートウェイはネットワークドメイン間の出入り口などに設置され、対象のパケットの適切な形式への変換や、そのパケットの振り分けなどを実施します。また、OSS/BSSによる一元管理と組み合わせることで、複数の事業者をまたいだ形になっても、エンド・ツー・エンドのスライスで一元的に管理ができるようになります。従来のネットワークでは、複数の事業者をまたぐような状態での運用管理は難しかったのですが、その場合と比べてだいぶ管理がしやすくなると思います。
■要件を設定する際の操作画面イメージ

岡田:NTTの技術の一つにNGN(次世代情報通信ネットワーク)がありますが、NGNでも異なる品質のサービスを提供することは可能です。しかし、NGNは1つのネットワークドメインを専用装置で作っているため、例えば、お客様が急に「もう少し広い帯域を使いたい」と要望したときには、条件によってはネットワーク設計や装置自体を新規に調達して構築する必要がありました。しかし、スライシング技術はOSSやBSSから設定変更の要求だけでリソースを割り当てる技術なので、お客様が必要な時に必要な要件を満たすスライスを提供することができます。より自由に、よりタイムリーに、所望のネットワークのサービスレベルを実現できる技術だといえるでしょう。
ただ、「事業者をまたがる」という点が、スライスゲートウェイ技術の難しさであり、実現に向けて改善が必要なところだと思います。私たちと、その他の事業者とのコラボレーションが、より大事になってくるだろうと考えています。私たちが目指している世界は、一社だけで実現できるわけではないからです。例えば、サービス事業者、クラウド事業者といった複数の事業者の接続を検討しているので、そもそもプレイヤーも多いですし、「競争」ではなく、ともにつくっていくという意味での「共創」を目指したいと思っています。そして、将来のお客様が、使いたいときに、使いたいだけ、適切なコストで利用できるネットワークサービスを作れたらいいなと思います。

岡田:スライシング技術やスライスゲートウェイ技術というもの自体が、我々のグループ企業だけに閉じてできるものではありません。ですから、まずは海外も含めて関係する企業の皆様と協調・連携して、よりよいサービスをお客様に届けたいと思っています。グループ会社に関わらず、共感していただける方であれば、会合の場や、オフライン・オンラインのミーティングなどでお話させていただき、積極的に仲間づくりを行っているところです。
西原:我々の部署は、NGNの転送系基盤装置を担当していました。ですから、通信フローを個別に識別し、フローに応じた転送処理を行う、といった点においては経験とノウハウがあります。一方で、例えばクラウドに関するノウハウは、足りない部分もあります。私たちが目指していることは、「将来的なネットワークに関わる新しいビジネスのプラットフォームを作る」ということだと思うので、共感してくださる方と一緒に、B2B2Xサービスの実現を目指したいと思います。すでに標準化の分野においては、TM Forum(TMF)をはじめとしたオペレーションの標準化の研究に携わる方々と、議論を進めさせていただいています。
岡田:また、最終的なサービスを利用されるお客様からも、具体的なご要望を教えていただきたいと思います。例えば、各産業でIoTの導入が増えていますが、こうしたIoT用のネットワークで求められる要件と、電話やメールのネットワークで求められる要件は違います。我々が気づいていない要件があるのではないかと思います。お客様の切実な要望が、我々の研究開発に大変役立ちます。ぜひ、さまざまなご意見をお聞かせください。
西原:2020年代前半には、5Gで、我々が開発したスライシング技術を実現させたいと考えています。使っていただき、フィードバックをいただきながらさらに進化させていきます。ご期待ください。
2018年10月19日
有限会社ハッテンボール 外山夏央
※2018/11/26~開催のNTT R&Dフォーラム2018(秋)にて「E07:多様なニーズに応じたネットワークを自在に作れます」を出展します。是非ご覧ください。